Neetel Inside ニートノベル
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野生のパンツ
5章 登別温泉

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 根子ユイと龍宮紅子はタクシーを捕まえた。もちろん、龍宮紅子が納豆の糸を出して、走行中のタクシーを納豆の糸で縛り上げた。
 そして、根子ユイと龍宮紅子はタクシーに乗った。
「ところで、どうして人間ゴミはゴミの日に野生のゴミになるんだ?」と、根子ユイは龍宮紅子に尋ねた。
「龍宮家にはこんな言い伝えがあるのよ。
 昔、昔、群馬県にとても美しい女の人と野生のエジプトのピラミッドの夫婦がいました」竜宮紅子は話し始めた。
「エジプトのピラミッドって昔は群馬県にもいたのか。鳥取砂丘にはいてもおかしくないが、群馬県にいるとは意外だな」と、根子ユイ。
「美しい女の人と野生のエジプトのピラミッドは群馬県で共に仲良く暮らしていました。
 そんなある日、美しい女の人と野生のエジプトのピラミッドはカレーライスを食べていると、美しい女の人は『カレーライスのジャガイモが大きすぎる』と言いました。
 野生のエジプトのピラミッドは
『大きな野生のエジプトのピラミッドが作ったカレーだから、大きなジャガイモを使うのは当然だ。小さなジャガイモのカレーライスを食べたければ、たまには自分で作りなさい』
 と、言いました。
 すると、美しい女の人は
『野生のエジプトのピラミッドと離婚して、小さなジャガイモでカレーライスを作る人と結婚してやる』
 と、言いました」
「夫婦喧嘩の原因はやっぱり食べ物なんだな」と、根子ユイ。
「美しい女の人は群馬県にあるエジプトの市役所に離婚届けを出しました」
「群馬県にエジプトの市役所があるのか」と、根子ユイ。
「昔は群馬県にもエジプトの市役所があったのよ」
「群馬県って凄いなあ」
「美しい女の人は札幌や小樽、室蘭や北見など世界の各地を旅していました」
「北海道の各地のようなんだが」
「そう、美しい女の人が旅をしていた世界は北海道だったのです。だから、美しい女の人は野生の北海道と結婚しました」
「え」
「北海道はじゃがいもの名産地よ」
「なるほど」
「野生の北海道と美しい女の人はアパートを借りて六畳一間で同棲していました」
「野生の北海道がどうやってアパートを借りたんだ?」
「大家さんに入居の申し込みをして」
「なるほど。それならアパートを借りることができたな」
「『野生の北海道の稚内がとがってるよお』と、美しい女の人は嬉々と声を上げました」
 北海道の稚内は日本の最北端にある市である。
「美しい女の人は野生の北海道と子供を四人作りました。四人とも人間でした。
 その四人娘はすくすく成長し、可愛らしい四人娘になりました。
 しかし、ある日、野生のエジプトのピラミッドがやってきました。
 そのとき、美しい女の人は小さなじゃがいものカレーライスを食べていました。
 野生のエジプトのピラミッドは小さなジャガイモの入ったカレーライスを作ることのできる野生の北海道に嫉妬しました。嫉妬心から、野生のエジプトは野生の北海道を包丁で刺し殺そうとしました。
 しかし、野生のエジプトのピラミッドは返り討ちにあいました。
 なんと、野生のエジプトのピラミッドの心臓に、野生の北海道の稚内が突き刺さったのです。
 野生のエジプトのピラミッドは野生の北海道と美しい女の人の美しい家庭を恨みました。その恨みで子供達にファラオの呪いをかけたのです。
 ファラオの呪いがかかった四人娘はなんと母親似の人間ではなく、父親似の北海道になってしまいました。
 そして四人娘は北方領土となり、野生の北海道の隣に寄り添ったのでした。
 こうして、人間と野生のゴミの間に生まれた子供は16歳になるとある日突然、ゴミの日に野生のゴミになってしまうのです」
「豆子さんはそれで納豆になってしまったのか。頭が痛くなるくらい、信じられない話だな」と、根子ユイ。
「エジプトのピラミッドは砂漠でさみしそうにそびえ立っている。
 北方領土は北海道に寄り添うよう海に浮かんでいる。
 それと同様に16歳のある日突然、ゴミの日に野生のゴミになる。
 だから、この話は信じられているのよ」
「一番信じられないのは野生の徳川埋蔵金や野生のティラノザウルスと戦っていた頃から存在した龍宮家が、明治時代の廃藩置県で誕生した群馬県が出てくる話を信じてる点だ」
「あなた、群馬県をバカにしてるの?」
「神様が七日間で世界を作ったり、二匹の神様が矛でかき混ぜて日本を作ったり、そんな神話が信じられるくらいだな。群馬県なんて細かい問題どうでもいいな」
「お客さん、登別温泉ってどこの温泉ですか?」と、タクシーの運転手が尋ねた。
「登別っていうくらいだから、登別にあるんじゃないのか?」と、根子ユイは尋ねた。
「登別に登別温泉はあります。ですが、登別温泉は九種類ありますし、登別温泉に入れるホテルはたくさんあります」と、タクシーの運転手。
「たくさん」と、根子ユイと龍宮紅子は驚いた。
「とりあえず、登別の温泉街にあるタクシー乗り場につきましたよ」と、タクシーの運転手が言った。
「ユイ、どうやって清木スズを探すの?」と、龍宮紅子が聞いた。
「うーん」
 根子ユイは考えた。
「そうだ。清木スズはタクシーに乗っていた」
 根子ユイは手を叩いた。
「タクシーの運転手さん?」と、根子ユイはタクシーの運転手に尋ねた。
「お客さん。何ですか?」と、タクシーの運転手。
「全裸のタクシーな男に乗った女を知りませんか?」と、根子ユイは尋ねた。
「お客さん。そんなことより、お金払ってください」
 タクシーの運転手はそう言って手を出した。
「高い」と、根子ユイは言った。
「私が払う。ユイのお尻のフルーティな香りでおびき寄せて野生のゴミを捕まえ、野生のゴミをフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』に売り飛ばして、貰ったお金よ」と、龍宮紅子はタクシーの運転手にお金を差出した。

「全裸のタクシーな男に乗った女を知りませんか?」
 根子ユイは登別駅のタクシー乗り場でタクシーの運転手に聞いていた。
「知らん」と、タクシーの運転手。
 根子ユイはタクシーのドアを閉めた。
 そして、後ろで待機していた他のタクシーのドアを開ける。
「全裸のタクシーな男に乗った女を知りませんか?」
「バカにすんな」と、タクシーの運転手。
 根子ユイはタクシーのドアを閉め、隣のタクシーのドアを開けた。
「全裸のタクシーな男に乗った女を知りませんか?」
「ふざけるな」
 タクシーの運転手は外に出て、根子ユイを蹴り飛ばした。
 根子ユイは転び、後頭部を強く打ち付けた。
 タクシーの運転手はタクシーの中に戻った。
「いたたたた」と、根子ユイは頭を抑えた。
「大丈夫?」と、龍宮紅子は根子ユイに駆け寄った。
「これくらい、さっきのわけがわからない言い伝えに比べれば、そんなに痛くない」と、根子ユイ。
「龍宮家の言い伝えがそんなに頭痛くなるような話だったの?」と、龍宮紅子は言った。「そんなことより、どうしてあなたは頭を打ち付けるほど頑張るの?野生の夏休みの宿題のスキンケアをしたり、野生の相撲取りのフィギュアと相撲をしたり、あなたは人のために頑張るのはどうして?」と、龍宮紅子が尋ねた。
「母親が一人で俺を育ててくれたからかな」と、根子ユイ。
「おフランスに出張して下着を研究してる母親?」と、龍宮紅子が尋ねた。
「うん。例えば、俺が病気で寝ていたとき、徹夜で温かいパンツを縫ってくれた。あのパンツはあたたかくて気持ちよかった。俺は徹夜で温かいパンツを縫うような母親を見て、人のために頑張りたいって思うようになったんだろうな」と、根子ユイ。
「私にはそんな両親いなかった」と、龍宮紅子。
「どんな両親がたいんだ」と、根子ユイは聞いた。
「私が小学生の頃、微分や積分を私にやらせるような両親」
「そういえば、昔、微分や積分をやっていたと言ってたな」と、根子ユイ。
「私を名門龍宮家の後継として育てるために、立派な掃除屋さんになるための教育をしていたの。
 それで教育として小学生の私に微分や積分をやらせてた。私は微分や積分を泣きながらやっていた。
『これは将来あなたが名門龍宮家の立派な後継ぎにするためにやってることなのよ』と言われて育ってきた。
 私は小学生の頃、微分や積分ができたから天才だと思ってた。
 でも、私は結局、落ちこぼれになってしまった。納豆の豆子ちゃんを守れず、野生のトンカツにトンカツにされる落ちこぼれ。
 そもそも小学生の頃に勉強すれば、微分や積分なんて誰だってできるものよ。
 中学生の頃、勉強するのに疲れてしまったのよ。小学生の頃から微分や積分をやっていたから。勉強をやめたとたん、私の頭から微分や積分が家出していった。だから、あなたと同じ偏差値の高校に入学した」
「そうか。それで小学生の頃、微分や積分をやっていても、俺と同じ高校に入学したのか」
「それに、私の妹のてるりんが私よりもできていた。小学生の頃、微分や積分を有限要素法や差分法を自分で編み出して解いていた大天才だった。私は勉強してやっとできたけど、てるりんは自分で閃いた」
「有限尿素法や差分法?何だか難しそうだな」と、根子ユイ。
「あなたが要素を尿素と聞き間違えるくらい難しいの。
 私の両親は天才のてるりんをちやほやした。
 てるりんはトンカツの衣を洗濯して、トンカツのサバト事件を終わらせた大天才。
 両親はてるりんを龍宮家の後継にするつもりだった。
『どうして小学校の頃、微分や積分ができた紅子ちゃんが、中学生になっても有限尿素法や差分法で積分や微分ができないのかしら』と母親が口癖のように言ってた。
 母親は有限要素法を有限尿素法と間違えるくらい有限要素法を理解してないのに。
 それにてるりんは女子中学生と言っても信じてもらえないくらい、私より背の高いモデル体型だった。
 そんな家庭がいたたまれなくなって、高校生になったら一人暮らしを始めたのよ」
「ひょっとして、キミが図書室の本や牛乳瓶で筋トレするのも、これに関係した事柄?」と、根子ユイは聞いた。
「うん。私はいつか両親を見返したい。だから、強い掃除屋さんになるため、筋トレをしていたのよ。でも、あなたのフルーティな香りのお尻を使って見返しても、私の実力じゃない。私はまだまだ落ちこぼれ」と、龍宮紅子は言った。
「紅子先輩は色々大変なんだな」と、根子ユイ。
「しかし、タクシーの運転手に『全裸のタクシーな男に乗った女を知りませんか』と、聞いても清木スズの居場所がわからないね。どうしようかしら」と、龍宮紅子。
「清木スズは登別に来たんだ。登別温泉ホテルのどこかにいるに違いない」と、根子ユイ。

 登別は見渡せば、ホテル旅館、ホテル旅館、ホテルばかり。見渡す建物すべてがホテルや旅館だと思ってしまうくらいの温泉街だった。
 根子ユイは片っ端からホテルに入り、『全裸のタクシーな男に乗った女を知りませんか』と尋ね回った。旅館の従業員は不思議そうな顔をして『わらかない』と言って追い返した。
 中には『バカにすんな』と、根子ユイを蹴り飛ばす旅館の従業員もいた。

 そして、日が暮れた。
「清木スズが見つからなかった」と、根子ユイ。
「お腹もすいているし、帰ろう」と、龍宮紅子。
「せっかく登別に来たんだ。登別で何か食べようぜ」根子ユイはそう提案した。

 登別温泉街にある川沿いの道は浴衣を羽織った観光客で賑わっていた。
「夏休みだから、混んでるね」と、根子ユイ。
「そろそろ花火上がるみたいだね」と、スマートフォンを見ながら龍宮紅子が言った。
 根子ユイと龍宮紅子は並んで歩いていた。
「野外回転コンビニのおにぎりを食べながら、花火を見よう」「野外回転寿司なんてロマンチック」
 ひと組のカップルがそう言いながら通り過ぎていった。
「野外回転コンビニ?登別にはそんなものもあるのか」と、根子ユイ。
「面白そう。あのカップルについていこうよ」と、龍宮紅子。
 
 カップルが歩いた先には野外回転コンビニがあった。
 野外回転コンビニは川沿いの広場の上にあった。
 回転寿司の皿が大量に浮かび、輪を作って回っていた。
 その回転寿司の皿の上にコンビニのおにぎりや菓子パンが乗っていた。
「回転寿司の皿が浮かんでる」と、根子ユイ。
「こんなことができるなんて、回転寿司の皿を使うことができる清木スズしか考えられない」と、龍宮紅子。
「いらっしゃいませ」
 清木スズはそう挨拶した。回転寿司の輪の中に清木スズが立っていた。清木スズはCMによく流れるフランチャイズ方式でお馴染みのコンビニの制服を着ていた。
「こんなところで、何をしているんだ?」と、根子ユイは聞いた。
「アルバイトです。見てわからないのですか?」と、清木スズが言った。
「どうして値段の高そうなキラキラしたドレス、値段の高そうな美容院で手入れしたような高そうな長い髪の毛をしているのにバイトする必要があるんだ?」と、根子ユイ。
「そんなことより豆子ちゃんを返しなさい」と、龍宮紅子。
「その訳は花火が終わったら話してあげます」と、清木スズ。
「花火が終わるまで晩御飯食べているか」と、根子ユイ。
「私、晩御飯にソーダアイス食べる」
 龍宮紅子はそう言って袋に包まれたソーダアイスが乗った回転寿司の皿を手にとった。
「俺、アイスモナカ」
 根子ユイはそう言って袋に包まれたアイスモナカが乗った回転寿司の皿を手にとった。
 根子ユイと龍宮紅子は回転寿司の皿の上にあるアイスを取った。
「ところで、どうしてこのコンビニのおにぎりや菓子パンやアイスは冷蔵ショーケースに入ってなくても大丈夫なんだ?」
「保存料がたっぷり入ってるからじゃない?」と、龍宮紅子。
「お金は回転寿司の皿の上に置いてくれれば大丈夫です」と、清木スズ。
 根子ユイと龍宮紅子は皿の上にお金を置いた。皿は浮かびながら清木スズに向かって飛んでいき、清木スズの体に戻っていった。
「あたためますか?」と、清木スズは尋ねた。
「あたためます」と、根子ユイ。
「私もあたためます」と、龍宮紅子。
「あちらのコンビニの電子レンジで温めてください。また、電子レンジに入れる前には袋を少し開けてからお食べください。そうしないと、電子レンジの中でアイスが爆発して、電子レンジが使えなくなってしまいます」
 清木スズはそう言った。

「なんで私がアイスの棒を舐めなければならないのよ」
 龍宮紅子は口に入れながら怒った。
 龍宮紅子と根子ユイは隣り合わせで、登別の川沿いにあるベンチに座っていた。
「俺の真似してアイスを電子レンジに入れるからだろ。電子レンジで温めたアイスモナカはほかほかサクサクして美味しいんだぜ?」と、根子ユイは言った。
「ソーダ味、温かいソーダ味。味はすれど、お腹は膨らまない」と、龍宮紅子はアイスの棒を舐めていた。
 根子ユイはアイスモナカを折り、半分にした。
「紅子先輩、アイスモナカ食べるか?」
 根子ユイは龍宮紅子にアイスモナカを渡した。
「ありがとう」と、龍宮紅子が言った。
 龍宮紅子は半分になったアイスモナカを食べた。
 根子ユイと龍宮紅子は花火を見た。

「それでは訳を聞かせてもらおうか」
 コンビニから値段の高そうなキラキラしたドレスをまた身につけた清木スズに対して、根子ユイは尋ねた。
「まず、全裸のタクシーな彼氏さんはどうしたの?」と、龍宮紅子。
「自分の美しさに気がついてしまい、オカマバーのママになってしまいまったのです」
「一日でその彼氏さんはどうしたんだ」と、根子ユイは驚いた。
「私の彼氏で最もピザが好きな男も、私の彼氏で最もスイーツが好きな男も、みんなみんな自分の美しさに気がついてしまい、オカマバーのママになってしまったのです」と、清木スズは言った。
「どうしてオカマバーのママになる必要性があるんだ」と、根子ユイ。
「詳しく話して」と、龍宮紅子は言った。
「わたくしは彼氏で最もタクシーな男に乗って、この登別まで来ました」と、清木スズ。
「よくあの四つん這いの姿勢でここまで来れたな。女の子を乗っけて」と、根子ユイ。
「登別でわたくしはあなたの妹のてるりんに会いました」と、清木スズ。
「私の妹のてるりんが登別温泉にいたって」と、龍宮紅子は驚いた。「てるりんは何をしていたの?」
「てるりんはパンツを頭に被っていました」と、清木スズ。
「私の妹がパンツを頭に被っていたって?」と、龍宮紅子は驚いた。
「パンツに猫のイラストがついた猫パンツです。
 さらにてるりんの後ろには野生のクローゼットが浮かんでいたのです。
 わたくしは彼氏で最もタクシーな男に乗り、捕まえた野生のゴミを乗せた皿を積み重ねて浮かばせて、登別の温泉街に来ていました。
『てるりん、どうして貢献度ランキングに載っておらず、頭にパンツをかぶっているのですか?』
 私はそのようにてるりんに聞きました。
『てるりんね。野生のゴミ材派遣会社の社長の愛人さんになったんだよ』
 てるりんはそう答えました。
『その愛人さんって?』と、わたくしは聞きました。
『今、頭に被ってる猫パンツさんだよ。凄くぴっかぴかでカッコイイでしょ』と、てるりん。
『にゃにゃにゃ。夢と希望がたっぷりつまった皆のアイドルネコパンツだにゃん。よろしくするにゃん』と、てるりんの頭に被ったパンツが言いました。
『なんで名門龍宮家の娘が、野生のゴミ材派遣会社の社長さんの愛人にならないといけないのですか?』と、わたくしは聞きました。
『だってだって、洗濯機とパンツは結ばれる運命なんだよ』と、てるりんは言いました」
「私の妹のてるりんはパンツと駆け落ちしたから、貢献度ランキングに載ってなかったのね。それにしても、パンツと駆け落ちしてパンツの愛人だなんて……」と、龍宮紅子は言った。
「『頭がぐるぐるしてきました。これ以上頭がぐるぐるするのが嫌であまり聞きたくないのですが、どうして登別温泉に来たのですか?』わたくしはそう聞きました。
『野生のゴミ材派遣会社の幹部たちの社員旅行で登別に来たんだよ』と、てるりんは言いました。
『バカなことしないでください』と、わたくしはそう言いました。
『あらー?その股の下にいる男、いいモノ持ってるわね』と、後ろにいた野生のクローゼットが言いました。
『え、私のモノがいいモノだって?恥ずかしい』
 私の彼氏で最もタクシーな男は体を縮ませて恥ずかしがりました」
「その前に全裸であることを恥ずかしがれ。ついでにキミもそんな全裸な男を彼氏にしてる事実を恥ずかしがれ」と、根子ユイは言った。
「話のコシを折るようなツッコミしないでよ」と、龍宮紅子。
「そうです。空気を読んでください」と、清木スズ。
「ツッコミしてごめん。続けて続けて」と、根子ユイは話を続けさせた。
「『可愛いわねえ。今度私が経営する予定のオカマバーのママにしたい。いいわ。自分の美しさに気がつかせて、オカマバーのママにしてあげる』と、野生のクローゼットは言いました。
 なんと、野生のクローゼットは自分を開いて、野生のクローゼットの中からドレスを飛ばしてきました。そして、わたくしの彼氏で最もタクシーな男にドレスを着せて、美少女にしたのです。
 野生のクローゼットはわたくしの彼氏で最もタクシーな男に鏡を見せたのです。
『これが新しいあなたの姿よ』と、野生のクローゼットは言いました。
『これが私……服着てる。私ってこんなに美しかったんだ。今まで裸だったから気がつかなかった。裸だった頃の私が恥ずかしくなってきた……』と、わたくしの彼氏で最もタクシーな男は顔を赤らめ、恥ずかしがりました。
『わたくしの彼氏で最もタクシーな男が自分の美しさに気がついてしまいました』と、わたくしは言いました。『彼氏料のボーナスを払うからわたくしのタクシーに戻りなさい』と、わたくしは財布を投げつけました」
「彼氏料?」と、根子ユイは尋ねた。
「そう。私はフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』に野生のゴミを売り飛ばして稼いだお金を彼氏料やオシャレに当てているのです。
 しかし、最もタクシーな男は『そんな彼氏料いらない。美しい私にそんな彼氏料のような汚いお金は似合わない』と、彼氏料のボーナスを受け取りませんでした。
『あら、後ろにもいい素材がいるわね』と、野生のクローゼットは言いました。
『マルガリータ』と、私の彼氏で最もピザが好きな男の三号さんは吠えました。
『ミルフィーユ』と、私の彼氏で最もスイーツが好きな男の四号さんは吠えました。
 私を追いかけて、普通のタクシーに乗って最もピザが好きな男の三号さんと最もスイーツが好きな男の四号さんはついてきたのです。
『そこの二人も自分の美しさに気がつかせて、オカマバーのママにしてあげるわ』
 野生のクローゼットは開いて、ドレスを飛ばしてきました。
『彼氏は二人とも野生のクローゼットに渡さない』
 私はそう言って、体を隠すくらい大きな回転寿司の皿を出して、二人を守りました。
『マルガリータ』『ミルフィーユ』と、私の彼氏たちは怯えました。
『スズちゃん知ってる?洗濯機の回転の方が回転寿司の皿よりよく回るんだよ』
 てるりんはそう言って洗濯機から出る水流を回転寿司の皿に打ち付けました。
 洗濯機の回転は回転寿司の皿の回転よりもよく回るので、私の回転寿司の皿は空の彼方に飛ばされました。
『アハハ。空の彼方に飛んでった』と、てるりんは言いました。
『てるりん。なんで、あなたは野生のゴミを手伝うのですか』と、てるりんはそう聞いた。
『私は野生のゴミ材派遣会社の社長の愛人さんだよ。愛する社長が経営する野生のゴミ材派遣会社に関連するオカマバーの繁栄を願うのは当然だよ』と、てるりんは言いました。
『つまり、てるりんは敵ってことですね』と、わたくしは言いました。
『そうなの?理解に困っちゃうんだけど、その二人を渡してくれないなら、てるりん戦っちゃうもん』と、てるりんは言いました。
 こうしてわたくしとてるりんは、わたくしの二人の彼氏を取り合うために、戦いました。
 わたくしは回転寿司の皿を手裏剣のように投げつけました。
 しかし、てるりんは洗濯機でわたくしの回転寿司の皿を洗濯しました」
「洗濯機に食器を入れたら、食器が割れてしまって危険だ」と、根子ユイ。
「てるりんは食器用洗剤を洗濯機に入れていたので、私の回転寿司の皿は綺麗に洗うことができました。わたくしはてるりんの洗濯機から出る水流で回転させられ、てるりんに負けてしまいました。
 野生のクローゼットは私の彼氏たちにドレスを着せ、鏡を見せました。
『私がこんなに綺麗だなんて驚いたでございます』と、私の彼氏で最もピザが好きな男の三号さんが言いました。
『私も、自分自身の美しさに気がついてしまったのでございます』と、私の彼氏で最もスイーツが好きな男の四号さんも驚きました。
 私の二人の彼氏は驚いて、痩せてしまいました」
「語尾がミルフィーユやマルガリータじゃなく『ございます』だなんて普通の語尾になってしまったのか」と、根子ユイも驚いた。
「そう。そして。
『にゃにゃにゃ。この掃除屋さん、野生のゴミ持ってるようにゃん。てるりん、回収して私の会社の社員にするにゃん』
 野生の猫パンツはそう言いました。
 私が捕まえたヨーグルトや沢庵、納豆はてるりんの洗濯機の中に吸い込まれました。
 これが私に起きたことです。
 私は帰りのタクシー代がありませんでした。なぜなら、財布を投げつけてしまったからです。
 北海道で『投げる』という言葉は『捨てる』を意味しております。
 帰りのタクシー代がないので、コンビニのアルバイトをしてお金を稼いでいました。
 それで野外コンビニを始めたという訳です」
「豆子ちゃんが野生のゴミ材派遣会社の社員になってしまうのか?」と、根子ユイ。
「豆子ちゃんが野生のゴミ材派遣会社に入社したら、虐められてしまう。なぜなら、豆子ちゃんのお父さんは公務員だからよ。公務員になって、他の野生のゴミを捕まえてる。だから虐められてしまう。そもそも夏休みだった豆子ちゃんが会社なんかに入ったら、ずっと夏休みがなくなっちゃう。清木スズ、いったいどうしてくれるのよ」
 龍宮紅子は清木スズの肩を揺らした。
「……」
 清木スズはうつむいて、龍宮紅子に揺らされていた。
「待てよ。たとえ彼氏料を払っていたといえ、三人いる清木スズの彼氏が全員、清木スズを見捨てて、オカマバーで働いてしまった清木スズの心境を考えてみろ」
 根子ユイは龍宮紅子に言った。
「三人いる彼氏が全員、オカマバーで働いてしまった心境……」
 龍宮紅子は揺らすのをやめて、そう言った。
「一人でも彼氏が自分を見捨ててオカマバーに働くのでもショックが大きそうなのに、それが三人だなんて、ショックも三倍なのね」と、龍宮紅子は納得した。
「どうして、わたくしが彼氏料を払ってでも彼氏を欲しがる理由を知りたくないのですか?」と、清木スズは聞いた。
「ショックで自分語りがしたくなったのね」と、龍宮紅子。
「どうせ知りたくないと言っても、話したそうだから、勝手に話せ」と、根子ユイ。
「はい。勝手に話します。
 わたくしは小学校低学年のころ、地味な子でした。
 髪はボサボサで、服も茶色とか地味系統でした。
 わたくしの家はお金持ちではなく、貧乏で毎日こんにゃくを食べて、回転寿司など食べることができませんでした。
 当時、同じクラスのある男の子が好きでした。その男の子は彼女を二人以上持っていました。
 なので、私は安易にその男の子を彼氏にできるものばかりと思っていました。
 わたくしは彼氏にしてとその男の子にお願いしました。
 しかし、その男の子は『鈴木ちゃんだっけ、地味だから僕の彼女にしないよ』と、言いました。
 わたくしはそれで派手になりたいと思い、小学校低学年から掃除屋さんで働いたのです。
 そして、わたくしは小学生の頃から掃除屋さんで稼いだお金をオシャレと彼氏料に費やして派手になったのです。
 ついでに話し方もお嬢様っぽく話すように、ですます口調で話すようになりました。
 そして、回転寿司など食べることができなかったわたくしは回転ハンサムをして遊ぶことができるほど彼氏料を稼ぐようになりました」
「回転ハンサム?」と、龍宮紅子は聞いた。
「回転寿司の皿の上に彼氏料を払った彼氏を乗せて、ぐるぐる輪のように回すのです」
「自分語りしたらスッキリしたか?」と、根子ユイは聞いた。
「スッキリしました」と、清木スズ。
「しかし、これからどうする?」と、根子ユイ。
「行きましょう。オカマバーに」と、龍宮紅子。
「ええ。私も行きます。オカマバーに」と、清木スズ。
「そうだな。夕飯食べて、清木スズが自分語りしたら、ちょうどオカマバー行くのにふさわしい時間になったな」と、根子ユイは言った。
「この会話だけ聞くと、酒を飲むためだけにオカマバーに行くような不健全な会話に聞こえるので、理由を付け加えましょうよ」と、龍宮紅子。
「そうですね」と、清木スズ。
「ああ」と、根子ユイ。
「行きましょう。オカマバーに」と、龍宮紅子。「豆子ちゃんを取り返すために」
「ええ。私も行きます。オカマバーに」と、清木スズ。「私の彼氏を取り返すために」
「そうだな。夕飯食べて、清木スズが自分語りしたら、ちょうどオカマバー行くのにふさわしい時間だな」と、根子ユイは言った。「何も言うことがないから補足を加えた俺」
「ところで、どうやって野生のゴミ派遣会社が経営してるオカマバーに行くの?」と、龍宮紅子。
「今はスマートフォンで検索できるから便利だよね。あ、公式サイトあった」と、根子ユイ。
 根子ユイはスマートフォンで野生のゴミ材派遣会社と関連するオカマバーの公式サイトにアクセスした。
「ご丁寧に地図まで書いてる。ここからタクシーで登別駅まで行って終電が終わるまで電車で行ける距離にある。よし、行こう」
 根子ユイはそう言った。

       

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