Neetel Inside ニートノベル
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『小鬼の太刀』外伝小説:陰陽師の家
第1話 道場

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 …
 …
 …ハァ

『もう、結構、登ったよな?
 あと、どれ程、登らせるのか…』

 …
 …
 …
 …
 …ハァ フー


『こんな、山奥に
 道場なんかつくって、ハァ
 ちゃんと、門弟が集まるのかね、ハァ フー』

 …
 …
 …
 …
 …フー フー


『この暑さ
 汗が、止まらん、フー フー』

 …
 …
 …
 …
 …フー フー


『あっ、山門か
 やっと見えた、ハァ ハァ
 この位、仁九郎ならば余裕か…
 いや、奴ならばとっくにフンドシ一丁になってたかもな。
 はは、ははは、ハァヒー ヒー』           

(一人で無駄口を叩いていたら余計疲れてしまった…)
 …
 …
 … ゼエー

 
『ゼエ― やっと、やっと着いた
 こういう
 シンドいことは
 嫌いなのに ゼエー ヒー』

(息が整うまで、しばらく休もう。)
 …
 …ハァ ハァ
 …
 …
 …ハー
 …
 ………スー





『ふう。さあてと…
 妙見不動流の道場はこの寺の山門をくぐって左手側の建物、のはずだが 
 …
 …
 どう見ても、これは…寺の講堂だよな?』

     


(剣戟の音がしない。
 かといって読経の声も聞こえてこないが。)

『他に情報はない
 しばらく様子を見るか。ブツブツ』

 …
 …
 …
 …
 …

(僧形の人以外、出入りはない
 中は静かなまま
 それにこの寺の詫びた雰囲気…
 仁九郎に似つかわしい場所とは思えないな。)

『さて、どうしたものか
 麓まで戻ってもう一度確認するのは、幾らなんでも面倒だ
 仁九郎がここに居たという情報がそもそも間違っていたか?
 (だとすると、とんでもない無駄足だな。)
 ブツブツ』

 …
 …




  「何かお探しかの?」 

     


     


『うわっ!』

  「む、これは失礼。
   驚かせてしまったか。」

『い、いや。
 ち、ちょっと、あれこれ考え事をしていたもので
 それで気づきませんでした。
 (…老人?
  足音一つしなかったような?)』

  「そうか。
   で、何かお探しのようだが?」

『あ、実は「妙見不動流」という流派の剣術道場を探してまして
 麓の茶屋で尋ねたところ
 北辰峰寺の山門をくぐって左手の建物だと教えられたのです。
 こんな山寺の境内に剣術道場があるというのも奇妙な話ですが…
 ご老人、ひょっとして何かご存じないでしょうか?』

  「…
   妙見不動流の道場ならば
   その建物で間違いない。」

『これが…本当ですか?』

  「なぜ違うと思うのかな?」

『外観が寺の講堂のように見えるからです。
 それに、さっきから様子を見ていますが
 剣術家らしい人は一人も出入りしていません。
 耳を澄ませても、中からは剣戟の音も、いや気合の声さえも、全然聞こえてこない。』

  「…なるほどの。」
   
『失礼ですが、こちらの道場の方ですか?
 本当に間違いないのですね?』

  「うむ。
   そう疑われるなら、ワシが裏の通用門に案内して進ぜよう。
   ついていらっしゃれ。」

『ああ、それは助かり…
 あ、いえ、ご老人がそこまでおっしゃるなら信じましょう。
 それに、初訪問でいきなり裏口から入ると
 後で「失礼な奴」とか何とか言われそうです。』

  「そんなことはない。
   と思うがの?」

『??
 (何か変な反応だな…。)
 まあ、心配しすぎかもしれませんが
 用心に越したことはありません。
 せっかくですが、今回は正面玄関で声をかけてみることにします。
 では、縁があったら、またお会いすることもあるでしょう。
 どうぞお元気で!』

  「そうか。
   ならば、これ以上は言うまい。
   貴殿も達者でな。」

(さて…この寺、いや道場で
 仁九郎の行方について何か分かると良いのだが…。)


            (つづく)



――――

     


       

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