Neetel Inside ニートノベル
表紙

つい出来心で淫魔になってしまった。
その三「淫魔の性倫理」

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 僕が淫魔との馴れ初めを長々と語って聞かせると、斉藤友恵は物凄くつまらなそうにため息をついた。七月、そろそろ一学期が終わろうとしているものの、仙台では未だに梅雨まっただ中だ。ただでさえ湿度が高い教室内で、喋るだけでも汗ばむ不快な空気だと言うのに、友恵のため息は殺人的に面倒くさそうに響いた。
「それで、何か感想とかないのかよ」
 僕は急かすように友恵を問い詰める。かなりの一大事であるというのに、友恵の反応は会話中終始冷やかだった。事の重大さをわかっていないと言うよりは、狂人の世迷言に付き合わされているという態度だ。
 友恵はハア、と一度目よりもずっと大きなため息をついた。
「感想なんて言われても、そんな突拍子もない話を聞かされて、どう信じたらいいのかすらわからないわよ。そんな嘘くさい話」友恵は心底面倒くさそうに言う。「大体、百歩譲ってあんたがとんでも無い妄想に駆られて自分ではまるっきり信じ切ってしまっているとして、何で淫魔がどうのセックスがどうのという話を女子にするわけ?そこから信じられないわ」
「それはすまなかった。どうしても感動を共有する相手が欲しくて」
 僕は正直に言った。友恵は、頬杖をついていた肘を滑らせて、まるで漫画のようにずっこけた。
 友恵とは幼稚園からの付き合いで、いわゆる腐れ縁だ。もともとはお互い公営の団地住みで、僕の両親が共働きだったために、よく友恵の家にお邪魔していたのだ。もちろん、姉弟同然に過ごしていたのは極々幼いうちだけで、成長するにつれてお互い別々の友達とつるむようになっていったものの、なんだかんだ言って何かあれば助け合うような関係が続いていた。ちなみに両家共とっくに公営団地を離れていて、今はお互いの家を訪ねようと思えば車が必要な距離にある。
「じゃあ、先にあんたの感想を教えてよ。使ってみたんでしょ、その淫魔からもらった能力ってのを」
 友恵は、ずっこけた勢いでずり下がった眼鏡を持ち上げながら、いらだたしげに尋ねた。今時あまり見ないような細めのふち無し眼鏡と、肩から下がる一本の三つ編みが友恵のトレードマークだ。眼鏡も髪型も、多少のアレンジはあるものの、幼稚園時代からそれ一本で貫いているあたり僕はこだわりを感じる。
「もちろん、毎晩のように使ってるとも」僕は威張るように言う。「与えられた能力はいくつもあるけど、主に必要なのは催眠術とスモーク化だな」
「催眠術はわかるけど、何よスモーク化って」
 僕は演技っぽく咳払いをして、改めて説明を始めた。
「スモーク化って言うのは、体を黒い煙に変化する能力。役割としては、移動手段と身元隠し効果がある。スモーク状態になっている時は、どんなに狭い隙間からでも家の中に侵入出来るから、夜這いをかける時に役立つ。さらにスモーク状態の時は自分の思うまま空中浮遊することが出来るから、遠距離に出るところで足代わりになる。意外とスピードが出るんだよ、これが。高速道路で車と並走したこともあるぐらい」
「それはよかったわね。通学が楽そうで羨ましいわ。これから帰り、家まで送ってよ」
「登校時は使えないんだよ。黒い煙だから、よっぽど高く飛ばない限り目立って仕方ない。それに一緒に飛べるのは身にまとっている衣服とポケットの中身のみ。鞄も持って歩けないから、悪いけど送りは無理だな」
「あ、そ」
 友恵は疲れをあらわにした声で言った。
「じゃあ、わたしはバスの時間だから、そろそろお暇するわね」
「いや、待ってよ」
 いそいそと席を立つ友恵の腕を、僕はつかんだ。涼しげな夏服からのぞいた腕だが、ひどく汗ばんでぬめっている。僕は少し申し訳なくなって、話が終わったら後でアイスでもおごろうと思った。
「何よ」友恵は本当に面倒くさそうに言う。「ここ暑いし、期末テスト近いし、ちょうど雨止んだし、このバス逃すと三十分待たなきゃならないからすぐ帰りたいんだけど」
「信じてないでしょ」
「信じてないわよ」
「あっさり答えるなあ」
 僕は、今までの説明が徒労に終わったことに深く失望したものの、少し考えて「どうしたら信じる?」と尋ねた。
 友恵は、諦めたように僕のつかんだ腕からがくっと力を抜いた。
「じゃあ、何かその能力を今ここでわたしに見せてよ」
 友恵は突き放すように言った。出来るはずがないと、高をくくっていたのだと思う。友恵の言葉は、ある種の殺し文句のように、放課後の教室内で静かに響いた。後に続くのは外から聞こえる雷の音だけだ。ひょっとしたら、これからまた一雨来るのかもしれない。
 僕は一度、深く深呼吸をして友恵に向けて両の手のひらを突きだした。唐突な僕の行動に友恵は少し狼狽した様子だが、僕は構わずにそのままハンドパフォーマンスに入った。僕の持ちうる中で、もっとも見た目にわかりやすい催眠術だ。
 僕の手の動きを、まるで何かが飛び出てくるのを待ち構えるように、友恵は警戒しつつ見つめていた。しかし、それは警戒どころを完全に間違えている。僕の手から繰り出される動作それ自体が、人間の脳に強力な命令を叩き込む悪魔の御技なのだ。もちろん、それを伝えられていない友恵が知りうる術はない。
 ものの十数秒もしないうちに、友恵の視線が一点に定まらなくなってきた。無意識のうちに僕の両手に集中していた意識が、催眠術によって脳が正常に働かなくなってきたために、友恵本人ではコントロールが利かなくなっているのだ。ここまで来ると、もうハンドパフォーマンスは必要ない。僕は友恵の意識を正常域に戻さぬよう、ゆっくりと手の動きを止めた。友恵は定まらない視点のまま、棒立ち状態になっている。
 催眠導入成功だ。
 僕は、ふらふらしながら立ちすくむ友恵を、とりあえず椅子に座らせた。
 しかし、何をしよう。言われるがまま、行き当たりばったりで催眠術をかけてみたものの、僕にはこれから先特に目的がないから、いざ催眠状態の友恵を前にしても何も案が浮かばない。とは言え、友恵を信じ込ませるには何かインパクトのある、一発で本物の催眠術だと信じさせるようなことをする必要がある。
 僕は少し考えて、それからハッと良い案を思いついた。自分でもあまりに名案過ぎて、不本意ながらにやけ顔になってしまう。
「友恵ちゃん」僕は出来るだけ優しく声をかける。「友恵ちゃんは昨日五歳になったんだよね、誕生日おめでとう」
「うん、ともえ、ごさい!」
 驚くほどよどみなく、友恵は僕の誘導通りに答えた。成功だ。友恵は、僕の術下で自分の年齢が五歳であると思い込んでいる。
 ぷっと思わず吹き出しそうになるところを、僕は必死にこらえた。普段の友恵は、真面目である種カタブツ的な態度をとっているために、目の前にいる幼児化した友恵との印象のギャップが非常に笑いを誘う。しかし、ここで変に僕が笑い転げて友恵に不信がられると、催眠術が解けてしまう可能性もあるので、決して笑うわけにはいかないのだ。
「友恵ちゃんは昨日誕生会で、何をしたのか覚えてる?」
 僕の問いに、友恵は一所懸命に頭をひねりながら答える。
「んーとね、ママとパパとトイザラスにいって、マジカルドレミのコンパクトをもらって、おうちにかえってパーティした」
「そうなんだね。パーティにはお友達は呼んだの?」
「よんだよ!」友恵は嬉しそうに答える。「あかねちゃんと、まことくんと、きょうへいくんと、みくちゃんと、それからすすむくん!」
 まさに僕の覚えている通りのメンツで、つい顔がにやける。物事が思い通りに運びすぎると、表情に影響があることを僕は知った。
 そう、忘れもしない友恵の五歳の誕生日、僕も確かにその会に参加していたのだ。子供心に、あまりに屈辱的だったこの日の出来事を僕は昨日のことのように覚えている。
「パーティはどこで開いたの?」
「ともえんち!」
「友恵ちゃん家でやったんだ。友達いっぱい来てくれて、嬉しかったね?」
「うん!」
 五歳児さながらに声を張り上げて「えへへ」と照れたように笑う友恵を見て、僕は嘘の笑みを顔全体に浮かべながら、内心の興奮を隠しきれるかどうかとハラハラしていた。しかし同時に、完全に僕のコントロール下にある友恵を見る限り、心配する必要などまるでなさそうだ。誰もいない、静まり返った深夜の公園で露出撮影会をする時も、こんな感覚なのかもしれない。
「じゃあ、バースデイケーキの蝋燭は、友恵ちゃんが火を消したんだね?」
「うん。ひがきえなくて、ぱぱがなんどもおしゃしんとってたの」
 その通りだ。何とか娘が火を吹き消す瞬間をシャッターに収めようとして、連射で二十四枚撮りのフィルムをすぐに駄目にしたのだ。その横でホームカメラを構えていた友恵の母が、子供たちに気付かれないようにやんわりと文句を言うのだ。
 何もかも僕の記憶通り。誘導の為の質問も、十二分だ。このあたりで核心に入るとするか。
「それでさ、友恵ちゃんに聞きたいんだけど」僕は、興奮のせいか大きくなっていた声をぐっと抑えて、本題に入る。「ケーキを食べた後は、お風呂に入ったよね?」
「うん、はいったよ。みんなでじゅんばんに」
「友恵ちゃんは誰と入ったんだっけ?」
「すすむくん!」
「進くんね……友恵ちゃん、進くんとお風呂に入った時に、友恵ちゃんは何かを見て、皆に教えてたよね。いったい、何を見たんだっけ?」
「うーんとね」友恵は少し首をかしげて、それからひらめいたと言う風に満面の笑みを浮かべて言う。「おちんちん!すすむくんのおちんちんがね、おっきくなってたの!それでみんなにおしえてあげたら、ぱぱもままも、あかねちゃんも、まことくんも、きょうへいくんも、みくちゃんも、みんなわらったの!」
 ぐはっと、僕はあたかもダメージを受けたように胸を押さえて屈みこんだ。実際に誘導尋問によって友恵に回答させたのは僕であるものの、僕にとって、そして友恵にとってもこの「田所進五歳勃起事件」は大きなトラウマなのだ。友恵の誕生日の後、しばらくはご近所中の笑いの種になって、僕が友恵の家を訪ねると、友恵の母親が録画していたビデオを見せられた。そしてその度に、僕と友恵は慌てて電源を切るのだ。ご丁寧に、数年前はビデオテープだったものが、今ではDVDにバージョンアップしているらしい。
 しかし、今日はこんなところでめげている場合ではない。事件の後、友恵が散々触れ回ったせいで幼い僕の心は深い傷を負ったのだ。その時の復讐を、今ここで、幼い心に戻った友恵に果たさせてもらう。
「それじゃあさ」
 僕は高鳴る胸の鼓動を感じながら、ずいと体を友恵に近づけた。心なしか、顔がほんのりと熱くなっている気がする。友恵は、変わらずに笑顔を浮かべながら、しかし僕が何をしたいのかわからないという顔をしている。
 僕はゆっくり立ち上がると、おもむろにズボンのジッパーを下ろした。ぼろん、と半起ち状態のイチモツが、ちょうど友恵の目の前で顔を出す。仮性包茎の僕は、友恵への質問中にあえて皮を被らせることで、五歳の時に友恵が見たものと同じ状態を演出した。
「今、僕のこのちんちんと、どう違うか教えてくれないかな」
 僕は、自分が悪意に満ちた顔をしていることを自覚しつつ、純粋無垢な友恵がまじまじと僕の愚息を観察する様子を見て「触ってもいいよ」と付け足した。友恵が、そっと、しかし恐れることは無く、その柔らかな手を僕の愚息に伸ばす。そうして、まるで小動物を撫でるように、友恵は僕のイチモツに触れた。
「あついね……」
 友恵は竿を優しく握りながら、感想をこぼす。普段はツンツンとして僕を叱咤するばかりの幼馴染が、幼児化して僕のイチモツに触れているという極めてアブノーマルなシチュエーションにとても興奮していた。そのせいか、徐々に血管を浮き出し始めた僕の愚息は非常に敏感で、下手に動かされでもしたら射精してしまいそうだ。
「そ、それで友恵ちゃん。進くんのおちんちんと僕のおちんちん、どう違うかな。お兄さんに教えてくれないかな」
「ん、えっとね」友恵は改めて、まじまじと目の前の巨大なイチモツを見つめる。「すすむくんのはね、こんなにおおきくなかったの。それにね、おにいさんのみたいにびくびくうごかないの。それからね、こんなにまっくろくないし、けもないの……それから、なかみもおかおをだしてないの」
 友恵は、愚息の怒張に合わせてだんだんと捲れてきた皮の中から、ひょっこりと顔を出す亀頭の先をちょんちょん、と指先でつつきながら言った。予想外の刺激に、僕は思わず腰を引いて「うっ」と低く声を出した。
「いたいの、おにいちゃん?」
「ううん、痛くないよ。大丈夫……友恵ちゃん、その皮を剥いてごらん」
「でも……」
「大丈夫だから」
 友恵は恐る恐る、硬く勃起した僕のイチモツを剥いていく。ゆっくりと、包皮の下から真の姿が露わになっていくにつれて、友恵は心配そうな顔を浮かべる。ついに根元まで完全に剥けきった時には、友恵は僕のイチモツから手を離して、後ずさるように僕から距離を取った。
「おけがしてるの?」
 友恵は、僕の照り光るサーモンピンクの亀頭と、その下に続く凶悪に浮き出た血管におびえているらしかった。僕は、愛らしくあどけない友恵のその様子を見て「全然怪我なんてしてないよ」と快活に答えようとして、すんでのところでストップした。別の面白いアイデアが浮かんだのだ。
「うん……実はちょっと傷が開いちゃったみたいなんだ」僕は、痛みに苦しんでいるかのような顔をして言う。「ちょっと友恵ちゃんの助けが必要かもしれない」
「どうすればいいの?ともえ、わかんないよ」
「大丈夫だよ、お兄さんが教えるから。もう一回触ってごらん」
 友恵は、今にも泣きだしそうな顔をしながら、再び僕のイチモツに触れる。亀頭も完全に露出して、全勃起状態の僕は、少し友恵の手が接触するだけであまりの快感に射精したくてたまらない衝動に駆られる。しかし、更なる快楽のために僕はイキたいところをぐっとこらえる。
「友恵ちゃん、痛いの痛いの飛んでけーってして」
「……いたいのいたいのとんでけー」友恵は左手で竿を押さえながら、右手で撫でるようにして僕のイチモツから痛みを払おうとする。「これでいいの?」
「そうだね、だいぶ楽になった。ありがとう、友恵ちゃん。最後のお願いなんだけど、唾でもつけておけば治ると思うから、友恵ちゃんの唾をお兄ちゃんのおちんちんにかけてもらってもいいかな?」
「つば?」
「うん、唾。よだれのこと」
「うーん、でもよだれをたらしたらいけませんってままがいってた」
「そうだね。普段だったらお行儀が悪いって言われちゃうね。でも今は緊急事態だから。このまま放っておいたら、お兄ちゃんのおちんちん、腐り落ちちゃうかも知れない。お兄ちゃんの首は長くないから、ちゃんと万遍なく唾を垂らすのは難しいし」
「でも……」
「そうだ」僕はあたかも今思いついたかのように、先ほどから考えていた計画通りに伝える。「友恵ちゃんが口にくわえてくれればいいよ。そうすれば、よだれを垂らさなくていいから行儀も悪くないし、万遍なくよだれをおちんちんに塗りこむことが出来る。友恵ちゃん、いいかな?」
 僕は再度、友恵の顔に向けてぐいっと僕のイチモツを向けた。友恵は僕のイチモツを見つめたまま、押し黙っている。僕は、痛みに耐えるような演技をしつつ「お願いだよ、友恵ちゃんにしか出来ないことなんだ」と訴えた。
 友恵は、戸惑うような、ためらうような表情を浮かべたまま、ゆっくりと顔を僕の愚息に近づける。友恵の鼻息を、僕のイチモツ全体が感じている。
 友恵は意を決して口を開くと、そのまま僕の愚息をその小さな口の中へとくわえ込む。友恵の柔らかな唇と、あたたかい口腔内の感覚が僕のイチモツを包み込み、ただでさえ射精しかけていた僕を強烈な快感が襲う。しかしここで果てるわけにはいかない。僕は必死に、社会科の期末予想問題を思い返して何とかギリギリのところで耐えきった。
 ところが次の瞬間、予想外の刺激が稲妻のように全身に走った。友恵が、僕のイチモツをくわえたまま、口の中で亀頭を舐め始めたのだ。あたたかな舌先から敏感な亀頭に伝わる予想外の快感に、僕のイチモツはこらえられるはずもなかった。僕はとっさに友恵の頭をぐっと押え込むと、そのまま彼女の口の中へ思い切り射精した。当然、友恵のほうもくわえた僕の愚息から何か出てくるなんて予想もしていない。友恵は驚いたように目を見開いてすぐさま顔を離そうとするも、出来るだけ長く余韻を楽しみたい僕は彼女の頭をがっちりと掴んでいる。そうして僕がようやく全精子を出しきったところで友恵の頭から手を離すと、友恵は堰を切ったように盛大にむせ始めた。
 咳き込むようにむせる友恵をしり目に、僕はしばらく脱力して椅子に腰かけた。
 正直、ここまでさせるつもりはなかった。当初の計画としては、大人になった友恵の口から「おちんちん」という単語を発言させて、その様子を動画に収めようと思っていただけなのだ。それが図らずも途中で浮かんだアイデアのせいで、幼馴染に口内射精をかます事態になってしまった。
 申し訳ない気持ちになった僕は友恵に謝り「ちょっとジュース買ってくるから」と声をかけて、そそくさと教室を離れた。校内に自販機があるのはたった一か所だが、この教室からはそれほど離れていない。本来なら催眠状態にある友恵を置いて離れるのはかなり危険な行為であるものの、放課後かつ学校内であればよほどのことが無い限りトラブルは怒らないだろう。
 僕は少し遅い足取りで、誰もいない廊下を歩く。少なからず罪悪感に駆られていた僕にとって、自分の足音と遠くから聞こえる吹奏楽部の演奏以外何も聞こえないこの廊下は、頭を整理するにはうってつけだった。射精後の疲労感もあいまって、僕は半ば体を引きずるようにして自販機へと向かっていた。
 僕の頭の大半を占めていたのは、友恵への罪悪感だ。淫魔になってからこれまでの三か月、僕は校内の女子と片っ端からセックスしていた。僕に与えられた能力はそれほど強力ではないから、彼女たちの命は完全に無事である。しかし、催眠術とスモーク化を駆使して毎晩のように夜這いをかけ続けた結果、少なくとも同学年である本高校の一年生に処女はいないと断言出来る。友恵だけが例外だった。
 友恵のことを考えると、どうしても性欲のために、淫魔にエネルギーを差し出すために彼女を罠にはめるようなことは出来なかった。その理由はわからない。今まで考えたことは無い。考えるのに時間がかかりそうだったから、ずっと後回しにしていたのだ。ひょっとしたら、ただ幼馴染だということで情けをかけていただけかもしれない。それとも、仲の良い友人を、悪魔に売るような真似は出来ないという正義感からだろうか。
 いずれにしても、やってしまったものは仕方がない。自分の過ちで友恵にフェラチオをさせてしまったものの、僕の知る限り彼女はまだ純潔を貫いている。とりあえず悪魔の生贄にはしていないのだから、とりあえずは不問でいいだろう。
 ようやく自販機前にたどり着いた僕は、申し訳程度の品揃えしかない中から、友恵用にパック入りの苺牛乳を、自分用に缶コーラを購入した。がたり、ごとり、と二度音を立てて、ジュースが取り出し口へと落ちてくる。この自販機はかなり古いタイプのもので、並べられた商品が正面のガラス窓から丸見えになっていて、どのジュースがどれだけ残っているかが購入者からもわかる仕様だ。今日が金曜日であることもあり、ほとんど品切れ状態である。僕の買った缶コーラも、ちょうどこれで打ち止めだ。
「あ、しまった」
 自販機前で屈みこんだ僕は思わず声を上げた。二つ連続でジュースを買ったために、排出口の中で詰まってしまって取り出せないのだ。校務室に行けば自販機の鍵があるはずだが、あいにくこの時間では全員帰宅しているはずだ。こうなったら僕が自分でなんとかするしかない。
「あ、田所じゃん」
 必死になって自販機に手を突っ込む僕に、背後から声がかかる。
「何やってんの、こんな遅くに。帰宅部のくせに」
 振り返ると一人の女子が僕を見下ろしていた。
「河合さん」僕は立ち上がって、彼女を見上げた。「ああ、ジュース詰まらせちゃって」
「マジか。どれ、あたしに任せなさい」
 彼女は慣れた手つきで中のジュースを上下に動かすと、あっという間に取り出した。目を丸くして驚く僕に「コツがあんのよ」と言いながらジュースを手渡す。
「取り出し口は狭いけど、中には意外と空間があるかんね。詰まっちゃった時は、一個ずつ取れるようにスペースを作りながら取り出すのよ」
「詳しいんだね、河合さん」
「まあね。と言っても、あたしも部活の先輩に聞いただけなんだけど」河合さんは照れたように顔をピンクに染めながら笑う。「ああっ!缶コーラ今ので売り切れじゃんか。田所、ちょっと飲ませてもらっていい?半分払うから」
 僕が「いいよ」と言うが早いが、河合さんは奪うように僕の手からコーラを受け取り、遠慮なくぐびぐびと音を立てて飲み始める。よっぽど喉が渇いていたらしい。
 彼女の名前は河合千夏。僕とは別の中学から、スポーツ事由の自己推薦で入学したらしい。中学時代の彼女のバレー実績は、県大会出場が目標だった彼女の出身校を東北大会ベストエイトまで導いた、まさに女子バレーの申し子である。
 僕はまじまじと、コーラを飲む彼女の姿を眺める。身長は百八十センチオーバー。毎日の部活動によって引き締まった肉体でありながら、バストとヒップは洋物AVの女優並みで、雑誌についてきたグラビアアイドルのプロフィールよりも勝っていたという規格外加減だ。その豊満なボディためにちょうどいいサイズの体操着が無いらしく、半そでシャツもハーフパンツもぴっちりと全身に密着している。シャツの胸元は汗でうっすらと透けて、ピンク色の可愛らしいブラをのぞかせている。汗ばんだ太ももも魅力的だ。
 僕はごくり、と喉を鳴らして体操着姿の彼女を見つめながら、数週間前に彼女の家を訪れた時のことを思い出した。まだ日がそれほど長くなかった五月、部活帰りで帰宅してシャワーを浴びて自室に戻ったところを僕は待ち構えていた。友恵にかけたのとは全く違う、視線による催眠で一瞬のうちに彼女を僕の虜にしたところで、じっくりと彼女のミラクルボディを堪能したのだ。僕のリピーターになりたい女子リスト四天王の一角である。
「ありがとう!」快活にお礼を述べながら手渡された缶コーラは、ほとんど中身が無くなっていた。「へへ、間接キスだね」
 そう言って河合さんは顔を真っ赤にしながら、しかし屈託のない笑みを浮かべて「それじゃあ、あたし練習に戻るから」と急ぎ足で去って行った。彼女のあまりの可愛らしさに、僕はしばらく軽くなった缶コーラを片手に茫然と固まっていたが、すぐに気を取り直してコーラを飲みほした。何となく、河合さんの味がしたような気がした。
 思った以上に時間がたってしまった。僕は友恵の分のジュースを片手に、足早に元の教室へと向かう。壁の時計を見ると、友恵のもとを離れてから二十分近くたっている。ずいぶん長い間立ちすくんでいたらしい。
「待ったか、友恵」
 扉を開くと同時に、僕は出来るだけ明るく声をかけた。だが、肝心の友恵が教室にいない。焦って元いた机へと駆け寄ると、鞄も消えている。
 まさか、友恵一人で帰ったんじゃないだろうな。
 僕は手早く帰り支度をして、急いで教室を飛び出した。僕がジュースを買いに行っていた時間は二十分程度だから、まだそこまで遠くへは行っていないはずだ。まして、友恵は今催眠術によって五歳児並みの知能になっているから、行動も確実に制限される。バスに乗ることはおろか、自宅までの道のりすら覚えているかどうか怪しい。それどころか飴玉ひとつ渡されれば、平気で不審者についていきかねない。
 僕は廊下を走りながら、横目で窓越しに外を確認する。どうやら雨が降り始めたらしい。朝の天気予報では、かなりの土砂降りになるという話だった。本格的に降り出す前に、何とか友恵を見つけ出さなければならない。
 学校を後にした僕は、まっすぐに最寄のバス停に向かった。雨のせいか、バス停の周りには大きな人だかりが出来ていた。不運にも、生徒の下校時間とサラリーマンの退社時間が重なる、非常に忙しいタイミングだった。
 僕は「すみません」と声を上げながら、人だかりの中で友恵の姿を探す。混みあった中でうろうろしている僕に乗車客は迷惑そうな視線を向けるが、そんなことを気にしている場合ではない。僕は素早く全員の顔を確認する。どうやらこのバス停に友恵はいないらしい。僕はバス停から少し距離を取ってから何となく会釈をして、その場を離れた。
 次に思い当ったのは、仙台駅へと向かうアーケードだが、こちらも人でごった返していた。僕は不可能に近いことを知りながら、素早く通行人の顔を確認していく。やはり友恵が歩いている様子はない。
 ふいに、僕は目の前から歩いてきた女性にぶつかった。女性の持っていた紙袋が衝撃で放りだされ、がしゃんと足元で音を立てた。何か、ガラスか瀬戸物の類が割れる音だ。しかも、最悪なことに、紙袋には仙台最大の高級百貨店・藤崎の文字が刻まれている。
「すいません!余所見をしていて……不注意でした」
 僕はすぐさま頭を下げた。他の通行人が僕たちを眺めているのを感じる。ただでさえ忙しいと言うのに、自分のミスで時間をロスしている。こうしているうちにも、友恵はトラブルに巻き込まれているかもしれない。
「あら、田所さんじゃないですか」
 頭上から見知った声が聞こえて、僕は跳ね上がるように頭を上げた。
 そこに立っていたのは、養護講師の大河原夕実先生だった。あんまり勢いよく飛び上がり過ぎたのか、大河原先生はすこし驚いたように顔をしていた。しかしすぐに、いつも通りの優しげで慎み深い笑みを取り戻した。
 大河原先生は生徒の間で「保健室の女神」「高校のオアシス」と呼ばれ、授業中であるとないとに関わらず彼女が勤務する日は保健室に自称怪我人が殺到するほどの人気ぶりだ。僕自身、連日続く夜這いの為に寝不足で、頻繁に彼女のもとを訪れて仮眠を取らせてもらっているものの、あえて保健室に行く理由の半分は彼女の存在だ。
 さらに、彼女は仙台では知らない者のいない由緒正しい名家の出身で、しかも一人娘であるために交際相手には大河原家に婿入りすることを結婚の条件にしているらしく、日ごろから逆・玉の輿狙いの連中に付きまとわれているらしい。しかし、本人にまだその気はないと公言している。
「どうしたんですか、そんなに急いで」
 大河原先生が首をかしげるようにして尋ねた。同時に彼女の艶やかな黒髪が揺れ、ふわりとほのかに甘い、上品な香りが漂ってくる。思わず抱きしめて、出所を明らかにするまで体中嗅ぎつくしたいとさえ僕は思う。
「いや、あの、実は人を探しているんですが」
「何かお約束?」
「ええ、まあそんなところです」まさか催眠術がかかったまま行方不明になったと伝えるわけにもいかず、僕は適当にごまかして答えた。「あ、すいません、先生!先生の荷物、壊してしまったみたいで」
 大河原先生は「ああ、そう言えば」と思い出したように言って、紙袋を拾い上げる。彼女が屈むと同時に、僕はまた優しげな香りを感じた。どうやら襟元から漂っているらしい。僕は彼女の後ろ髪からのぞく白く美しいうなじを、思わず凝視した。そして首筋、二の腕、ふくらはぎと、露出している部分は余すところなく、舐めるように眺める。そのすべてがなめらかで、さわり心地がよさそうだ。ちなみに、彼女は清純そうな紺色のワンピースを着ていて、彼女の白肌、ショートの黒髪と非常にマッチしている。
 僕は今にも彼女を連れ去って、そのワンピースを乱暴に引き裂きながら嫌がる彼女と強引なセックスをしたい衝動に駆られた。彼女は僕の次にセックスしたい女子リストの筆頭だ。彼女の家のセキュリティが予想以上に厳重であるため、夜這いをかけるのが後回しになっていたのだ。しかし、彼女の服からのぞく肢体を見ていると、こみあがる衝動を抑えきれない。何とか今晩のうちにでも、ルパン三世ばりの潜入計画を考えなければならない。
「どうかしましたか、ぼうっとして」
 すっかり自分の世界に入っていた僕に、彼女が心配そうに声をかけた。
「いえ、大丈夫です」僕は慌てて頭を切り替える。「すみません、ちょっと急ぎなので、これで失礼させてください。壊してしまったものは必ず弁償しますんで」
「ああ、いいんですよ。これ、捨てようと思ってましたから」
 大河原先生は別に気にする風でもなく、紙袋を揺さぶりながら答えた。どうも中身は確実に割れているらしく、上下に揺れる度にガラガラと音がする。
「それよりどちらに行かれるんですか。外に出るなら、傘お貸ししましょうか?」
 彼女は鞄から折り畳み傘を取り出して、僕に差し出した。しかし僕は彼女の申し出を丁重にお断りする。
「大体全部アーケードの下なんで、大丈夫です。ちょっとその先の上島珈琲まで行って、それでいなかったら駅前まで探しに行こうかと思っています」
「どなたを探してるんですか」
「友恵です。あ、斉藤友恵です」
 僕はすぐさま訂正した。長い保健室通いの為に大河原先生にすっかり覚えられた僕は違い、品行方正かつ健康優良児の友恵は下の名前だけで伝わるほどの認知度はないからだ。
「あら、斉藤さんなら、先ほど駅前で見かけましたよ」
「えっ」僕は驚いて声を上げた。「どこでですか?」
「ええっと、ちょうどわたしが三越から出たあたりですね。多分、市役所のほうに歩いて行ったんだと思うんですけど」
 僕は大河原先生が答え終わると同時に「ありがとうございます」と叫んで駆け出した。友恵の行先に目途はついているものの、急がなければ間に合わないという確信があったからだ。
 恐らく、友恵は混みあったバスに乗るのを諦めて、地下鉄を使うことにしたのだ。さらに人を避けるために、学校やオフィス街から少し離れたところで電車に乗ろうという作戦だ。普段の傾向から言って、多分友恵の行く先は北四番丁駅だろう。
 僕は走りながらちらり、と腕時計を見た。ここからなら、走れば十分足らずで駅までつくだろう。それまでに見つかればベストだが、電車に乗ってしまえば迷子になる可能性はあるものの暴漢や窃盗に会う可能性はぐっと減る。とりあえずは一安心と言っていいだろう。
 僕は大通りを市役所に向けて一気に走る。帰宅者の人数はピークを迎えたらしく、傘を差しながら歩く人たちの間を縫うようにして、僕は目的地を目指す。車道も同じく混みあって中々進む様子を見せず、僕はむしろ車道に入ったほうがスムーズに走れるのではないかとさえ思った。
 しかし、ちょうど三越を抜けてそろそろ市役所に到着するというところで、僕は走りながら視界の隅に人影を見つけた。
 間違いない、友恵だ。仙台市街地一大きな公園である勾当台公園の、僕とは道路を隔てた反対側で、傘も差さずにしゃがみこんでいる。
 僕は赤信号で止まった車の間をすり抜けて、友恵のほうへと向かう。赤信号になったばかりの上この渋滞だから、僕が通りを横断するぐらいの時間はあるはずだ。
 そろそろ反対側へと渡り終えるというところで、一台の車が僕に向けて盛大にクラクションをならした。見ると、運転手はかなりイラついた様子で信号機を指差した。信号は青に変わっていた。しかしだからと言って渋滞は続いており、この車が進めるわけもないと言うのに心の狭いやつだ、と僕は不愉快な視線を送ってからとっととその場を離れる。
 すると、どうやらクラクションの為に僕に気付いたらしい友恵が顔を上げてこちらを見ていた。すぐに目があった。そしてその目を素早く伏せた友恵はそのまま駆け出し、目の前にある勾当台公園駅地下入口へと入って行った。勾当台公園駅と北四番丁駅は隣同士だから、勾当台公園駅からでももちろん帰れる。
 どうやら学校での口内射精で、完全に五歳児友恵を怖がらせてしまったらしい。なんとか和解して再度催眠術をかけるタイミングを見計らい、全部を忘却させてから術を解こうまあそれだと、僕が淫魔である証拠にはならないけれど、それはまた次の機会にすればいいさ。
 僕はすぐさま友恵を追いかけて自分も駅へと入り、ちょうど改札へと駆けこもうとしていた彼女の腕をつかんだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。友恵ちゃん」久しぶりに全力疾走した僕は、息も絶え絶えになりながら語りかける。「お兄ちゃんもついていくから、チケットを買うまで待ってよ。まかり間違って友恵ちゃんが迷子になるといけないからさ。お兄ちゃんが、ちゃんと友恵ちゃんのお家まで送るよ」
「帰り道ぐらいわかるわよ」
 友恵は、僕と同じように息を切らしながら言った。しかし、その声に学校で聞いたような幼児性はない。僕は驚いて顔を上げて友恵のほうを見た。ひどく雨に濡れた髪の下の、泣きはらしたように赤く腫れた目が僕を鋭くにらんでいた。
「友恵、お前、ひょっとして」僕は驚いて目を見開いた。「ひょっとして、催眠術が解けているのか?」
「ええ、覚えているわよ。何もかも」
 友恵は吐き捨てるように言った。
 どうやら、口内射精でえづいた時か僕が教室を離れている間か、いずれにしても僕の知らない間に催眠術から覚めていたらしい。
 まずい。誘導催眠術では、しっかりと忘却の手順を踏まない限り、被術者の記憶として確実に蓄積されてしまう。そして、一度術から目覚めてしまった友恵の記憶を、振り返って消すことは僕には出来ない。淫魔さんに頼めば何とか出来るかもしれないが、この場に僕しかいない今の段階では不可能だ。
「よくもあんな真似が出来たわね、この変態!」
「いや、違うんだ。話を聞いてくれ」僕は必死に説得する。「ほんのちょっと、からかってやろうと思っただけだったんだ、最初は。それが少しやり過ぎてしまって」
「少しやり過ぎた?少しやり過ぎたですって?どこの誰が少しやり過ぎたぐらいで、あんな、あんなひどいことを……」
 友恵は大声で怒鳴り散らし、わなわなと震え始めた。あたりはしんと静まり返り、誰もが僕と友恵の会話に聞き耳を立てている。僕は何とか友恵を落ち着かせようと、両手で彼女の手を握りしめようとしたが、友恵に勢いよくふり払われた。
「認めるわよ」友恵は冷たく、失望と怒りの入り混じった声で言った。「あんた、本当に悪魔に魂を売り渡してしまったんだわ。あんなこと、普通の人間なら、普通の感性の持ち主なら、出来るはずがないもの」
「待ってくれ。でも、僕は、学校中で友恵にだけは今まで何もしなかったんだ。今日のだって、ちょっと間違いみたいなものなんだ」
「学校中って、あんた他の人にもあんなことしてるわけ?」
「うん、いや、他の連中には最後までしてるけど、友恵には、友恵にだけは今日の今日まで何もしなかったんだ。どうしても、幼馴染のお前を売るようなことは、僕には出来なかったんだ」
 そう言って、僕は自分の声が構内に響き渡るのを感じた。友恵の腕からすっと力が抜ける。どうやらようやく納得してくれたらしい。僕は安堵して、自分も握っていた手の力を弱める。どっと全身に疲れが回り、崩れ落ちるようにうなだれる。
「だから……」
「進、あんた、もう駄目よ」友恵が諦めたように言い放った。僕は驚いて顔を上げると、友恵は恐ろしく冷たく、さげすんだような表情を浮かべていた。「あんた、もう考え方が根底から淫魔色に塗りかえられちゃって、何が良いか悪いか、人間の道徳基準がわからなくなっちゃんたんだわ。普通の人は、同級生を、見知ったクラスメイトを悪魔に売ることなんて出来やしないもの」
 友恵は、まるで構成不可能な不良を前にしているような口ぶりだ。しかし、本当にそうだろうか。僕は確かに、理由は定かではないとしても、何かしらの罪悪感を感じて友恵には指一本触れなかったのだ。それはそれで、人間的に美しいと言えるのではないだろうか。それに、いくら生命エネルギーを貰っているとはいえ、僕に人間を殺すほどのエネルギー吸収力があるわけではない。たかがセックスをしたぐらいで、どうしようもない人間扱いはいささか行き過ぎじゃないだろうか。
 それでもなお友恵を説得しようとしていると、どこからか話を聞いていたのであろう女性がつかつかと近づいて来た。
「こちらの男性、どうかしましたか?彼女、嫌がっているみたいなんですけど」
 どうも正義感に駆られている女性は、友恵に同情するようなしぐさをしながら「警察を呼びましょうか」等と僕を脅してくる。その女性だけではない、駅員を含めた構内にいる人間すべてがまるで犯罪者でも見るような視線を僕に向けてくるのだ。耐えきれなくなった僕は、逃げるようにその場を後にした。

       

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Neetsha