Neetel Inside 文芸新都
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タオルケットをもう一度1

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タオルケットをもう一度1


そのふわふわの髪の毛を、私に梳かせて。

そのあたたかい腕で、私を抱きしめて。

そのやわらかい身体で、私を包んで。

この冷たい機械の身体を、なぐさめて。


  * * * * * *


もう、会えないと思っていた。
でも、再会した。
愛しいあの人に、また出会えた。
「いままで、どこにいたの?」
「遠い場所にずっといたんだ。でも、もう大丈夫」
一緒になろう。彼はそう言ってくれた。
嬉しい。
嬉しい、けど。
「私はもう、人間じゃないのよ」
記憶を写し、心を写し、私は生きてきた。
この鉄の箱に、全てを詰め込んで、今まで生きてきた。
そんな私でいいの。
「そんなの関係ないよ。僕は、君だから好きなんだ。
 姿形は関係ない。君だから、一緒になりたいんだ」
夫婦になろう。彼はそうも言ってくれた。
愛も育めない、子も産めないのに、そういってくれた彼の気持ちが嬉しかった。
「こんな私でいいの」
「何度でも言うよ。君だから好きなんだ」
私だから好きなんだ。
私の心は、歓喜に震えていた。
でも。
「あなたは、私が私だと思うの?」
「どういうこと?」
同じ記憶、同じ心をもっていたとしても。
同じ行動、同じ軌跡を辿っていたとしても。
私は模造品だ。
オリジナルはとうの昔に死んだ。
同じ物を持っていても、『私』は『彼女』じゃない。
そう思ってしまうのだ。
「私は、オリジナルの模造品。記憶や心を転写されてはいるけれど、私は彼女じゃないの」
「そんなことはないと、僕は思うよ。
 君は僕を忘れないでいてくれた。ずっと待っていてくれた。
 たとえ君のその心が、作られた、コピーされたものだとしても、その気持ちは継続されてきた本物だよ」
一生懸命に愛を囁いてくれる。
こんなにも私を思ってくれている。
嬉しい。
こんなにも嬉しい事がこの世に存在したのか。
ああ、オイルが全身を駆け巡る。
タービンが大きく唸りを上げる。
私が人間だったら、あなたに抱きつけたのに。
もし今抱きついたら、あなたは簡単に壊れてしまう。
その代わり、私は彼の手を優しく握った。
「あなたの手は、やわらかいね」
「人間だからね」
人間の手は、柔らかくて、温かくて、ふわふわしてる。
その記憶が、私の中に残っている。
機械の身体は、人の柔らかさを感知できない。
その代わりに、私は彼の髪の毛をそおっと梳いた。
「あなたの髪の毛は、ふわふわだね」
「ちょっと、天然パーマがかかってるから」
人間の髪の毛は、ふわふわして、柔らかくて、温かい。
その記憶も、私の中に残っている。
機械の身体は、髪の毛の質感を感知できない。
その代わりに、私は彼のお腹を弱く撫でた。
「あなたの身体は、あたたかいね」
「人間は、血が通っているからね」
人間の身体は、温かくて、ふわふわしていて、柔らかい。
その記憶だって、私の中に残っている。
機械の身体は、人肌の温かさを感知できない。
わたしはにんげんじゃないから。
あなたがどれだけあいしてくれていても。
そのしょうこをのこせない。
いつか、あきてしまうんじゃないかって。
それがこわい。
「こわいよ」
「こわくないよ。君は人間じゃないけど、互いに慈しみ合うことはできる。
 君が僕を抱きしめられなくても、僕が君を抱きしめるよ。
 人間は、子を残せなくたってお互いに愛し合うことができる生き物だ。
 子供がいなくても、できなくても幸せに暮らしていた夫婦は居たじゃないか」
「でも、形に残せないのは、こわいよ」
不安だよ。
あなたがどれだけ私に優しく教えてくれても、私は本物じゃないから、こわいよ。
私がオリジナルだったら、こんな思いはしなかったのかな。
「君は人間じゃないから、不安なのかい?」
「それもあるよ。でも、やっぱりいちばん不安なのは、私が本物じゃないから」
「そうか」
そう言って、彼は黙ってしまった。
失望させてしまっただろうか。
同じことを何度も言って、呆れさせてしまっただろうか。
私の事、嫌いになったかな。
こわい。
「じゃあ、僕にいい考えがある」
「いい考え?」
「うん。いい考え」

「僕も、君と同じ機械になればいいんだよ」

――え?
「僕の記憶や、心を機械に移し替えて、君と同じになればいい」
「え、でも、そんな。
 あなたはそれでいいの?」
本物じゃなくなってもいいの?
人間でなくてもいいの?
「君と一緒になれるのなら、いいよ。
 君の不安が消えるのなら、構わないよ。
 それに僕は、同じ記憶や心を持っているのなら本物だって、思ってるから」
今と同じように、君を愛せるから。
そう彼は言った。
「人を人たらしめているのは、心だよ。
 鉄の肉体だろうと、肉の身体だろうと関係ない。
 人であろうとする心だよ。
 同じように、君を君としているものも心だよ。
 君が君であろうとするならば、それは本物だよ。
 少なくとも、僕はそう思ってる」
そう言うと、彼は微笑った。
柔らかく、優しく、温かく、彼は微笑った。

       

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