Neetel Inside ニートノベル
表紙

欠けた天使の与能力(ゴッドブレス)
第八話 打算×純真

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 どこかよそよそしい天井。ボクは白い格子状の柄を持つそれを見ながら
ゆっくりと目を覚ました。体が異常に重い……ああ、それも当然か。何せ
ボクの体はぼろぼろだ。
 でもいったいここはどこなのだろう。背中には沈み込むような柔らかい
感触、体を起こそうと接地面についた手は滑らかな肌触りを感じ取る。ボ
クはこの状況を訝しみながら起き上る。

 どうやらここは屋内のようだ。それも一般家庭の物。そこでボクの状態
が思い起こされる。
 極度の疲労と空腹、そして気温低下による低体温。倒れる状況はそろっ
ていた。
 つまりどこの誰とも知らない人間が行き倒れるボクを見つけ自分の家ま
で運んだ……ここまでは疑いようがないだろう。そして枷も付けられてお
らずベッドに寝かされているこの状況、好意と受け取っていいだろう。少
なくとも身の危険はなさそうだ。ボクはここでようやくホッと息をつく。

 けれども当然自体が好転したわけではない。力を抜いたことで思い出し
たように襲ってくる空腹。当然疲労感も抜けてはいない。体温こそ戻った
が今ボクの体は活動限界に近い状態だ。能力を発動させる目途もまだつい
ていない。ボクはため息を一つ吐くのだった。

 それにしても。
 ボクは自分の今いる部屋を見回す。温かみのある暖色の壁紙、備え付け
の本棚には日本語の書物のほかに洋書も多数置かれている。一見するとシッ
クな部屋。大人びたその部屋であったが置かれる机の上には高校の教科書
類が並んでいる。高校生にしては片付いた部屋だが、本棚の本はおそらく
家族のものだろう。だが、一番気になるところ、それはこの家に住む人間
達がおそらく一般的な市民であろうことだ。
 確かに家のつくりはしっかりしている。だが、先ほど外で見た家々とこ
の家とで違いがあるとは思えない。お金に不自由している様子はさすがに
見受けられないがそれでも有り余っているとは到底思えないこの部屋の内
装。そんな一般的な家庭の人間が外で倒れている者を家の中に上げるだろ
うか? 防犯的にも、心理的にも。
 
 日本には救急医療が充実している。病院は24時間開いており、電話をか
ければ無償で病院にまで送り届けてもらえる。そして救急車両が来る時間
も長くて数十分だろう。それならば何もボクを家の中にまで上げる必要な
どないのだ。けれども実際は家の中に運び込まれ、こうしてベッドの上で
寝かされている。
 そんなことをするのは知り合いでもなければよほどのお人よしか、何か
目的があるか、だ。

 ボクは窓へと手をかける。助けてもらったてまえお礼も言わずして立ち
去るのは気が引けるがこれ以上厄介ごとを抱えるのはごめんだ。何か起きる
前にここを立ち去る。ボクは窓の縁に足をかけるとそのまま飛た……つ?

 ああ、忘れてた。ボクは今人間。つまり飛べな

―ドンッ

 全身に走る衝撃。
 こうしてボクは再度意識を閉ざすのであった。

       

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