Neetel Inside ベータマガジン
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★10周年記念・文芸チーム感想企画★
きぼん感想/硬質アルマイト

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・女装少年のゆううつ

 女装の姿のまま日々を過ごす少年山田一郎との出会いから、長田は彼の女装を辞めさせるために彼を養う約束をしてしまって……!?

 少年と少女(少年)の恋物語。

 この物語は、とある理由から女装をしている山田くん(通称:姫)と、家庭に事情を抱えながらも、自分なりの道を歩もうとする長田くん(通称:王子)の二人を中心に、彼らと彼らの友人のバックボーンを読み解きながら進んでいくというものです。
 元々志村貴子さんの著作「放浪息子」の大ファンだったこともありまして、この作品の設定や世界観には興味を惹かれていました。勿論、こちらは女装に対してマイルドですし、自然と山田くんも受け入れられていますから、根っこやストーリーは別のベクトルに向いているわけですが……。

 読み始めた時は、あまりにも長田くんの達観っぷりと完璧人間っぷりに少し戸惑いを憶えたのですが、彼の過去や問題が挟まれたことで、彼なりに大人になろうとしていることが分かり、それ以降はむしろ好意を抱くことが出来ました。
 全体の物語としてもやや精神年齢としては高めに感じます。わりと落ち着き払っている子が多く、ヤンチャをしていた増野くんも背景が読み解かれることで一気に雰囲気が変わりますし、どこか高校生でも通じそうだな、と印象を感じます。ただやっていることやイベントはみんな小学生然としているので、女装を含めたこれらが許される年齢を考えると、やはり自然と小学生に落ち着かざるを得ないのかもしれません。

 ただ、全体的に落ち着き払った印象を感じる物語ですが、登場人物の行動原理がとても暖かく、芯の強い子が多い(これはそれぞれが抱えるバックボーンゆえのものなのでしょう)ので、純粋悪としての存在がいないので、するすると読んでいけます。

 気がつくと女装も悪くないなって感じ始めます。しかも小学生でしょこれ? ……アリじゃね? ってなってます。更に恋に揺れてる二人が男ですよ。完璧じゃないですか……。

 あと個人的に衣装の凝りっぷりがとても好きです。さりげなく山田くんの服装が変わっていて、更に結構お洒落な組み合わせをしている。ここも制服だったら絶対に出来ない部分です。三十二話の服装が特に好きでした。彼らのイチャつきっぷりも相まってほっこりした……。

 二人の邂逅、長田くんの背景、増野くんの過去とやってきて、現在は水前寺くん(彼がまた良いキャラしてるんだこれが)という新キャラをきっかけに演劇発表編へと物語は進んでいます。
 更に山田くんが王子役、長田くんが姫役という性別逆転劇。二人を主要人物に据えた演劇は果たして二人にどんな変化を起こすのでしょうか。山田くんに女装を教えた【女王】なる人物も登場し、物語は更に根幹へと触れていこうとしています。
 二人の少年の行く末は、恋は、女装は……!?
 非常に楽しみで仕方がありません。

 


・フェイクで猫

 家族が共働きで、下校しても一人の寂しがりやルウ子の前に現れたのは一匹の猫。ただ、その猫は普通の猫とはどこか違くて……!?
 一人と一匹の暖かな日常物語。

 にゃん太くん、ぬいぐるみが欲しくなる可愛さです。
 ねこじゃらしをやんわりと断るシーンを見た時は思わず「抱きしめたい!」とパソコン画面を凝視してしまいました。その後のゴキブリにも萌えさせられたし、ふりふらた先生のもっちりしたキャラ造形にすっかり惚れました。うわああ可愛い!!

……さて、物語の感想について述べていきたいと思います。

 そんなにゃん太との出会いから、ルウ子ちゃんの日々は明るく、カラフルに彩られ始めます。特にカラーを使っているわけではないのですが、表情や心理描写から色を感じられる。黄色とか赤色とか、熱のある色が徐々に作中にじわっと水彩画みたいに広がっていくんです。読んでいるだけで温かくなれます。

 そして、何よりこのお話で良いな、と思うのが、語りすぎない部分です。
 色々と気になる点を幾つも残しながら、それらに全く触れず、日常的な生活、ルウ子ちゃんが少しづつ満たされていく描写を優先している。
 伏線をあえて提示しながら、回収せずに進むことでこのふわふわとした浮遊感を生んでいるのかもしれません。
 この浮遊感がものすごく良いんです。暖かくて、ぬるま湯に使っているような気分なのに、ふと下を見ると真っ暗で冷たい水底がこちらをじっと見つめている。その境界に留まりながら、でもその先も見てみたい気にさせる。

 黒川さんが登場して、いよいよその水底に手を伸ばし始めた気がします。
 一体にゃん太の抱えている過去とは何なのでしょうか。暖かでふわふわのわたあめみたいな物語が、このシリアス展開をきっかけにどう変化しているのか、とても気になっています。

 次回はにゃん太の回想がメインの物語のようです。

 どうして彼は喋るのか、一体祖父はどこからにゃん太を連れてきたのか、黒川との約束とは……!?
 温かくてきゅんとする物語、この先のシリアス展開も目が離せません!



・百合漫画祭り不参加作品


 人と接する事を恐れる少女と、ちょうど良い距離感を求める少女の物語。

 人との距離感。それって日々生活していてとても難しいですよね。
 この物語は、人と接することを恐れる子と、そんな彼女が唯一そばにいることのできる友人の問答をメインに据えた物語です。

 この物語にどう答えを出すべきなのか、すごく悩みました。きっとこれは相当難しい問題に触れている作品な気がしましたし、生半可に答えとして提示できるものでもないのかもしれないな、と。
 あまりこういう言葉を使うのは良くないのですが、今回はやむを得ず使わせて頂きます。これは、あくまで僕が読んで感じた感想ですので、正解では決してありません。

 この物語、読んでいて、どう転んでも二人にはすごく残酷な結末しかないような気がして、少し辛かったです。
 この二人、どうしても僕には傷を舐め合っているようにしか見えなかった……。
 二人の問答の中で、人との距離感を街の景色を絡めて描写するシーンがあります。街の景観を眺めながら気の許せる彼女と会話をする。きっと主人公にとってこのシーンは何よりも幸福を感じることの出来るシーンでしょう。
 ただ、この時街をきっかけにして始まった会話の中で主人公の言った「距離は必要無いと思う」は、人と接することが怖い人の一種の逃げでしかない発言で、一番始めのページでの胸の内で彼女の内心が自然と零れた場面だと感じました。

【何を考えているか分からなくて怖い】

 だから距離を無くして、何もかもを分かち合ってしまいたい。
 でも、彼女は自分を曝け出すのが怖い。
 線引を無くすことを望み、線引が無くなることを恐れている。
 ここが、恐らく最後のページで彼女の言った「君は違う」の理由なのではないでしょうか。近づいているようで全く彼女に近づいてはいない。近づいてくれる人に都合よく懐いているだけ。
 自己否定の成れの果て。


 逆にそんな主人公に対して、友人は遠ざかったり、近づいたり、彼女にはどんな距離を見せても問題が無い事を確認しているようで、だからこそ彼女は主人公の傍にいるんじゃないかな、と。

「実際は街も人も醜く薄汚れているけどね、この光だって目に見える幻みたいなモノだし」
「離れると見え方も変わる」
「ちょうど良い距離をとって接する事ができれば誰も傷つかずに済む」
(本作の台詞より抜粋)

 彼女もまた、自分を見せたいとは言っていないところが、とても引っかかりました。

 何もかもを知って距離を無くすことができたらと願う主人公。
 距離を作ることで何もかもをひた隠して良いところだけをと願う友人。

 真逆であり、自分が互いに恐れている事に対して焦がれているからこそ、この二人の関係は成立しているのかもしれません。

 だからこそ、二人の根本の恐怖が露呈した時、何より主人公が一歩踏み出してしまった時、二人はもう【二人】ではいられなくなってしまう。
 だから、幸福な結末を待っている反面、きっとそうはならないだろうなという想いを抱いてしまいます。
 この二人の行く末が、とても気になります。

 まさかご指定を頂けるとは思いもよらなかったです。拙いながらも今後の展開の一助となればと思います。
 RM307先生ありがとうございます。


・終わりに

 今回きぼんの感想を担当しました。硬質アルマイトです。

 きぼんといえど少女漫画の王道的なものから、少し色合いを変えたものまで本当に多彩でした。いや、きぼんが少女漫画向けという固定概念がそうさせているのかもしれません……。
 それでもやはり繊細さのある作品が多く連載されているように思います。
 今回こうして感想企画という場への参加のお話を頂けて、改めて新都社の作品を読んで回ってみて思いましたが、本当に多彩でいいな、と感じました。
 一人の文藝作家の思った事と思って、良かったら感想の一つと思って見て頂けるとうれしいです。僕の感想をきっかけに、読者がたの作品の楽しみ方に新たな一滴が加わったらいいな、と思います。

 改めて新都社十周年おめでとうございます。
 
 

       

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