Neetel Inside ニートノベル
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絶対にわすれられないよう、
ずっと一緒に居られるよう、
ささやこう 離さない。



白の部屋  第七話
「導く桜」



扉を開いた先には、淡く輝く満開の桜並木。
美しいという言葉では足りなくて、
かといって、ため息をつくことも忘れてしまって、
3人は息をのみました。
初めにロゼが飛ぶように走りはじめます。
舞う花びらにふわりとまじります。
ばっちーも、それに続きます。

「きれいだねえ!」
「これは蜜のとりがいがあるな!」

リコは驚いた表情のままその場から動きません。
しばしそのままでしたが、すぐに笑顔になって、ばっちーとロゼのように
走り始めます。
はじめて、リコの笑う声が聞こえてきました。


「あのね、ここはね、小学校に行く道がこんな感じだったの・・・」
「すてきだよね!とっても美しい!」


やがてリコは、少しさみしそうな顔になりました。
ロゼもばっちーもそれに気づくと、リコに寄り添うように降りてきます。
目を伏せたまま、でも覚悟が出来たように、
リコは静かに問いかけました。


「エンサーは、カンセルで、悪い人なの?」


ロゼはリコの手を握って、目を閉じます。
そして彼女のその優しい笑顔と落ち着いた声で、
そっと答えを伝えます。


「そう、エンサーはカンセル。カンセルはリコを殺す存在。
リコがカンセルについて行ってしまったら、カンセルに惹きこまれてしまったら、
あの夕陽のくれる海も、夏のおばあちゃんの家も、
この桜並木を通って学校に行くことも出来なくなってしまう。」


リコは悲しそうな顔のまま、だまっています。
ばっちーが、少し困ったような顔をしました。


「大丈夫、おれたちそんなことにならないように、ここにいるんだ。
おれたちが一緒に居るのは、白の部屋に連れていくだけじゃなくて、
カンセルから守るためにもここにいるんだ。」


強い意志の宿った声でした。
その声を聞いて、リコは口元に笑顔を取り戻します。
でも、やっぱりちょっとさみしそうな顔です。
桜並木は相変わらず淡い光を放って、風に合わせて花びらを散らします。


「そっか。エンサーは悪い人なんだね。」
「でもね、リコ、白の部屋に行けば楽しいことも嬉しいこともいっぱい待ってるんだ!
ああ、まあちょっとくらい辛いこともあるかもしれないけど…」


ばっちーは胸を張って自慢げに笑顔を見せます。
リコはそれをみて、少し笑ってしまいます。
ロゼは、まじめな顔で真直ぐ少女を見ます。
リコは初めてまじまじとロゼの顔を見ました。
ああ、なんだっけ?とっても懐かしい、思い出せないけれど…
長いまつげがきらきらと輝いて見えます。
真っ黒な瞳は、うるうるとつややかで、惹きこまれてしまいそうです。
でも、それはエンサーの時とは違います。
恥ずかしいような、でも落ち着くような、そんな瞳です。


「リコ、きっとね、カンセルはいっぱい誘ってくる。
こっちにおいで、ぼくと遊ぼうって言ってくる。
でも、だめだよ、付いて行っちゃあだめ。」
「・・・うん。」
「あたいたちはね、リコ、リコと一緒にいっぱいいたいの。
きれいな風景や、楽しいコトや、嬉しいコト、
悲しいコトも悔しいコトも、これから恋する男の子の話や憧れる人のコト、
たくさん話を聞きたいの。あたいたち、リコの事が大好きなの。」
「ロゼと、ばっちーと?」
「そう、あたいと、ばっちーと!」


ロゼはここで、やっといつもの、あの暖かい笑顔になって、
大きくうなずきます。
ばっちーも、恥ずかしそうに笑って、3人は何だか特に意味はなかったけど、
声をあげて笑ってしまいました。
その時、桜並木の真ん中に、扉が現れました。
その扉は、空の模様が入っています。
その空に浮かぶ雲は、風に流されていくように動いています、
まるで、晴天の空を切り取ったようです。
3人は、声をあげてじゃれながら、扉の前に立つと不思議な扉に見入ってしまいました。


「・・・次は、どこかな?」
「ドコかなあ?たのしみだね!」
「目いっぱい遊べるところが良いな!」

3人は、大きく戸を開くと、
光の中に吸い込まれるように入って行きます。







・・・それを、恨めしそうに見つめる、
真っ黒な影が一つ、二つ。
ひとりは、エンサー。
ひとりは、まるで女性の姿をした影。
女性のほうは、にやにやと笑うように扉に入っていく3人を見つめます。
そしてエンサーを見て、更に愉快そうな顔をします。
エンサーは、彼女のほうを見ません。
リコにも、ロゼにも、ばっちーにも向けなかった不愉快そうな顔で、
まっすぐ消えて行く扉を見つめます。


「ぼくの名前を勝手に借りて、それでも結果はこのザマ?」
「・・・。」
「次がラストなんじゃない?カンセル?」
「・・・わかってる。」


愉快でたまらないと言う風に、彼女――エンサーはカンセルに寄りかかります。
カンセルは、相変わらず彼女のほうを向きません。
愛おしそうに、カンセルの顔を見つめて、細くて白い指をカンセルの顔に這わせます。


「ああ、ぼくのカンセル、僕と君は一心同体。手伝えることがあったら言ってよ。」


カンセルは、その指を払うように顔を動かして、さっさと闇へと溶けて行きました。
取り残されたエンサーは、嫌味の様なにやにやとした顔のまま、
跡を追うように闇に溶けるのでした。


       

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