Neetel Inside ニートノベル
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「大丈夫ですか!?」
薬の壺を片手に抱えた紗薬が、夜刀と共に現れる。
「やっと…来やがったか」
その二人の人外の到着に、俺も息をつく。
「人間、テメエわかってやがったのか?オレらがここに来るってのが」
「来なきゃ来ないで別に構わなかったがな」
鎌鼬は身内の気配を感じ取れるような口ぶりだった。ならその力を所構わず振り回して戦っていたら居場所はすぐ掴めるだろう。そういう予想はあった。
「じっとしててください、すぐに治しますから」
「ああ、早めに済ませてくれ」
「おい人間」
様子を窺っている転止に視線を固定したまま、夜刀は俺へ話し掛ける。
「テメエの目的は知らねえが、転止を誘き出したのはよくやった。傷が癒えたらすぐさま失せろ」
ちっとも感謝の気持ちが見えない言葉だが、それは傷を治してもらっている俺もお互い様だ。特にそれに関しては言い返すつもりはない。
だがそれ以前に夜刀の言葉に頷けないこともある。
「生憎と、そういうわけにもいかなくなったんでな。お前らの意思に関わらず、俺には俺でヤツを野放しにはしておけない理由ができた」
「あ?」
「来るぞ前見ろ!」
眼球だけが俺をギロリと見た瞬間、好機と見た転止が爪を振り上げ斬撃を飛ばしてきた。
「チィッ!!」
両手を前に突き出し、掌から同種の斬撃が飛ぶ。
二つの斬撃が空中で衝突し、圧縮された大気が解放され爆発的に風が吹き荒れる。
並の人間の強度程度は断ち斬られてしまうが、鎌鼬の『鎌』は互いに相殺することが可能らしい。
「いつまでそうやって暴れ回るつもりだ転止ォ!いい加減にしやがれ馬鹿兄貴が!」
「ギィィアアアアア!!」
ドンッ、と風を纏い鎌鼬がぶつかり合う。
「…優先して両腕の怪我を治してくれ。それ以外は構わなくていい」
その攻防を凝視しながら、俺は薬を塗っている相手に言う。
「え、でも…」
「お前、紗薬だったな。お前ら前にあの転止ってのを二人掛かりでも止められなかったとか言ってたよな」
紗薬に『鎌』としての戦力がさして見込めないのは、『薬』に特化してる時点で察してはいた。それでも一人よりは二人の方が相手の注意を分散できる。仮にも鎌鼬の一人である以上、前回とて夜刀の足を引っ張っていたわけでもないはずだ。
それでも止められなかった、となれば。
「はい…夜刀だけじゃ、とても転止は抑えられません…」
俺の言いたいことを理解したのか、先んじて俺の求めていた回答を返した。
思った通り、見ている限り夜刀は押されっぱなしだ。相殺は可能でも、『鎌』の出力そのものが段違いだ。
転止の方が数倍威力も高く速度もある。
あれではいずれ負ける。
「あの、腕の傷は治りました」
「わかった」
ずっと戦闘に目を向けていたが、見てみると、自分の両腕の怪我はもう傷痕すらまったく残っていなかった。
「紗薬、お前も一応『鎌』は使えるんだろ」
「え?あ、はい…一番弱いですけど」
答えつつ右手の爪が鋭く尖り伸びる。
「気を引くくらいはできんだろ、俺が呼んだらヤツの真上から『鎌』を撃て。…おい夜刀!」
返事を聞く前に足を進め声を張り上げる。
「ーーー気安く呼んでんじゃねえ人間!とっとと失せろっつってんだろうが!!」
転止の猛攻を防ぎ躱しながら、顔を向ける余裕もなくそれでも大声で怒鳴り返す夜刀にさらに返す。
「できねえって言ったろうが。それよかお前、俺に向けて飛んでくる『鎌』を相殺しろ。斬撃は自力でどうにかする」
「あァ!?」
苛立ちのみの怒声を無視して、鎌鼬同士の斬撃が飛び交う中を突っ込む。
「何してんだテメエ!」
(脚力三十倍、腕力四十五倍、動体視力四十…八倍!)
限界ギリギリだ、保てよ俺の眼。
距離をとって戦っていた二人に割り込む形で走り出した俺の姿を認めた転止が攻撃対象を切り替える。
迫り来る斬撃を痛みが走るほどの速度で眼球が追う。
皮膚が裂けても構わないなら、斬撃を迎撃する強化はこの程度でいい。
両手両脚を使って全て叩き落とす。
「ォお、ああああァァ!」
「ラッァァアアアア!!」
“倍加”を施した足で、全力で跳び込めば二歩で届く距離まで来たところで転止が片腕を振りかぶった。
夜風が集い、爪が甲高く鳴る。
「夜刀ッ!」
挙動を見て、俺も叫ぶ。
「なんだってんだテメエは!!」
転止が腕を振り抜くのとほぼ同時に、背後から俺の真横を地面を裂きながら『鎌』が通過する。
激突し互いに威力を失う『鎌』が撒き散らす強風の中をさらに一歩踏み込む。
「紗薬!!」
「はいっ!」
返事は聞いていなかったがしっかり準備はしていたらしい紗薬の、いくらか威力の弱い『鎌』が複数転止の頭上から降り注ぐ。
「ガァッ!」
即座に攻撃に反応して真上にもう片方の腕を振り上げ『鎌』を掻き消す。
…おかげで胴体ボディがガラ空きだ。
(ここ、だっ!)
思い切り踏み込み腰を入れ、腕力を四十五倍に“倍加”された右の拳を暴走する鎌鼬の胴体中心に目掛けて突き込んだ。

       

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