Neetel Inside ベータマガジン
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「月光」   上総安芸 作
http://www.ac.auone-net.jp/~scritto/GK_index.htm

初見の作家さんです。
自サイトであるところをみるに別名義というわけでもなさそう?
はじめての登録ということで読ませてもらいました。
作品は音楽モノで読切りを更新していかれるっぽい。
音楽好きの作家さんなのかな。
一読の印象、悪くはありませんでした。
一話分なので短いです。さくっと感想いきます。
あと、もとより私はベートーベン好きでも信者でもないとだけ明言しておきます。


■感想
ピアノの音に誘われて粗末な家に辿り着いた背の高い男と低い男の二人。彼らはそこで目の見えない少女とその兄に出会う。驚いたことに少女は目が見えず、耳コピで旋律を奏でていたことを男たちは知った。
何の変哲もない演奏帰りの男二人の会話で始まる序盤から終わりまで、文章は読みやすく分かり易い内容でした。男が奏でる音楽に思いをのせたのでしょうか、綴られる詩も綺麗すぎるくらいです。
ただ、オチが実在の作曲家本人だったというまとまりすぎる終わり方。これは気に入らなかった。
しかも西洋古典派音楽では有名すぎる人物。どうなんでしょうね。耳が聞こえなくなるという設定も知られすぎていて、独自性を感じることが出来ません。
実際全く聞こえなくなったというわけではなく、わずかに耳の機能は果たしていたというレベルの難聴であったと認識しています。ベートーベンの難聴に関しては諸説あるようですが、実在の歴史上の人物に焦点をあてて作品を書くなら、史実はどうあれ短編でもなにか自分なりの解釈や設定に凝ってほしいと思いました。
詩から耳が聞こえなくなるという事実にぽろっと触れられ、名前を語るだけではあまりにも芸がない。むしろ個人的にはただの名もない演奏家(作曲家)くらいで終わっておけば余韻が残って文芸らしいかとも思う。
ベートーベンは難聴になり絶望しますが、彼は確かに人生をくだらないと思ったでしょうか。私はそうは思わない。ベートーベンは音楽を捨てなかったし、生きることも辞めなかった。なぜなら、芸術とは所詮人のなせる現象や事物でしかない。人の生業から生まれる産物でしかない。彼はそれを分かっていた。だから人生を否定してしまっては自らを否定し、愛した音楽をくだらないとすることにつながるからです。本作で登場するベートーベンの詩は、演奏の一瞬や、何かを作るときのほかはくだらなくないという内容。これは耳を失う事実を受け入れながら演奏する作曲家としてあまりに浅慮。
そこで本作で表現されるベートーベン、作曲家(演奏家・音楽家)と言う人間の考えに私は矛盾を感じてしまったので、うーん、どうも共感はしにくい内容だと感じてしまいした。これを作家さんの独自の表現とするならそこは認めましょう。ただ共感できるかと言うとまた違う。
不幸の生い立ち、悲しみや同情を煽り綺麗に書くだけで心は揺らされません。
文章自体は悪くない。むしろとても良い。整っている。誇っていい! ですがそうであるが故に作品からくる勿体なさが浮き彫りになっているように感じました。
初見で文章が読みやすく、上手な作家さんだと思ったので率直に思ったこと言わせてもらいました。
意地悪なつっこみだったかもしれない、西洋古典の音楽がモチーフのようでしたので関心のあるジャンル。
つい、熱が入りました。
音楽について勉強するとか知識を深めるということではなく、そもそも音楽を含めた藝術が人にとってどういう存在で、どういったものであるかという根幹の部分や、作家さんの価値観をもっと見せ欲しい。それを表現する手段として音楽がモチーフであれば文句の付け所はない。今後に期待している。がんばってほしい!
あと、余談のようになりますが、個人的には小説(短編・掌編・長編なんでも)として読ませてくれるならそれ以外の要素、私には必要ありません。文芸・ニノベ作品感想2のルール概要でふれています。3はどうなの?知らないけどw 文芸・ニノベ作品に期待するのは「読書として読ませてくれる作品」です。よいですか、「読む」です。視聴作品と見なせる部分へ感想、ここで書くことは控えます。



以上感想終わり!


       

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