Neetel Inside ベータマガジン
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2015年 2月 肉オフレポ
いしまつオフレポその④全てがNになる(終)

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 肉の塊がそこにあった。

 鉄板の上、じゅうじゅうと音を立てるそれは、こんがりと焼き色がつき、周囲に食欲をそそる芳香を放っている。
 その周りを取り囲むのは、目を血走らせた男たち。僕を含め、六人。
 はて、僕たちは、なぜここにいるのであったか。
 ふと頭に疑問が浮かぶ。
 男らとはいずれも今日が初対面。確か、何がしかの共通の趣味を持ち、どこかのサイトで知り合い、何かの目的で集ったとか、なんとか、そういう感じではなかったか。
 うむ……何か……何か、重大なことを忘れているような気がする。
「はい、では肉を切り分けていきますね~」
 その時、頭に山高帽を乗せた店員がナイフを持って現れ、目の前の肉塊にゆっくりと包丁を入れはじめた。
 切られた肉からは、肉汁があふれ……ない。オーブンでじっくりと時間をかけて熱を通した肉は、旨みの素である肉汁をすべて内部に閉じ込めて、プルンプルンに瑞々しい肉ゼリー状態と化しているのだ。
 強めの焼き色が入った外側と裏腹に、断面は淡いピンク色。まるで採れたての桃のごとく、その表面はしっとりと脂に濡れている。
「食べましょう」
 誰かが言った。あるいはそれは、僕だったかもしれない。
「うん、食べよう」
「食おう」
「うんうん、早く食おう」
 次々にうなずいて、男たちは箸を取る。僕も遅れまいと箸をとる。肉は等分されているとはいえ、もたもたしていると誰かの胃袋に納まってしまう可能性もゼロではない。
 はて、それにしても、この会はいったい何のためであったか。
 ……まあ、いいや。食ってから思い出そう。
 僕はそう言い聞かせ、スライスしてもなおデカいその肉にかぶりつく。
 そこから先は、肉のことしか覚えていない。



 <いしまつのオフレポ 終>



 じゃなくて。
 要はそのくらい、肉の印象が強すぎたのだ。
 一次会の会場は、「ヒレ肉の宝山」銀座店。
 脂身の少ない、いわゆる赤肉を中心に、ステーキやローストビーフなどをワインと合わせて供するステーキ・バーなのであるが、ここでは毎日二十時に、ミートオークションなるけったいなイベントが開催される。
 ミートオークション。
 その名の通り、A5ランクの黒毛和牛の各部位を、オークション形式で客に提供するイベントである。
 普通に食べればグラム数千円から数万円にまで及ぶ超高級肉を、場合によっては信じられないほどのリーズナブルな価格で食べられるというものだ。
 もちろん、オークションの参加人数や、参加者らの懐具合によって、価格はかなり変動する。だがその日の僕たちは運が良かった。何しろ、自分たちのほかには、女性客二名しかいなかったのだ。おまけに彼女らはイベントが始まった頃には満腹状態で、つまりほぼ底値でめちゃくちゃいい肉を食ったのである。
 いわゆる特上カルビにあたる「ゲタ」という部分が、グラムあたりたった百円だった……といえば、どのくらいお得だったかわかるだろう。
 冒頭に現れた肉塊は、「芯」という部位である。ヒレ肉であれば、「シャトーブリアン」と呼ばれる最高級の場所だ。もっとも、その日食べた肉はヒレより脂の多いサーロインであるため、本物のシャトーブリアンと比べ多少格は落ちるそうだが、それでもグラム数万円は下らないという。
 我々はその「芯」を、六百グラム食べた。
 他のメンツはいざ知らず、自分は普段一食あたり百円未満の食費で生きている貧乏社会人である。そんな貧乏舌に異次元のハイクラス肉が土足で上がりこんで来たのだから、もうたまったもんではない。広がる肉汁の甘みはもはや上質な果汁。噛むたびにほぐれて溶ける肉質は、マグロの大トロを思わせる。そのあまりの美味さに脳髄は痺れ、理性は崩壊し、赤ワインの酔いに記憶は溶けて、後から記憶を辿っても蘇るのは肉の味ばかり。

 とはいえ、このままではオフレポが肉レポで終わってしまう。おぼろげながら残っている情景を頼りに、他のメンバーから受けた印象を記述してみよう。名前は五十音順である。
 
・顎男氏
『黄金の黒』『沢村』『賭博異聞録シマウマ』シリーズで知られる文芸作家。その更新スピードと作品量と高い質で新都ではダントツの知名度を誇る。
 色白、細身で、見た目が完全にアカギ。さすがに白髪ではなかったけど、今回の参加者の中で一番イメージにピッタリである。
 時間になっても待ち合わせ場所に現れずメンバーの心をざわざわさせたり、あげく迎えに来た我々に「遅いよ、クク」と言い放ったり、メシを食っている最中にも、「ああ……俺の肉はそこにある……」といいながら僕の肉をツモろうとしたり、そろそろ会計という時間になってローストビーフを倍プッシュしたりと、大人しい顔してけっこうな自由人。血を抜いてブチ殺そうかと三回くらい思った記憶がある。
 だが、見た目と作品のイメージがズレないということは、つまり自らの生き様をありのまま作品に表現しきっているということでもある。そう考えると、やはり凄い書き手だよなあと改めて思った。その生き様ひっさげて、早くプロデビューしてください。
 
・Kluck氏
 新都社の外注プログラマー(という言い方で合っているのだろうか)にして、『旅をする僕』を文藝新都に投稿している。SF畑ということで、割と趣味が近いお人である。
 Twitterで非リアアピールをしているが、実際に会ってみると、確かにエキセントリックな部分は多少あるものの、そこまででも……という感じだった。ただ過去の話を聞くに、どうやら色々あったようである。あまり多くは語るまい。
 基本的に聞き手にまわる人が多いなか、ガンガン自分のことを話してくれた。興味のある事に深くのめり込み、周りの目を気にせず突き進むタイプだ。自身のブラックな部分もガンガン開示するので周りの人は若干引いていた感もあるが、僕はこういう人は割と好きである。周りに受け入れられなかろうが反社会的だろうがなんだろうが、自分の趣味志向を貫く人は尊いのだ。
 経験上、彼のような気質は何がしかの専門家やベンチャー企業の社長などに多い。本人も色々と計画を考えているようで、そのうち大成して僕に肉をおごってくれる日を楽しみにしている。

・ヤーゲンヴォルフ氏
『ドン亀のヨーチン』ほか、軍事モノ小説を専門に投稿している文藝作家。当日は全身軍装に坊主という大変クールな格好で現れた。本人は持っている中でもなるべくカジュアルな服を選んできたと言っていたが、そんなこと気にせずもっとガチな格好で来てくれればよかったのに。
 Kluckさんと似たような感じでTwitterではやたらとコミュ障アピールをしていたが、実際に会ってみると特に会話に詰まることもなく、カチッとした体型もあって、全身から「質実」「剛健」という文字を垂れ流しているようなお方であった(褒めてます)。
 ただやはりシャイなのか口数は少なく、一次会で僕が肉に熱中しすぎたことや、二次会では席がやや離れていたこともあり、あまり話を聞ける時間が無かったのが残念である。ポツリポツリと語る内容は掘り下げたら面白そうなものばかりだったのに、タイミングを逸してしまった。もっと色々聞きたかったんだけどなあ。


 
 今回のオフ会、敗因は三つある。
 まず予想外の大所帯になったこと。次に肉が美味すぎたこと。そして、僕が途中で風邪を引いてしまったことである。
 二次会あたりから頭痛と喉の痛みが酷くなり、テンションがみるみる低下。店を出てから薬をもとめてコンビニを探すもののハイソな銀座にそんな庶民的施設はございませんとばかりに行けども行けども見つからず、ようやく見つけたマツキヨでマスクを買って顎氏・柴竹氏と漫画喫茶に入り、個室でぶっ倒れるように寝てしまったのだった。その間発した言葉は「痛い」「眠い」「辛い」の三語のみ。よくよく考えると僕も顎氏に迷惑をかけていた。どころか柴竹くんに至ってはとばっちりもいいところである。ごめん二人とも。

 そんなわけで今回のオフ会、楽しくはあったものの、やや不完全燃焼だった。
 だが、別にこれで全部が終わりというわけではない。社交辞令かもしれないが、次のことを言ってくれる人もいた。それに、日程の問題で、参加を希望しながら出来なかった人もいる。
 今回のメンバーと……そしてまだ見ぬ新都社作家と、どこかでまた出会う日はきっと来るはずだ。
 話の続きは、その時でいい。
 今はその日を楽しみにしながら、このやたらと長いオフレポを終えることにしよう。

 昼間っから行き当たりばったりな計画に付き合ってくれた、東京ニトロ氏、柴竹氏。
 終始テンション高めの絡みに付き合ってくれた顎氏、ヤーゲン氏。
 そして、このオフを提案してくれたKluck氏。
 
 皆様、今回は本当にありがとうございました。
 いつかまたどこかで。

       

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