Neetel Inside ニートノベル
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白の部屋
見え透いた真っ赤な嘘

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ああ、なんてへたくそ。



白の部屋  第六話
「見え透いた真っ赤な嘘」



「いいかいばっちー、バスをおりたら、あたいはエンサーと行動する。二手に分かれるんだ。
そして、ばっちーはリコを正しい道に案内して。
大丈夫、もしエンサーがカンセルだとしても、あたいには手を出せないはずだから。
だってあたいは――」


バスの中で、妖精二人が話していたのは
”エンサーの正体を明かす罠”。
バスを降りて、ロゼが伸びをすると、開口一番にこう言いました。

「さて!左に進みます!」
「違うよロゼ、右に行くんだよ。」

ロゼは驚きました。
リコがすんなりと、正解の道を言ってしまったからです。
それでもロゼは微笑んで、

「ちょっぴり寄り道するんだよ!」

と楽しそうに左を指さしました。
リコもエンサーも、納得が出来ていない表情です。

「でも、急いで白の部屋に行かないといけないんだよね?」
「左に大事な場所があるんだ。そこに行ってからじゃないと、扉が開かないんだよ。」

へー、とリコはすんなりと納得しました。
とりあえずじゃあ、といった風に、一行は左へ進みます。
バスから降りた道は、相変わらず舗装されていなくてでこぼこです。
4人は砂利に少し足をとられつつ、
ロゼの案内で右へ行ったり左へ行ったり。
なんだか、古い日本の家の並ぶ、住宅地に迷い込んでしまいました。

「あれえ?こっちだったと思うんだけどなあ・・・」
「ロゼ、おれ、こっちだと思う。」

やがて、先陣を切っていた妖精二人は、首をかしげてしまいました。
エンサーとリコは、顔を見合せます。

「大丈夫?」
「一回、来た道戻ってみようか?」
「やっぱロゼ、こっち行こうぜ。」
「いやいやばっちー、あたいこっちがあってると思う!」

何だか、険悪な雰囲気になってきてしまいました。
気の弱い二人が、またおろおろしはじめます。
それに全く気付かずに、妖精二人はヒートアップ。
途中から、もうただの罵りあいに発展してしまっています。

「だいたいおまえ、ずっと歩いてて道わからなくなったのなんで言わないんだよ!」
「ばっちーこそ間違った道通ろうとしたところで注意してくれれば良かったのに!」
「んだと!ふざけんな!おれはこっちだと思うね!」
「あたいはこっちだとおもうけど!」
「勝手に迷子になってろ!行くぞリコっ!」

ばっちーは突然、リコの手を引いて歩きはじめます。
リコは、おどおどしながらも、ばっちーについて行きます。
ロゼは悔しい表情をしながらも、ぽろぽろと泣きはじめてしまいました。
それをみたリコは、困ってしまいます。

「エンサー、ロゼの事よろしくね・・・」

ばっちーにひっぱられながら、その一言を残していきました。
赤い妖精と、真っ黒な青年がその場に残ります。
エンサーはとっても困ってしまいましたが、跪いてロゼの顔を覗き込みます。
ロゼの涙は止まっていますが、うつむいて目を閉じています。
エンサーはロゼの頭をやさしくなでました。

「ごめんねエンサー。あたいのせいで・・・」
「大丈夫だよ、ロゼ。」

二人はしばし、無言になります。
ロゼが大きく息を吐くと、覚悟を決めたように言いました。

「あのね、エンサー・・・」
「ぼくをはめようったって、無駄だよロゼ。」

ロゼは、一瞬心臓がとまった気がします。
そして、ゆっくりとエンサーの顔を見ました。
そのとき彼は、今までで一番底知れない恐ろしさを感じさせる笑顔で、みつめてきたのでした。

「わかってるよ、わざとケンカしたね。」
「あ、あの・・・。」
「ぼくと二人になりたくて、ばっちーはリコだけつれていったんでしょう?」
「・・・。」

エンサーの瞳は冷たいものでした。
ロゼは、心が凍ってしまいそうな感覚に陥りました。
いつもの、やさしい笑顔のエンサーはありません。
それでもロゼは小さな勇気を振り絞ります。

「・・・あのねエンサー、あたいにその右手を見せてくれないかな。
カンセルは人を死へ誘う”死神”だ。生きる希望を無くさせるんじゃなく、
死を優しく勧める存在だ。その左手はあたたかく人を抱きとめるけど、
それに対して右手は死を受け渡す冷たい手だという。」

長い長い時間が過ぎたように思えます。
汗が、額をつたいます。
大きく息を吸って、最後にこう言いました。

「あたいたち、エンサーの本当の右手を見たことが無いの。
ね、その右手を見せておくれよ。
そしたらあたいたち、もう疑ったりしないから!」

ロゼがそう言い終わると、エンサーはにっこりと笑いました。
そして手袋をした右手を出すと、

「もうこれで、疑われないんだね。」

と、そっと手袋をはずしました。

       

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