Neetel Inside ニートノベル
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 神への復讐、天界への報復。選ばれなかった憎悪、選ばれたものへの嫉
妬。当然褒められた計画ではない。計画が成せたとして残るものは何もな
い。これはボクの私怨。けれど、だからこそ成したいのだ。自分と言う存
在に見切りをつけるために。

 眼前には神の間の扉。めぐる思考は落ち着きなく頭の中をかき乱す。落
ち着け、ゆっくりと深呼吸。
 こんな状態では上手くいくものも立ち行かなくなるというもの。ボクは
頭の中で今一度計画を思い起こす。


 神には『全能』というすべての事象をつかさどる能力が宿っている。そ
れにより神はどんなことでも成すことができるのだ。
 そして全能の中でも特に重要な能力が3つ。『全知』『天罰』『創造』
である。

 現在までのすべてを認識する『全知』
 他者へのあらゆる介入を可能とする『天罰』
 自らの一部を贄に万物を生み出す『創造』

 これらにより神は世界を生み出し、知り、治めている。神を完全足らし
める全能。本来ボクが恨み、羨むべき対象であるのだが今回はこの全能を
利用する。
 神の性格上、ボクが神の座をあきらめサポートに徹するとして現れれば
ボクのことを無下にはしないはず。そこで交換条件として頼みごとを一つ
する、『ボクに神の能力を少し分けてください』と。

 万物を生み出す創造と、他者へ介入できる天罰。その能力二つを組み合
わせ行われるのが継承の儀である。神に任命されてから一月をかけて全能
のすべてを受け渡す継承の儀。その能力の一部をボクがもらおうというの
だ……自分で考えてなんだけれど、言葉にしてみるとめちゃくちゃな計画
だ。
 だが、成功する可能性が無いわけではない。神からしてみれば無数にあ
る能力の中から一つを渡すと言う条件で物事がうまく運ぶのなら無駄を嫌
う神のこと、案外すんなり能力を渡してくれるかもしれない……と、そん
なすんなりうまくいけばいいのだがおそらく全知の能力がある神にはボク
の計画は通じない。ではどうするか、手に入らないのなら盗んでしまえば
いい。継承の儀への同席を交渉するのだ。
 神もボクの頼みを直前に断っている以上、続けては断りづらいはず。そ
して継承への同席が許されればあとは隙を突き継承中の能力を奪うだけだ。

 そして、能力を奪うということはボクにとって能力を手に入れる以上の
意味を持つ。それは逃走手段である。

 もともと神は肉体を持つ生物だった。それが感情の一部と肉体を捨て神
と言う絶対の存在になったのである。捨てた感情は天使となり、そして捨
てた肉体は能力へと姿を変えた。つまり全能とは元は神の血肉であったの
だ。
 能力を与えられるということはひいては受肉を意味するのである。肉体を
持つ者は全能を持つ神を除き思念で構成される天界に存在することはでき
ない。つまり、能力を受けた時点でボクは天界以外の場所、つまりは下界へ
飛ばされることになる。そしてそれがボクの目的。得た能力を使い下界の
人々を統制するのだ。

 神の能力は強大。そのごく一部であったとしても下界に住む生物にとっ
ては絶対的な力。そしてその力を使い下界を恐怖に陥れる。恐怖に駆られ
た思念は天界を覆い、そして強すぎる負の感情は天界のすべてを腐敗させ
る。これが復讐、これが報復。
 たとえ下界に逃げたボクに神様が手を下そうとしても多くの感情が欠け
た神が下界に降り立とうものなら下界のあらゆる思念が神に引き寄せられ
下界は壊滅する。つまり神は直接ボクに手を出すことはできない。ほかの
天使も同様だ。力を持たない天使など下界の生物と同じ、力を持つボクの
敵ではない。後警戒すべきはウーエル、オーエルと神の能力の一部を貰い
受けた『能天使』達のみ。だが彼らもすぐに下界に降りることはできない。
 なぜならウーエル、オーエルはまだ継承の途中であり存在が安定してい
ない。そんな状態で多くの思念がひしめき合う下界に降りようものなら確
実にその存在は霧散してしまうだろう。そして『能天使』達。彼らは神の
補佐をするために能力を与えられたわけであるが、彼らが能力を貰い受け
る際ある契約をしている。
 それは
 『神に逆らわないこと』
 そして
 『神の傍から離れないこと』

 この契約がある限り彼らは下界に降りることはできないのである。つま
りボクの計画を阻止できるとすれば継承の儀を終えたウーエル達のみ。け
れどもそれまで一月の間がある。それだけの時間があれば計画を成すこと
も容易であろう。そうなれば天界の崩壊は免れない……

 天界の崩壊。それは天界に由来するすべてのものの消滅を意味する。そ
れはもちろん、天界に住む神や天使、そしてボクもである。

 だがそれでいいのだ。ボクを捨てた世界と世界に捨てられたボク。ボクは
世界を、そしてそれと同じぐらいボク自身も憎いのである。

 すべての崩壊。それこそがボクの望み。すべてを失ったボクが最後に見
る夢。

 ボクは眠るようにゆっくりと沸き立つ感情を殺す。光の消えたボクの目
に、もはや迷いの色はなかった。

       

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