Neetel Inside 文芸新都
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 会議の開始時刻までは若干の余裕を残し、会社まで戻った来れた。コウタは1階のエレベーターホールで上行きの到着を待っていた。


 部会議の開始時間になってもコウタは戻ってこない。ミキは先輩の長谷さんに催促された。
「会議そろそろ始めたいんだけど田宮は?」
「まもなく!来る・・と思います、はは」
長谷さんの奥には部会議の開始を待たされイライラする部長の姿。
「もう!何やってんのよコウタは。タクロー!見てくるわよ」
当然のようにタクローも連れ立って様子を見に行った。
「あれミキさん、エレベーター故障してるじゃないスか。コウタ上り途中じゃないんですかね」
「今のアイツは階段だろうがすぐでしょ」
二人が階段を降りていくと、途中にコウタはいた。
「いたいた。何やってんだお前」
「おー、タクロー」
コウタは故障中のエレベーターのために作業が困難になっていた引越業者の手伝いで荷物を運んでいた。重い業務用エアコンが入った箱を一人で抱えて階段を上がっていた。下の方から「ほんとすんません!しかしほんとすごい力持ちですね」という業者の声が聞こえてきた。
 ミキとタクローは意外な気がした。コウタは常識人ではあるが、誰彼構わず見知らぬ他人の困りごと、それも厄介な部類に入ることを進んでする人間ではなかったからだ。
「へー。タクローお前そんな奴だったっけ。あ、感心して言ってんだけどさ」
ミキはしばらく黙ってみていたが、やがて口を開いた。
「いいわ、部長にはうちのチームの急な仕事ができたと伝えておく」
「ミキさんすみません」
「タクローも手伝ってってね」
「いいすよ、結局資料間に合わなかったし」
「・・あんたは怒られるだけのために会議に参加してきていいわ」


 今日の結論としてコウタはこう考えた。
戦う敵がいない僕はとりあえずの課題として、周りの人々の小さな平和を守ることにした。戦うべきマフィアも銀行強盗もいない現代の、とりあえずそれが僕のヒーロー像だ、と。

       

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