「Sakiです、歌わせていただきました。」   ハッチ 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=17621

またも初見の作家さんです。
確信はありませんが、どなたかの別名義かもしれません。
作品の連載開始は3月22日から。着実な更新で順調に話数も進んでいます。
企画にあわせての更新で読ませていただきましたが、衝撃的作品でした。
なかなかの文才。手練れ感があります。
唸りました。
コメント少ない。どうしてでしょうか。



■各話ごとの感想

1.
1~3
京都の文系大学卒で、IT企業に就職したヒロイン稲枝咲子(いなえさきこ)。持ち前の性格から、社内の自己紹介でさっそく恥を書く羽目に。マナー講習実践の折には、同じ部署のオタク先輩河瀬彰人(かわせあきひと)から「惚れた」発言をかまされ困惑する。しかしなんとそこには彰人の企み?があった。
引っ込み思案で、他人との交流もさほど上手くない咲子の無様具合が、詳しく綴られています。実録OL奮闘記のようですね。ビジネスライクの社内風景も鮮明に浮かびます。咲子本人は大変でしょうが、はたから見ていると彼女のような存在は逆に癒される気がしました。
一方、仕事は抜群にできるが、人格に難ありの先輩社員彰人。こちらの人物描写も秀逸。こういうオタク男性多いでしょうね。職場にフィギアを置けるかどうか、日本の職場事情を知らない私は想像の域を超えます。詳細な彰人のデスク周りの描写には笑しまいました。本作7個目のコメントも私です。退社後に咲子を追い、横断歩道ですっ転ぶ彼のダサさ。ホントにみっともない。目も当てられない。けれどいいじゃないですか。自分にも似たようなところがあるのですから。憎めない男です。
読み始めて驚いたのが、突出した文章力の高さでした。少し読んだだけで、人物像がくっきりと見えてきます。しぐさや言葉、身の回り、いたるところから、咲子と彰人の人物像が伝わってきます。舞台も明確で分かり易いです。情景描写にいたるまで、どこか卓越していて書き慣れている。物語の流れに緩急もあり、笑える場所ではしっかり心掴んで笑わせてくれます。まるで、取材をしたような、観察眼のある社内風景には感服しました。
読んでいて震えました。作家さん何者?

2.
1~3
職場では彰人に指導員として付いてもらいつつ、自宅では彼に教わった動画サイトへログインし、あれこれ動画を視聴する咲子。彰人の趣味を了承したが、実物を見て打ちひしがれてしまう。そんな彼女へ彰人は丁寧に気持ちを整理できるように誘導する。咲子は徐々に彰人の趣味へ傾倒していった。
今までの話から匂わせるセリフで入る物語の導入、とても心地よかったです。トリック的な技法でしょうか。文章力、ただ者でない感じがうかがえます。咲子が知らない世界へ、足を踏み入れていく心境、緊張感もリアルに書かれていて好感が持てます。不安な彼女のもとで鳴る彰人からのネット電話の着信音、彼女の安堵の気持ちがひしひしと伝わってきました。また、咲子が創作をする人間へ変貌し始める様子など、密度のある会話が交わされるところでは、共に白熱する気持ちになれました。登場人物が主に咲子と彰人だけなのですが、女性的な価値観と男性的な価値観が、ちょうどよく分配されているように感じます。絶妙さ、凄いです。セリフにも重みや説得力がある。
読ませるな~。魅せるな~。作家さん何者?(2回目)

タイプミス(削除ミス)
ごみごみしたとした→ごみごみとした

3.
1~3
彰人の指導の甲斐あってか、咲子は職場で意図せずデキる新人になっていた。趣味のほうでは相変わらず、彰人の真摯で用意周到な取り組みに驚かされつつ、精神面では支えられていた。一人でのカラオケは不安もあったが、胸に抱く曲への気持ちを整理することもでき、歌の収録に挑んでいく。
私もカラオケできない人です。ここでの咲子の気持ち、とてもよく分かりました。ボーカルのない演奏、恐怖ですね。共感できます。閉鎖空間でマイク片手に歌うのも、鼻歌なんかと違って敷居が高い。お付き合いでカラオケに行くときは、よく頭を抱えていたものです。
彰人に関しては、自分の欲望を満たすために、咲子がストレスなく歌えるよう誘導しているふうにも見える。彼女の気持ちに紳士的な対応しているのかは謎。策士なんでしょうか。ふるまいからでは彼の内面は見えてこない。けれどもそこに、読み手が憶測を入り込ませる余地があって面白いです。

4.
1~2
日々の仕事と趣味の両立。彼女にとってそれは難儀か。歌うことの次に訪れた咲子への課題。それは作詞だった。読書の経験を活かそうと、頭をひねるもアイディアは浮かばず。そんなとき彰人から作曲した曲の一部が送られるが……。
新しい楽しみを見つけて、思考がそっちへ加速している咲子の様子。誰にでもある現象だと思います。しかし、そればかりを許されないのが社会人の世界。社会人の立場にあるとき、まず消化しないといけないのは目の前の現実。咲子にとってのそれは、職場での仕事。それを差し置いて趣味へ意識を走らせるのは、社会的立場の信用を失う第一歩になりかねない。この物語だけでなく、身近な出来事としても納得できました。
反面、創作意識が急激に増す咲子へも、創作家としての気丈な振る舞いに感嘆させられます。彼女の今後と、彰人との関係が、どういう方向に行くのか非常に楽しみになります。
今後の展開に期待!



■今回更新分までの総括
タイトル一目でわかる内容。登録ジャンルでも同様。本作は歌う話です。稲枝咲子というOLが今まで知らなかった動画サイトに、自分の歌を公開していきます。発端は職場の先輩河瀬彰人に、声を惚れこまれたのが始まりでしたが、いつの間にかのめりこんでいく。彼女の心境が少しずつ作家のそれへ変化していく様子が丹念に描かれていました。IT企業のOLがヒロインなのですが、職場風景などもなかなか鮮やかで詳しく、臨場感があります。オフィス風景に疎い私には、新鮮であるとともに、イメージしやすかったです。まるで作者自身が、この職場にいるのではないかと思わせられるほど。大よそある程度の経験がないと書けないだろう思われる事柄も、親切に分かり易く書かれています。文体は長文を読み慣れないと、やや冗長に感じる箇所もあるかもしれません。ですが至極読みやすいです。そこから文章力の巧みさだけでなく、作家の読み手への配慮がうかがえました。淡々としてはいるけれど、そこに魅せられる。情景描写だけでなく人物のしぐさや心理描写なども秀逸で、咲子と彰人がくっきり見えてくる。二人はどちらも完璧人間ではなく、それぞれに欠点のある人物。ですがそこを掘り下げ、しっかり書かれていることにより、キャラクターの魅力がよく出ています。セリフからくる説得力や、人物の内面描写は、読み手に入り込む隙が作られているようで、物語の中へ自然に引き込ます。作品全体の構成を見ても、更新ごとに非常にまとまりが良い。驚くべきことに、現実のシーズンと更新内容がシンクロしている。そう簡単にできることではないと思います。以上のことから本作、完成度の高い作品だと感じました。作家さんの力量、かなりなものです。
作品への期待やハードルを上げるようなことを言えば、完結を強く望みます。ですがむしろそれすら可能かと思わせられる一作です。文芸作品として心揺らされたり、思い巡らせられる作品です。作品のモチーフ以上に読みごたえがありました。
良作です。
こんな作品、ポッと出てくるところ新都社文芸界隈、怖いですね。



■作中印象深かった箇所
・無口、無愛想だと聞いていたが、おそらく自分の趣味のことになると口が回るのだろう。
手厳しいオタメンへの一文。いや、男全般そうだろう、もう許したってと思う。女性もそういう一面あるんだし。
・特別意識する必要もないのだが、咲子は妙にそわそわしてしまう。
小さな人情の機微、とてもかわいいと思った。
・むしろ安易に褒めたりお世辞を言わない正直な意見を聞けて嬉しかったぐらいだ。
ダサい反面もあるけど仕事がデキる彰人。こういう側面にも好感が持てます。
・デスクの上の美少女フィギアは養護できなかったが、仕事は真面目で優秀、趣味の作曲を真剣に取り組む姿には尊敬さえしていた。
運転免許の更新に行ったとき、自分のデスクにゼルダの伝説や進撃の巨人他、自作イラスト飾りまくっているオフィスレディがいました。声をかけてお友達になればよかったでしょうか。勇気がでませんでした。彼女のメイクは素敵でしたが、お尻は自分の5倍くらいあって、ちょっと怖かったんです。ホントに。
・ボーカルのいない曲はただ騒がしく、部屋の中に響いた。
共感。
・僕は稲枝さんが歌う『赤ずきんの幕間劇』がききたい
彰人殺したいと思った瞬間でした。
・動画投稿サイト/ボーカルシンセザイザー
ニコ動とかボーカロイドとか外してくる表現、良い。

他にもありますが、書きだす箇所として文量が多くなるので割愛します。



以上この作品に関する7日更新分の感想はここまで。