「ああ、もうしちめんどうくせえガキだな。いいから、住所を吐けってんだ」
「ですから……忘れてしまったんですよ。記憶喪失というやつです」
荒れる口調が降りかかってくる。目の前、男、これで警官だというのだ
からおどろきである。
天界で言えば治安を守るメタトロンなどがこの役職に当てはまるはず。
これが地上の一般的な者の態度なのかと考えるとぞっとするが天界は大き
く下界の影響を受けていることをかんがみればさすがにそれはないだろう。
横暴な態度を取るメタトロンを妄想し一人苦笑していると目の前の男の声
にとげが増す。
「笑ってんじゃねえってんだよ。ガキがこの状況分かってんのか? てめえが
だんまり決め込むってんなら仕事が俺のプライベートを圧迫してくるわけ
よ。分かるか? 早く話せ」
「ですからわからないんですよ。何とかなりませんかね」
「なるわけないだろ。くそガキ、おめえは商店街入り口付近の八百屋で盗み
食いした。証拠も挙がっている。だが。店主がおめえを厳重注意で許すと
言っている。これ以上何を望む? これ以上ごねるようならこちとらめんど
うくせえ手続きとらにゃあかんのだぞ」
「……」
さあ、困った。いったいどうすべきか。非常事態とはいえやはり明らかに
人口物様の食べ物を口にすべきではなかったな。ボクは事の発端を思い返
すのだった。