Neetel Inside 文芸新都
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コウタを無視し、中年男性は一方的に話し始めた。
「田宮コウタ、君を今から『指名する者』の権限のもと『選ばれた者』とする」
気が付けば、コウタと中年男性のやり取りに気付いて不審に思い、ミキとタクローがコウタの個室に入ってきた。
「どうしたのコウタ?」
かまわず中年男性は話を続けた。
「凄いぞー。君がメンバーを編成してチームメンバーが1人増えるごとに人1人分の能力が君に加算されていくんだ。チームへの参加は、双方が強い意志のもと加入に了承した時点で有効となる。ただ、離脱の際は双方立ち会った状態でどちらかが一方的に宣言した時点で有効だから注意が必要だ」
3人とも中年男性の話はだいたい聞いていたが、理解できなかった。3人とも理解力は悪くない、むしろいい方のはずであるが、それ故に意味が通じないことは理解できない。
「細かいルールは他にもあるが・・今後1週間に一度は私に会えるからその時質問してくれ」
そう言うと中年男性はコウタの方をぽんと叩き、タクローに道を空けてもらう動作をして去ろうとした。すると、その先に屈強な男と痩せ細った男が立ち尽くしており、屈強な方が呆然とした様子で太った中年男性を呼び止めた。
「『指名する者』!なぜそいつらにも資格を与えるのです?私を選んでくださったのではないのですか?」
中年男性は意にも介さないといった様子で
「選ぶのは君1人と言っていないだろう?」
と答え、2人の前を通り過ぎ、少し振り返ると付け加えた。
「まあ、せっかくだからルールをひとつ教えよう。『選ばれた者』が他の『選ばれた者』を敗北させた場合、負けた方は資格を失い、失われた能力の半分は勝者が獲得する」
「敗北させるとは?」
「自分で考えなさい。では」
中年男性はそのまま去っていった。屈強な男はしばし考えた様子であったが、やがて答えが出たのか体を震わせると両手を閉じたり開いたりを繰り返し嬉しそうに呟いた。
「ぶち殺せってことだな?」
そしてまたニヤニヤして独り言に戻った。
もう1人の痩せ細ったほうが甲高い声で悦に入る男に割って入る。
「リーダー!あいつら逃げましたよ!リーダー!」
男は痩せ細った男の首を持ち、そのまま持ち上げた。
「うるせえよ、瞑想の邪魔すんじゃねえ」
そのまま首を絞めたのだが、男の感覚的には軽い力のつもりであったが、想像以上に強い力となり、痩せ型の男の顔は一瞬で真っ赤になる。それが最高に快感であるかのように屈強な男は喜びで体を震わせ、力を緩め、下へ降ろした。
「ゲホッ、リ、リーダーすげえっす!すげえ力!」
「出入り口に繋がる道は 『指名する者』しかいなかった。店内奥に逃げたはずだから探せ!『敗北』させる!」
と言うと、また独り言を始めた。
その通りで、3人は咄嗟に出入り口から遠いほうに逃げてしまっていた。
やばそうなことに巻き込まれている・・3人は不安を隠せなかった。


ここで時間は冒頭に追いつく。
「『選ばれた者』・・さっき言われた言葉だけど」
ミキは
「でも信じちゃうわけ?純粋にも程度ってものがあるわよ」
と返すが、コウタは
「でも見たでしょあの怪力!普通の人間のものではないですってば」
と答える。コウタは現実的な人間であるが、自分の目で見たものが真実と判断できればそのまま受け入れる。この場合半信半疑ではあったが、不思議と中年男性の言うことがまんざら嘘には感じられなかったのである。
「さあミキさん、僕のチームに入って下さい」
コウタはお辞儀しながら手を差し出し握手を求める。
「えー。それもなんか告白みたいでヤなんだけどぉ」
タクローも「何やってんスか」と笑いかけたその時、視界に屈強な男がこちらめがけて飛び込んでくるのが見えた。そりゃあ、本棚に登れば見つかってしまう店内の広さ。時間の問題だった。
「分かったわよ、オーケー!」
ミキは差し出されたコウタの手を思い切りタッチ、パァンと切符の良い音が響いた。
「ありがとうございます!」
とコウタが言った瞬間、屈強な男がコウタに覆い被さり馬乗りになり、力でコウタの頭部を鷲掴みにするとそのまま床に叩きつけた。
同期の危険な状態に、ケンカっ早いタクローも助けようとするもののその力を目の前に一瞬怯んでしまう。
コウタは意識が飛びそうになるが、次の瞬間には逆に男をなんとか押し返し、体を持ち上げ、力一杯隣の本棚へと投げつけていた。本棚が男に倒れ込み大量の本が落ちるその間、コウタは起き上がり、タクローに
「もうちょい力足んない!タクローも頼む!」
と手を差し出す。タクローも状況についていけないながらも
「お、おう!」
と応じる用意をし、
「タクロー、『強い意志のもと』、らしいぜ」
「お前は信頼してら」
タッチを交わす。
瞬間、体が巡る。先程もそうだったが、うまく言えないが体の内部のあらゆるものが巡るのを感じるのだ。血液なのか体温なのか、エネルギーと呼ぶものなのか。単純に力が増すのではない。視覚として捉えられる情報も、それを処理する脳も、めぐる感覚がそこにあるのだ。
だから、ミキが、タクローが、まだ見えていないものも見える。そう、例えば今、倒れ込んでいたはずの男が隙をついて思い切り壁を蹴ってコウタに向かって左肩を低く落としタックルを決めようと突進してくる様子だ。
男と目が合う。
そして男は気が付く。動作を始めたばかりなのに見切られていることを。コウタはこの男には何の恨みもないから危害を加えるつもりはなかった。だがしかし、聴覚も鋭くなっているがゆえ、さっきからブツブツ言っている男の独り言が今、聞こえてしまった。
「この力で世界の女を襲う、襲う、襲いまくる。襲いまくってまた襲う」
コウタは攻撃をかわすために反らせた右半身だったが、そのまま腰を入れ、右脚を思い切り踏み込む。と同時に突き出した右腕に一気に乗せる。
男は斜め45度に飛び上がり、その瞬間に気を失ったのが分かった。
「もっとマシな野望にしろ!」
怒りと呆れが半々の中、コウタはそんな台詞を吐き捨てた。

       

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