Neetel Inside ニートノベル
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「次は鬼か!燃えるなっ」
「燃えんなよ」
立ち入り禁止だが当たり前のように入り浸っている屋上で、俺は真上に昇る太陽から降る陽光に顔を顰めながら突っ込む。
屋上の貯水槽の上に立って街を一望している東雲由音が購買で買ってきたらしき惣菜パンを片手に大声で俺に話しかける。
「手下の餓鬼は昨日全部やっつけたから、そろそろ強い鬼が来るってんだろ?何人くらい来るんだろうな!」
「そんな何匹も来られても困るんだが……でも前に殺した大鬼が言ってた名前は一つだけだったな」
確か酒呑とかなんとか。
「そいつの死に際の口振りから察するに、近々来る大鬼は前に殺したヤツよりずっと強いらしい。正直勝てるかどうかはかなり怪しいな」
貯水槽に寄り掛かって弁当を食べている俺の頭上から声は降ってくる。あんまり大声出すとまた教師に見つかって怒られるからボリューム落としてほしいんだが。
「でも前ってのはお前が一人でやったんだろ?今度はオレとお前じゃん!いけるいける!」
「そんな単純な話ならいいけどな」
由音は餓鬼を退治した時点で次のことを考えていたらしい。俺が話を出したら途端に食いついてきた。
どうやらこの件にも首を突っ込む気満々なようだ。俺としては助かることだが、一応は命のやり取りをする戦いだということをもう少し真剣に考えてほしいものだ。こいつはそう簡単に死んだりはしないけど。
「で、どうだ由音。この街に鬼はいるか?」
食べ終わった弁当を包んで立ち上がり、貯水槽の上を見上げる。
「んー…いや、鬼はいなさそうだな!オレもあんまこれ得意じゃねえんだけどさ」
答えて俺を見下ろす由音の両目は僅かに濁った色をしていた。“憑依”の深度を上げた時に起こる特有の症状だ。
由音は身に巣食う悪霊の力を使って人ならざる者の気配を掴むことができる。完全完璧な能力ってわけじゃないから正確性は欠けるが、それでもこの探知能力は重宝する。
今はこの街に入り込んでいる鬼がいないかどうか探ってもらっていた。
「…鬼はいなくても、違う何かはいるのか?」
由音の言い方に引っ掛かりを覚えてそう問い掛けてみると、貯水槽から飛び降りてきた由音が俺の隣に派手な音を立てて着地して、
「シェリアと………あと誰だっけ?あの二人がまだ街にいるっぽいな!位置まではわからん!」
「レイスか」
二人の妖精。片方は昨夜俺をボコボコにしてくれたヤツだ。思い出すだけで腹が立つ。
「鬼と手を組んでるってことはないとは思うが、用心はしておくか。またいつ襲ってくるかわからんからな」
さらに言えば、その襲撃が鬼の強襲と重なったりした場合が今考えられる中で最悪の状況だ。なるべくならそれは避けたい。
「シェリアの方はあんま乗り気じゃなかったっぽいし大丈夫じゃね?」
「だといいけど」
由音は楽観視しているが、せめて頭の片隅には留めて置こう。
「鬼の狙いは俺だ。来るなら間違いなく俺へ一直線だろうと思う」
「んじゃ、鬼が来るまでなるべく守羽と一緒にいた方がいいってことだな!」
「まあ、そうなるな」
もちろん由音といるのなんて学校内か登下校くらいのものだからそれほど一緒にいれるわけではない。
鬼だって、襲うなら夜更けか人気のない頃合いを狙うはず。この辺りは鬼に限らず人外全般に言えることだ。
準備万端の状態で二人で鬼を迎え撃てるとは限らない。
「もしもお互いが別々の時に襲われたら、電話でもなんでもいいから連絡することだな。お前は“憑依”使えば俺が襲われてるのがわかるか」
「まあな!こっちが襲われたら守羽に電話するわ!守羽は別にしなくていいぞ!」
「わかった」
たった二人の人間が、大鬼相手にどれだけ立ち回れるか。勝算が低いのはわかるんだが、いまいち相手の戦力がわからないのが嫌なところだ。
どの道、俺達は状況に合わせて対応していくしかないわけだ。
「そろそろ戻るか」
昼休みもじきに終わり、午後の授業が始まる。
「いや、オレはギリギリまでここにいるわ!」
階段に足を向けた俺に、由音はそう答えて貯水槽の傍にどっかりと座り込んだ。
「なんだ、どうしたお前」
「今降りると副会長に見つかる可能性が大なんだよ!」
副会長……生徒会副会長の先輩。静音さんと仲の良い、井草先輩のことか。
そういえばなんか追い掛け回されてたな。まだ続いてたのか。
「いつまでやってんだか……」
呟いて、俺は一人で教室に戻った。

       

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