Neetel Inside ニートノベル
表紙

流星群
同僚がね、猿に似ているんですよ

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「猿渡、お前最近動物みたいになってきたな」
同僚の一言に私は非常にドキリとしました。胸が締め上げられるようで脇のしたからじゅわ~っと刺激臭のする液体が滲み出しシャツの脇の部分が黄ばんでいくような、そんな感覚が襲った。
「お、おいおいそんな顔するなって」
私は回らない口を全速力で空回りし舌を噛み、奥歯をかちかちぶつけながら「その動物って猿のことでしょうか?」という意味の言葉で同僚に聞いた。
同僚は困ったように……いやちがう。私を軽蔑するような目で「な、なんでもないよ」と一言。そのまま自分のデスクへ戻っていった。

家に着いてからもそのことが頭から離れない。ただでさえ遅くまで仕事を、時計の針がてっぺんから少し右に傾き始めた頃にベットに潜ったというのに、明日も早くから仕事があるのに、猿、猿、さる、さる、サル動物さると頭をぐるぐるぐるぐる。
思い当たる節はいっぱいある。確かに私は猿渡という名字であることだけでなく、顔が非常に猿に似ているという理由で学生の頃は虐められていた。そのことが嫌で相談したとき「いじめられていふのではなくそういうイジリだよ。せっかくだからノッちゃいなよ」と言われたこともある。
だが、私にとっては苦痛意外何物でもない。猿呼ばわりを嫌がり、時にはそれで怒ったことが原因でだんだんと私の周りから人がいなくなった。その時から私は人付き合いが苦手になったと思う。

サル……サル。サルといっても動物園やテレビに出てくるようなかわいらしい猿ではなく獰猛で陰険な猿。それが私である。目は窪み、髪は縮れ、身体中が剛毛で覆われている私はまさしく猿である。
猿……私の身体は突如電撃を喰らったように覚醒し身に付けていたワイシャツを脱ぎ捨て風呂場へ向かう。鏡、鏡を見る。そこには生気を失い人の顔を崩したような……そう、猿が剛毛で醜い猿が鬼気迫る表情で仁王立ちしているではないか。まずいまずいまずいまずい。手に取ったのはT字ヒゲソリ。剛毛を擦り切り始める。じゅりじゅり音を立てては赤色の毛が風呂場に落ちる。最初は腕、左腕を剃り終わったら次は右腕。おぼつかない手で黒い剛毛を剃り始める。イライラする。力の入らない腕に無理やり力をこめ長い時間をかけて腕の毛をすべて剃り落としたあとは胸へ。ここは我慢が必要だ。両腕に力を込めて胸の剛毛を剃り始める。風呂場が赤いのでシャワーを。真水のシャワーが私に直撃し冷気の痛みが私を襲う。思わず悲鳴をあげてのたうち回ってしまう。いけないいけない。まだ足、足が残っている。


この人生、私は人間らしく生きたことはあるだろうか。会社に行き、そこで働き、帰り寝る。たまの休みも会社の疲れを癒すため深い眠りにつき起きたら腹を満たして再び寝る。股間の逸物は小便を排出する以外には数年使わず恐らく子供を作るための機能が損なわれているだろう。猿の私には関係ない。

猿、猿起きろ猿、ここで起きねば猿以下ぞよ。
時計は朝の7時。私は、猿にとっては荷が思いであろうパソコンなるものを使って作業をしていた。いや、なんの作業をしているのだろうか見慣れていたはずの数字縦に一本の線が引かれたもの方角を示すもの雪だるま。なぜ面白いのだろう突如腹を抱えて笑い出してしまった。椅子から転げ落ち足をバタバタさせる。
ああ、人が集まってきたぞ。大丈夫か?大丈夫?どうしたどうした。
「猿!私は猿に見えますかこれを見て猿に見えますか!?」
サイレンの音が聞こえる。このサイレンの音はなんだろうか……


ええ、身体中真っ黒というか……いや、何て言うんでしょうね……すみませんちょっと思い出したら気分が……そうですねかさぶただらけなんですよ。確かにね不潔だとは思っていたんですよ。だって身体中毛むくじゃら。会社でも噂になってまして。でも仕事ができないからって言っても五年目の先輩ですしね。あんまり大きな声で……しかも本人に言えるわけないじゃないですか。しかも、最近は妙にやつれてて。原因?やっぱりあれかな、よく部長に怒鳴られてて。
8割くらいはね、先輩のミスなんですよね。でも残り二割は部長のストレス発散です。嫌になりますよね。その分僕らは助かりましたけど。
……あっ、そうでしたね猿渡さんがおかしくなる前日ですね。僕の先輩……ああ猿渡さんと同期の人がですね「あいつ猿に似てない?」って聞いてきたんですよ。で、愛想笑いして「そうですね」って。そしたら先輩ちょっとからかって来るって。
あ、そろそろ行って良いですか?仕事が残っているんで。いえいえ、こちらこそ。では失礼します。

タイトル「会社員自殺事件。劣悪な労働環境が原因? 」メモ
・就業時間が早く遅くまで仕事をしていた
・社内いじめが横行。相談できるような環境ではない

この2つのことからA社に全責任があると避難する記事を書く根拠となる。

       

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