Neetel Inside ニートノベル
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「まあ、これくらいじゃあないか?」
「ん、こんなもんかな。」
合成する遺伝子を10種から8種に調節した。
組み替え遺伝子を合成するとこまでは問題なかったが、発現するタンパク質が不安定すぎて使えないだろうとの結論だ。

日は完全に暮れて、青白い蛍光灯の下、二人で手早く晩飯を食った。湯気の立つソリッド・ライス。コンソメ味。
「客来ないな。」
「火曜日だからね。」
残念そうに目をつむる。
「ほーん。」
火曜日だと客が来ない理由をココは知らない。特に言うこともない。

晩飯を食べ終わり、ヒーマンは皿を下げて厨房に入った。
ココは進化銃(レボルバー)をちょっと眺めて、手に取った。女の手に収まるくらいの小さなグリップ。ココの進化銃は接射タイプで銃身は短い。通勤電車なんかで人混みに紛れて射つのだ。チクリと、虫に刺されたような感覚はあるが騒ぐやつはいない。公共機関では多少不快なことがあっても静かにしなきゃならないから。
そうしてだんだん気持ち悪くなるのをこらえて、こらえて、こらえたターゲットはふらつきながら駅を降り、トイレに駆け込む。
トイレにはミチがいる。特に理由がなければ彼女はトイレを選ぶ。
ふらつきながらトイレに駆け込むターゲットに、ニッコリ微笑みかけ、首をへし折る。
おしまい。いかにもさっぱりといった顔で出てくる。…男子トイレの場合が多いのでさりげなく、だが。
だって駅のトイレって汚くて、さっさと出て行きたいでしょ?手早く済ませたいなら駅のトイレよ。
ココが尋ねると、こいつ何言ってんだという顔をした。ミチはいつだって自分が正しいし、他人もそう考えると信じてる。
じゃあ、駅のトイレは殺し屋で溢れかえってるな。
そうよ。だからアタシは絶対に駅のトイレは使わない。ココも使わないでね。
言って聞かすように、さとすような口ぶりで話す。ちょっとイライラしながら。
彼女をちょっとイラつかせるのが好きだった。
ぼんやりと進化銃を撫でながらココはもの想いにふけった。浅黒い肌の、怪力少女。

ヒーマンがガチャガチャと培養皿やら試験管やらを用意し始める。今夜中に合成を始めれば、明後日の夜には終わるだろうか。そこはヒーマンの腕と運次第。
「じゃあ、頼んだぜ。」
弾丸の注文を終え、今夜はこれ以上することもない。帰ることにした。


木曜日、ドームが橙色に染まる時間にヒーマンの店を再訪した。
入ると、ヒーマンが他の客と談笑している。
「いらっしゃい。好きなとこ座ってね。」
と、今日のヒーマンは食堂の主人だ。ココも手持ちの少ない貧乏客となり、隅っこの席に猫背気味に座った。
「お客さん、注文決まったら呼んでね。」
 店主は頼みもしてない怪しげな緑茶を一杯、カウンターに置く。黙って飲んだ。
 いつもの符号。”出来上がり"だ。

       

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