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「時間だ」
天界に響く鐘の音。天界と言えども夜はやってくる。
19時を告げる鐘の音が鳴りやむと同時にカシエルは闇の中にたたずむある
門の前に姿を現した。
天界の端。そこには下界と天界をつなぐゲートが存在する。空想と現実は
そこを境に隔てられているのだが神から特殊な力を授けられたものであれ
ばその境を飛び越えることができるのだ。
カシエルが前に立つと白く塗られたその門はひとりでに開きだし、人ひ
とりがちょうど通れるほどの空間を作り出す。
迷うことなく門へと向かうカシエル。門はカシエルを迎え入れるとひっ
そり、扉を閉じ平静を装うのだ。
―ガサガサ
茂みのゆする音。そして暗闇の中から姿を現したのはアーエルの弟である
オーエルの姿。
「……」
オーエルに浮かぶ悲痛な面持ち。彼の目に浮かぶのはアーエルの破滅する
姿であった。
「……アーエル兄さん」
そう言ってオーエルは唇をかむ。
夜の静寂の中、吹き抜ける風だけがオーエルをあざ笑う。
「待っていてアーエル兄さん」
その瞳に宿るのは決意。オーエルが空に手を突き出すとその手掌からは
光が漏れ出す。光は渦巻き、やがて収束する。
オーエルが手にしていたのは一冊の本。
「僕が必ず救って見せるから」
オーエルの決意は静かに力強く天界の闇の中で光を放った。