Neetel Inside ニートノベル
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 手に持つスプーンが震える。すくったスープからは湯気が立ち込めてい
る。口元に運ぶ。スープを流し込むとともに伝わってくる温かさ、ウシエ
ルの温かさ。つられて目元が熱を帯びる。

「おいしいよ、ウシエル……ごめん」
 何に謝ったのか自分でもわからない。けれども口から出た謝罪の言葉。
自分が弱っているという実感だけはあった。

「まだ料理はありますからゆっくりお食べください。考えるのは明日でも
いいでしょう」
「うん、そうするよ……ありがとうウシエル」
 不思議と食欲はあった。食べ進む間は何も考えないでいられるからだろ
うか。胃袋へと次々に消えていく食べ物。気づいたときには目の前が空の
皿で埋まっていた。ウシエルは洗いもののため調理場へと消えてしまった。
ボクは立ち上がると自分の部屋へと向かう。

 部屋に戻るも気力はとうに失せ、もはや思考を巡らせる隙間もない。揺
らめく、その揺らめきのままボクは思考を閉ざす。



 『神』  目をつむる。すると文字が頭をよぎる。

 『神』  ボクの夢……だけど叶わなかった。

 『神』  ボクは選ばれなかった、神となるべく作られた天使のはずなのに。

 『神』  ボクを選ばなかった。神とするべくボクを作ったはずなのに。

 『神』  ウーエル。ボクを超えることができてさぞ満足だろう。

 『神』  オーエル。そんな顔するのならボクに譲ってくれよ。

 『神』  ボクには神になるしかなかったんだ。

 『神』  そして今、ボクには何もない。

 『神』  神となるべく作られたボク。

 『神』  神になれなかったボク。

 『 』  何も持たない。

 『 』  ボクには何もない。

 『 』  ボクはこれから何を目指せばいい?

 『 』  ボクはこれから何を成せばいい?

 『 』  何も考えられない。何も見えない。何もわからない……

 『 』  考えてもわからない? 違う。

 『無』  考えたらわかってしまうから考えない。

 『無』  わからなければボクはボクのままでいられる……

 『壊』  でも、いつまでも考えないではいられない。

 『壊』  考えたとき、ボクはボクでいられなくなるんじゃないか?

 『壊』  怖い。

 『壊』  何が怖い?

 『壊』  自分が壊れるのが怖いのか? 

 『壊』  でも、ボクにはもう何もない。壊れて失う物もない。

 『壊』  何をためらう必要がある? 破滅はもう済んでいる。

 『壊』  あとは向き合うだけ。受け止めるだけ。

 『壊』  壊れた先には何もない。そう、何もないんだ。





 『神』  ……なぜ、またこの文字が浮かぶ?

 『神』  なぜ、まだこの文字が浮かぶ?

 『神』  ボクはもう神にはなれない。

 『神』  ボクにはもう不要な存在。

 『神』  では、神とはなんだ?

 『神』  ボクが神でないのなら神なんて、何の意味がある?

 『神』  ボクを選ばなかった神。

 『神』  ボクがなれなかった神。

 『神』  ボクの目標だった。ボクのすべてだった。

 『 』  でも、ボクは裏切られた。

 『 』  ボクの努力も、ボクの夢も、全部無に帰した。

 『 』  すべては神のせい。それなのに……

 『神』  どうしてボクはまだ羨む?   

 『神』  ボクはどうすればいい?



 『壊』  壊れたボク。壊した神。

 『壊』  失った夢、埋まらぬ心。

 『壊』  それならいっそ神など捨ててしまえばいい。

 『壊』  もうこれ以上傷つかないように。

 『壊』  もう手に入らないのなら、もう届かないのなら。

 『壊』  神も、かみも 、かみ もすべて。


「消してしまえばいいんだ」


  

       

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