Neetel Inside ニートノベル
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欠けた天使の与能力(ゴッドブレス)
第五話 与能力(ゴッドブレス)

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「どうしてもだめか?」
「アーエル様、あきらめてください。決まりは決まりですので」
 まるで空に向けて話しているような構図。ボクは上を向き、その視線の
先にいる巨大天使、メタトロンに話しかけていた。

「入れてくれないか、メタトロン。ボクは神様に用があるんだ」
「入れるわけにはいきません。この部屋の中に入れるのは神様と招待を受
けたもののみ。いくらアーエル様とはいえ中に通すわけにはいきません」

 メタトロンとの押し問答。くそ、計画が甘かった。考えてみれば当たり
前じゃないか。もはや神候補ですらなくなった一介の天使にどうして神様
が会ってくれるというのだ。自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。
 自暴自棄になって立てた計画。その粗が始まってすらいないこの段階で
ボクに立ちふさがる。頭が痛くなってくる。

「なら、僕が呼んだことにすれば入れるんだよね?」
「!? オーエル」
 振り向くとそこにはなぜかオーエルの姿が……いや、オーエルは神に成
る存在なんだ。神の社に出入りしていても不思議ではないか。

「オーエル様がそれでいいというのなら、私にはアーエル様を止めるすべは
ありません」
「ありがとう、メタトロン。アーエル兄さん、じゃあ入ろうよ」
「あ、ああ」
 オーエルに促されるまま社の中へと入っていく。それにしてもタイミン
グが良すぎやしないか? もしかして。

「今のこと、予知夢で見たのか?」
「違うよ。たまたま通りかかっただけ。でも、たまたま通りかかってよかっ
たよ。兄さんの役に立てたんだから」
「……」
 屈託のないオーエルの笑顔……どうしてそんな笑顔をボクに向けられる?
ボクにはそれを受け取る資格なんてない。すべて壊そうとしているんだぞ。
拭いきれない違和感にボクは前を行くオーエルの背を見つめる。
 オーエルはボクの考えに気付いているんじゃないのか? 疑心に心が埋も
れていく。

「大丈夫、僕は兄さんの味方ですから」
「!」
 心を読まれた? オーエルの言葉にボクは震える。そんな力、オーエルには
なかったはず……隠していた? いや、神に選ばれて新たに能力を得たのか。
 広がる不安。けれど、だとしてももうここまで来ては立ち止まれない。
オーエルが何を視ているのか知らないがボクの歩みは止まらない。



「そういえば」
 何やら懐に手を入れ何かを探し始めるオーエル。その手が止まるとオー
エルは顔を上げる。

「これ、洗濯に出された制服のポケットに入ったままだったらしいですよ。
中身はチョコレート。誰かからのもらい物ですか?」
 オーエルの手に握られていたのはチョコレートの箱。制服の中から出て
きた? ああ、そういえばハミエルから何かもらったんだっけ。
 
「ああ、ごめん。忘れていたよ」
「食べ物も、人からの好意も粗末にしていてはだめですよ」
「……ああ、そうだな。気を付けるよ、ありがとう」
 ボクはオーエルから包装の解かれたチョコレートの箱を受け取るとそれを
ポケットへと入れる。それにしてもボクとしたことが人からもらったものを
ポケットに入れていたことを忘れていたとは。危うく制服を汚してしまう
ところだった。
 とは言え、もうその制服もボクには必要ないわけだが。

「では、兄さん。僕は別の用事がありますからここで」
「ああ。ありがとな、オーエル」
「だから、何度も言わせないでくださいよ。僕はアーエル兄さんの味方で
すから、いつでも頼ってくださいね」
 明らかに以前とは変わったオーエルの雰囲気。これも神に選ばれた影響
なのだろう。自信なき故、気弱だったオーエルの姿はそこにはなく、今ある
のは聡明で優しい天使の姿。ハンディキャップを取りはらった、これがオー
エルの本当の姿なのだろう。
 ボクはオーエルと別れ奥へと進む。オーエルの変化をみる限り、ウーエル
も何かしら変化しているのだろうか。ウーエルは、あれはあれで面白かっ
たから変わらないでいてほしいものだ。そしてボクも……ああ、また考え
る。考えたところで何も生まれないとわかっているのに。

 こんな揺れる心で神に対することなどできるものか。ボクは息を大きく
吸うと大きく一歩を踏み出した。

       

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