Neetel Inside ニートノベル
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廃ビル群の更地の一角。
激戦の爪痕を残すその中央で、疲れ果てて眠る少年とそれを膝枕して頭を撫で続けている少女がいた。
そして、その様子を遠目から見ている影が二つあった。
共に違う位置からそれを見ている二人は、また所属も立場も違う無関係同士の者達だった。
しかして目的の対象は共に同じ。

一人、廃ビルの屋上から地上を見下ろしている青年は、ただ目を細めて昏々と眠る少年を眺めていた。
(同胞に近しい気配を感じ取って見に来てはみたが…なんだあれは?)
外見だけではいくら凝視しようがわかることもたいして無いが、それでも青年は身を投げ出して少女に撫でられるがままにされている少年を見続ける。
(奇妙な混じり方をしているな。単純な混合種ではないということか?使っていた力自体はどう見ても我らのそれだが)
腕を組んで黙考する青年は、やがて諦めたように肩を竦める。
(…駄目だ。俺にはわからん。若造の俺には知識が足りないからな、一度報告がてら戻って、後日仕切り直すとするか。それに…)
身を翻した青年が、少年少女が座り込んでいる場所を挟んだ向かい側にある廃ビルに一瞥くれて、
(すぐにでも手を出しそうな輩がいることだしな。何処の誰かも知らんが、ここでぶつかるのも得策ではない。先に動きを見せてくれればこちらとしても今後の方針を決めやすくなる)
あの少年は場合によっては青年の、ひいては青年の所属する集団にとっての最優先対象となるべき存在かもしれなかった。が、今現在ではそれもまだ不明。
先に接触させる程度であれば、別に先手くらいは向こう側に譲ってやっても構わない。
(ひとまずは戻って情報を集めるか。俺よりずっと歳食ったあの人達ならあの少年の正体くらいなら知っているかもしれない)
屋上の縁から離れ、青年は静かにその姿を消した。

「ありゃー、バレてたか。流石人外は視力も化物じみてるってことかなー?」
一人、青年がいた廃ビルの対面にあるビルの内側。ちょうど中央あたりの階にその女性はいた。
大通りに面した壁が全面ガラス張りになっている視界が開けたその場所で、中で埃を被っていたボロボロの椅子を手繰り寄せた女性がどかっと腰掛けて対面のビルの屋上を見上げる。
「戻ったか。なんだよもー、もっとアクティブに行こうぜー?そしたら思いきりぶっ潰してやれたのにさー」
つまらなそうに口を尖らせる女性は、視線を地上に転じてポケットから携帯電話を取り出す。
登録してある誰かの番号をプッシュして、耳に当てる。
「…あー、もしもし。見っけたよー?たぶんアレなんじゃないかな、あのキモイ混じり方してる気配は。んで、どーする?殺していいかなー」
去った青年と同じように地上の二人を見下ろしながら、女性は電話の向こうから返ってきた答えに頬を膨らませる。
「え、殺すんじゃないの?なんでー?捕まえる?ちょっと意味がわからないんですけどー」
腰掛けた椅子の上で足を組み、女性は面倒臭そうに頬杖をつく。
「うん、うん……うん?あれ、そういう方向だったっけー?え、うっそぉ、最初は見つけ次第殺すみたいな話じゃなかったー?…うん。ふーん。じゃーとりあえず捕まえるって感じ?ほーほー了解」
携帯電話を耳に当てたまま、女性はガタンと椅子を鳴らして勢いよく立ち上がる。眼下にいる少年を冷徹な瞳で見下ろす。
「んじゃー早速。…は?なんで…様子見?あーうん、まー確かに人違いだったらヤバいけどさ、でもほぼ確定だと思うんだけどなー。でも駄目?なんだよめんどいな潰すぞてめー」
次第にイライラし始めた女性が語気を荒げるも、電話の向こうでは至って冷静に指示を飛ばす。
「あーあーはいはいわっかりましたー。そんじゃーあれが間違いなくターゲットだってわかったら捕まえていいわけね。特定するくらいなら明日明後日くらいにはもう動けると思うけどいいんでしょ?うん、はい、りょーかーい」
適当に通話を切ってポケットにしまう。
「ったく、意味わかんねっつーのー。大体あたしは別にあのやろーの小間使いじゃねーってのに」
ぐっと背伸びをして、女性は冷たい視線そのままに少年を睨み続けている。
「…生かして捕まえりゃいーんでしょ?なら運びやすくダルマにしてから首根っこ掴んでキャリーバックみたいにして引き摺って行こ。それくらいしなけりゃー気が晴れないってモンよね。不純物だらけのクセに一丁前に『ミカド』を名乗ってるんだから」
ギリリと奥歯を噛み締めて、女性は神門みかどの少年に憎悪を向ける。
「絶対許さないから。『シモン』の名に懸けて、アンタはあたしがぶっ潰す」
中指を立てた左手を意識の無い少年に向けて突き出して、女性は誰にも気づかれぬままにそう宣戦布告した。

       

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