Neetel Inside ニートノベル
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野生のパンツ
6章 野生のパンツ

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 オカマバーの前。
「でっかい」と、感想を述べる龍宮紅子。「私、てっきり貸ビルの二階にあるような小さいものかと思ってた」
「まるで帝国ホテルのレストランですね」と、清木スズ。
「清木スズ、帝国ホテルのレストランで食事したことあるのか?」と尋ねる根子ユイ。
「ありません」と、清木スズ。
「貧乏なのに見栄を貼るなよ。しかし、たしかにファミレスの豪華版くらいのような大きな建物だ」と、根子ユイ。
「さっそく喧嘩売りに行くよ」
 龍宮紅子はそう言って、オカマバーに走り込んだ。
「紅子先輩、オカマバーに入るのは危険だ」
 根子ユイはそう注意したが、龍宮紅子は聞いていなかった。
「小学生が入っちゃいけないのでございます」
 龍宮紅子は綺麗な女性にオカマバーをつまみ出された。
「私、小学生じゃないもん。厚かましいおばさんだもん」と、龍宮紅子は怒った。
「身分証明書は?」と、その綺麗な女性は龍宮紅子に尋ねた。
「美味しかった」と、龍宮紅子は言った。
 綺麗な女性は無言でオカマバーのドアを閉めた。
「『身分証明書は?』って聞かれたとき、どうすればよかったのかな?」と、龍宮紅子は俺を見上げて尋ねた。
「学生証を見せれば良かったんじゃないかな」と、根子ユイ。
「でも、私、高校二年生だから結局オカマバーに入れないじゃん」と、龍宮紅子。
「そうだね。未成年がオカマバーに入るのは危険なんだ」と、根子ユイ。
「ちなみに、あの綺麗な女性。わたくしの彼氏で最もピザが好きな男の三号です」と、清木スズ。
「あの『マルガリータ』が語尾の太った男か?変わるもんだなあ。あんなに美しくなったらオカマバーのママになってしまうのは当然なんだろうな」と、根子ユイ。
「次はわたくしの番ですね。わたくしの彼氏で最もピザが好きな男の三号の彼女です。うまくオカマバーに入って見せます」と、清木スズ。

「いつもより多く回っています。いつもより多く回っています。清木スズです。清木スズです」
 清木スズはオカマバーの入口で、回転寿司の皿の上に乗り、激しく回転した。
 しかし、清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だったオカマは清木スズをつまみ出した。
「わけがわからない。清木スズは何がしたかったんだろう」と、根子ユイ。
「理解に困るね」と、龍宮紅子。
「一発芸でオカマバーに入ることができると思いました」と、清木スズ。
「一発芸でオカマバーに入ることができると思うなんて発送が幼稚ね。やっぱり中学生」と、龍宮紅子。
「『身分証明書は?』と聞かれて『美味しかった』と答える人よりマシだ」と、根子ユイ。
「あまりにも回りすぎて、オカマバーでお酒を飲む前に酔ってしまいました。うぷ」と、口を抑えた。
「お酒飲むためにここに来たんじゃないだろ。当初の目的を忘れるなよ」と、根子ユイ。
「私、今の清木スズが安心してゲロすることができるような、清木スズにふさわしいトイレを探してくる。次、ユイの番だからオカマバーに挑戦してみて」と、龍宮紅子。
 龍宮紅子は清木スズの背中をなでながら、トイレを探しに行った。
「俺も一発芸しなければいけないのか?まぁ、わかった」と、根子ユイ。

 根子ユイはオカマバーの入口の前に来た。
「一発芸と言われてもなあ……そうだ。誰が聞いても笑ってしまうため、地球が笑い出して地球が爆発し、宇宙も笑って宇宙がビッグバンを起こし、時空は笑ってこの世界のありとあらゆる事象を全て消し去ってしまう大爆笑ギャグがあった。しかし、危険だ。
 下手したら俺の命が危ない。人生が三度あっても、俺の命が危ない」
 根子ユイはそうブツブツとつぶやいた。
「だが、俺はどうしてもこのオカマバーに入らなければいけない。死んでしまった紅子先輩や清木スズのためにも。それを考えたら三度の人生なんてくれてやる。俺は絶対オカマバーに入ってやる」
 根子ユイはそう叫んだ。
「うおおおおおおおお」
 根子ユイは雄叫びを上げながらオカマバーに突撃した。
「俺は大爆笑ギャグをするぞ。誰が聞いても笑ってしまうため、地球が笑い出して地球が爆発し、宇宙も笑って宇宙がビッグバンを起こし、時空は笑ってこの世界のありとあらゆる事象を全て消し去ってしまう大爆笑ギャグを聞け」
 根子ユイは清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だったオカマにそう言った。
「どうぞ、お入りするのでございます」
 清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だったオカマはそう言った。
「今、なんて?」と、根子ユイは尋ねた。
「どうぞ、お入りするのでございます」
 清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だったオカマはそう言った。
「あ、ありがとうございます」
 根子ユイはそう言ってオカマバーに入った。
「清木スズがゲロのせいで、紅子先輩が清木スズの介抱してしまい、俺だけでオカマバーに入入ることになって気分が盛り下がってしまったから、紅子先輩と清木スズが死んだとベタな妄想ネタをして、色々葛藤して気分を盛り上げて主人公の劇的選択をして、誰が聞いても笑ってしまうため、地球が笑い出して地球が爆発し、宇宙も笑って宇宙がビッグバンを起こし、時空は笑ってこの世界のありとあらゆる事象を全て消し去ってしまう大爆笑ギャグをしようとしたのに拍子抜けだな」
 根子ユイは句点を使わず、ぶつぶつと冗長な台詞を吐いた。
「しかし、なんで、俺は一発芸をしなくても良かったんだろ。一般的な高校生に見えるはずだしな」と、根子ユイは独り言を言った。
「あら、可愛い子。食べちゃいたい」
 根子ユイ目掛けて、オカマが飛んできた。
「あなたは食パンにバターを塗るタイプ?それともマーガリンを塗るタイプ?それとも……キャッ」
 その飛んできたオカマは食パンだった。
 食パンは黄色い声を上げた。
 その食パンには苺ジャムが塗られていた。
「この食パン、ひょっとしてオカマの食パンか。オシャレとして苺ジャムを塗っているのか」と、根子ユイ。
「そうよ。文句ある?」と、オカマの食パンは言った。
「キャー。可愛い。私も食べちゃいたい」
 根子ユイ目掛けて、もう一匹のオカマが飛んできた。
 そのオカマはプラスチック容器に入っていた。
「納豆の豆子さんを食べようとした、野生の沢庵の漬物の彼氏の野生のヨーグルト。可愛らしいイチゴなんかつけて女装したつもりか」と、根子ユイは驚いた。
 そう、そのプラスチック容器に入っていたオカマはヨーグルトだった。ヨーグルトにはイチゴが入っていた。
「そうよ。イチゴをいれて女装したつもりよ。私はイチゴを入れてるほどオシャレに気をつかうオカマのヨーグルトよ。私のこと知ってるなんて、嬉しいわね。ヨーグルトかけちゃう」
 ヨーグルトはそう言って、白濁の液体を根子ユイに浴びせた。
「このヨーグルト、俺のこと忘れてるのか?脳みそがないから記憶力もないのか?」
「あなたみたいな社長と同じ香りのするイケメン、忘れるわけないじゃないの。見た目も社長と同じイケメンよ」
 ヨーグルトはそう言った。
「社長と同じイケメン?」
 根子ユイに悪寒が走った。
「そういえば、社長さん。今週の金曜午後八時に野生のゴミの親睦会をここで予約していたわね」と、食パンは言った。
「新しいプロジェクト立ち上げたから、その話をしたいらしいわよ」と、ヨーグルトは言った。
「俺が社長と同じイケメンだって?凄く嫌な予感がする。ちょっと、トイレどこですか?」と、根子ユイ。
「トイレはあっちにあるわ」と、ヨーグルト。
「わかった」
 根子ユイはトイレに飛んで行った。

 根子ユイは鏡を見て、顔を青ざめた。いや、人間だったとしたら顔を青ざめている。
「俺が顔を青ざめたら、水玉パンツだ」
 根子ユイは鏡を見ながらそう言った。
 鏡には浮かんでいるパンツが映っていた。おまけに猫のイラストがついた猫パンツだ。
「俺は野生の猫パンツになってしまったようだ」
 猫パンツはそう言った。
「猫パンツになってしまったから、野生のヨーグルトは俺の姿を見ても誰だかわからなかったのか」
『人間ゴミは16歳の誕生日を過ぎると、徐々にゴミとしての性質が浮かび上がり、ある日突然、野生のゴミになるのです』
 猫パンツの頭がどこにあるかわからないが、根子パンツの頭の中で清木スズの言葉がこだました。
「俺は人間ゴミだったのか。ゴミとしての性質は、フルーティな香りなんだろう。フルーティな香りによって、野生のゴミが俺におびき寄せられていたのもフルーティな香りなんだ。16歳の誕生日に電子レンジでパンツを温めるような人生になりかけたのも、冷蔵庫でパンツを冷やすような人生になりそうになったのも、ゴミとしての性質が浮かび上がったからなんだ」
 猫パンツはそう説明した。
「のこのこ一人で説明してる場合じゃない。とりあえず、豆子ちゃんを探そう」
 猫パンツはトイレから出た。

「パンツちゃん。お酒飲まないの?」
 オカマのヨーグルトはトイレから出てきた猫パンツにそう尋ねた。
「未成年者飲酒禁止法で禁じられているので飲めません」と、猫パンツは言った。
「あははは。パンツちゃん。おもしろーい」
 オカマのヨーグルトはそう言った。
「何が面白いんだ?」と、猫パンツは聞いた。
「だって、未成年飲酒禁止法で取り締まれるのは人間よ。でも、あなたはパンツ。パンツだからお酒を飲んでもいいのよ」
 オカマのヨーグルトはそう言った。
「そうか。ここに入ったとき、俺はパンツになっていたから入れたのか。パンツはお酒を飲むことができるからか。俺は人間だ。パンツじゃねえ。人間だからお酒なんて飲まない」と、猫パンツは言った。
「やっぱり面白いパンツ」と、オカマのヨーグルト。
「ねぇねぇ、お酒は飲まないとして何か注文するの?」と、オカマの食パンは猫パンツに近寄った。
「納豆ある?」と、猫パンツは言った。
「ごめん。納豆はメニューにないの。でも、納豆はいるわよ。豆子ちょっと来なさい」と、オカマのヨーグルトは言った。
「はい……」
 納豆は糸でビールを運んでいた。この納豆は元気がなさそうな様子である。
「何か用ですか?」と、納豆が言った。
「豆子さん。ここで何しているんですか?」と、猫パンツが聞いた。
「えっと……」と、納豆が何か言おうとする。
「オーッホッホッホ。豆子、働きなさい。働くのよ。無駄口はいいからさっさとビールを運びなさい」
 沢庵の漬物がムチで叩いていた。
「沢庵の漬物が豆子さんをムチで叩いている」と、猫パンツは言った。
「痛い痛い」と、納豆は痛がっていた。
「豆子さんが辛そう。助けます」と、猫パンツは飛んだ。
「きゃあ」と、納豆の悲鳴。
 猫パンツは納豆をパンツの中に入れた。
「しまった。豆子が捕まってしまった」と、沢庵の漬物が言った。
「あのパンツ速いわよ」と、オカマのヨーグルト。
 猫パンツは布なので、速く空を飛ぶことができた。
「あなたは……くんくん。このフルーティな香り……ひょっとして私のお父さんの職場が居候している先の大家のユイさん?」と、納豆は尋ねた。
「ああ」と、猫パンツは空を飛びながら答えた。

「一発芸、カッパです」
 清木スズは頭の上に皿を乗せた。
「不合格」
 オカマバーのドアの前にいた清木スズの彼氏で最もピザが好きな男は言った。
「一発芸、東京タワー」
 龍宮紅子は納豆の紐であやとりをした。
「不合格」
 清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だった美人はオカマバーの入口で言った。
「どうして私を合格にしてくれないの?」
 龍宮紅子はそう清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だった美人に尋ねた。
「だって、未成年者保護法で禁止されているのでございます。一発芸で入れるなんて、未成年者保護法を甘く見てはいけないでございます」
 清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だった美人はそう言った。
「ユイはどうやって入ったのかしら」と、龍宮紅子。
「一発芸だけに一発、芸をしたんじゃないのですか。オカマバーの前ですし、ユイさんは男ですし」と、清木スズ。
「あ。言ったね。言いたくても我慢してたのに。あまりにもくだらなすぎるから、言いたくても我慢してたのに。酷いじゃないの」
 龍宮紅子は怒った。
「我慢したら体に毒ですよ。我慢しないで言えばいいじゃないですか」と、清木スズ。
「わかった。ユイは芸よ。ユイは芸よ」
 龍宮紅子は大声で騒いだ。
 オカマバーから猫パンツが飛び出てきた。
「うぐ」
 その猫パンツが龍宮紅子の顔に当たる。
「誰だ。俺を芸だと言うのは」と、納豆の入った猫パンツが言った。
「野生のゴミ材派遣会社の社長」と、清木スズは回転寿司の皿を両手に持つ。
「俺だ。信じてもらえないかもしれないが、根子ユイだ」と、猫パンツが言った。
「自分のことをユイだと言う野生の猫パンツ」と、龍宮紅子。
 龍宮紅子は顔に張り付いたパンツを拾い上げた。
「そうよ。この野生のパンツさんはユイさんよ」と、猫パンツの中に入っていた納豆が言った。
「豆子ちゃん。無事だったの?」と、龍宮紅子が尋ねた。
 龍宮紅子は猫パンツから納豆を取り出して抱きしめた。
「龍宮家の落ちこぼれの龍宮紅子。そのパンツは危険です。あなたの妹を誘惑し、愛人にしたゴミ材派遣会社の社長にそっくりな猫パンツです。あなたも愛人二号さん。いや、三号さん四号さんにされてしまうのかもしれませんよ。おそらく、その納豆も愛人にされてしまい、その猫パンツのことをユイさんだと言っているのに違いないのです。愛人を作るパンツなんて最低です。女の敵です。愛人を作るパンツはカビの生えたパンツです」
 清木スズはそう言った。
「鏡見ろ鏡」と、猫パンツが言った。
 清木スズは手鏡を取り出して、鏡を見る。
「私の顔とにらめっこしても、あまり面白くないですね」と、清木スズ。
「そうだね」と、猫パンツ。
「理解に困る清木スズの行動はさておき、あなたがユイだという証拠はあるの?」と、龍宮紅子は聞いた。
「俺の目を見ろ」と、猫パンツは言った。
「……」
 龍宮紅子は猫パンツをにらみつけた。
「目はどこにあるの?猫のイラストしかないよ」と、龍宮紅子。
「そうだった。今、俺は猫パンツだった」と、猫パンツ。
「自分が猫パンツなのに、『俺の目を見ろ』なんて言うなんて、人間だったとしか考えられないね」と、龍宮紅子。
「その猫パンツが人間ゴミだったのはいいとして、どうやって根子ユイだと特定するのですか?ひょっとしたら、あなたの父親かもしれないのですよ?」と、清木スズ。
「私の父親?たしかに、私の父親はフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』の社長。ゴミ材派遣会社の社長も猫パンツ。パンツだということが、社長の貫禄。パンツだということが、社長の証拠」と、龍宮紅子は言った。
「大きくなったな紅子」と、猫パンツが言った。
「私、まだ小さいのに大きくなったって認めてくれた……やっと、私のこと認めてくれるのね。私……強くなれたんだ……」と、龍宮紅子。
「もう、あなたは落ちこぼれではなく、立派な龍宮家の後継です」と、清木スズは拍手する。
 龍宮紅子は猫パンツを強く抱きしめた。
「クライマックスごっこで、心にもないことを言ったら、また吐き気がしてしまいました。龍宮家の落ちこぼれの龍宮紅子は龍宮家の落ちこぼれです」と、清木スズ。
「猫パンツが父親だという冗談はさておき、どうやって俺のことをユイだと証明しよう」と、根子ユイ。
「そうだ。父親ではなく、母親なら証明できるんじゃない?」と、龍宮紅子は言った。
「そうですね。子種を仕込んだ殿方がパンツかどうかわかりますし」と、清木スズ。
「ちょっと待て。俺の親父がパンツだというのは冗談じゃないのか」と、根子ユイ。
「人間ゴミがゴミになった姿は父親似です」と、清木スズ。
「私もお父さんに似て納豆だね」と、納豆。

 龍宮紅子と清木スズと猫パンツは根子ユイの家に帰った。全裸の男ではないタクシーで家に帰った。また、タクシー代は龍宮紅子が野生のゴミを売って稼いだお金で支払った。
「豆子、無事だったか」
 龍宮紅子の体に単身赴任している納豆の豆太郎は外に出てきて、納豆の豆子さんとの再会を楽しんでいた。
「母さん。俺が猫パンツだなんていったいどういうことなんだ」
 猫パンツはパソコンのビデオ通話でフランスにいた母親と会話していた。
「ユイちゃん?やっぱり、パンツになったのね」と、根子ユイの母親が言った。
「母さん。どうして俺がパンツになることを知っていたのなら、教えてくれなかったんだ」と、猫パンツが言った。
「当たり前のように会話しています。じゃあ、あのパンツは根子ユイですね」と、清木スズ。
「当たり前のように会話してるね。じゃあ、あのパンツはユイね」と、龍宮紅子。
「ユイちゃん。ママが『16歳……何かあったかな?』と聞いたとき、なんて答えたか覚えてる?」と、根子ユイの母親。
「それがどうしたんだ?」と、猫パンツ。
「ユイちゃんは『何もなかった』と、答えた。それで私はユイちゃんがゴミにならないものだと思っていた。本当は何かあったんじゃないの?」と、根子ユイの母親。
「母さん。ごめん。俺心配かけさせたくないと思って、野生の電子レンジと野生の冷蔵庫を俺のフルーティな香りがするお尻で誘惑させたことを言わなかった」と、猫パンツ。
「やっぱり。あなたのゴミとしての性質は父親似なのね」と、根子ユイの母親。
「俺の父親はどういうパンツなんだ?」と、猫パンツは尋ねた。
「私と私の夫の出会いについて教えるべきときが来たようね」と、根子ユイの母親。
「ああ、聞かせてくれ」と、猫パンツ。
「あなたのお父さんが野生のゴミじゃないとき、試験管ベイビーのパンツだったのよ」と、根子ユイの母親。
「え」と、猫パンツ。
 パソコンの後ろから話を聞いていた龍宮紅子と清木スズも目を見開いた。
「理解に困る。いったいどうツッコミ、じゃなくて反応をしたらいいのかが」と、龍宮紅子。
「全くわかりません。頭がぐるぐるしてきちゃいました」と、清木スズ。
「同居人のお父さんが試験管ベイビーのパンツだったなんて」と、頭を抑える龍宮紅子。
「本当に頭がぐるぐるしちゃうような話です……」と、清木スズも頭を抑えた。
「今から20年くらい前、大学院の博士課程だった私はどんな男も魅了させるパンツを作り出そうとしていた。それで、私は同じ大学の他学科にいた遺伝子工学の教授にかけあって、パンツの遺伝子を操作して、どんな男も一撃で魅了させるパンツにする方法を尋ねたのよ」と、根子ユイの母親は説明した。
「パンツの遺伝子を操作する方法を聞かれた教授は何て答えたんだ?」と、猫パンツ。
「『パンツに遺伝子あるわけないだろバカ』って答えたのよ」と、根子ユイの母親。
「そりゃそうだ」と、猫パンツ。
「でもね、その遺伝子工学の教授のゼミを受けてもいいことになったの。その教授のゼミで遺伝子工学を勉強した。そして、私は思いついたのよ」
「何を思いついたんだ?」
「パンツの遺伝子を作る方法を。私はパンダの遺伝子を操作すればパンツの遺伝子を作ることができるんじゃないかと考えたのよ」
「どうしてパンダの遺伝子を操作したらパンツの遺伝子になるんだ?」
「だって、パンダとパンツ、一文字違いじゃない」
「わけがわからない。だって、PANDAとPANTS、二文字違いだろ」
「このパンツの母親、元素の組成を変えてしまう秘密道具の産みの親になれそうですね」
 後ろでパンツとパンツの母親の会話を聞いていた清木スズが言った。
「理解に困るから、その秘密道具の産みの親になれるかどうかは化学の先生に聞いて」
 頭を抑えながら龍宮紅子が言った。
「そして私はパンダの遺伝子にパンツの型紙を書き込んで、パンツの遺伝子を作り出した」
「パンツの遺伝子を作り出したらノーベル賞ものじゃないの?」と、パソコンの影から龍宮紅子が言った。
「遺伝子工学は最近ですと蜘蛛の糸を出すヤギや光る猫を作り出したそうです。パンツの遺伝子を作り出すことはノーベル賞が貰えるくらい凄いことではないのだと思います」と、パソコンの影から清木スズ。
「なるほど。ユイの母親がパンツの遺伝子を作り出しても私が知らないわけね。私は蜘蛛の糸を出すヤギや光る猫を知らない。それと同様に知らないのね」と、パソコンの影から龍宮紅子。
「あなたのお父さんも猫パンツだった。猫のイラストがついてたのよ。パンダの遺伝子を使った名残ね。パンダはネコ目の動物だから、猫のイラストがついたんじゃないかしら。
 私はパンツの遺伝子から作り出した精子を人間の卵に受精させた受精卵を作ることにより、どんな男も魅了させるパンツを作り出すことができるのではないかと考えた」
「どうして、そう考えたんだ?」と、猫パンツは尋ねた。
「人間の女性が持つ性フェロモンによって、男性を発情させることができると考えたの。
 私は自分の卵を卵巣から取り出し、パンツの遺伝子から作り出した精子を人間の卵に受精させ、受精卵を作り出した。そして、その受精卵を試験管の中で育てた。
 その後、受精卵を私の子宮膣に戻した。数ヶ月後、私はパンツを出産した。
 産婦人科の先生は驚いていたわ。パンツを産んだ人は始めてだって」
「そりゃそうだ」
「こうして、どんな男も魅了させるパンツは完成した……はずだった」と、根子ユイの母親は言った。
「はずだった?」
「私は実験をした。
 SD法のアンケートで不細工だと強い有意差が出た凄い不細工な女性の被験者にこのパンツを履かせて、男の人を誘惑してもらった。
 履く前と履かない前で、SD法のアンケートで美少女だと強い有意差が出たのよ」
「つまりどういうことだ?」
「つまり、そのSD法のアンケートで不細工だと強い有意差が出た凄い不細工な女性の被験者がパンツを履いた後、統計的に美少女になったのよ。
 私は他のSD法のアンケートで不細工だと強い有意差が出た凄い不細工な女性の被験者に対して実験をするために、そのSD法のアンケートで不細工だと強い有意差が出た凄い不細工な女性の被験者からどんな男でも魅了させてしまうパンツを脱がした」
「SD法のアンケートで不細工だと強い有意差が出た凄い不細工って、大学教授のくせして凄く長ったらしい表現使ってるね」と、龍宮紅子。
「今、いいところだから黙ってください」と、清木スズ。
「パンツを脱いだ後、不細工は死んでしまった。
 そう、そのどんな男でも魅了させてしまうパンツは女性ホルモンを急激に活性化させるパンツだった。急激に活性化した女性ホルモンは、このパンツを脱いだときに急激に沈静化する。この急激な落差によって、女性ホルモンの激しい乱れが起きるのよ。そして、その激しい女性ホルモンの乱れによって起きた激しい生理痛によって死んでしまうのだと、私は考察した。
 私はこの危険なパンツを、放射性廃棄物と一緒に危険物として厳重に処理をした。
 その後、危険だと考え、私はパンツを遺伝子工学からアプローチして研究するのをやめた。そして、私はパンツをデザイン工学からアプローチして研究するようになったのよ」
「親父が作り出されて、ゴミになるまでの過程はわかった。どうして俺ができたのかが知りたい」と、猫パンツが言った。
「その夜、私の家に何者かが窓から入ってきた。私はその何者かにこう尋ねた。
『下着泥棒?』と。
 すると、その何者かはこう言った。
『下着だにゃん』
 そう、私の作りだしたパンツは野生のパンツになっていたの。
 私はその野生のパンツと同棲した。
 同棲してから数ヵ月たったある日、当時付き合ってた彼氏と別れたのよ。
 その彼氏、新しい彼氏を作ったのよ。
 私と付き合ってたのは同性愛者であることを隠して、その男にアプローチをかけるために付き合ってたみたい。
 私がどんな男も魅了させるパンツを作ったのは、彼氏を誘惑するためだった。
 でも、私が彼氏を誘惑できなかったのは彼が同性愛者だったから。
 私はショックで一日中泣いていた。
 そんな泣いている私を慰めたのが同棲していたパンツだったのよ。
 私を慰めた後、私の前からパンツは去った。やるだけやった癖に。私のこと体目的だったみたい。
 そして、パンツが慰めてくれて生まれたのが、ユイちゃんよ。
 私は彼氏とパンツに裏切られた。でも、子供が生まれたの。
 私はもう彼氏を作らないことを決めて、子供を大切に育てた。もうこんな裏切りを味わいたくない。私と結びついてくれる信頼の糸を持った子。そういう願いを込め、名前を結いにしたの」
「……」
 根子ユイは黙った。
「出生の秘密を知って相当ショックを受けたようね」と、パソコンの後ろで二人の会話を聞いていた龍宮紅子。
「母が産んだパンツとの間にできた子供。つまり近親相姦ですね。近親相姦な上、勢い任せでできてしまったあげく、母親を簡単に捨てた男との間にできた子供だなんて」と、パソコンの後ろで二人の会話を聞いていた清木スズ。
「ところで、俺の親父は食中毒で死んだという話は?」と、猫パンツ。
「うん。あれ嘘。さすがにパンツが私の子供を作って捨てただなんて、大きくなってからじゃないと言えないもの」と、根子ユイの母親。
「俺、親父を一発殴りたい……」と、猫パンツ。
「今、なんて」と、根子ユイの母親。
「母さん。おフランスで忙しいのにありがとう。元気でね」
「うん。ユイも元気で」と、根子ユイの母親は言った。
 猫パンツはそう言ってマウスを操作して、ビデオ通話を切った。
「これで俺が根子ユイだということを信じていただけましたか?」と、猫パンツが言った。
「あなたの出生の秘密の方が信じられないから、信じていただいてあげる」と、龍宮紅子。
「試験管ベイビーのパンツだったり、パンダの遺伝子を操作してパンツの遺伝子を作り出したり、パンツを脱いだら激しい生理痛で死んだり、放射性廃棄物と一緒に危険物として厳重に捨てられたり、あなたの母親の元彼が同性愛者だったり、近親相姦だったり、全く頭がぐるぐるしちゃう話でした。こんな話を聞いた後じゃ、パンツが根子ユイだってことを信じないわけにはいけません」と、清木スズ。
「親父を殴りに行く。女一人で俺を育ててくれた母さんを捨てた親父を」と、猫パンツが言った。
「あなた、親父の猫パンツがどこにいるか知ってるの?」と、龍宮紅子。
「ひょっとして……」と、清木スズ。
「おそらく、紅子先輩の妹と駆け落ちしたゴミ材派遣会社の社長が猫パンツだ」と、根子ユイ。
「どうしてそう思うの?」と、龍宮紅子は聞いた。
「俺はイケメンだからだ」と、猫パンツが言った。
「自分からイケメンって言うなんて、どうかしてます」と、清木スズ。
「俺は社長と同じ香りがして、社長に似たイケメンだと、オカマのヨーグルトに言われたんだ」と、猫パンツ。
「てるりんは野生のどんな男も魅了させてしまうパンツを被ってたということですか?そうですか。てるりんが私に勝てたのはそのパンツを頭に被ったことによって、女性ホルモンが急激に活性化して強くなったから勝てたのですね」と、清木スズ。
「つまり、てるりんは頭に被った野生のパンツを脱ぐと、女性ホルモンが急激に沈静化して、激しい生理痛が起きて死んでしまうってこと?てるりんが危ない」と、龍宮紅子。
「どうやって、てるりんがパンツを脱いでも、激しい生理痛が起きないようにするのですか?」清木スズは龍宮紅子に尋ねた。
「それは……元々男だったこのパンツをペロペロと舐めさせれば、男性ホルモンが急激に増加して、女性ホルモンを急激に沈静化させることにより激しい生理痛が相対されるかもしれない」と、龍宮紅子。
「少し、考えていることを整理して言うのです。頭がぐるぐるしてきちゃいます。それに、社長の居場所を知っているのですか?」
 清木スズは猫パンツにそう尋ねた。
「金曜午後八時、オカマバーで野生のゴミたちの親睦会が行われる」と、猫パンツは言った。
「金曜午後八時、オカマバーで野生のゴミたちの親睦会が行われる」
 龍宮紅子と清木スズは復唱した。
「そこに行けば野生のゴミ材派遣会社の社長、俺の親父に会えるはずだ」と、猫パンツ。
「私も金曜午後八時、オカマバーに行く。妹のてるりんを助けるため」と、龍宮紅子。
「わたくしも金曜午後八時、オカマバーに行きます。わたくしの彼氏を取り返すため」と、清木スズ。
「でも、わたくしたち、芸じゃないとオカマバーに入る事ができないのじゃないですか?また、門前払いです」と、清木スズ。
「そうね。ユイは野生のパンツだからいいけど、私たちは野生のパンツじゃない。どうしようかしら」と、龍宮紅子が言った。
「俺、心あたりがある」と、猫パンツが言った。
「どこに心があるの?」と尋ねる龍宮紅子。
「フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップの『龍宮城』」と、猫パンツは言った。

       

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