Neetel Inside ニートノベル
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 調査先をリストアップしてから2週間が経った。ココはその間、朝は通勤電車に揺られ、帰りは仕事に疲れた人々に混じってサラリーマンよろしく酒場に入った。情報収集、実地調査。複合企業ビルの水色の食堂で、ビジネス・スタートアップミーティングの緑色のホールで、あるいはくすんだ桃色のストリップクラブで、ココは耳を澄まして酒を飲み、ちょこっと会話した。
 ビジネス系のイベントは全て空振りだった。ココはビジネスのネタを探す投資家として会場に潜り込んだ。ホログラムに投影される曖昧な成功のイメージ、酔った自称エリート達の自分語り。相手に興味があるふりをする、完全に形骸化し、怪しげな術となった会話というジェスチャア。そのどれもがココを萎縮させ、消耗させた。
企業ビルの食堂や薄ら暗いストリップクラブでは、直接当人を見つけることはできなかったもの、いくつかの情報を手に入れることができた。
 企業ビルの食堂では隅に座って一番安いソリッドライスとコーヒーをすすりつつ、社員達のため息やムダ話に耳を澄ました。耳に入る情報のうち、役に立ちそうだったのは未婚の人間達の出会いのパーティーについてだった。先の紛争で持ち上がった民族思想や過度な貧困による人口減少は、少なくとも上流階級では影を潜めているようだ。人種問わず裕福な人間が集まってある種のコミュニティーを作っているらしい。中でも未婚の人間達のお見合い的な集まりがここ最近は多いらしい。どいつもこいつもお盛んなことだ。
 ストリップクラブでは踊り子達とボソボソ話して、ドラックデザインによる体質改善が裕福層でブームになっていることを知った。ターゲットの女、アンだけが例外ではなかったということだ。なんたる技術の無駄遣い。踊り子の胸にチップを突っ込んで、ココは肩を落としながら店を後にするのだった。
「だったらその出会いのパーティーとやらに参加してこいや。酒場やら食堂やらで聞き込んでてもしょうがあるめえ。その女と接触するにはもってこいだな。」
 報告を聞いたスギダイが切り出し、ココは力無くうなずいた。調査にはうんざりしていたが行きたくないとごねる気力もなくしていた。
「身分証が必要だな。用意してやるから、それまでは一旦待機しとけ。3日後に来い。それまでにその出会いのパーティーとやらで浮かないような準備でもしとけ。」

 3日間、ココはパーティーで浮かない準備などするわけもなくダラダラ休んだ。ああ、床屋に行って散髪はした。それくらいだ。いつものくたびれたジャケットで事務所に現れたココを見てスギダイは舌打ちをした。
「ふん、だせえ。」
ぶん投げられた身分証を受け取り、あんたに言われたくねえと頭の中で毒づきながら事務所を出た。
 いざ、パーティーへ。

       

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