Neetel Inside ニートノベル
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 復讐を誓い地に堕ちた元天使、アーエル。
 その悲願は天界を悪意で染めること。その過程には称賛や感謝など起き
うるはずはない、そのはずであるのに。

「兄ちゃん、兄ちゃん、すげえな、ありがとな」
「ははは、いいんだよ。気にしないで」
 ボク、アーエルとその契約者エイダを取り囲むのはボクらに憧憬の眼差し
を向ける子供たち。

 なんだ、この光景は。どうしてこうなる。
 子供たちの顔はボクが天界を離れる決意を固めたときに諦め、捨て去っ
たそれそのものだ。すべてを手放してすら投げかけられるその羨望の目。
ボクは彼らの目に中てられ鬱屈とした感情が積もっていく。

 隣で子供たちの受け答えをするエイダは満面の笑みを浮かべている。その
笑顔に嘘偽りはないのであろう。そんな彼を視界の端に捉えながらボクは
笑顔を偽るのだ。
 誰かに与える喜び。もう、あきらめたはずなのに、こうして目の当たりに
すると心が叫ぶ。感じられない痛み、想像することすら叶わないそのむな
しさ。ボクは一人唇の裏を噛む。

 ああ、どうしてボクらはこんな状況に。ボクはエイダを恨めしく思いな
がら先刻のことを思い返す。




~~

 床に寝転ぶボクとエイダ。この状態になってからすでに10分ほどの時が
過ぎていた。隣から聞こえてくるのはスウ、スウと一定間隔で音がする、
エイダの寝息である。疲れて眠ってしまったのだろう。
 かくいうボクも能力行使により体は疲労感でボロボロ。指一本動かすの
ですらためらうほどだ。エイダも寝ているこの状態、今ボクにできること
など眠ることぐらいだろうが事態の進展に中てられボクは高ぶる・・・
なんとなくだが、今眠れそうにはなかった。

 動かない体、いやでも脳は思考を巡らせてしまう。
 能力のこと、エイダのこと、兄弟のこと、天界のこと、、、神のこと。

 天界でのボクは自暴自棄だった。後先考えず、傷つくのを恐れず、いや
目を背け、ボクは神にぶつかった。それは自傷行為のようなものだったの
かもしれない。けれどもそれで得られたのは落胆、憤り。そして神がボク
に何の警戒もなく与えた能力。それは復讐のための能力、のはずだった。

 地上に降りエイダの家と言う憑代を得て、見えた現実。
 やはり無謀だった。神と言う巨大な存在、それに無策に突っ込んだのだ。
恐怖心は今でも感じない。けれども自分のやったことの、やろうとしてい
ることの大きさは心に重圧としてのしかかってきていた。止まるわけには
いかないこの計画だけれど、動けないこの体が、状態が心を弱くする。

 ちらつく神の顔。神はどうしてボクに能力を与えたのだろう。ボクが
能力を使う目的なんてきっと気づいていたんだろう。出なければ神の能力
の一角を占めるこの与能力をわざわざ与えるわけがない。
 能力を与える能力、復讐を考えるのであれば誰かに与えなければならな
い、誰かに頼らなければならない。

 誰かを頼れ、仲間を大切にしろ、与える喜びを知れ、人を信じろ。

 神は言いたいのだ、ボクに改心しろと……



 そんなことできるわけがないじゃないか。
 ボクは天界を裏切った、この状況。これがどうにかなるものか?
 ボクの心はぼろぼろだ。ボクの心、まだ偽れというのか?
 今まで偽って生きてきた。そんなボクが人を信じられると?

 無理に決まっている。だからボクは復讐の道を選んだんだ。
 ボクは小さく体を震わせる。





 
「あれ、僕寝ちゃってた?」
「ああ、ぐっすりとね」
 目覚めるエイダ。その横でボクは一人渇いていた。いつ終わるともしれ
ない復讐の道。けれどももうボクにはこの道しか残されていないのだ。

「エイダ、もう体は動かせるか」
「うん、もうバッチリだよ」
 どんな手段を使っても、どこのだれを使っても必ず。

       

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