Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

異能とか、人外とか、そういうのに関わりさえしなければ俺の日常はいたって普通だ。
朝起きて、母さんの作ってくれた朝食を食べて、身支度を整えて登校する。最近の登校は彼女の要望もあって静音さんと一緒だ。
学校の正門で、静音さんとは別れる。学校内ではあまり馴れ馴れしくしないように心掛けている。もっとも向こうはそんなのお構いなしにやって来るが。
クラスでも俺はおとなしくしている。挨拶されれば返事するし、話し掛けられれば無難に返す。
でもそれだけだ。特に一緒に何かをするということもない。嫌われないように適度に接するが、好かれるまでには到底至らない。
だが、学校というものは同年代の男女が大勢集まる場所。
大勢いるということは、少なからず変わり者もいる。
それは単純に性格的に変わっている者もそうだし、人として変わっている者もそうだ。
人として持たざる力を持つ、普通の人間には無い能力の持ち主。
静音先輩や俺と同じ、異能力者。

「よっすー神門みかど!いつも通りの不幸顔だなあっはっは!」

席についてぼんやりしていた俺の背中をスキンシップを超えた威力の張り手でバンバンと叩いてきたソイツに、殺意を込めた視線をやる。
この学校に少なからず存在する変わり者の生徒の中でも、先に挙げた二つの意味で『変わっている』ヤツがそこにいた。
「…お前は相変わらず能天気なアホ面だな、東雲しののめ
皮肉たっぷりにそう返してやると、そのアホ面は皮肉を理解していないのか爽やかな笑顔で、
「おうよ!いい天気だったから学校まで走って来たぜ!」
とかわけのわからないことを言った。微妙に会話になってねえ。
同じ学年で、同じクラスで、同じ異能を持つ者。
圧倒的に数が少ない異能力者同士だからか、やたらと絡んでくるその同級生の名前は東雲由音ゆいん。常時血管がブチ切れるんじゃないかってくらいのハイテンションを維持して生活しているからその内死ぬんじゃないかと思っているが中々しぶとい。
「なあ神門よー、暇なら遊ぼうぜえ」
「もうすぐ朝のホームルーム始まるから席についてろ」
片腕を俺の首に回して、東雲は左右に揺さぶる。
「そんなこと言うなって!なあなあ!トランプしようぜ!」
「ちょ、おま、やめろ!」
がっくんがっくんと上半身が横揺れに襲われ、胃袋から朝食がリバースしそうになる。
咄嗟に腕が回された側の腕を振り上げて東雲の鳩尾に肘鉄を叩き込んでしまう。
「げふぅ!!」
「おわっ、すまん!」
思わず謝る。
「うぐ……神門、ちょっとお前の学生鞄貸して……」
「この状況で俺の鞄を何に使うつもりだ」
「口から溢れ出るオレの親愛の証を受け取ってほしい…」
そんな酸っぱい臭いのする親愛の証なんていらん。
本当に吐きそうになってやがったから、出るものが出る前に両手で顎と頭を押さえ込んで口からの放出を絶対阻止して強引にリバースしたそれを再び胃袋へリバースさせた。
「ごほっげほ!あ、悪魔かお前…!」
「元を正せばお前のせいだろ…。とりあえず口を濯いで水飲んで来い。そのままだと胃酸で歯と喉痛めるぞ」
コイツにはそういう気遣い必要無いとは思うが、一応言っとく。
「そうすっか…神門今何分!?」
ケータイのディスプレイの時刻表示を見せてやる。ホームルーム二分前だ。
「やべえ!急ご!覚えてろよみぃぃぃぃかどくうぅぅぅぅぅうんっ!!」
「木原君みたいに呼ぶなアホ」
喉が心配になるような絶叫を残してアホは去った。ホームルームには間に合わなかった。



「一週間に一回の決闘ルール、改正しねえ!?」
「うっせ」
昼休み。
今日は教室で食おうと思って自分の机の上で弁当箱を広げていた俺の真横で高速スクワットをしながら東雲が叫ぶ。なにしてんのコイツ。
「三日!負けたら三日我慢するからそれでいいっしょ!駄目!?」
「駄目だし汗が飛んで来るからスクワットやめておとなしく昼飯食っててください」
とりあえず敬語でお願いしたくなるほど鬱陶しかった。
「おっ、神門そのウインナーうまそうじゃん!オレのアンパンの餡子と交換しようぜ」
「やっぱアホだなお前」
両手で突き出してきた購買のアンパンを片手でぺしんと弾いて拒絶を示す。
この東雲由音とはある一つの取り決めをしていた。
ヤツが仕掛けてくる決闘には必ず応じること。その決闘に俺が勝った場合、その後一週間は俺への決闘申込みを禁止すること。
こうなった経緯は話すと長くなる。まあ仕方なく、止む無く、苦渋の決断だったと言って差し支えないことは確かだ。
もうコイツは今週叩きのめしたので、来週まではもう絡まれることはないと思っていた。俺がヤツとの接触を避け続けていられれば。
だがしかし、そこは同じ学年同じクラスに通う同級生。どうやっても逃げられはしなかった。一応授業は真面目に受けてるから、休み時間に入ると同時にダッシュで教室から退避すればどうにかなる。
どうにもならないのは、こういった昼飯時とかだ。
俺が黙々と弁当の中身を口に運んでいると、東雲は近くの椅子を引き寄せてアンパンを食べ始めた。わざわざ俺の傍で食うなよ…。
「そういえばよー神門」
「食べながら喋るな行儀悪い」
言った途端に高速で咀嚼しアンパンを飲み込み、続ける。
「お前ってまだ人外とドンパチやったりしてんの?」
「…してねえよ。なんだいきなり」
「いや、いつお前に挑んでも動きがキレッキレだからさ。人外相手に技を磨いてんのかと」
東雲との決闘に、俺は負けたことがない。それは単純に東雲が俺より弱いのが原因だが、俺が東雲より強いのは、確かに定期的に命を張った闘いをしているのが理由に挙げられるのも否めない事実ではある。
「お前がしつこく俺に挑んでくるからだろ。俺だって怪我はしたくないからな」
だがそれをわざわざコイツに言う必要はない。適当なこと言って誤魔化しておく。
「ふーん、すげえな!じゃあ次はボコボコにするから覚悟しとけよ!」
「はいはい」
椅子をガタガタ鳴らして意気込む東雲に、俺は肩を竦めてそう返した。

       

表紙
Tweet

Neetsha