Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「忘れもしないあの個人戦。まさか初戦の開幕5秒で俺の3年間の剣道人生に幕を降ろされるとはな」
「あんた3年生だったのか」
ショックを隠せなかった。こんなヘボい先輩もいるのかと。
「だが、それより許せなかったのはお前が二回戦を辞退したことだ。その理由を聞かせてもらおう」
「ああ、あのときはな……」
  ここで思考が停止した。
「えーっと……なんだっけ?」
思い出せない。確か俺はあの時……
「じ、次郎坊様。話と違います!」
「やや、直虎ちゃん!それは違くて!」 「そうそう、こんな風に嘘が大嫌いで……」
  パズルのピースが埋まっていく。そんな感覚だった。その時強い風が俺たちを襲った。直虎ちゃんの健康的でスラッとした素敵な生足。次郎坊の毛むくじゃらで霊長類的な汚い生足、そして砂ぼこりに襲われるひさし。
  木枯らしと呼ばれる強風が止み一旦静寂に包まれる。そしてそれを打ち破る「んんーー!」という目覚めのエンジェルボイス。
「なぁ?」
なにが起きてるのかわからずきょとんとした顔。ぐぐぅ。という腹の虫が暴れる音。それだけならば場を和ませるエンジェルさまなのだが人の形ではない耳を見た次郎坊がぼそり。
「お前も、呼び出した口か……」
「へ?"お前も"呼び出した……」
今のが聞き間違いでなければ、直虎ちゃんも、メルトと同じように呼び出されたことになるが……
「直虎ちゃん!こいつの足止めをしてくれ!」
「……次郎坊様の命令ならば」
  次郎坊がメルトに向かって走っていく。左手には俺と同様に木刀を持っている。なんとなくあいつのやろうとしていることがわかり、それを止めさようと思っても正面には中段の構えでたたずむ直虎ちゃん。
「直虎ちゃん!ちょっと痛いの我慢して貰うぜ」
次郎坊が直虎ちゃんを、俺を抜き後ろにいるメルトに手をかける前に俺は動いた。
  それと同時に直虎ちゃんも動く。
「狩畑殿、申し訳ありませんがここで……」
  言い終わる前に直虎ちゃんの手首、面に一発ずつ、素早く打ち込みそのまま体当たり、体勢を崩しがらがらになった胴におもいっきり一発を言葉にならない悲鳴をあげて地面に倒れる直虎ちゃん。次は次郎坊。だが、間に合わない。ひさしを踏みつけ今まさに木刀をメルトに打ちつける瞬間だった。
「があ!おー!」
身に危険を感じたメルトの渾身のファイヤーブレス。
「ゲホ……強……烈…………」
  ばたりとその場に倒れる次郎坊。
「あ、危なかった……」
  ほっとする間もない。直虎ちゃんが心配だ。骨が折れていなければ良いが……
そんな心配は不要だった。それよりも重要なことは今起きようとしている摩訶不思議な現象を受け止める強さが必要だということだった。
「次郎坊様……お役に……立てなく……て」
そんなことを言っている直虎ちゃんの姿形が薄くなっていく。そしてパッと一瞬光ったと思ったら、黒髪の侍女はそこに存在しなかった。
直虎ちゃんが消えたあとだ。彼女の情報、好きな食べ物が思い出されていく。そう、そう、確か彼女は宮本先生の机の上においてあったラノベのヒロインであり、初めて読んだラノベでもあった。でも、なぜ今になって?
黒こげになった次郎坊を、みてもう1つ思い出す。
「そうだ、そのラノベが気になって帰ったんだっけか」
黒こげになった次郎坊に合掌。
今日は色々ありすぎてもう何も考えたくなかった。腹の虫と連動して泣き叫ぶメルトを連れて家に帰った。
あ、ひさし忘れてた。

       

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