Neetel Inside ニートノベル
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 どこの世界でも騒ぎたい盛りの少女が二人も集まれば話に花が咲くとい
うもの。それは人間の域を脱し天使たちに至るまでも同じであるようだ。
 白のふわりとした布を身にまとい、背中の翼をはためかせキャッキャと
話す二人の頭上には、淡く光る小さな輪っかが揺れている。辺りを見回し
ても道行く者たちには決まって揃いの輪っかと翼がついていた。
 少女たちは、けれどもそんな周りの様子に気を留めることもなく恋愛トー
クに盛り上がる。


「やっぱり男子で一番かっこいいのってアーエル君よね」
「アーエル? 誰のこと、それ」
「えーっ、知らないの? 隣のクラスの男の子なんだけど超イケメンでさあ、
テストでは常に一位、部活では部長も務めてて、なんと今度の神様候補で
もあるんだから」
「へえ。うちの学校、そんなすごい子が居たんだ」
「うそお、本当に知らないの?」
「うん。アーエル君だっけ? 名前も聞いたことがないわ」

 学校指定の黒鞄を手にし道を歩く二人の少女達はそんな話をしながら白
く塗装された道を歩いていた。静かな朝の住宅街。声がどこまでも響き渡
るだろうこの空間に、けれどもどこからであろうか。叫び声にも似た喧騒
が彼女達めがけ後方から徐々に徐々に迫ってきているようであった。

「何かあったのかしら」
 一人の少女が問う。けれども隣にいるはずの友達からは返事が帰ってこ
ない。それもそのはず、その友達は歩みを止め来た道を振り返り固まって
いたのである。

「えーっ、どうしたの」
 少女は問いかけるがやはり無反応。回り込んでみるとその友達の視線は
後方のある一点を凝視しているようである。肩をたたいてようやく焦点が
戻ってくる。

「来たわよ」
 友達は声を絞り出すように言う。

「来たって、何が?」
「アーエル君よ!!」
 突如名前を叫び走り出した友達をあっけにとられ見送る少女。友達の走
り去った先にはなぜか人だかりができていた。

「いったい何が起こっているの」
 少女は首をかしげる。
 困惑する彼女であったが、人だかりが近づいてくるのをながめるうちに
その中心に人がいるのを認めた。

(あれがアーエル……様?)

 目に飛び込んできたのは切れ長な目。その上方に位置す眉はキリッと細
長く凛々しさが際立っている。肩まで伸びる茶髪と筋の通った鼻に、優し
く微笑む口元――少女は恋に落ちていた。

 視界は赤く熱を帯び、心臓は弾む。少女の駆け寄る先には大勢の人だか
り。それらを押しのけ少女は中心に位置す男へと向かう。もはや少女の目
にはその視線の先にいる男の姿しか映らない。すらりと伸びた指先が彼の
髪をなでるしぐさを見るだけで息が荒くなる。

「アーエル様ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
 彼女の叫び。それに応えて男は振り向き微笑む。


「ああ……」
 吐息をもらし、空を仰いだ少女はバタン。失神し地面へと倒れてしまう。
けれども少女の顔には満面の笑みが浮かんでおりとても幸せそうであった
と言う。

       

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