Neetel Inside ニートノベル
表紙

排熱鬼
最終話 『史明と小牧』

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 あれからずいぶんと時間が経った。ざっと言って、二年だ。





 小牧も一ヶ月前から高校一年生になり、元気にソフトボール部でアンダースローに磨きをかけている。
 あいつに投球の才能があったなんてお兄ちゃんはわりとびっくりしたんだが、人間やればいろいろな芽が吹くものだ。

 俺はといえば高校三年生で、受験なんだが、大学へはたぶんいかない。
 地方からだと受験するのにも手続きとか大変だし、親もいないのに鬼津奈家に頼って大学や独り暮らしの資金を出してもらうわけにはいかない。
 いや、出してもらおっかなーってギリギリまで考えてたけど、なんか寝覚めが悪いからやめた。

「……べつに気にしなくていいのですよ。あなたはもう、鬼津奈の人間なのですから。食客という意味ではなく、その……いずれ、あの、……ですよね?」
「たぶんね」
 俺はせんべいをポリポリ喰いながら六露に答えた。
 実は俺たち、半年前から付き合ってる。
 ……いやーそんな顔しないでよ。確かに上玉を落としたよ? でも六露にだっていろいろ欠点はあって、俺だってそうで、結構衝突の多い恋人関係にあったりするんだ俺たち。
 でもま、たぶん、結婚する。
 だから六露が「やりたいことを見つけに大学へいっても構わない」っていうのは、言ってしまえば身内からの援助なわけで、断るのは逆に気まずい……というか一度、ちゃぶ台ひっくり返されて「なんで分かってくれないんですか!!」ってブチキレられた。金いらないって言ったらキレられるってのもよくわかんなかったから俺も「よくわからんけど使いたくないんじゃ!!」って逆キレしたんだけど普通に殴られた。女の子がか弱いってデマだよデマ。
 気持ちっていうか、言いたいことは分かるんだけどね。
 家族だと思ってるから金出すって言ってるのに、俺が拒否したんじゃ、遠慮してるように見えるんだろうなー。
 なんか、俺にもよくわかんない。
 わかることばっかじゃねーなって最近思うよ、ホント。
「そのへん、どー思う? クスカ」
「知らないわよ」

 クスカはスマブラをやりながら答えた。
 こいつはいつぞやの、真夜中に俺の部屋に忍び込んで精気なるものを吸っていった不届き者だ。
 最初はなんかヤベーやつなのかなって思ったけど台所にある食べ物とかお供えしてあげてたら懐かれた。ちなみに、小牧はこいつのことは知らない。
 なんかよく聞いたらこの家の守り神的なポジションだとか、実は何世代か前の鬼津奈家の娘だったとか、いろいろ俺も高校一年の頃にだいぶ調べてたんだけど、結局よくわかんなかったのでその話は割愛する。河あさってドジョウとかすくってたりしただけだし。
 まあ、いまでは屋根裏に住んでる気のいい女友達くらいの間隔でクスカともたまにこうして遊んでいる。六露が買い物にでかけたり回覧板を回しにいったりするときしか出て来れないのでちょっと退屈そうだから、そのうち紹介してやろうと思う。……いや、全部知ってんのかな、さすがに六露は。

「ふわあ……あれ、お兄ちゃんおはよ。……いま、お姉ちゃんいなかった?」
「いや? さっき回覧板回しにいったぞ」
「そっか」
 パジャマ姿の小牧が座布団にすとんと座る。頭がふらふらしてる。
 小牧はもうだいぶ前から、六露のことを姉と呼ぶようになった。それが原因で俺たちの関係が「なんかこのまま付き合いそうだね」「せやな」みたいな感じになったのは否めない。つまり小牧が悪いんだわ。……俺、このままいくと一生巨乳を揉むことができそうにないことだけが無念だよ。人間、欲望に底は無いものだね。
「お兄ちゃん、お茶碗とって」
「まかせろ」
 俺はすばやく妹のためにお茶碗を取ってやり、お鍋から味噌汁をよそってやったが、小牧は「なんか、動きがキモイ」ととんでもないことを言ってきた。お兄ちゃんの純真な気持ちはな、新潟の積雪と同じくらい真っ白なんだぞ。踏んじゃだめ。
「あ、そうだお兄ちゃん。最近、学校で『怪物』を見たって噂が立ってるの、知ってる?」
「また誰かさんのホラ話だろーよ」
「え、でも今度はまじめな人も見たって」
「その言い方もなんかいろいろアレな気がするが……ふうん、怪物ね。なんかこの町、そういうの多そうだし、いるんじゃね?」
「えー。あたし、やだな。河童とかキモイし」
「おいハゲいじめんな。……怪物だっていいやつかもしれねーぞ? それにさあ」
 俺は六露が作ってくれた味噌汁の椀を揺すって、表面にさざなみを立てた。
「怪物には、こんな美味しい味噌汁は作れねぇよ」
「…………。お兄ちゃん?」
「とっとと喰え、もう出ないと遅刻だぞ」
「あ……うん、そうだね。お姉ちゃん、戻ってくるかな」
「かばん持ってったからそのままいくってよ。ホラ、とっとと着替えちゃいな」
 俺は妹の背中をポンと叩く。
 空になった椀に、捨てられた箸が転がり込んで乾いた音を立てた。























                排熱鬼













<あとがき>

 ほんと、家を出たい。
 でも奨学金も年金も歯医者代も睡眠導入剤代も自分じゃ出せねぇんだよバカヤロー!!!!!!
 週2日のバイトで不眠症になるとかヤバイよね。はよ死なねーかなオレ。

 そんなむちゃくちゃ機嫌悪い状態で排熱完結。
 投げました!!!!!!!
 とはいえプロットはだいたい史明くんが語ってくれた感じです。いろいろ妖怪みたいのがいてー、そいつらと仲良くなってー、的な。
 それをすっ飛ばして一気に二年後です。二人、付き合ってます。妹、すっかり懐いてます。ほんとは妹がかなりホームシックこじらせてお屋敷を飛び出したりしたんだけどね。当然カットだよね。そう、俺の命という予算が尽きたのだ。
 そんな冗談はともかくですね、終わらせられてよかったです。
 いつもの悪いクセで「ここだけ書きたい」と思ったらそこを終着駅にしてとりあえず書き始めるから、中だるみどころか中そのものを考えてないもんだから、飽きたらエンディングだけ書いてさよならララバイ。縁日の辻芝居だってもうちょい統合性を取りますな。
 でもまあとにかく、この味噌汁のシーンが書きたかったんですオレは。なので満足。オレだけ満足。

 要するにねぇ、たぶん今回の家族離散を一番気にしてたのって史明だと思うんですよね。
 ホームシック起こしてた妹じゃなくって。
 親父とお袋が「やりたいことをやるから家族解散!」ってボカして書いたけどスゲェ子供にはキツイよね。

「お前らの命より夢のほうが大事」

 って言ってるのとかわんねーし。ひどすぎるでしょ。
 だから史明はかなり両親のことを、ふざけて妹をなだめてる心の内で凄まじく気にしてたと思うんだよね。兄貴だから表には見せなかったけど。
 史明は親を恨んじゃってるんですよね。
 それはたぶん史明が死ぬまでずっと恨み続けることがらで、妹はいつか時間がすべてを風化させて両親を許せるときが来るんだけど、史明には来ない。
 だから味噌汁を覗き込んじゃうんですよ。味噌汁って深淵だから。底見えないでしょ。底なし沼なの。
 それを六露ちゃんが癒してあげられるといいですね。田舎っていいとこ。俺の世界観ではそういうふうになってる。いちおう、小牧が邪魔なので今でもプラトニックらしいですよ。いいよね、スローライフ。

 そんなわけで、お目を通してくれた人がいてくれたらありがとうございます。怒ってる人はゴメンナサイ。俺にはいろんなことが無理だった。

 明日、文学フリマに出るんで文句はそこで聞きます。コピー本も出すので買ってください。
 あ、べつに宣伝のために無理やり更新したわけじゃないよ。俺がそういう小器用なことができないバカだということはみんなご存じでしょ。

 俺もねぇ、こういう無茶な終わらせ方とか繰り返したりして、ネタも尽きてるし、ほんとどうしよーもねーなーって感じなんだけど、やっぱ自分のやり方とか衝動とかって治せないんだよね。
「書きたい→書く」「やめたい→やめる」の間にクッションがないのよ。もうねぇアホだとしか思えないオレは。こんなだから空気くんに煽られるんだよね。
 ついてこれない人が出るのも仕方ねーなって最近思う。俺、わがままだもん。しょうがねーよ。ずっとこのまま死ぬまでこーなんだろーなと思う。
 でも子供できたら、史明みたいな目にだけは遭わせたくないな。

 じゃ、またどこかで。顎男でした。いちおう最後に言っておくと、B-29ってところにいるよ明日。詳しくはブログにも書いてあります。

 それにしても、「歴史を明らかにする」で「史明」だったんだけど、なにもわからずじまいだったね。
 わかることがすべてじゃない、と思う。思いたい。
 思ってる。





















 ・・・でもさあ、なーんかやっぱり、キャラを好きになってくれたりした人には申し訳ねぇよなぁ、こういうの。
 キャラで読んでくれてる人に「僕はお話で勝負してます」とか関係ないもんね。ほんと、そういう人には酷なことしてるんで、それだけはゴメンナサイ。
 いつも熱くなって喚いてから冷静になって落ち込むんだオレは。

       

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