Neetel Inside ニートノベル
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電話には出なかった、メールにも返信は無い。
学校に着いて静音さんの教室を調べ、彼女がまだ登校してきていないという事実を知る頃になっても、依然として先輩からの電話やメールの返信が来ることはなかった。
学校へ向かう道中に電話で確認したが、同じ異能力者である俺の父さんや母さんの方にはこれといって被害は及んでいないらしい。それで少し安心していたのだが、やはり甘かった。両親に手は出されていなくとも、俺の先輩にはそうでなかったんだ。
先に登校していてくれと頼んだ静音先輩は、学校に来てすらいない。
生徒は彼女の同級生を含め誰も見ていない。担任の教師ですら欠席や遅刻といった旨の連絡も受けていないという。
これで確信した。
東雲を襲った何者かは、次に静音さんを標的として定めたのだ。
目的はわからない、先輩の生死すら不明。見つかっていないだけで、もしかしたらもう生きていないのかもしれない。
そう思うと、胸が張り裂けそうなほどに強く痛んだ。
(どうする、どうする!?静音さん…まさかもう、死……いや!!考えるな、生きていることを前提に頭を回せ!どこへ連れて行かれた?どうやって探す?方法は無い、虱潰しに街を探し続けるしかない!)
即座に行動指針を決め、俺は階段を踏み飛ばして一気に一階まで降りて廊下を駆け抜ける。靴箱の前まで来て、俺はスニーカーのままで校内を走り回っていたことに気付き、そのまま外に飛び出た。
「はえぇよ神門!やっと追い付いたぞ…!」
そこでぜえぜえと息を切らした東雲と遭遇した。
俺が全力で学校へ向かったのを追い掛けてきたらしい。
「今お前に構ってる時間はねえ!学校でおとなしくしてろ!」
膝に手を置いて前傾に息を整えている東雲の横を通り過ぎて、俺は教師に見咎められるのもお構いなしで正門から堂々と出て行く。
走りながら思考を巡らせる。
考えるのは静音さんの行方と、東雲を襲った女…もはや敵と見定めて問題ない相手のこと。
(敵の狙いは何だ?能力者を狙う理由は)
相手が人外であった場合でなら、異能を持つ人間というのは極上の餌だ。喰らう為に襲うというのも頷ける話ではある。
だが東雲はただ襲われただけだ。相手は東雲を殺したと判断して、ろくに確認も取らずに致命傷を与えて去った。喰らわずにだ。
違う。ならヤツは能力者を喰らう為に襲ったわけじゃない。
東雲は一度ヤツに殺されかけた。もし単純に殺人衝動を持っているだけのイカれた相手だったのなら、そこに理由や狙いなどといったものは存在しないのかもしれない。
しかしだとしたら最悪だ。東雲と同じように、静音さんもまた突然襲われて瀕死の状態で放置されていてもおかしくないのだから。
なんにしても長いこと時間を掛けていい問題じゃない。一分一秒の差で手遅れになる可能性がある。
だというのに、俺には静音さんの行方も敵の所在も見つける手立てが無い。
(くそっ!)
歯噛みして、俺は街中を駆け回る。



「…………」
学校の屋上、貯水槽の上に立って、東雲由音は静かに視界に広がる街の全景を見下ろす。
「ったく、ちょっとは頼ってくれてもいいのによー」
確かに守羽には迷惑を掛けっぱなしだ、今日だって止めてもらわなければあのまま呑み込まれていたかもしれない。
頼りにならないと思われていても仕方がない。
しかし由音には理由がある。
神門守羽に肩入れする理由が、確かにある。本人がそれを望んでいようがいまいが、由音には問答無用で守羽の味方をする理由がある。
彼には大恩があるから。
過去に救ってもらったことがあるから。
生きていく為のすべを、生き抜く為の意思を教えてくれたから。
だから由音は使う。
忌むべきモノの、自身に巣食うモノの力を。
それと同時に異能も展開。
人間としての異質な力と、人ならざるモノの異常な力とを拮抗させて維持。競り合い、どちらが押すでもなくバランスを保つ。
(テメエの悪意なんざどうでもいい、とりあえず力を寄越せ。体が欲しけりゃくれてやる、奪えるもんなら奪ってみやがれ…!!)
ザワザワと、身体の内側から悪寒の塊のようなものが膨らんでいく感覚。体温が失せ、手足が冷たくなっていく。
錯覚だとわかっていても慣れるものではない。
黒くなっていく。意識が、感覚が、思考が、感情が。
それらを異能でもって中和、あるいは相殺させて浸食する黒を打ち消す。
ただし浸食と共に流れ込んでくる力だけは身に宿したままで。
その五感に、人ならざるモノの性質を重ねて同化させる。
一時的にその身は変革される。
見えないものが見えるようになる。
聞こえないものが聞こえるようになり、感じ取れないものが感じ取れるようになる。
例えば、見かけは普通の人間でしかない、異能力者や人外の存在を認識できる。
街を一望できるこの場所で、由音は全周をぐるっと見渡す。
そうして、見つける。
異常な力、異質な力。その気配が二つ、同じ空間に留まっている。おそらくこれで間違いないだろう。
そしてその場所とは見当違いな方向へ凄まじい速度で突っ走る違う気配。これも守羽でほぼ間違いない。
「……っふう!」
力を解いて、安定させる。
制服のズボンのポケットから携帯電話を引っ張り出し、登録してある番号を押して耳に当てる。
三コールほどで相手は出た。
『なんだよ!あとにしろ!』
電話の相手はかなり切羽詰まった様子で怒鳴った。
対する由音も、それに負けないほどの声量で言う。
「見つけたぞ!お前が走ってる方向と全然違うとこだ!たぶんここで合ってると思うからすぐに引き返せ!!」
『……ああ!?』
由音は手早くその大まかな場所を教えて、相手がそれに頷いたのを確認して通話を切った。
「…さて!」
もちろん、東雲由音という男はそれだけで役目を終えたとは思わない。
「んじゃあ、オレも行くか!」

       

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