Neetel Inside ニートノベル
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スギダイはココを睨みながら口を開いた。
「お前にゃ向いてねえ。」
「そうかな。」
そっけなく答えたもののスギダイの指摘は的を得ており、はっきり言われると打たれ弱いココの内心はすでに涙ぐんでいた。スギダイ、剛毛の奥から獣じみた眼光を発するココの上役。仕事の斡旋、段取りまで彼がこなし、ココが自身の力で為す部分は3割にも満たない。ミチを失ってからはさらにその傾向にあった。
「お前はあくまでサポート専門で、パートナーがいなきゃ話にならねえ。いくら致死率が高くたってそんなもんだ。そもそも致死率って評価自体がナンセンスだ。殺し屋なんだぞ、俺たちは。」
「他の連中だって失敗くらいするじゃないか。」
心持ち小さな声で反論を試みる。
「ああん?俺が今何言ったか理解できてねえのか?お前、お前がそのちゃちなエボルバーで獲物のドタマに撃ち込んだとする。するとそれだ、致死率ってやつが出てくるわけだ。おい、お前の致死率は何パーセントなんだよ?」
「63パーセント」
芸術的だぜ。ココは胸の中でひとりごちた。
「それだよ。何で頭に撃ち込んでんのに死なねえんだ?他の連中がブラスターで頭に撃ち込んだらくたばるだろうが。その違いが分かんねえか?なあ?理解できるか?」
「いや、分かるよ。俺の失敗と殺し屋の失敗の意味がズレてるって話だろ。」
「いや、だから、やっぱり分かってねえ。お前も他のブラスターしか使えないノータリンも目的は同じだろうが。相手を死体にすることだろうが。だから失敗は相手が生きてることだ。失敗の意味するところはどっちも同じだ。この話、前にもしただろ?」
前にも似たような会話はあり、ココにはこの先の展開が読めてきた。
「やるってことの前提が違うんだ。俺たち殺し屋がやるって言ったらそれは相手をぶち殺すってことだろうが。でもお前は違うだろ。お前がやるって言ったら6割の確率で相手は死にますよ、てなもんだ。占いかよ?それともブードゥー(呪い)か?そんで相手が死ななきゃそんなもんだとしれっとした顔で帰ってきやがる。」
「だってエボルバーはそんなもんだぜ?」
ゴワゴワの毛に包まれた顔がぐしゃりと潰れた、ように見えた。スギダイ独特の「あきれたぜ」の表情だ。
「だってじゃねえんだよ!この野郎。マジでイラつかせやがる!口答えしたかったらコイツ使ってマシな仕事しろ!」
デスクの奥からブラスターが滑り出てきた。護身用ではない、武骨なエナジーチャージャーが剥き出しになった暗殺用のブラスターだ。ココは黙ってブラスターを見つめた。
「今回の仕事はそれを使うのが条件だ。いやなら他に回す。」
予想通りの展開になった。

       

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