Neetel Inside ニートノベル
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力鼓舞パワー・アップ!!」
「エイダ、だいぶ能力の発動に慣れてきたな」
 能力を精査するボクとエイダ。そのおかげでいろいろなことがわかって
きた。

 まず能力発動条件、それは能力名を口にするだけ。多少噛んでも発動可
能。そして能力発動自体では体力消費は無い。また回数制限も試した限り
存在しない。
 次に能力の継続時間。安静状態での体力消費は普段のそれと変わらず、
また、跳躍、投てき等の身体の複合運動では関わる筋の数だけ力が増すた
め3倍近くの力を発揮可能となる。
 消費された体力は回復速度自体はほとんど変わらないため一度体力を使
い切ってしまうとしばらく行動不能となる。筋疲労も同様。全力を出せば
筋は傷つき、いわゆる筋肉痛を引き起こす。
 
「そろそろ休憩にしようか」
 ボクはエイダの家から持ってきてもらった飲料水を片手に公園の片隅、
日の当たらない木の横のベンチに腰を下ろす。
 駆けより、ボクの横に座るエイダ。ボクは彼にも飲料水を渡す。

「それにしても」
 エイダは伸びを一つし、ボクの方を見る。

「どうした?」
「いやあ。ボクもこう見えて自分の変化に驚き戸惑っているんだよ。突然
現れた天使。そんな君がボクに力をくれるという。今のボクなら、こんな
ことだってできるんだ」
 そういってエイダは言葉を切る。
 ボクが彼の方を見るとその視線は空を向いている。つられて目を向ける
ボク。エイダが見ていた先には群がる子供、木の上のボール。エイダが立
ち上がる。



「電田、強く蹴りすぎだよ」
「仕方ないだろ。蹴る瞬間、石に躓いちゃったんだから」
 ボールを見上げ、木の周りで思案する子供たち。風で揺らめく木の枝で
あるがその程度ではびくともしないほどボールは木にしっかりと引っ掛かっ
ていた。
 高さは優に3メートルを超すであろう。翼でもあれば別だがスポーツ選
手でもなければ常人に手が届くわけもない。

「どうするんだよ」
 子供の一人が声を上げる。けれども、二の声が上がる前に近づく影。

「ちょっと待っててね」
 背後から近づいてきたその男は子供たちの間を抜けると木のもとへ。しゃ
がみこみ、力をため、伸び上がる。

「おお」
 漏れる感嘆の声。男、エイダが手にしていたのは木に引っ掛かっていた
サッカーボールであった。


「すげえな、兄ちゃん」
「今の、どうやったの、すごいジャンプ!!」
「うわあ、ありがとう」
 集まる賛辞、頬を染めるエイダ……うう、余計なことを。ボクはエイダの
元へと駆け寄る。

「はい、どうぞ」
「ありがとう、お兄さん」
 ボールを手渡すエイダを後ろから小突くボク。振り向くエイダにボクは
目くばせでここから離れる合図をする……当然だろう。下手に目立てば
能力が露見する。それが人間どもに知れ渡るだけならまだいい。もしも
天界からの追手が来た場合、そんな噂が流れていたとあってはボクらの
位置などすぐに調べがつくだろう。そんなミスを犯すわけにはいかないのだ。

 早くこの場を抜け出さねば。そんなボクの行動とは裏腹に周りにはさっきの
子供たちが集まってきていた。

「お兄さんはスポーツ選手か何かなの?」
「さっきのどうやったの? 何あのジャンプ!!」
 質問攻めしてくる子供たちに取り囲まれる。ああ、もうどうしてこうも
厄介ごとに巻き込まれなければならないんだ。

「ああ、ごめんな、ボク達はこれから用事があるんだ。感謝の意は受け取っ
たから道をあけてくれないか」
「? 邪魔しないでよ。ボク達が用があるのはそこのお兄さんなんだ」
「どけよ」
「邪魔だって」

「ッ……」
 子供の戯言だ。相手にしてはいけない、わかってい「馬鹿」

「いい加減にしろよ、このガキが!!」
「ちょっ、アーエル!?」
 背後からの圧力。子供の態度に苛ついていたボクであるが強化中のエイ
ダに羽交い絞めにされては動きようがない、と言うか苦しい、助けて……

「ごめんね、この人の言うとおり僕たち忙しいんだ。また今度話そう」
「エイ、ダ」
「わかった、アーエルの言い分も後で聞くから、とりあえず家にもどろ?」
「ちが、くるし……」
 何とか息を吸おうと暴れるがボクの力ではエイダの拘束を振りほどける
わけもない。成されるがまま引きずられるボクをエイダは笑顔で見下ろす。

「ええ、行っちゃうの」
 子供たちは向ける羨望の眼差しを落胆の色に変えエイダを見送る。遠ざ
かっていく子供たちの姿に比し、ボクの意識も徐々に薄れていく。



「お兄さん、ありがとう!!」

       

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