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私の背骨・2


7月のまだ梅雨の明けていない頃、タケルの部屋で大音量の演奏をしているところ急にドアが開いた。
演奏していたのは自作のUKロックを10回くらいハンマーで叩いたようなどうしようもない曲。
人間こんなにも早く恥ずかしいという感情に辿りつける物かと感心した。

僕なら用があって部屋に入ったとしても両耳を塞いでうるさいうるさいといったようなポーズをするところだが
美里は両手を耳の近くまで上げ腰を左右に振りディスコの真似をした、60代後半の彼女がだ。
僕はその時始めて美里のユーモアを知った、それでつい笑ってしまったのだ。
「おばあちゃん、ディスコの音楽とはちょっと違いますよ。」

美里は僕とタケルを温泉に誘った。
どうやら友人から貰った割引券の期限が切れるので勿体無いからお前達もどうだと言う事だった。
僕たちは演奏をやめて美里の運転する赤いプリウスに乗り込んだ。タケルのパンツとTシャツを借りて。


「雨の露天風呂ゆうのも中々悪無いなあ。」
傘の下のベンチでのぼせた僕に向かって豪雨の中からタケルが言った。
露天風呂には僕とタケルしか居なかった、わざわざ豪雨に打たれて露天風呂を楽しむ
馬鹿な客なんて僕ら以外に居るはずもない。

丁度僕はベンチの下で美里との会話を思い返していた、新しい人との会話後の癖みたいなものだ。
タケルも知ってか知らないでか考え事をしてる僕を見つけると中断させる変な癖があった
僕は急に現実に引き返されて咄嗟に言った「なぁんかこうして見ると汚い猿みたいやなぁ。」
「濡れるんは一緒やあ、人間かてそんなえらないろお。」
少し大きな声で雨の中のタケルと会話した
水面には豪雨によって産まれた無限の歪な円が刹那の生き物のようにあった。


大阪から越してきた僕とこの田舎に産まれて育ったタケル。
いつの間にか彼が近くに居ると僕は何故か心が穏やかになっていた。
始めて会った良い人というのが恐らくタケルなのだ、それまで僕の人生には悪い奴らが多かったように思う。
そんな人生の中で出会ったタケルは当然のように僕の中で溶け込んで浮いた。
それはここの豊かな自然がそうさせているのかもしれない、何せ近くの神社の絵馬といえば
自分に関心も寄せないで人の幸せばかり願っているんだから、少し馬鹿馬鹿しいくらいだ。

僕はその後一人でサウナに入って静かな時間を楽しんだ。
客は他に3人ほど居たが皆一人できているような老人で野球の中継を無言で眺めていた。
あるいは、ただ時計を見つめて何かが通り過ぎるのを待っているようだった。

ジッとしていると体の表面に美しい玉が浮かび出て
ちょうどシューにクリーム入れるように、風船に水を入れるように
雪の玉が雪原を巡るように、最後は凄いスピードで肌から転がり落ちていった。
sage