Neetel Inside ベータマガジン
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今回の感想、「ズタボロにしてくだせえ」と作家さんからはお言葉頂戴しております。
ご本人忘れておられるかもしれない。虚言癖のそれかもしれないw とりあえず、印刷した紙は無事です。少々手で触りすぎてよれていますが無事です。書き込みメモが多くて本文が読み辛いけど無事です。そんな感じでお子さんは物理的には無事です。ズタボロにはなっていないと思います。
感想を読んで心ズタボロになるか…。その辺はどうでしょう。
私ごときの感想で心ズタボロになるかどうかは定かではありませんが、少々辛口感想も気にせず今後も執筆して下さるとありがたい。それはどの作家さんにも言えますが心折れず執筆への情熱は持っていて欲しいと思います。
更にこうも考えている。嫌な仕事で駄目だしされて更に嫌になって嫌な仕事を続ける→やめる。ではなく――、好きなことで辛口感想もらうも好きなことは好きで仕方がない→より一層続ける。おそらく作家はみな後者であると思います。そこを信じて今回、10周年企画最後のこの作品、個人的な研究もかねつつ少し痛いことも書上げてみようと思います。
今後の文芸・ニノベ作品感想2で以下のような感想を書くかどうかは……正直わからない。
ただ、今回の作品、顎男先生もざっくりと書いておられるので、あまり内容に色濃く触れることはしないでおきます。
その代わりと言ってはなんですが、感想と言いつつ少し異なる側面から作品を見て行こうと思います。
では感想(かな? これどっちかというと……何だろう)いきます。








「壁の中の賭博者」   顎男 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=17513

壁というと何故か監獄を連想しました。獄中の賭博話なのかと思っていましたが実際は……。


■各話ごとの感想

おわび
作家さんは改訂について色々述べられています。
作品の改訂とはとかく骨が折れ作業です。しかしそれゆえに一旦書き終えた自分の作品へ恐れず改訂の手を加える行為にある種に尊敬を覚えます。それは顎男先生だけでなくどの作家さんにも。その結果作品により磨きがかかっていればなお良いでしょう。かといってすべての作品に改訂が必要かというそうではない。その辺は作家の納得度で判断すればいいでしょう。少なくともこのような投稿サイトにある作品はみんな義務から作られたものではないのですから。
本作では作家さん、心が折れたもようで序盤以降改訂を投げたみたいです。まあ、それもいいでしょうw
さらに話が雑という点についても述べられています。
はたしてこの作品で感じる雑というのは何でしょう。作家が感じている雑さを一読者の目として私が同じく雑と感じれば、おそらくそれは雑という事になるんでしょうけど。しかしさて、それは実際共通見解として見られるんでしょうか……。乞うご期待。
「おわび」を読んでいると作品について色々書いて良いものか悩みます。結構ラフに作られた印象がある本作。分析していきますよ、色々と。小説書く初心者のためにも。自分のためにも。
顎男先生くらいの連戦の猛者となりますと、私ごときの分析なんぞ易々はねつけてくれるでしょう。今回はそんな気持ちもこめて順序は違いますが「おわび」から感想書いてます。
  

01. 樹畑錬
感想というか分析。この一話目、個人的に凄く目についたことについて書きます。
商業ラノベではよく書き出しから何文字以内に女の子(または女の子とパンツ)を出せとか。推理小説では何文字以内に死体を転がすとかあるらしいのですが、どこまで本当か私はよく知りません。それが重要かもはっきりいって分かりません。ただ、それをふまえてこの作品の一話目を見ると面白いことがわかりました。それが以下。(行はコピー用紙印刷後の行数)
0行目タイトルで主人公の名前
〇なし
3行目で主人公の性別。
7行目で主人公の人物像。
11行目で主人公の年齢。
15行目で主人公が恋をしていること。
22行目で主人公の好きな女子の名前。(ヒロイン名)
25行目で主人公の恋の難易度。
26行目でヒロインの人物像。
44行目で本作のキーワード。
45行目で主人公がこれからやること(使命)。
一話目のたった45行の間にすっかり主人公、ヒロイン、物語のキーワード、物語の軸が書き尽くされています。しかも各一文非常に短い。一段落二行以上の箇所はわずか2~3カ所あったか否か。作家さん早々に主要な登場人物紹介は終えてしまった。どんな話になるかも書いてしまった。その仕事の早やさ、実に面白い。
〇一個目
主人公・樹畑錬の人物像を掘り下げる。
〇二個目
転機。ライバル登場。
〇三個目
一話目の結にあたる。キーワードについて。物語の軸について。
最後二行、次の話への興味を引かせる言葉の挿入。読者を引き込む。
一話の中に〇で区切りがあり、〇なしを含めれば4つの場面に分けられています。読んだ感じはとても静かです。最小限の描写に抑えられている気がしました。情報も控えめ。
内容に触れると、乳糖不耐症の半端な男がどんな勝負をしていくのか気になるところ。建物の裏で「やりたくない、です」とかいう描写がくるとどーしてもいけないこと妄想してしまったw
控えめに書かれている主人公の心理描写のせいか物語はとても静かに、静々淡々と進んでいるようで、独特の雰囲気と面白さを感じる。
 

02. 善悪選別ゲーム
麻雀用語が出てきます。でも少し違う印象でルールはもっと単純。ゲームの名前、ルール説明が投入されます。
注意すべきはここでしっかりルールをおうこと。ここで把握できないとこの先読み詰まるのではないかと一瞬思いました。実際おいてはいかれなかったけど。登場人物のゲーム中の何気ない小さなしぐさで使われる言葉、これ麻雀知らないとイメージわかないかもしれない。とかいらぬ懸念か。
紙にゲーム図を書きながら読み進めるとよく分かりました。ってやっぱあかんやん自分。カスドラ、シマウマ何だっけ? あれ?


03. <ダスト>
ダスト…埃? 違うな。
ゲームの名前。でも後で変わるんだっけ。
ここまで来ると樹畑が牛乳に弱い下痢野郎だという事を忘れています。それで彼が神妙になっているときにそれを思い出すとぷっと吹く。
秋都が見せたアクシデント。これはちょっとこの人物像からするとわざと陥れるための子芝居だったのかもと思ってしまった。だとしたらこいつ正確悪いな。そこまで思うのは考え過ぎか。
勝負の負けは本当に静かにやってきた。そして淡々と。控えめな情報で物語のテンポは走らず。歩いている。静かに。まるで詩を味わうように時間を刻む読み心地。
作家さん書き方の実験してるのかな。何だろうこの探ってるような気配のする文の書き方は。
えろま先生のトゥー・レイト・ショーが「動」ならこの作品は「静」だ。


04.  死者は還らず
ここでまた少し文章分解します。
上手い作家さんからは盗みましょう。盗んで活かせるかは別としてw
否定「ない」の活用法と文のリズムです。とても心地よい息継ぎが入る書き方をされていました。本作、主人公・錬はとにかく自分にはあれがないこれがないと後ろ向きで、またそこを開き直っている節がある。そんな彼の心情を表す箇所で上々の出来で書かれていた箇所があります。

楽しいことなんて一個もない。
僕には楽しいことなんて一つもない。
やりたいこともないし、出来ることもない。
容姿も地味だし、才能もない。
なんにもないのだ。

まるでないないないのポエムです。他にも似たようなところがありました。心地よかったです。

内容にふれると、この回を読んでいるとき、錬が勝てるのかとても疑わしかった。どちらかと言えばあまり明るい雰囲気ではない物語、今回も負けて精神的にどん底に落ち沈むのではないだろうかと思いたほど。それでも懲りずにまたゲームに参戦するみたいに。仮に勝ったとしても嬉しい形の勝利なんてこの作品には無いでしょうから。最後の引きの一文でそれは明確。

辞書引いた言葉
文脈で読めますが個人的に日常使うことが少ない言葉だったので調べました。
「胡乱」うろん / 「憤懣」ふんまん /「囃される」はやされる


05. 弐倉
気になったこと言葉使いについて触れます。
錬の心理描写で出てきた部分。これは作家が意図しているのか非常に微妙な部分。錬の嗜好を判断するに、彼は部活や勉強にさほど興味がないという設定です。ですからもしかしてこれは意図して作家さんが錬の設定に沿うよう書いたのかもしれない。とも考えました。しかしそれも一読で俄かに分かりにくい。その表現が以下。

「コンマ0.001秒」

普通にこれを表記する場合は
0コンマ001秒
コンマ001秒
でいいと思います。
そこをあえて上のように記したのにはこれは意図あってのことだったのでしょうか? その辺疑問です。もしあったとしたら、私はそこを読み取れていない読者です。この機会に読解力を深めようと思いました。
読んで足首捻ったような感覚だったので調べてみました。
表記としては以下の内どれかになるそうです。
0.001秒 / 0コンマ001秒 / コンマ001秒

この回内容に触れると、足掻きとはどんな時どんな人間でも見苦しいものですね。人間性が出るものですねそういう時って。この先物語が進んでただひたすら足掻くだけで消えて行く対戦者がばかりだと退屈になるだろうなと思いました。
布団をかぶっていたばかりかと思った錬がいじらしくノートでゲームを検証していたのは意外でした。それがあっての勝利だったのでしょうかね。
人間一人殺して一億円。なのに人が生きるのにはそれ以上の金が要る。死とはなんて安いものなんでしょうね。無情ですね。だからこそ生に価値はあるはずなのですが、自殺は相変わらず多いですね。ディストピア日本。


06. 黒夢
天国があるのか無いのか。仮にあったとしてそこはどれほどの場所? そこで幸せになれる? 本当にあるかどうかも分からないのに。胡散臭い壁の顔が言っているだけで「はいそうですか」と信じるわけがない。天国に行ったってそこで満足できなければそれは地獄と同じ。今となんら変わらない。
天国だろうが地獄だろうが現世の今だろうがそれは自分にとってただの環境でしかない。自分がその場に身を任せそこで生きる時の流れがある場所でしかない。そんなのはもう沢山。なくなりたいし消えたい。すべて自分が存在しうる場所から。
言いたいことはよく分かる。錬の心情が濃くなってくる回。彼は意外と自分の考えを論理的に頭の中で整理できている節がある。それだけの思慮があるならなぜ今までなんにもない、出来ないみたいな男子だったのか疑問が残る。錬は少なくとも自分の考え方については中途半端ではないことはとても明確。

次の対戦相手は容易に想像可能だった。


07. 凍理先輩
ここまで読んできて、やはり文章は最小限という印象。改行が多いのもあると思います。登場人物の表情、話し方、しぐさに至るまでそれらの情報は最小限な感がある。なのに人物像、人物の顔、声が聞こえてくるようで気持ち悪い。(褒めています)怖いです。(褒めています)不得手の人間としてはこんなに生々しい文章書けるのがむしろすごいと思いました。
ゲームも少し牌の数がふえて面白くなってます。数が増えたらからといって難しいという気はしませんでした。
プレイ中のむずむず感も読んでいて小気味よい。ただ、これだけゲームに集中し、ゲームを読む錬って弱いとはどうにも思えない。ちょっとそこらへんひっかかった。この人やっぱりもっと地味でアホな子でいいかも。
まあ、いいか。


08. 片端者
モヤッとした感じが残る。
やはり天国にはあんなにあるある言った天国にふれてこなかった。そこがいいところでもある。天国という心地よい響きに真っ向からケンカ売ってるのもこの作品の魅力ではあると思う。
錬のこの先は? という思考に行くにはいくけど、それも特に読んだ側も執着をもてない。錬自身に魅力がないからというのもあるが、魅力がない主人公を書くという点では成功していたと思いました。
作中で人気投票すればおそらく地獄行きになった人たちのほうが人気あるかと思います。
そういう私も会長はかなり気に入った。月野も作中に引き込む役目をよく果たして頑張っていたと思う。


■誤字脱字関連発見できたもの
おそらく作品が作品なだけに作家さん自身気が付いていると思います。でもってあんまり気にしておられない様子。故に沢山放置されていました。
今後のこんなふうに報告しますよ~の参考までに書き記しておきます。

01.
天井の木目が壁に見えるとか→天井の木目が顔に見えるとか(タイプ変換ミス)

05.
安全な牌はずだったのに……→安全な牌のはずだったのに……(脱字)
何もさせてもらない→何もさせてもらえない(脱字)
あなたが思っていくよりも→あなたが思っているよりも(タイプミス)

07.
言ってはおけない→言ってはいけない(タイプミス)
僕が振るかもすれない→僕が振るかもしれない(タイプミス)

08.
喝采を上げたかった→喝采を浴びたかった(使い方微妙)
アガリ逃がしをやったのあ→アガリ逃がしをやったのだ

あと、誤字とは別に改行がおかしなところが2~3カ所ありました。
文末句点「。」が文頭にあった(おそらく二カ所)。
ミザリルの「ミ」だけ文末で改行一マス目から「ザリル」と入る。


■天国ゲームは勝てば天国負ければ地獄。ダメ高校生主人公・樹畑錬は代打ちでゲームに挑むが…
作風としてはとても軽いタッチで書かれている顎シリーズ。それでいながら独特の趣、味わいのある一作。ラノベ然としたのっけから飛ばしてハイペースで読み手のテンションを上げていくのではなくとても静かな序盤の滑り出し。物語の雰囲気も暗めで始まります。じわじわ面白くなってくる作品。大きな見せ場でもさほどどっとくるような感情の起伏はなく読んでいました。ゲームで命の駆け引をする。そこまではよくある作風ですが、ここで面白いのは主人公が生きることにやや希薄。また他人とのつながりにも希薄。孤独を顧みないその姿勢に社会性の欠落を感じる人物と映ります。ですが心の中のどこかでは誰かに必要とされていたい。そんな気持ちも確かにある。
まあ、なんというか、この主人公を見ていると痒い節がありました。自分のこととも照らし合わせて反省する部分、過去の自分を思い返してぶん殴りたくなるような部分もありました。
多かれ少なかれ、誰でもこの物語で書かれている格好悪さ、汚さやろくでなしさを持っているのではないでしょうか。そういうのをサクッと作家さんは書いてくれていたような気がします。同族を見るようである意味安心できる作品でした。
物語の後半になってくると主人公の内面にぐっと入り込んでくる展開もありました。個人的には主人公はもっとダメな奴かと思っていましたが意外とまっすぐな所もあるんだなと思わされました。そこは良いところ。


■作中特に印象深かった箇所

・どうして世界は牛乳ばかり僕に出すのだろう。
乳糖不耐症ですね。共感。
・ひとりぼっちのほうが、月野はきれいだ。
女子の集団は苦手です。共感。
・背後で息を呑む月野の首を絞めたい。
はりせんくらいならパシン!して良いと思った。
・奴らは面倒なのだ。そんなものを判定するのが。
奴らが給料分働いてくれりゃこの世界の人はもっと幸せに違いないです


以上この作品に関する感想はここまで。


       

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