Neetel Inside ニートノベル
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空を闊歩せよ
誕生日の朝は

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誕生日の朝は、いつもと変わらない朝だ。強いて言うならちょっと肌寒い。
そろそろ分厚い布団を出さないといけない、でもあいつは押入れのドンだから気軽には出てきてくれない。
リモコンは気ままに部屋を歩くというのになかなか気難しいやつだ。

布団から這うようにしてにじり出る。朝飯を食わねば死んでしまう。
あぁ、でも食器を洗ってなかったか、仕方ないから適当に洗おうか。
そう思って水道をひねるけどこいつがどうも身に染みる。三秒で断念。
とりあえずお椀が二つあるからそれでも使うか、これも仕方ないことだ。
ひとまず冷たい水とはおさらばして味噌汁一杯分の電気ケトルに注ぐ。名前は沸く子ちゃんです。

夜のうちに炊飯器だけは仕掛けておいたからこれで朝食の準備は完了だ。
お椀にご飯をよそってインスタントの味噌汁を召還、今日の朝食。
卵ふりかけを一心不乱にふりかける、味噌汁がつくからちょっと豪勢。しかも和食だから健康的。そんな訳あるか。

食事をとりながらぼけーっとテレビを見ていると、昨日は知らないアイドルグループのイベントがあったらしい。
昨日やる時点で俺を祝う気がないのがありありと見えた。俺は憤慨した。

知りもしないアイドルグループに詳しくもないダンスで中身のないケチをつけていたらいつの間にか朝食がなくなっていた。
今日の朝食もおいしかった、特に味噌汁に入ってたワカメのあの何とも言えないヌルヌル感と言ったら格別だ。二度と食べたくない。
食器を流しに持っていく、魔窟と化したその様相は何故か目に入らない。目に入らないなら洗わないのも仕方のないことだ。

このまま流れで洗面所へと向かう、今日の難敵との勝負だ。
まずは卵ふりかけで黄色くなった歯を磨く、ここで海苔がついたままになっていると社会人として減点一。
口をゆすいだ時の水の冷たさに耐える忍耐力を身に着けるべし。
次にしっかり髭を剃る、ここでも剃り残しなんかがあると減点一となる。
ついでに洗顔も済ませて時間の短縮を図るべし。
最後に髪を整えて難敵との勝負は終わりとなる、もちろん寝癖が残っていると減点一。
減点が一つでもあると社会人免許は停止、三つあると社会復帰は難しいので注意されたし。

阿呆なことを考えながら居間に戻るとテレビは天気予報に移っていた。
本日ハ晴天ナリ。繰リ返ス、本日ハ晴天ナリ。
オフィスワークしかしない俺には殆ど関係のないことだった。

時計を確認する、時間は十分にある。スーツの袖に腕を通す。この瞬間からもう会社の奴隷である。
家を出る前にカバンの中身を確認、内緒で持ち帰った書類はちゃんと入ってる。一切問題なし。
 
最後に携帯で今日の日付を確認する。俺の誕生日。何の変哲もない平日。滞りなく出勤する。

家の鍵を閉めたところで携帯が震えた、メールが一件。少し心が高鳴る。
メールの送り主は母であった、内容を要約すると

「誕生日おめでとう。いつでも帰ってきなさい。それと連絡の一つくらい寄越しなさい、常識でしょう、このバカ息子め、親を何だと思っているか」

やけに後半に比重の置いた長文のメールを駅に向かいながらなんとか読み終えた。
心の高鳴りは止んでしまったが、少しだけ暖かくなった気がする。
母は強し、そして暖かし。心の中で感謝する。メールは特に返さない。


何の変哲もない平日。俺の誕生日。
街を行く人は誰も知らない、俺だけの特別な一日。

       

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