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『小鬼の太刀』外伝小説:陰陽師の家
第3話 牛鬼

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『あの、えっと、失礼ですが
 千葉様は道場を出られた後の仁九郎殿のこと
 まったくご存じないのでしょうか?』

  「はは、こう見えても、ここは全国各地に支部がある道場でな。
   ワシのところにも、人づてでいろいろと情報は入ってくる。
   仁九郎についても話は聞いておる。
   問題は、あ奴について、信じがたい話が次々と伝わってくることだ。
   ある人物から聞いた話と、別の人物の話の内容が、矛盾することもある。   
   宿の娘が話したこととか、蕎麦屋の主人から聞いたこととか、情報源も雑多だ。
   何が真実やら判らぬから、当面は判断を保留しておるのだ。
   しかし、賀茂殿の言った牛鬼討伐の話ははじめて聞いた…。」

     


     



『それは大変失礼しました。
 そういうことでしたら、私としても是非続きをお話しさせていただきたく存じます。
 千葉様にとっては、良い判断材料になるかもしれません。
 そうだ!
 私どもが牛鬼を斃したことについてですが
 奉行所に問い合わせていただきますと、確認が取れると思います。
 先ほども申しましたとおり、奉行所の方から討伐依頼があったのです。
 私は牛鬼討伐の功を認められまして、賞状と賞金を頂いておりますので。』

  「確実な話だと言いたいのだな。
   よし、聞こう。
   こちらが何を話すべきかは、そのあとで決めさせていただこう。」

『それで結構でございます。
 ただ、一点だけご注意ください。
 牛鬼討伐を遂げた後、私が奉行所に届け出ましたとき、仁九郎殿は辞退されました。
 ですから、お上の方では、牛鬼討伐は私1人の功績と記録されているはずです。
 ですが、実際には、牛鬼を斃したのは仁九郎殿なのです。
 その、仁九郎殿が褒賞は不要だと言うのでゴニョゴニョ…』

  「よいよい。
   仁九郎がどうやって牛鬼を斃したか、そのこところを話してくれ。」

『あ、はい。
 仁九郎殿は「空の太刀」を2本と、ほかに妖怪刀を1本所持していました。』

     


     


  「妖怪刀には必ず名前があるはずじゃが、奴は何か言っておらんかったか?」

『「がしゃどくろ」と呼んでいました。
 切れ味は悪いのですが、もの凄く硬い刀身でした。
 牛鬼の攻撃を、ことごとく弾き返すという』

  「!?」

『私も最初は目を疑いました。
 何しろ、私が得意としていた術式の防壁を、牛鬼は一撃で壊してしまったのです。
 簡易式とは言え、数枚の護符を用いたのですが。              
 その重い攻撃を、幾ら受けてもびくともしないのですから。』           

  「ふ~む。
   がしゃどくろ…か。
   で、その妖怪刀で牛鬼を斃したのか?」

『いえ。それは…。
 その刀は耐久度は申し分ないのですが、切れ味は悪かったようで。
 牛鬼の殻には小さな傷しか付けられなかったのです。』

  「ますます興味深いな。
   仁九郎めがどうやって牛鬼を斃しおったか。」

『実は、私が秘策を用いまして。
 牛鬼の前足を切断しました(コホン)。
 もちろん、前足を折ったくらいで、牛鬼は倒れません。
 仁九郎殿は、切断された牛鬼の足を「がしゃどくろ」の先に刺して
 即席で巨大な斧を作ったのです。 
 その大斧で、牛鬼を倒したのです。』                    

  「なるほどの。
   牛鬼自身の前足で作った斧なら、牛鬼の硬い殻にも通じる…か。
   ブツブツブツ…。」


『あの、千葉様?』

  「おっと、いや、面白いの。
   しかし、牛鬼ほどの妖怪となれば、簡単には倒れまい?
   まさか一撃か?」

『いえ、流石に一撃というわけには参りません。
 仁九郎殿は先ず牛鬼の脳髄に一撃をお見舞いしたのですが
 それでも奴は一向に倒れませんで。
 決着が付くまで、一刻(30分)は要したと思います。
 そのときは、もっと長い時間に感じましたが…。』

  「一刻も全力で戦い続ければ、ワシでも息が上がる。
   稽古でもあるまし、せいぜい半刻(15分)
   あるいはもっと短い時間だったろう。
   まあ、それはよい。
   しかし、賀茂殿の『秘策』とやらが気になるの。
   それが無ければ、仁九郎の攻撃は牛鬼に通じなかったかもしれず
   結果的に戦いに敗れておったかもしれんな。」

『秘策ですか?
 それは、あの、私のほとんど唯一の奥の手なので、ちょっと、その…。』

  「わはは、それを聞こうとするのは、欲張りが過ぎるか。
   いやいや、許せ。」

(この爺さん、何か油断ならないな…。)

  「それでは、話を変えよう。
   仁九郎が『斧』で戦っている間、賀茂殿は何をしておられたかな?
   差支えなければ、教えていただきたい。」

『その後は、本当にただ見ていただけです。
 あとは仁九郎殿が独りで牛鬼と戦ったのです。』

  「仁九郎は牛鬼の攻撃を幾度も受けて、無傷だったのか?」

『無傷ではありませんが、充分の余力を残していました。
 何しろ牛鬼を倒したあと、そのまま直ぐに妖怪刀を作りに取り掛かったのですから。
 牛鬼討伐よりも、むしろ妖怪刀を作るときの方が痛々しく…
 思い出しただけでも、鳥肌が立ちそうです。』

  「その妖怪刀づくりの話は、後回しとしよう。
   話の本筋とはあまり関係なさそうだからの。
   どうも仁九郎は、ワシが思っておるより、更に数段腕を上げたようだ。
   それはともかく、賀茂殿と仁九郎との関係について、他に聞いておくべきことは
   無いかの?
   牛鬼の妖力を「空の太刀」に封じた後、賀茂殿は仁九郎とすぐ別れたのかな?」

『いえ、仁九郎殿は牛鬼の妖力を封じるのに力を使い果たして
 意識を失って倒れ込んでいました。
 仁九郎殿が倒れていたのを、私が見つけて介抱したのです。
 その後、数日を共に過ごしまして…
 まあ、ちょっとした知り合いになったというわけです。
 あっ、出来たばかりの妖怪刀を鞘に入れたのも私です。
 抜き身で転がっていて、危うく魅入ってしまうところでした。』



                  (つづく)





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