Neetel Inside 文芸新都
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「お前も、脱げよ」
 カサカサに乾いた唇で花見が言った。
「女の子は、下脱がなくてもできるもの」
 丸子が自慢気にスカートの裾を両手で広げる。なんだよそれ、ずるいな、と花見が言った。
「そういえば、珍しいもんな、スカート。もしかして、このため?」
 丸子が小さく頷く。花見はもう一度、ずるいと言った。
 ぎこちない手つきで、チェック柄のトランクスが下ろされる。花見の、まだ充分に火照っているとは言い難い陰茎が露わになった。
「25点」
 小馬鹿にしたように丸子が笑った。
 何点満点中? と花見に訊き返されると、苦笑いをして諸手を挙げた。
「さあね。どう思う?」
「……、25満点」
「聞いたことないよ、そんなの」
 丸子が苦笑する。
「始めましょう」
 その宣言は、あまりにも無機質に、事務的に放たれた。貫くような、凛とした目つきは花見の陰茎へと向けられていた。


 ――初めてのセックスは、思っていたほど気持ち良くはなかった。
 だが思っていた以上に、悪い気分じゃない。
 感動するような快感が陰茎を包み込みはしないが、花見の感情は昂り続ける。眼下で微かに悶える丸子の表情が、華奢ながらも女性の身体へと成長しつつある肉体が、花見を恍惚の園へと運ぼうとする。しゃぶるような舌使いで丸子に首筋を舐められると、花見はもう頭がおかしくなりそうだった。うあっ、とか、おほっ、とか、声にならない嗚咽が絶えず漏れる。
 着実に高まりを見せる射精への欲望を、丸子は全てお見通しでいるようだった。「そろそろかな」と花見が思った頃、不意に「出す?」と丸子が訊いた。幾ばくかの羞恥心を堪え、花見は顔を逸らすように頷いた。それを見て、「わかった」、と丸子が呟く。
 初めての中出しは、まさに感動するほどの快感だった。
 遠慮なしに、花見は欲望の全てを丸子の膣内へとぶつけてやった。過去に得たことのない充足感と、征服感が花見を包む。思わず、うわあっ、と情けない声が出た。陰茎を抜いた拍子に、飛ぶような寝返りを打つ。
 深く息を吸う。深く吐く。荒れた呼吸が少しずつ収束へ向かうにつれ、心地の良い疲労感がやってきていた。
「ちょっと、どうなのさ。気持ち良かったの?」
 あ、ああ、と花見は慌てて顔を起こした。めちゃくちゃ凄かった、と言い繕う。そう? と訊き返した丸子の表情は相変わらず物を語らなかったが、少し誇らしげではあった。
「……もし、これで妊娠したら、ほんとに人を殺せるね」
 暫しの静寂を丸子が破った。え? と花見が丸子の顔を見る。
「だって、そうでしょう。トラックの通り道へと子猫を誘導したように、あなたの“殺し”は、こういうことでしょう? これで私が妊娠して、自殺したら――。あなたは私を殺してない。けれど、あなたは私を殺した。そういうことでしょう?」
「ええ、そうなるかなあ。だって、俺が中出ししてやんなきゃ、確実に自殺してたんだろう? さっきも言ったけど、お前を助ける気持ちでやってるんだけどなあ、俺は」
 丸子は毅然とした笑みを浮かべていた。
「いいえ。私が死んだら、あなたに殺されたの。念願の“人”デビューよ」
「いやあ……、せいぜい、自殺幇助ほうじょでしょ」
「じゃあやっぱり、人殺しじゃん」
「……そうなるのかな」
「少し休憩したら、第二回戦よ」
 立ち上がり、パンパンとスカートを叩きながら丸子が言った。
「え? 一回で終わりじゃないの?」
「馬鹿。妊娠の確率なんて二割そこそこだもの。中出し一回じゃ、私にとって随分不利な賭けだと思わない? そうね、三回はしましょうよ」
「……そんなにつかなあ」
 ――花見は、知らなかった。
 ニュースが語る、婦女“暴行”の意味を。
 丸子が“とうさん”と呼ぶ義父から、想像を超える仕打ちを受けているということ。
 花見の肉棒に貫かれても丸子が出血しないという、その深刻な事態について――。

       

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