Neetel Inside ニートノベル
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野生のパンツ
3章 トンカツ怖い

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「待て待て待て、男子高校生のパンツを味付けさせてくれ」
「しょうゆで味付けしたら、男子高校生のパンツに茶色い染みがついてしまう。私で男子高校生のパンツを味付けさせてくれ」
「一味唐辛子で味付けしたら、男子高校生のパンツが辛くなってしまう。私で男子高校生のパンツを味付けさせてくれ」
「俺のパンツにそんなに調味料をかけたら、俺のお尻が腎臓病になるパンツになってしまう。そんなパンツを着ている人生なんて絶対に嫌だ」
 根子ユイはそう叫びながら逃げていた。
 ある日の帰り道。根子ユイは野生の調味料たちに追いかけられていた。
 野生の調味料たちはご丁寧に容器の中に入っている。
「納豆の糸が当たらない」
 龍宮紅子は手から納豆の糸を発射しながら調味料を追いかけていた。
 野生の調味料たちは、野生のしょうゆ、野生の一味唐辛子、野生の砂糖などで構成されており、群れをなしていた。
「紅子先輩、どうにかしてくれ」
 根子ユイは逃げながら、龍宮紅子に聞こえるように叫んだ。
「どうにかすると言われても……あ、そうだ」
 龍宮紅子は思いついた。
「そのまま家に入って」
 龍宮紅子は根子ユイに聞こえるように叫んだ。
「どうしてかはわけがわからないけど、わかった」
 根子ユイは鍵をポケットから取り出した。
 そして、玄関前に駆け込み、鍵穴に鍵を突き刺し、自宅に飛び込んだ。

「男子高校生のパンツを味付けさせて甘いパンツにさせてくれ」と、野生の砂糖。
「男子高校生のパンツを味付けさせて辛いパンツにさせてくれ」と、野生の一味唐辛子。
「男子高校生のパンツを味付けさせて酸っぱいパンツにさせてくれ」と、野生のお酢。
「男子高校生のパンツを味付けさせてしょっぱいパンツにさせてくれ」と、野生の塩。
「男子高校生のパンツを味付けさせて茶色いパンツにさせてくれ」と、野生のしょうゆ。
 野生の調味料たちはそう次々と言いながら、根子ユイを追い掛け回していた。
 根子ユイと野生の調味料たちは食卓テーブルの周りをぐるぐると走り回っていた。
「紅子先輩、何とかしてくれ」
 しかし、龍宮紅子はどこにも見当たらない。
「俺がぐるぐる走りはしり回って忙しいのに、なんで紅子先輩はぐるぐる走り回って忙しくなんかないんだ」と、根子ユイは言った。
「私はここよ」
 龍宮紅子が居間に入ってきた。
「なんで紅子先輩はぐるぐる走り回って忙しくなんかないんだ」と、根子ユイ。
「こういう理由。
 男のパンツを欲しがり追い回す調味料たち。私のために大人しく捕まることを認めなさい」
 龍宮紅子はスプレーのようなものを野生の調味料たちに吹きかけた。
「男子高校生のパンツぅ……」
 野生の調味料たちは断末魔の声を叫びながら床に落ちた。
「そうか。俺の家にあった殺虫剤を使って、野生の調味料を倒したんだ。殺虫剤でお化けを倒すとは、なんてベタなんだ」と、根子ユイ。
「大丈夫。安心して。これはエアダスターよ」と、龍宮紅子。
 エアダスターとは掃除のために風を吹き出して使うスプレーである。
 このスプレーを吹きかけて、虫を殺すことができる。ただし、可燃性ガスなので火元で使うのは大変危険である。
「何を安心すればいいのか、わけがわからないな」と、根子ユイ。
「殺虫剤でなくエアダスターだから。今晩、この野生の調味料を調味料にして、美味しい納豆ごはんが食べられるよ」と、龍宮紅子。
「たしかに殺虫剤をかけた野生の調味料で納豆ごはんは食べたくないな。殺虫剤だもんな。ところで、この野生の調味料たちはどのような事情で野生のゴミになったんだ?」
 根子ユイはしょうゆを持ち上げた。
「野生の調味料たちの事情を聞くなんて、また面倒なことを……」
 龍宮紅子は額を抑えた。
「おい、起きろ」
 根子ユイは野生のしょうゆを振り始めた。
「うわ」
 野生のしょうゆが気絶から目を覚ました。
「おまえはどうしてゴミなんだ」と、根子ユイは野生のしょうゆに尋ねた。
「私は食べられる前に捨てられてしまった悲しき調味料です。ごはんの味付けをしたかったのです……」と、根子ユイは言った。
「よかった。面倒なことにならなくて。野生の調味料を調味料にして、美味しい納豆ご飯が食べれる」
 その日の夜、野生の調味料を調味料にして、美味しい納豆ご飯を食べた。
 野生の砂糖は甘い納豆ご飯。野生の一味唐辛子なら辛い納豆ご飯。野生のお酢ならすっぱい納豆ご飯。野生の塩ならしょっぱい納豆ご飯。野生のしょうゆなら茶色い納豆ご飯にそれぞれなった。

「今日も俺のフルーティな香りのするお尻で野生のゴミを誘い出し、慌ただしい日だった。しかし、なんで俺のフルーティな香りのするお尻で野生のゴミが誘い出せるんだろう」
 根子ユイはお風呂に入っていた。
「普通なら、こういうとき浴室ドアが開いて紅子先輩が入ってくるんだけどな。俺がお風呂に入ってないと勘違いして。そんなことがないように、紅子先輩が先に入ったな。今はお風呂上がり。紅子先輩は牛乳瓶で筋トレしてる」
 根子ユイは独り言をつぶやいた。
「何、独り言してるんだか。お風呂の湯で顔洗おう」
 根子ユイはお風呂の湯を手に救い、顔にかけた。
 何か顔がベタつく。それに特有の臭いがする。納豆だった。
「このお風呂しょっぱい」
 根子ユイはお風呂から勢いよく外に飛び出した。龍宮紅子が牛乳瓶で筋トレしてる居間に根子ユイは飛び込んだ。
「紅子先輩、またお風呂に納豆を入れたな」と、根子ユイは龍宮紅子にそう怒った。
「今日は野生のしょうゆ、野生の砂糖、野生の一味唐辛子、野生の塩、野生のお酢もお風呂に入れてみました」
 龍宮紅子はそう言った。
「そんなに調味料を入れて、うちのお風呂をちゃんこ鍋にするつもりか」
 根子ユイはそう言った。
「たまにはちゃんこ鍋に入ってる鶏肉の気持ちになりたいと思ってやってみた」と、龍宮紅子。
「ちゃんこ鍋はそんなに色々調味料入ってないでゴワス」
 どう見ても相撲取りとしか思えない人物がそう言った。
「おまえ誰だ」と、根子ユイは言った。
「フルーティな香りがしてきたので、この家にのこのこやってきたでゴワス。鍵も開いていたので入ったゴワス」と、相撲取り。
「野生のゴミ」と、龍宮紅子。
「この野生のゴミは何なんだ?」と、根子ユイは聞いた。
「ゴワスって口癖から察するに、野生の相撲取りのフィギュアじゃないの」と、根子ユイ。
「そうでゴワス。野生の相撲取りのフィギュアでゴワス」と、相撲取りのフィギュア。
「全裸の男子高校生と相撲取り……この二人が揃ったからにはやらないといけないものがあるね」と、龍宮紅子。
「やらないといけないもの?」と、根子ユイは聞いた。
「やさしくしてでゴワス……はじめてでゴワス……ずっと飾られるだけのフィギュアだったの……」と、野生の相撲取りのフィギュア。
「それはお相撲よ。はっきょーいのこったのこった」
 龍宮紅子はどこからか軍配団扇を取り出して、行司をした。
「そうか、こいつはずっとお相撲がしたかったんだな。よし相撲してやる」
 根子ユイは相撲取りのフィギュアに走り込んだ。
「相撲よりお尻触らせるでゴワス」
 根子ユイは相撲取りのフィギュアに抱きしめられ、お尻を触られた。
「苦しい助けて」と、根子ユイ。
「大丈夫。安心して。同居してる全裸の男と相撲をする相撲取りフィギュア。私のために大人しく捕まることを認めなさい」
 龍宮紅子は納豆の紐で相撲取りのフィギュアの首を締めた。
「苦しい助けて」と、相撲取りのフィギュア。
 相撲取りのフィギュアはだんだん顔が青くなる。
「このまま体全体縛っちゃえ」
 根子ユイはそう言って、納豆の糸で相撲取りのフィギュアをマユの中に閉じ込めた。
「また、助けてもらった。ありがとう」
 根子ユイは龍宮紅子にお礼した。
「いいよ、いいよ。お礼なんて。私はフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』に相撲取りのフィギュアを売り飛ばしたかっただけ」
 龍宮紅子はそう言った。
「ところで」と、根子ユイ。
「ところで?」と、龍宮紅子。
「どうして紅子先輩は全裸でフルチンな俺を見て、キャーとか言わないのでしょうか?」と、根子ユイ。
「スルーしてた方が面白いと思って」と、龍宮紅子。
「面白いという理由でスルーしないでください。女子高生に自分のブツを見られた男の気持ちがどんな気持ちかわかるのか」と、根子ユイ。
「半分嬉しくて、半分恥ずかしい」と、龍宮紅子。
「わかっているのなら、スルーしないでよ」と、根子ユイ。
 このように根子ユイがフルーティな香りのするお尻で野生のゴミを誘い出し、龍宮紅子が捕まえる生活が続き、七月半ばになっていた。

「今回の査定額はこれですね」
 フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフは電卓を龍宮紅子に見せた。
 龍宮紅子は根子家にフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』の出張買い取りサービスを頼んでいた。フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフを呼び、今まで倒した野生のゴミの買い取りをしてもらっていた。
 野生のゴミはダンボール数箱分になっていた。
「こらくらいの査定額って、一ヶ月家賃光熱費込みでそれなりに嗜好品を買って生活出来る程度じゃないか」
 龍宮紅子の隣で買い取りをしていた根子ユイは驚いた。
「あなたがフルーティな香りのするお尻で野生のゴミを誘い出してくれたおかげだから、ボロ儲けできたのよ」
 龍宮紅子はそう言った。
「それでは本人確認書類をお願いします」
 フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフはそう言った。
「それとはどれのことかわからないけど、こちらがそれです」と、龍宮紅子はフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフに本人確認書類を渡した。
 フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフは本人確認書類を受け取った。
「たしかに受け取りました。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
 フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフは野生のゴミたちを車に積んで、帰った。
「あのフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフ、社長の名前を知らないのかしら」と、龍宮紅子は言った。
「何を突然。フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』のスタッフが社長の名前を知ってるかどうかが、なんで突然気になったんだ?」と、根子ユイは聞いた。
「なんでも」と、龍宮紅子は言った。
「あまり突然言わないでくれよ。お昼どきでお腹が空いているから、驚くかもしれないじゃないか」と、根子ユイ。
「そうだ」と、龍宮紅子は大声で言った。
「うわ」と、根子ユイは驚いた。
「お金が入ったから、いつもフルーティな香りのするお尻で野生のゴミを誘い出しているお礼をしてあげる。何がいい?」と、龍宮紅子。
「ラーメン屋に行きたい」と、根子ユイは即答した。

 根子ユイと龍宮紅子はラーメン屋にやってきた。
「いらっしゃい」と、ラーメン屋の店員が言った。
「折角の休日に家業の手伝いをしている同じクラスの猪野晴夫じゃないか」と、根子ユイ。
「なんだそのわざとらしい言い方は」と、猪野晴夫。
 このラーメン屋は猪野晴夫の家である。猪野晴夫の父はラーメン屋の店主である。
「ユイ君。ひさしぶり」
 その猪野の父親が言った。
「ご無沙汰してます。会社に首にされて、仕方がないからラーメン屋さんをやっている猪野晴夫君のお父さん。相変わらず、祝日なのに、ここのラーメン屋さんには誰もいませんね」
「ユイ、なんだその言い方は」と、猪野晴夫。
「その言い方とは、どんな言い方だ」と、根子ユイ。
「その言い方だと、俺が会社に首にされて仕方がないからラーメン屋さんをやっているように聞こえるじゃないか。俺が会社に首にされたんじゃない。親父が首にされたんだ」と、猪野晴夫。
「晴夫。俺は首にされてねえ。俺が会社をやめたんだ。後で説教してやる」と、猪野晴夫の父。
「そんなことは置いといて」と、猪野晴夫。
「置いとくな」と、猪野晴夫の父。
「親父。ちょっと静かに。俺はユイが隣に連れている女の子が気になるんだよ。その子はひょっとして……」
 猪野晴夫は龍宮紅子を見た。 
 龍宮紅子は顔をにやつかせる。今まで根子ユイ、猪野晴夫、猪野晴夫の父が会話していたため、やっとスポットが当たり喜んでいるような笑顔である。
「そうそう。ひょっとして」と、龍宮紅子。
「ひょっとして?」と、根子ユイは聞いた。
「ユイには妹がいないし……。ひょっとして……。自首しろ。ユイが女子小学生を誘拐するとは思わなかった」と、猪野晴夫。
「100点中55点、不合格」と、根子ユイ。
「なにが100点中55点で不合格なんだ?」と、猪野晴夫が聞いた。
「俺がどう見ても小学生にしか見えない女の子を連れてきたから、女子小学生を誘拐したとボケたことが100点中55点で不合格。ありがちなボケ。それに今のご時世だと、大変不謹慎なネタだ。だから100点中55点で不合格」と、根子ユイ。
「ありがち。ありがち。不謹慎。不謹慎」と、猪野晴夫の父は頷いた。
「ユイ。チャンスをもう一度頼む」と、猪野晴夫は手を合わせてお願いした。
「よし、チャンスをもう一度やろう。ユイには妹がいないし……の後の台詞をもう一度頼む」と、根子ユイ。

「ユイには妹がいないし……。ひょっとして……。おめでとう。ユイ、俺の子を産んでくれたんだな」
 猪野晴夫は龍宮紅子の頭を撫でる。
「よし。合格としておこう」
 根子ユイはそう言った。
「息子よ。成長したな」と、猪野晴夫の父。
「親父……」
 猪野晴夫は親父が自身を認めてくれたことに対して嬉ぶように目が潤んだ
「認めない認めない。誰が後輩の娘よ。誰が女子小学生よ」「ぐふ」
 龍宮紅子は猪野晴夫の腹を蹴る。猪野晴夫は倒れ込んだ。
「認めない認めない。何が合格よ」「ごほ」
 龍宮紅子は図書館や牛乳で鍛えた拳を根子ユイの腹にぶち込んだ。根子ユイも倒れ込んだ。
「私は厚かましいおばさんよ。女子小学生でも、後輩の娘でもないよ。やり直しよ。やり直し。ユイには妹がいないし……の後からもう一度よ」と、龍宮紅子。
「ううう……」
 根子ユイと猪野晴夫は腹を抑えながら寝込んでいた。
「ちょっと休憩入れてから続けた方がいいかもしれないね」と、猪野晴夫の父。
「そうね」と、龍宮紅子。

「ユイには妹がいないし……。ひょっとして……。ユイの家の隣に引っ越してきた厚かましいおばさん」と、猪野晴夫。
「そうだよ」と、根子ユイ。
「何で私が隣に引っ越してきた厚かましいおばさんなのか理解に困るよ」
 凄く嬉しそうに龍宮紅子は言った。
「厚かましいおばさんって言われて嬉しそうだな」と、根子ユイ。
「嬉しそうじゃなくて、嬉しいのよ」と、龍宮紅子。「私はユイの先輩よ。部活みたいなものの先輩、龍宮紅子よ」
「そうか。部活みたいなものの先輩か。ユイ、部活みたいなものって何やってたんだ?」
 猪野晴夫はそう聞いた。
「部活みたいなもの」と、根子ユイは答えた。
「そうか。部活みたいなものか。注文何にするんだ?」と、猪野晴夫。
「おすすめは?」と、龍宮紅子。
「しょうゆラーメン。なんたって特製しょうゆだれを使ってるんだぜ。構想三年開発八年桃栗三年柿八年」と、猪野晴夫。
「じゃあ、みそラーメン」と、龍宮紅子。
「いつだか野生の味噌がいなかったな。だから、紅子先輩はみそラーメンにしたのか」と、根子ユイ。
「根子ユイどうした」と、猪野晴夫。
「なんでも」と、根子ユイ。
「お前は何頼むんだ」と、猪野晴夫。
「まずいカツ丼」と、根子ユイは言った。
「え」
 龍宮紅子は目を見開いた。
「理解に困る。なんでラーメン屋でまずいカツ丼を頼むのよ」と、龍宮紅子は怒鳴る。
「そう、まずいまずい言うなら頼むなよな」と、猪野晴夫。
「まずいから頼むんじゃないか」と、根子ユイは反論する。
「カツ丼だけはやめて。お願い。カツ丼だけはやめて」
 龍宮紅子は小さい体を震えさせながら根子ユイにお願いする。
「紅子先輩はカツ丼が怖いのか?」と、根子ユイは聞いた。「カツ丼は食べ物だから襲ったりしないぞ」
 根子ユイは龍宮紅子の頭をなでた。龍宮紅子の目は涙でいっぱいになっていた。
「カツ丼を怖がるなんて、紅子先輩は子供だな」と、猪野晴夫。
「子供。子供」と、猪野晴夫の父も同意した。
「私は子供じゃないもん。厚かましいおばさんだもん。私もラーメン屋さんのまずいカツ丼食べる」
 龍宮紅子は声を震わせながら言った。
「親父、まずいカツ丼二人前だってさ」と、猪野晴夫は言った。
「よし。まずいカツ丼二人前作ってやる」と、猪野晴夫の父は言った。「おい、新人。新鮮なトンカツ」と、猪野晴夫の父。
「はい。ただいま」
 新人はそう言った。
「この新人どこかで会ったような……その白くて、長方形のその体……」と、根子ユイ。
 新人は自分の扉を開けた。その新人の中には冷凍食品のカツが入っていた。
「この新人は俺を16歳の誕生日に冷蔵庫でパンツを冷やすような人生にしようとした野生の冷蔵庫」
 根子ユイはそう言った。
「あなたはあのときの男子高校生。あのときはご迷惑をおかけして申し訳ございません。今はフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』で、このラーメン屋さんに買われ、野生の冷蔵庫から家畜の冷蔵庫になりました」と、冷蔵庫。
「ユイ、冷蔵庫の知り合いがいるなんて変わってるな」と、猪野晴夫が言った。
「冷蔵庫を新人にしてるラーメン屋の息子に言われたくないな」と、根子ユイ。
「新人。早くしろ。新鮮な冷凍食品のカツを調理しろ」と、猪野晴夫の父。
「かしこまり」と、冷蔵庫は冷気を吹き出して冷凍食品のカツを飛ばした。
「あらよ」と、電子レンジが扉を開けて、その立方体の中に入れた。
「キミは俺を16歳の誕生日に電子レンジでパンツを温めるような人生にしようとした野生の電子レンジ」
 根子ユイはそう言った。
「あなたはあのときの男子高校生。あのときはご迷惑をおかけして申し訳ございません。今はフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』で、このラーメン屋さんに買われました。そして、野生の電子レンジから家畜の電子レンジになりました」と、電子レンジ。
「ユイ、冷蔵庫の知り合いだけじゃなく、電子レンジの知り合いがいるなんて変わってるな。ひょっとしておまえ、家電製品じゃないのか」と、猪野晴夫は聞いた。
「家電製品じゃないのかと言われると、人間としての自信失っちゃうな」と、根子ユイ。
「新人。早くカツを調理しろ」と、猪野晴夫の父。
「わかりました」
 電子レンジはタイマーの目盛りを1に回す。
「ところで、家畜の冷蔵庫とか、家畜の電子レンジとか、家畜って何なんだ?」
 根子ユイは龍宮紅子に尋ねた。
「フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』に売り飛ばされて、フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』センターに送られ、調教されたゴミたちよ」
「調教されるとどうなるんだ」と、根子ユイ。
「人間に危害を与えることができなくなって、人間に服従しちゃうの」と、龍宮紅子。
「チーン」と、突然電子レンジは大声を上げた。
「冷凍食品のカツが解凍できたようだ」と、猪野晴夫。
「たしかに人間に危害を与えることができなくなって、人間に服従しちゃうようだな。冷蔵庫はまずいカツ丼の材料である冷凍食品のカツを冷凍していたし、電子レンジはまずいカツ丼の材料である冷凍食品のカツを解凍しているな。あんなまずいカツ丼のカツを電子レンジや冷蔵庫に入れて、平気なわけがない」と、根子ユイは納得した。
 猪野晴夫は冷凍食品のカツを解凍している間に洗面器からご飯をドンブリに入れた。最後に解凍された冷凍食品のカツをご飯の上に乗せカツ丼を二杯作った。
「ユイ、まずいカツ丼」
 猪野晴夫は根子ユイにカツ丼を渡した。
「なんでお風呂で使うあの洗面器からご飯を出してるんだよ」と、根子ユイ。
「ユイ、うちの炊飯器ちょっと不調なんだ。だから代わりにご飯を洗面器に入れてた。洗面器だろうが炊飯器だろうがどっちでもいいだろ。そんな細かいこと気にしてると頭痛くなるぞ」と、猪野晴夫。
「そうだな。細かいこと気にしてると頭が痛くなる」と、根子ユイ。
「紅子先輩、まずいカツ丼」と、猪野晴夫は龍宮紅子にカツ丼を渡した。
 しかし、龍宮紅子は無反応である。
「紅子先輩、どうしたんだ」
 根子ユイは龍宮紅子の肩を揺らした。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 紅子先輩はそう言いながらラーメン屋を走り回った。
「紅子先輩、どうしたんだ」と、根子ユイ。
「おそらく、まずいカツ丼を見て、あまりの怖さに自分のことを救急車だと思い込むことによって、現実逃避をしたんだろう」と、猪野晴夫の父が言った。
「猪野晴夫の親父さん。救急車に乗った方がいいんじゃないか?」と、根子ユイ。
「親父は俺たちの数倍長く生きてるんだぜ?そんな長い人生経験がそう予測立てたんだろ」と、猪野晴夫の父の息子は納得した。
「数年前のことだ。ラーメンがあまりにも怖すぎて、現実逃避で自分のことをパンダだと思い込み、『パンダパンダ』と鳴きながら動物園まで行った会社員がいた。今はパンダを嫁にして元気にやっているらしい」と、猪野晴夫の父は言った。
「わけがわからない。なんで、ラーメンが怖いのにラーメン屋に来たのかわけがわからない。やっぱり、猪野晴夫の親父さんの頭が心配だ。おまけに顔まで不細工だ。救急車呼ぼうか」と、根子ユイ。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 龍宮紅子は猪野晴夫の父に駆け寄った。
「急患一人。キュウカンヒトリ。トンデモナイ不細工ナ顔ダ。トンデモナイブサイクナカオダ。コイツハ大変ダ」
 龍宮紅子はそう言って、納豆の紐で猪野晴夫の父の胴体に結びつけた。
「レッツゴー病院、レッツゴーホスピタル。アイアムアハイスクールスチューデント」
 龍宮紅子はそう言いながら背中に猪野晴夫の父を背負った。
「このままじゃ、親父が病院に連れて行かれてしまう」と、猪野晴夫。
「よし、そのまずいカツ丼を食べてやる」
 根子ユイはそう言ってカツ丼を早食いした。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 龍宮紅子はそう喚きながらラーメン屋中を走り回っていた。
「お、1分32秒53。まずいカツ丼二杯をこんな速さで食べたお客さんは初めてだ」 
 猪野晴夫はいつのまにかスタートさせたストップウォッチを止めた。
「紅子先輩、紅子先輩。キミの怖いカツ丼はいなくなった」
 根子ユイはちょうどよくラーメン屋の外に出ようとした龍宮紅子の肩を揺すった。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 龍宮紅子はまだそう喚いていた。
「しっかりしろ」と、根子ユイは龍宮紅子の頬を叩いた。
「痛い」と、龍宮紅子。
「龍宮紅子が正気に戻った」と、根子ユイ。
「私、今まで何してたの?」と、龍宮紅子は根子ユイに聞いた。
「救急車」根子ユイはそう答える。
「また私、救急車になったみたい」と、龍宮紅子。
「救急車だと思い込むほどカツ丼が怖いなんて俺知らなかった。まずいカツ丼なんか頼んでごめん」
 根子ユイは謝った。
「私も無理してカツ丼なんて頼まなければよかった。まずいカツ丼なんか注文して心配をかけさせて、ごめん」
 龍宮紅子も謝った。
「あの、二人で謝ってる最中よろしいでしょうか」と、猪野晴夫。
「どうした?猪野晴夫」と、根子ユイ。
「ラーメン屋さんの息子がどうしたの?」と、龍宮紅子。
「親父を返していただけないでしょうか」と、猪野晴夫。
「そういえば、背中が重い」と、龍宮紅子。
 龍宮紅子は背負っていた猪野晴夫の親父を下ろした。
「よくその小さな体で猪野晴夫の親父さんを背負えたな」と、根子ユイは言った。
 
「どうして、まずいカツ丼をこのラーメン屋で売ってるのですか?」
 根子ユイはみそラーメンを食べながら、猪野晴夫の親父に聞いた。
 根子ユイと龍宮紅子は結局みそラーメンを注文して、食べていた。
「今はいないうちの嫁さんがカツ丼好きでな。喜んでカツ丼を食べていたんだよ」
 猪野晴夫の親父はそう言った。
「カツ丼は猪野晴夫の親父さんの思い出の食べ物なんですね」
 根子ユイは猪野晴夫の親父さんに尋ねた。
「理解に困る。どうしてユイは私が救急車になってしまうほどトンカツが嫌いだと聞かないの?」
 龍宮紅子はそう根子ユイに聞いた。
「ところで、あなたたちは龍宮紅子の手から納豆が出るのを見ても驚かないのですか?」
 根子ユイは猪野晴夫の親父さんと猪野晴夫に聞いた。
「ラーメンを怖がって、動物園でパンダになって暮らした男の方に比べたら、驚かなくてもな」と、猪野晴夫の親父。
「カツ丼見て救急車になるお客さんも初めてだし」と、猪野晴夫。
「そうですね。世の中驚くことばかりです」と、根子ユイ。
「ねぇ、どうして私が救急車になってしまうほどトンカツが嫌いか聞いてよ」
 龍宮紅子はラーメンを食べながら猪野晴夫と話している根子ユイの裾をつかみながら言った。
「どうして、猪野晴夫の名前を晴夫にしたのですか?」と、根子ユイは猪野晴夫に聞いた。
「猪野晴夫が生まれたとき、気持ちいいくらいの青空だったからな。だから、晴夫と名付けた」
 猪野晴夫の親父はそう言った。
「ねぇねぇ。どうして私が救急車になってしまうほどトンカツが嫌いか聞いてよ」
 龍宮紅子はラーメンを食べながら猪野晴夫と話している根子ユイの裾をつかみながら言った
「どうして、猪野晴夫の親父さんは……」と、根子ユイは話し始める。
「お願いします。私が救急車になってしまうほどカツ丼が嫌いな理由を聞いてください」
 龍宮紅子は土下座した。
「仕方がないなあ。紅子先輩。土下座するほど救急車になってしまうほどトンカツが嫌いな理由を聞いてやろう」と、根子ユイ。
「おうおうおうおう。トンカツが嫌いと聞いちゃ、黙っちゃいないぜ」と、声がした。
「誰だおまえは」と、根子ユイは聞いた。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 龍宮紅子はそう言いながら、ラーメン屋中を走り回った。
「おまえはお客さんが手を滑らせて落としてしまったカツ丼」
 猪野晴夫の親父がそう言った。
 ラーメン屋さんでカツ丼がふわふわ浮いていた。
「親父、よく覚えてるな」と、猪野晴夫。
「俺が作ったまずいカツ丼だ。忘れるわけないだろ」と、猪野晴夫の親父。
「カツ丼がふわふわ浮いて、喋ってるのに少しくらい驚いてください」と、根子ユイ。
「俺が作ったカツ丼を見て誰が驚くか。それに喋る電子レンジや冷蔵庫ならすでにいるし」と、猪野晴夫の親父は怒鳴った。
「私、喋る冷蔵庫」
「僕、喋る電子レンジ」
「とっちゃん、それは違うまずいカツ丼だ」と、カツ丼が否定した。
「親父、自分の作ったカツ丼の顔くらい覚えてやれよ」と、猪野晴夫。
「おう。俺のどこに顔があるかはわからねえが、俺はとっちゃんが手を滑らせて落としてしまったカツ丼だ」と、カツ丼が言った。
「野生のカツ丼はどうして化けて出てきたのですか?」と、根子ユイは聞いた。
「俺は女子高生に食べられる予定のカツ丼だった。とても可愛い女子高生だった。美少女だ。
 しかし、このとっちゃんが俺を落としてしまった。
 俺は女子高生の大腸を通りたい一心で蘇ったのさ」と、カツ丼。
「女子高生ならここにいます」と、根子ユイは龍宮紅子を指差した。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」と、龍宮紅子は走り回っている。
「野生のカツ丼を見てしまったせいで、龍宮紅子が救急車になってしまった」と、根子ユイ。
「おうおう、カツ丼を見て自分のことを救急車だと思い込んでしまうような女子高生はこっちからお断りだぜ。それにその女子高生、どう見ても小学生だろ。大きくなってから出直してきな」と、カツ丼は言った。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」と、龍宮紅子は走り回っている。
「それにしても……」と、カツ丼。
「それにしても?」
 龍宮紅子を除いたラーメン屋にいる人たち、根子ユイ、猪野晴夫、その親父がそう言った。
「とてもフルーティな香りがする。レモンのような柑橘系。ああ、レモンをかけられたい。くんくん」
 カツ丼はラーメン屋を飛び回った。
「ぎく」と、驚く根子ユイ。
「ぎく?」と、猪野晴夫と猪野晴夫の親父はそう言った。
 カツ丼は根子ユイのお尻付近で停止する。
「この男子高校生のお尻からフルーティな香りがする。ああ、この男子高校生のお尻のレモンをかけられたい」
 カツ丼はそう言った。
「どうして16歳の誕生日以来、野生のゴミに俺のお尻がフルーティな香りで好かれてしまうのだろう。お尻のレモンをカツ丼にかける人生なんて絶対に嫌だ」
 根子ユイはそう叫んだ。
「紅子先輩、急患一人。俺、失神しました」と、根子ユイは龍宮紅子に言った。
「急患一人。キュウカンヒトリ。失神してるのに喋っている。シッシンシテイルノニシャベッテイル。こいつは大変だ」
 龍宮紅子はそう言いながら納豆の紐を出して、根子ユイを背負った。
 根子ユイのお腹と龍宮紅子の背中がくっついた。
「よし、野生のカツ丼がいない病院まで頼む」
 根子ユイは龍宮紅子にお願いした。
「レッツゴー病院、レッツゴーホスピタル。アイヘイトトンカツ」
 龍宮紅子は根子ユイを背負いながら、ラーメン屋の出入り口を目掛けて走った。
「ユイ、食事代」と、猪野晴夫。
「俺のズボンのポケットに入ってる財布の中」と、根子ユイ。
「わかった」と、猪野晴夫。
 根子ユイは龍宮紅子に背負われながら、ラーメン屋から出て行った。
「根子ユイのズボンのポケットに入ってる財布の中から、食事代を取り出すか」と、猪野晴夫。「ところで、根子ユイはどこにいるんだ?」
「外」と、猪野晴夫の親父が言った。

「俺にフルーティなお尻でレモンをかけてくれ」
 カツ丼は根子ユイを追いかけていた。
 根子ユイは龍宮紅子に背負われ、カツ丼に追いかけられていた。
 龍宮紅子たちは商店街を駆け抜ける。
 カツ丼は空を飛ぶ。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 龍宮紅子は救急車になったつもりで、サイレンを喚いていた。
「女子小学生にみえる少女が、高校生を背負って、『ピーポーピーポー』言いながら、空飛ぶカツ丼から逃げる様子を見た商店街の皆さんはどんな心境ですか?」
 根子ユイは大声で叫んだ。
「近所迷惑です」
 商店街を歩いていたい中年女性がそう答えた。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 救急車だと思い込んでいる龍宮紅子が立ち止まった。
「紅子先輩が急に立ち止まった。どうしたんだろう」
 龍宮紅子の目の前には交差点があった。龍宮紅子の目の前にある信号は赤だった。
「そうか。救急車は具合の悪い患者が乗っているから、緊急走行中でも、赤信号で止まるんだ」根子ユイはそう解説した。
「俺にフルーティなお尻でレモンをかけてくれ」
 カツ丼が根子ユイに迫った。
「俺のフルーティな香りのするお尻がカツ丼のレモンになってしまう」
 根子ユイはそう叫んだ。
「……あれ?」と、根子ユイ。
 根子ユイのフルーティな香りのするお尻がカツ丼のレモンになっていない。
「あれ、どうして俺のフルーティな香りのするお尻がカツ丼のレモンにならないんだ」
 根子ユイはそう言った。
「それはこういうことです」
 根子ユイの耳に知らない女性の声が聞こえた。
「商店街の景色が動いた」
 根子ユイは目に映っている商店街の景色が動いたことに驚いた。
「違います。あなたが回転しているのです」
 龍宮紅子が回転した。龍宮紅子は180度回転して後ろを向いた。
 龍宮紅子は「ピーポーピーポーピーポーピーポー」と体を半回転させた。
「目の前で野生のカツ丼がお皿に乗ってぐるぐる回っている」と、根子ユイは言った。
 浮遊する皿の上にカツ丼が乗っていた。浮遊する皿はぐるぐると回転している。
「目が回る。助けてくれ」
 カツ丼はそううめいた。
「野生のカツ丼のどこに目があるんだ?」と、根子ユイはつぶやいた。
「野生のゴミにはありとあらゆる一般常識が通用しないのです」と、知らない女性が言った。
「そうだな。たしかに野生の夏休みの宿題にはiPS細胞があったな。たしかに一般常識が通用しない。値段の高そうなキラキラしたドレス、値段の高そうな美容院で手入れしたような高そうな長い髪の毛をしたキミは誰?」
 清木スズは値段の高そうな煌びやかなドレスに身を包み、サラサラして美容院で手入れしたような長い髪の毛をしている。
 地味なジャージに身を包み、ボサボサと手入れしていないような長い髪の毛をしている龍宮紅子とは対比的だった。
 さらに清木スズは龍宮紅子と比べて背が高かった。
 清木スズと龍宮紅子が並んで歩くと、龍宮紅子が妹に見えてもおかしくない。
「値段が高そうなのではなく、本当に高いのです。私は全国の掃除屋さん組合貢献度2位の清木スズ」
「全国の掃除屋さん組合貢献度2位の清木スズ?」
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
 龍宮紅子は救急車になったつもりで唸り続けていた。
「おい、カツ丼はもう暴れたりしないぞ。カツ丼は皿に乗って回っているだけだ」
 根子ユイは龍宮紅子の頬を叩いた。
「痛」
 龍宮紅子は自身が救急車だという妄想から解放されたようだ。
「野生のカツ丼に食べられると思ってしまい、また現実逃避で救急車だと思い込んでしまった」と、龍宮紅子。
「紅子先輩、現実逃避で救急車だと思い込んでしまうなんて変わってるな」と、根子ユイ。
「目が回る。気持ち悪い」と、野生のカツ丼は回っていた。
「野生のカツ丼が皿に乗って回っている。この公務員のゴミを持っているということは清木スズ?」と、龍宮紅子は清木スズに尋ねた。
「ゲロロロロロロロロロロ」
 野生のカツ丼は倒れ、皿の上にご飯をぶちまけた。
「公務員のゴミ?」と、根子ユイ。
「野生のゴミはフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』に売り飛ばされることは知ってるよね?」と、龍宮紅子。
「知ってる知ってる」と、根子ユイ。
「売り飛ばされた野生のゴミはフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』センターに送られて調教されて家畜のゴミになるのも知ってるよね?」と、龍宮紅子。
「あの家畜の電子レンジとか、家畜の冷蔵庫みたいなものだよな」と、根子ユイ。
「そうそう。その家畜のゴミの中から一品のゴミが公務員のゴミになるの。公務員のゴミは全国の掃除屋さん組合の構成員の体の中に派遣されるのよ」と、龍宮紅子。
「すると、キミの小さな体の中にも公務員のゴミがいるのか」と、根子ユイ。
「うん。公務員の納豆の豆太郎さんがいるの。私たち掃除屋さんは公務員のゴミから力を借りて色々できるのよ。私が納豆を出せるのも公務員の納豆の豆太郎さんのおかげ」
 龍宮紅子はそう解説した。
「お前、納豆を体から出せる体質じゃなかったのか」
 根子ユイはそう驚いた。
「ユイ。理解に困る。どうして私がそんな納豆を出すことのできる体質にならないといけないのよ」と、龍宮紅子。
「紅子先輩。トンカツを見て現実逃避で救急車だと思い込む方がわけがわからない」と、根子ユイ。
「それに、普通の納豆は相手を縛り付けたり、マユにして布団代わりにしたりすることができないのよ」と、龍宮紅子。
「普通の納豆は相手を縛り付けたり、マユにして布団代わりにすることができないのか。自分のiPS細胞を注射した菓子パンを食べさせて明日を夏休みの宿題の締切だと思わせたりする夏休みの宿題とかいたくらいだ。野生のゴミだった納豆なら、そんなことできるのだろう」と、根子ユイ。
「ユイ。あの清木スズの体の中に派遣されてる公務員のゴミは公務員の回転寿司の皿よ」と、龍宮紅子。
「なるほど。回転寿司の皿だから、皿の上にあるものは回転するのか」と、根子ユイ。
「長々と会話しないで、わたくしとも会話していただけますか?お久しぶりです。トンカツのサバト事件以来ですね。龍宮家の落ちこぼれの紅子さん」と、清木スズ。
 清木スズはお辞儀をした。
「その男は誰ですか?ひょっとして、あなたの養父なのですか?」
 清木スズはそう聞いた。
「違う。私の養子の根子ユイ」龍宮紅子はそう答えた。
「あら、龍宮家の落ちこぼれの紅子さんが養子っていうには、どうみても年上の男じゃないですか」と、清木スズ。
「私の方が根子ユイより一学年年上よ」と、龍宮紅子。
「小学生っていうには、10歳くらい年上じゃありませんか?どうみても高校生としか思えない身長なのですけど」と、清木スズ。
「私は厚かましいおばさんよ」
 龍宮紅子は厚かましく吠えた。
「紅子先輩は高校二年生だろ。それに俺は紅子先輩の養子じゃない」根子ユイは龍宮紅子の頭をなでた。
「私の頭なでないでよ」龍宮紅子はそう言って、根子ユイの手を払った。
「その男はどうでもいいけど、『ピーポーピーポーピーポーピーポー』言いながら、龍宮家の落ちこぼれの紅子さんはその男を背負いながらカツ丼から逃げるなんて、やっぱり落ちこぼれね」と、清木スズ。
「落ちこぼれじゃないもん」
 龍宮紅子は口を尖らせた。
「あなたのどこが落ちこぼれじゃないというのです。トンカツのサバト事件で唯一トンカツにされてしまった掃除屋さんは紅子さん一人だけじゃないですか」と、清木スズは言った。
「うぐ」
 龍宮紅子は痛いところを突かれたようにうめいた。
「トンカツのサバト事件?トンカツにされてしまった?」と、根子ユイ。
「トンカツにされてしまった龍宮家の落ちこぼれの紅子さんは、『ピーポーピーポーピーポーピーポー』言いながら救急車になったつもりで、カツ丼に追い回されるのですね。そんな人生可哀想過ぎるのです。同情して笑ってあげます。ハハハハハハハ」
 清木スズは笑った。
「全国の掃除屋さん組合のホームページにある会員ページの今月七月の貢献度ランキングを見て」
 龍宮紅子はそう言った。
「貢献度ランキング。フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップの『龍宮城』にどれだけ多くの野生のゴミを売り飛ばしたかがわかるランキング。今月七月の貢献度ランキングを見ても、いつも通り、わたくしが2位ですよ」
 清木スズはそう言いながら、スマートフォンを取り出して操作し始めた。
「ほら、やはりわたくしが2位です」
 清木スズはそう言って、スマートフォンを龍宮紅子に見せつけた。
「え」
 龍宮紅子は驚いて口を開けたが、すぐ顔を緩ませた。
「1位を見て」と、龍宮紅子。
「1位はいつも通り、あなたの妹のてるりんじゃないのですか?」
 清子スズはスマートフォンをもう一度見た。
「そんな」
 清木スズは目を見開いて、驚いた。
「どうして、龍宮紅子が今月七月の貢献度ランキング1位になっているのです。あなたの妹のてるりんはどうしたのですか」
 清木スズはそう言った。
 紅子先輩は俺のフルーティなお尻の香りで野生のゴミを誘い出し、多くの野生のゴミを捕まえた。そして、フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』に多くの野生のゴミを売り飛ばした。そのおかげで、今月七月の貢献度ランキング1位になれたのだろう。しかし、妹のてるりんとは誰だ。根子ユイはそう思った。
「私の妹のてるりんが、なんで貢献度ランキング1位になっていないのかは知らないよ。あと、私が1位になったのは、日々筋トレしてるからだよ」
 龍宮紅子はそう答えた。
「たしかに図書館で本を使ったり、お風呂上がりに牛乳を使って筋トレしてたな」と、根子ユイ。
「本や牛乳を使って筋トレ?頭がぐるぐるしてきました」と、清木スズ。
「あ、ツッコミ入れた。この人、ツッコミができる人なのかな?」と、根子ユイ。
「わたくしはもっとハードな筋トレをしています。それなのに、龍宮家の落ちこぼれの紅子さんに今月七月の貢献度ランキングを追い抜かされるなんて……」と、清木スズ。
「どんなトレーニングをしているのですか?」
 根子ユイは清木スズに尋ねた。
「見せてあげます。三号、四号。そこにいるのはわかります。フォーメーション・マッスル」
 清木スズは両手から大きな皿を二枚だした。
「清木さん大好きマルガリータ」
 全身汗だくの太った男がどこからともなく現れた。
「清木さん大好きミルフィーユ」
 別な全身汗だくの太った男がどこからともなく現れた。
 二人の太った男が清木スズの出した大きな皿に飛び乗った。
「わたくしは、彼氏を使ってこのようにハードな筋トレをしています」と、清木スズ。
 清木スズは二枚の皿を持ち上げた。
「理解に困る。何で太った男を彼氏にしているの?そういう趣味?」
「私の趣味じゃありません。語尾がマルガリータの男は私の彼氏で最もピザが好きな男の三号です。私に特製ピザをプレゼントするため、ピザの試作を作っていました。しかし、そのピザの試作を食べ過ぎたせいで太ってしまったのです」
「マルガリータ」と、清木スズの彼氏で最もピザが好きな男の三号は吠えた。
「語尾がマルガリータになるほどピザ好きな男なのか」と、根子ユイは言った。
「語尾がミルフィーユの男は私の彼氏で最もスイーツが好きな男の四号です。私に特製スイーツをプレゼントするため、スイーツの試作を作っていました。しかし、そのスイーツの試作を食べ過ぎたせいで太ってしまったのです」
「ミルフィーユ」と、清木スズの彼氏で最もスイーツが好きな男の四号は吠えた。
「語尾がミルフィーユになるほどスイーツ好きな男なのか」と、根子ユイは言った。
「私はこのようにハードな筋トレをしています。しかし、何で私が龍宮家の落ちこぼれの紅子さんに今月七月の貢献度ランキングを追い抜かされるのですか」と、清木スズ。
「一度でもツッコミできる人だと思った俺がどうしようにもないバカだった」と、根子ユイ。
「龍宮家の落ちこぼれの紅子さんの養子はどうしようにもないバカですね。あなたの頭の残念さに同情して笑ってあげます。ハハハハハハ」と、清木スズは笑った。
「好きにしてくれ」と、根子ユイ。
「ところであなた、どうしてここに来たのよ」と、龍宮紅子。
「彼氏とデートです」と、清木スズ。
「どの彼氏とデートしてるんだ?」と、根子ユイは尋ねた。
「私の足元を見てください」と、清木スズ。
「料金1250円。料金1250円。料金1250円……」
 清木スズは四つん這いの全裸の男にまたがっていた。
「料金1250円。料金1250円。料金1250円……」
 全裸の男はつぶやいていた。全裸の男は体をぴくぴくと震わせている。
「料金1250円、料金1250円ってなによ?」と、龍宮紅子。
「この男は私の彼氏で最もタクシーな男の五号です。タクシーな男だから現在の料金をつぶやいているのです」と、清木スズ。
「理解に困るよ。タクシーになったつもりで女の人を乗せるなんて」と、龍宮紅子。
「救急車になったつもりで男の人を乗せるような人に比べれば。あなたの方が頭がぐるぐるしてきます」と、清木スズ。
「もう降ろすよ」と、龍宮紅子は根子ユイから納豆の糸をほどき、下ろした。
「やっと降りることができた。ところで、何でタクシーな男の五号さんは裸なんだ?」と、根子ユイ。
「特に意味はありません」と、清木スズ。
「意味なく裸だったら大変だ。ご町内の一般市民に猥褻物と警察に通報されたり、ご町内の女子高生は腰にぶらさげてるものを見てキャーキャー言ったり、腰にぶらさげてるものを見た小学生にはデケーカッコイイと言われたり。その意味のなさが大変な問題を生む」と、根子ユイは言った。
「ねぇ。どうして私が男の裸を見てキャーキャー言わないのか気にならない?」と、龍宮紅子は根子ユイの袖を掴んだ。
「お前は俺の家で全裸の俺を見て、スルーした方が面白そうだからと思ってスルーしただろ。それと同じくスルーした方が面白そうだからと思ってスルーしたんだろ」と、根子ユイ。
「あたりよ」と、龍宮紅子。
「落ちこぼれの紅子さんが男の家で男の裸を見たですって」
 清木スズは驚いた。
「凄く勘違いされそうな言い回しだな」と、根子ユイ。
「そうよ。男の家で男の裸を見た」と、龍宮紅子。
「まぁ事実だし」と、根子ユイ。
「まぁ」と、清木スズは顔を赤らめる。「龍宮家の落ちこぼれの紅子さんが私よりも早く、養子と養父でそんな関係になってるだなんて……」
「誤解されたね」と、根子ユイ。
「ちょっと、養父と養子って、養子は私じゃないの。私はどっちかというと養祖母よ」龍宮紅子は怒った。
「タクシー、登別温泉までお願いします。ごきげんよう」
 清木スズはまたがっている彼氏で最もタクシーな男に言った。
「ちょっと待った。これ、食べて」
 根子ユイはタクシーな男に乗った清木スズに野生のカツ丼を渡した。
「ううう……女子高生、女子高生じゃないか。それに彼氏をたくさん作ることのできるほど可愛い女子高生」
 野生のカツ丼はそう言った。
「このカツ丼、女子高生に食べられたいんだ」と、根子ユイは言った。
「女子高生?まぁ、いいです。わたくしは野生のカツ丼を忘れそうになりました。そのお礼に、この野生のカツ丼を食べてあげます。それでは本当に登別温泉までごきげんよう」
 清木スズはそう言いながら、箸を取り出し、野生のカツ丼を食べだした。
「女子高生に食べられてる、女子高生に食べられてる幸せ幸せ」と、野生のカツ丼は喜ぶ。
「追いかけマルガリータ」と、彼氏で最もピザ好きな男は清木スズを追いかけた。
「俺も追いかけてミルフィーユ」と、彼氏で最もスイーツ好きな男は清木スズを追いかけた。
「ところで、登別温泉って何だ?」根子ユイは龍宮紅子に聞いた。
「そんなこと私に聞いて何の意味があるの?そんなことより、トンカツのサバト事件や、私がどうしてトンカツになったか聞かないの?」龍宮紅子は根子ユイに言った。
「どうしてトンカツが怖すぎて現実逃避で救急車になるのかもオプションで頼む」
 根子ユイはそう言った。

「三年前。ある町。野生のトンカツが大量発生してたのよ」と、龍宮紅子は話始めた。
「どうしてその町で野生のトンカツが大量発生したんだ?」と、根子ユイは尋ねる。
「そのある町ではトンカツが名物だったからよ。
 大量発生した野生のトンカツは集まって組合を作った。
 通称『トンカツ労働組合』
 そして、『トンカツ労働組合』はストライキをした」
「なんで野生のトンカツたちはストライキをしたんだ」
「トンカツになった豚には色々な豚がいたの。
 豚レースの豚になりたくて、牧場を走り回っていた豚。
 トリュフを探すための豚になりたくて、牧草の臭いを嗅ぎ回っていた豚。
 ラーメンのチャーシューになりたくて、ラーメンを食べてばかりいた豚。
 女子高生の彼女を作りたくて、女子高生の気持ちをわかるためギャルゲばかりしていた豚。
 ブロードウェイのミュージカルスターになりたくて、踊っていた豚。
 色々な夢を持った豚がいたの。
 でも、トランス脂肪酸のたっぷり入ったギトギトのトンカツになったのよ」
「どうして豚がギャルゲをしたり、ラーメンを食べたりしたんだ?」
「教養のある豚肉を売るために、最近の養豚場では豚に教養を身につけさせているらしいよ」
「最近の養豚場はそんなことをしないといけないほど、切羽詰っているのか。不景気のなせる業だな」
「『トンカツ労働組合』によるトンカツのストライキで、
 トンカツが名物の町ではトンカツを食べることができなくなったのよ。
 トンカツ屋さんは代わりにチクワをカツにすることによって、難をしのいでいたのよ」
「チクワのカツしか食べることができなくなったのに、掃除屋さんはまだ出動しなかったのか?」
「ストライキだからまだ出動してなかったの。
 ストライキは労働基準法で定められているのよ。
 だから、野生のトンカツには手を出せなかった」
「法律で定められているのなら仕方がないね」
「あれが起きるまで掃除屋さんたちは野生のトンカツに手をだすことができなかった」
「あれって?」
「ストライキがエスカレートしたの。
 野生のトンカツがその町の人たちをカツにし始めたの。
 人間に対する恨みが暴走したのね。
 暴力行為はストライキじゃなくて、刑事罰の対象よ。
 でも、野生のトンカツは野生のゴミ。
 全国の掃除屋さん組合はこの事件を何とかするために、そのトンカツが名物の町に掃除屋さんで優秀な人材が派遣されたの」
「何でお前も行ったんだ?」
「私は掃除屋さん名門龍宮家の娘よ」
「掃除屋さん名門龍宮家?」
「そう、はるか昔から野生のゴミと戦っていた名門龍宮家。
 第二次世界大戦は野生のロケットランチャーRPGー7と戦い
 江戸時代は野生の徳川埋蔵金と戦い
 縄文時代は貝塚に捨てられた野生の土器や野生の魚の骨と戦い
 ジュラ紀は野生のティラノザウルスと戦ったと伝えられている名門龍宮家」
「ティラノザウルスがいるのはジュラ紀じゃなくて、白亜紀だぞ」
「そう伝えられているんだから仕方がないのよ」
「そう伝えられているのなら仕方がないね」
「その龍宮家は後にリサイクルショップ『龍宮城』になったの。
『龍宮城』はリサイクルショップだけじゃなく、掃除屋さん講座を開講したり、全国の掃除屋さん組合の運営を行ったりしてるの。
 そして、掃除屋さんとして野生のゴミと戦う仲間を増やすため、フランチャイズしたの」
「フランチャイズって権利やノウハウをお金をあげて与えるっていう奴だよな。
 よくCMに流れるコンビニもフランチャイズで権利をもらえば、夫婦で開業することできるしな。苗字から薄々感じてはいたが、お前、フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』の社長の娘だったのか」
「うん。古くから掃除屋さんをやっている名門龍宮家の娘として優秀な掃除屋さんになるため、そのトンカツが名物の町に研修しに行ったのよ」
「私の体の中には当時から公務員の納豆の豆太郎さんが入っていた。
 でもね、私の納豆は野生のトンカツたちには無力だった。
 野生のトンカツがフライパンで納豆をカツにしたの。
 私も野生のトンカツに大きなフライパンでカツにされてしまったのよ」
「それでトンカツが嫌いになったのか」
「そう、私はカツにされたことによって、全治三週間の火傷を負ったの。
 私はトンカツになって救急車で病院に搬送される中、こう思ったのよ。
 トンカツから救急車で逃げたいって」
「それでトンカツを見ると思わず現実逃避して救急車になってしまうようになったのか」
「そうよ」
「ところで、清木スズは?」
「あの子は当時の全国の掃除屋さん組合で1位の実力を誇っていた天才掃除屋さん小学生だったのよ」
「清木スズは小学生ってことは……今は?」
「清川スズは中学二年生よ」
「目の前に小学生にしか見えない高校二年生がいるから意外だな」
「私は厚かましいおばさんに見られたいのよ」
「しかし、やっちまったな。女子高生に食べられたい野生のカツ丼を女子中学生に食べさせてしまった」
「話を続けます。
 清川スズは野生のトンカツたちに、回転する皿を投げつけて野生のトンカツを一口サイズにしたの。回転する皿は野生のトンカツを切ることができたのよ。
 そして、清川スズは厚かましいおばさんに、一口サイズになった野生のトンカツを美味しく食べさせたのよ。厚かましいおばさんは、厚かましいから野生のトンカツでも食べることができるの。厚かましくない人は野生のトンカツを食べたら食中毒になることを心配するのよ。だって、お化けを体の中に入れるもの。普通の人だったら食中毒を心配しちゃう」
「それで厚かましいおばさんに憧れを抱いたのか」
「うん」
「ところで、さっき妹もいるようなこと言ってたけど、妹も来てたのか」
「そう。妹は龍宮家一の天才だった。龍宮照子。みんなはてるりんって呼んでいるのよ。
 この野生のトンカツの事件を終わらせたのもてるりん。
 てるりんの中に派遣された公務員のゴミは公務員の洗濯機。
 てるりんは野生のトンカツたちの衣を洗濯したのよ。てるりんは洗濯機を出して、野生のトンカツたちの衣を全て吸い込んだ。
 野生のトンカツたちは裸になって、恥ずかしさのあまりに降伏したのよ。
 そして、野生のトンカツたちはフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』に売り飛ばされて、『トンカツ労働組合』は壊滅したの」
「掃除屋さんの能力って、体の中に派遣された公務員のゴミに依存してるんじゃないのか」
「そんなことはないの。公務員のゴミは掃除屋さんを媒介にして能力を発動するの。たとえ体の中に派遣された公務員のゴミが大災害を起こしていようが、悪戯を起こしていようが、公務員のゴミの能力は掃除屋さんに依存するのよ」
「たしかに、キミの納豆の紐は解けてしまうことがある」
「『トンカツ労働組合』を壊滅させた龍宮家の天才である私の妹に比べて、まだ私は弱い。私はもっと強くならいないといけない」
「今日、ちゃんこ鍋作るか」
「え?」
「ちゃんこ鍋だよ。ぷにぷにとした鶏もも肉やシャキシャキとした長ネギが入ってる」
「それはわかるけど」
 龍宮紅子はきょとんとする。
「俺の作るちゃんこ鍋食べたくないのか?美味しいぞ」
 根子ユイは龍宮紅子の頭をなでた。
「……うん。食べてあげるから、頭なでないで」と、龍宮紅子。
 根子ユイたちはスーパーに立ち寄り、ちゃんこ鍋の具を買った。
 そして、この日の夜、ちゃんこ鍋を食べて寝た。

       

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Neetsha