Neetel Inside ニートノベル
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三人が来る
カッター

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 今すぐ逃げだしたい、という欲求がカオリの中に湧き起った。同時に考えすぎだ、と自分の思考を否定し目を逸らそうとする心の動きがあった。サユリの肉片を目の前で見ておいて、何が考えすぎなのか、という自嘲がよぎる。しかし本当にサユリの肉片だったのだろうか? ピアスも見間違いだったのではないか?
 頭の中でとりとめのない思考がぐるぐると回って考えがまとまらない。精神が波立って平静を欠いている。カオリは乱暴に自分のポケットを探った。ハンカチが零れ落ち、抜け出した手にはカッターナイフが握られている。
 カチカチと音を立てて刃が伸び、カオリはすでにいくつも筋の付いている左手首にカッターを押し付けた。
 わずかに引くと、ぷくりと赤く滲む。それを見て、カオリは自分の感情がすっと落ち着くような気がした。カッターをしまい、呼吸を整える。落ちたハンカチを拾って手首を拭う。
 ノゾミは私を殺そうとしているのだろうか? カオリは思考を試みる。だとしたら、さっき彼女が出した命令は、罠かもしれない。従うのは危険だ。
 無視して早退してしまおうかと思う。しかしノゾミの命令を無視した後のことを考えると怖ろしい。全てが杞憂であったとしたら?
 あのサユリを見ておいて、杞憂だなんて馬鹿げている、とカオリは思った。そして同時に、カオリがサユリを見るよう促したのはノゾミだったことを思い出した。
「サユリにも伝えておいてくれる?」
 もちろんあの一言がなくても、カオリは池まで行ったかもしれない。しかしあの一言がカオリの行動を確定させるものであったのは間違いない。何故わざわざノゾミはカオリにサユリの死体を発見させたのか。ノゾミの思考を理解しようとするだけ無駄かもしれない。だが、もしノゾミがカオリを殺そうと思っているなら、サユリを見せて無駄に警戒させるメリットがない。
 キミコをそそのかしてサユリを殺し、今度はカオリにキミコを痛めつけるための命令を出す。ノゾミの行動は意味不明だった。
 しかしこう考えればどうだろう。サユリはノゾミが、少なくともキミコを相手にするに関する限り、味方だと信じていたはずだ。それを裏切り、キミコの味方になる。そしてさらに、サユリを殺して得たキミコの信頼をすぐまた裏切ってみせる。その行動はカオリの思うノゾミのサディズムに一致している。
 だとするなら、今回の命令に従う限りにおいて、カオリは安全かもしれない。それは、都合の良い考えに逃げているだけかもしれなかったが、カオリは昼休み、ノゾミの命令に従うことにした。
 実際のところ、ノゾミがサユリの死体を見せたのは、脅しともとれるのだから。従わなければ、どうなるかわからない。もし、いざとなったら……。
 カオリはポケットの中でカッターナイフを固く握りしめた。

       

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