Neetel Inside ニートノベル
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  校門付近に見慣れたシルエットを発見する。聖職と呼ばれる教師らしからぬ険しい顔つきにスキンヘッズ。剣道着と呼ばれるものに身を包み竹刀を肩に担ぎ通せんぼしてくるのは、所属部員1名の剣道部の顧問宮本憲史(みやもとけんし)なるお方で、俺の顧問だ。
「あ、あのぉ、宮本先生。今日の部活は休みでは?」
  休みなのになぜか戦闘態勢バリバリの宮本先生に恐る恐る聞く。
「風が囁いている……今日は剣道日和だと」
「先生が剣道をやりたいだけでは……?」
  一旦竹刀を左腰にあてたと思ったら斜め一閃切りを披露し、また左腰にあてる宮本先生。
「今宵の青竜刀は血に飢えている」
  あんた教師じゃなくて演者のほうが向いているぞという突っ込みをするまでもなく鋭い眼光で睨まれる。なんだ今日は!ことごとく俺の邪魔をしやがって。
「……わかりましたでは少々時間をください」
「20分後道場で会おう」
    ああ、帰りが遅れる。俺はひさしにラインを送る。「ごめん、俺の代わりにメルトの子守りをしてくれ」っと。

  ひさしから連絡がきたのは稽古開始2分前くらいで、それまで既読すらつかなかったはずなのに、後で飯食わせてやるからと送った瞬間「わかった」と返事がきた。
  我ながら唯一の友人の糞野郎具合に涙を流しそうになりながらもこれまためんどくさい人との稽古が始まった。で、今何をやっているのかというと……
「キエーーーー!!!」
「ヤアアアアア!!!」
  剣道部の部員が1名になった原因のひとつである掛かり稽古なるものの真っ最中。他にもいろいろ(主に宮本先生が原因)あるのだがここでは割愛させてもらう。
  小手面打ちからの体当たり引き胴をひたすら繰り返す俺。一時期罵倒を罵倒で返すような稽古を続けたせいで校内で変な噂がたったのは内緒だ。とりあえず、いま入りたくない部活ナンバーワンの称号は軽くもらえるだろう。
  で、掛かり稽古終了。尋常ではない辛さが体にのしかかる。
  心を落ち着かせるために黙想を行い道場に、そしてお互いに礼をする。その後先生の有難いお言葉をいただく。
  身振り手振り実演をしながら教えてくれるので、本気で剣道を極めたい人にとっては良い先生であるが今回は訳が違う。早く終われと念じれば念じるほど話は延々に終わらない。結局解放されたのは6時半くらいで、日はどっぷり暮れていた。歩いて15分の帰り道を疲弊した体に鞭打って校門を抜けダッシュで帰ろうとした矢先だった。
「狩畑恭兵、ここであったが運の尽きお相手してもらいたい」
  聞きなれない声に振り向くとはたまた剣道着姿の体格の良い高校生と、どこかで見たことのあるジャパニーズ・レディースサムライ。
「まずは名前を名乗らせてもらおう。俺の名前は佐々木次郎坊そしてこいつが……」
  次郎坊と名乗った男の前に立つ女性。スラッとしていて、髪は腰まで届く長髪。凛とした姿は荒野にさく気高い1輪の花を思わせる。
「私、次郎坊様にお仕えする甲斐直虎(かいなおとら)と申します。誠に勝手ではありますが恭兵殿のお命、ここで頂戴致します」
  そう言うと腰に提げていた鞘から白銀に光る刀を取りだし中段の構え(剣道に置いてオーソドックスな構えである)を取る。
「あ、あのぉ俺なんかやりましたか?」
「貴様の胸に聞いてみるんだな」
  次郎坊という男がそう言うと鞄から手頃なサイズの丸太を一本取りだし、それを宙になげる。すると直虎と呼ばれた少女は下から切り上げ丸太を真っ二つ。どうやら真剣らしい。どうなってるんだ一体?

       

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