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白の部屋
思い出のスカイブルー、疑いのミッドナイトブルー

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きっと君にはわからないだろうけど
私たちには大事な思い出。
だからずっと、ずっと思い出に浸るんだ



白の部屋  第五話
「思い出のスカイブルー、疑いのミッドナイトブルー」




「海・・・」

ざああっ、と波が寄せては引きます。
真っ赤な夕日が、ゆっくりと沈もうとしています。
海のにおいを胸一杯に吸い込んで、
リコは波打ち際まで走ります。

「海だあ!ね、少し遊んでいっていい?」
「もちろんだよ!あたいも遊ぶ!」

無邪気に海まで走って行っては、水を掛け合う女子二人をみて、
ばっちーはやれやれといった風にため息をつきます。
ぼーっと夕日を見つめるエンサーを見て、
ちょっとためらいながらも背中を押します。

「おまえもあそんでこいよ。」

背中を押されて、2,3歩前に進むと、
彼は「じゃあ、少しだけ。」と歩いてゆきます。
ばっちーは、エンサーがそのとき、
とてつもなくさみしい顔をしているのを見ました。
でも、どうしてそんなにさみしい顔をしているのか、
はたまたなんて声をかけてあげたらいいのか、
全くわかりませんでした。
真っ黒な彼はばっちーに背を向けて、砂山を作り始めます。

「遊びが地味だなあ、エンサーは・・・」

少し皮肉っぽく笑った所で、
ロゼがこちらに向かってきました。
リコは貝を探しはじめたようです。

「・・・なあ、ロゼ、おれさ・・・」
「何?愛の告白?」
「そんなわけあるか!」

ロゼは、あはは、だよね!なんて笑っていますが、
いつもばっちーはロゼの突拍子の無さに驚かされます。
ため息をひとつつくと、リコがとても楽しそうにスカートを袋状にして、
何かをこちらに持ってきます。

「ね!みてみて、カニ!」
「ワーオ!でもこれはヤドカリだね!」
「あとね、貝殻もいっぱいあるの。これ、ロゼにあげる!」

スカートの中には、小さなカニと、色とりどりの貝が入っていました。
そのなかでピンクの貝をロゼに差し出すと、
もうすぐ沈み切りそうな夕陽を見て、リコがふと、つぶやきます。

「・・・なんか、懐かしい気がするなあ。ここの海、いつか誰かと来たことがあるの・・・」
「へえ~っ。どんなことして遊んだの?」

ロゼはもらった貝を嬉しそうに見つめながら、
ちょっぴり少女の顔を伺います。

「・・・覚えてないや。」

リコは残念そうに笑いましたが、
ばっちーもロゼもそれを責めたりしませんでした。
やがて夕日が沈みきると、闇が4人を包みます。
星が瞬いて、波の音だけが響きます。
エンサーはここに着いてからずっと飽きずに砂山を大きくし続けて、
リコもそれに参加して二人は楽しそうに笑いあっています。
すると、突然驚いたようにリコが声をあげました。

「・・・あ、扉!」
「まってよリコー!」

右のほうに、きらきらと輝く扉がいつの間にか現れていました。
声をあげた彼女は嬉しそうに扉に向かって走ります。
そのあとを、3人は追いかけます。
ばっちーはエンサーが気になって仕方がありません。
表情は推し量れませんでしたが、
彼が、先ほどまで一生懸命作っていた砂山を、
ぐしゃりと踏みつぶす姿が見えました。

扉は色とりどりのさんごの絵が描かれていました。
ちらほらと、魚の姿も見えます。
まるでそれが一つの芸術品の様な2枚扉です。
リコは、嬉しそうにその扉を小さな体で開きます。
さあ、次はどんな楽しいことがあるのでしょう。
次はどんな、懐かしいものに会えるのでしょう。

扉はゆっくり開きます。
夜の世界に光が差し込みます。
それは、無色の空間からここに来た時の光とは全く違ったもので、
一緒になま暖かい風が入ってきて、
4人は思わず目をつむります。


ゆっくり開いた瞳に飛び込んできたのは、
舗装されていない道と、
小さ古ぼけたバス停でした。

     

きっと君にはわからないだろうけど
私たちには大事な思い出。
だからずっと、ずっと思い出に浸るんだ



白の部屋  第五話
「思い出のスカイブルー、疑いのミッドナイトブルー」



扉を開けると、
そこには真夏の太陽と真っ青な空、
ヒマワリの咲く舗装されていない道と、
「いなほ前」と書かれたバス停。
暑苦しくセミが鳴いています。
扉を通ったとたんに、汗が噴き出してきます。
皆、先ほどとの温度差に驚きます。
周りの状況の把握が出来るとすぐに、
遠くからバスがやってくる音が聞こえてきました。
緑の線が入ったバスはやがてバス停にとまって、
プシュー、とドアを開けました。
4人は、特に疑問を抱くこともなく、わいわいとバスに乗り込みます。

「あたい、一番うしろー!」
「おれも!」

ロゼとばっちーははしゃいで一番後ろに座ります。
リコとエンサーは、酔ってしまうからと前のほうに座りました。
皆がちゃんと座ると、出発しまーす、とドアが閉まって、
ゆっくりと進み始めました。

「そら、とっても青いね・・・」
「・・・そうだね。夏の、暑い日だったね。」

リコは外をずっと見ています。
また、懐かしい気がしたからです。
でも、思い出せなくてもやもやします。
この景色を見たのは、そんなに昔じゃありません。
エンサーは、何だか不安な気持ちになりました。
リコがどんどん、遠くに行ってしまいそうで・・・

「なあロゼ、あのさ・・・」

一番後ろの妖精二人は、
後ろの窓から遠ざかるバス停を見つめます。
少年はひたすらに後ろを見たままです。

「なに、ばっちー。」
「・・・やっぱりエンサー、カンセルなんじゃないのかな。」

ばっちーは前方の二人を見てから、ロゼのほうを向かずに
また遠ざかる景色を見ます。
その表情は、きびしいものです。
ロゼは少し悲しい顔をしました。
ちょっと、ばっちーのほうに顔をむけて、
寂しそうに微笑みます。

「・・・そんな感じ・・・する?」
「ずっと思ってたさ。だってあいつ変だもん。」
「・・・何か、根拠ってあるの?」

ばっちーはここでやっとロゼを真直ぐ見据えます。

「ここは、おれたちとリコしか見たことない景色だ。
おれたち意外に見たことがあると言うなら、
それは、”カンセル”以外にあり得ないからだよ。」

その一言を聞いて、ロゼはとっても悲しい顔をしました。
そして前方の二人をしばし見つめます。
二人は楽しそうに会話しています。
目を閉じて大きく息を吐くと、

「わかった。」

と一言だけ返すのでした。


バスは真直ぐ進みます。
道が舗装されていないので、時々上下に揺られます。
リコもエンサーも、楽しく談笑しています。
ロゼとばっちーは、そんな二人を見つめます。
もうすぐ終点でした。

「もうすぐ終点だね。」
「・・・終点に着いたら、右へ曲がるの・・・」
「え?」

リコは真直ぐ前を見ながら、ふと思い出したように言いました。

「右へ曲がって、左手に松の木の生えたお家があるから、
そこをまた左にまがって、しばらく歩いたらお家があるの。」

エンサーには、良くわかりませんでしたが
思わず口から出た問いかけがありました。

「・・・誰の、お家?」


リコはいたずらっぽく笑います。

「えへへ、おもいだせないや・・・」



やがてバスは終点に着きました。
リコ、エンサーが降りると、
少ししてからロゼ・ばっちーと続きました。

ばっちーはざわざわしました。
ロゼと、少し作戦会議をしたのです。
それは、エンサーの正体を暴くための、
罠でもありました。








       

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