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「めむりひめがさめるまで」   硬質アルマイト 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=17948

アルマイト先生の最新作。
ニノベでは「週末のロストマン」を連載中。
本作品の感想を書くのは初めて。
作品登録は6月9日。勢いのある更新でかなり話は進んでいるよう。
最近まとめて読み耽ったので個人的には印象深い作品です。
そういえば、短編集も最近読ませてもらいました。
こちらもなかなか雰囲気が独特な作品でした。
文芸一グミの好きな作家さんです(雑学)。
感想いきます。



■各話ごとの感想
【泡沫の話一】
誰もが二人の関係を予め認めていたカップル。けれど不可解な事件は起こった。
序章にあたる部分でしょうか。情景描写と彼女といることで湧き起る感覚や気持ちの動きが丁寧。
ゆっくりと時間が流れる静かな様が印象的です。西日で二人の影は室内にだんだん伸びていく。美しい映像のように映える。

【一】真崎葵の日常
1~4
妻を病で亡くす一人の男教師・真崎葵はある日、奇妙な体験をして珍しい青い魚を拾った。
魚の色がとてもきれいに想像できます。ここで登場するアクアショップの店長・桃村も、なにか怪しい気配がある。何か彼は知っているのではないかと。気になる。
ミステリーな感じがします。しかし謎ときには全く今は証拠不十分。この手探り感がなんとも言えなかった。
次を読めば、次を読めばと引き込まれていく。これは魔法か?

【二】咲村朱色の泡沫
1~4
雪浪高校に通う咲村朱色は弟の失踪に疑問が絶えなかった。弟・真皓を探し出そうと保険医の協力を得た。
ずるずるずるっと引き込まれるホラーな感じ。この回での終盤です。
やはりそこが印象深い。
地面に引きずり込まれるのはひたすら怖いです。
アスファルトってどんな味? 土砂が肺や耳鼻を埋め尽くすのかと思うと口の中がジャリジャリするような気持ちになりました。嫌だな~。

【三】若苗萌黄の行くへ
1~最新更新分
学校の人関係では周囲に溶け込み争いを生まず。それが若苗萌黄の生き方だった。そんな彼女と交友関係を結びたい奇妙な女子が現われる。
これはなんだろう。やはりミステリーコロッケ? ホラーコロッケ? 確かに悲劇コロッケではあるのだけど……コロッケ。
奇怪な失踪事件をつうじた群像コロッケ。コロッケは割と好きな方です。
コロッケがおいしそうすぎて困りました。
日本の食べ物をリアルに書かれるとお腹がすいてたまりません!



■今回更新分までの総括的感想
文芸では作品を沢山完結させている優等生作家のアルマイト先生。作品を読むときの安心感と信頼性は抜群です。本作、今までのとはいっぷう違った、しかし吸引力のある作品でした。やや重く暗い雰囲気の作品です。
読みはじめ序盤、なかなかどういて良い意味でじらしてくれます。謎を匂わせるミステリー的な作品なのか、ホラーなのか悲劇なのか……。そのどれかに括るのは読者の(少なくとも私の)判断では下せなかった。とおもったらタグにめっちゃドンピシャで書いてあったw 日頃作品ジャンルは見るけど、タグをよく見ないで読むことが多いのです。なるほど感心です。どうりで俄然手探りしながら読んでいたはず。
加えて、なまめかしく美しい、色彩豊かな表現が魅惑的でした。物語の象徴となる「泡」でさえも、異質と感じつつ不思議と瑞々しい美麗なものとして恐怖感を彩ります。インパクトも強くて後を引く余韻として映像が残る。読んでいると知らず知らずのうちに物語に引きずり込んでくれました。
悲しみや疲れ、孤独や閉塞的な精神の病みが登場人物にはありますが、読み手はそんな彼らに一歩距離を置きながら、彼らの行動を追いかけることができる。けれど決して客観的に見過ぎて冷めてしまうのではなく、自分の憶測も交えながら「こうかな~ああかな~」と読まずにはいられない。
アルマイト先生の作品、稀に自分のもっている思想や価値観に訴えかけてくる強さを感じることがある。そう感じるのも感じないのも、読み手次第で自由であり、その訴えの強さに気づいたり気づかなかったりってこともある。だから決して押し付けてこない嫌味のない訴えの強さに好感を覚えます。これは多分文章が上手だからだろうな~。なかなか誰でもできないこと。
文芸作品であるだけに、本作でも多々散りばめられる文意の深さから、魅力的な文章が多かったように感じました。さすがです。
各話共通で登場する「泡」がどのように決着がつくのか、そのカギになる内容がちらっと出てきています。よって最終回まで見守るかたちで応援したい。ええそりゃもう! 泡が気になる気になる。
一回の更新で文章量が少ないわけではないのですが、ずるりと引きずられるように読み耽ってしまう一作。だから続きが気になって仕方がない。
「踊るには朱過ぎる月の夜に」こちらも更新待っている。
本作共に期待!



■作中印象深かった箇所
・目の前の女性と僕は多分、終わろうとしている。
なんて成熟した一文。終わるという言葉の重さ。なのにそれをものともしない若さと強さ。良い。
・突然主役の座に持ち上げられて、舞い上がらずにいられるだろうか。
参列者それぞれの目線で思考が違うのは尤もなところだと思う。けど何がって、彼女(若苗萌黄)の思考、死者が主役の葬式を見ず、生きる人が悲しみの底にある姿を見ることにのみ向けられている。イベントや祭りを見る感覚。そこに若さを感じずにはいられない。この若さを見事に書ききっている一文だと思った。
・私は悩んだ末に、絞るような小さな声で返事をした。
否定ではないけど曖昧で微妙な返し。どんな気持ちだったのか探りたい。OKというニュアンスの言葉が書かれていないところに奥深さを感じる。

以上この作品に関する25日更新分の感想はここまで。


       

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