Neetel Inside 文芸新都
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現代MTGについて少し話そうと思う
Deck No.4「これはゾンビですか? いいえ、それはお兄さまです」

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 やぁ、またこの季節をむかえることができたね。そう、春の大型エキスパンションのご登場だ。去年のやつ(もう名前を忘れちまったよ……ブランケットだっけ?)にくらべると今回のは話題性、カードパワー、ストーリー、リミテッド……すべてにおいて申しぶんなしだ。え? そんなのタイトルをみれば一目瞭然じゃないか! ほら、パックのここにちゃんと書いてある……『ドミナリア』ってね!
 と、毎度意味のない前口上はこのへんにしておくとして……うん、きょうのぼくはちょっと真面目だ。前作『MTGについて少し話そうと思う』を読みかえしてみると当時のぼくはずいぶんと真摯にマジックとむきあっていたように思える。それにひきかえ最近のぼくはあの手この手でただふざけてマジックを茶化しているだけだ。だから今回はちょっとあらためなおして真剣にマジックの〝いま〟を語ろうと思うんだ。テーマは「《暴れ回るフェロキドン/Rampaging Ferocidon》のスタンダード禁止措置にみる競技マジックの近代的な変化と「あまりにも運ゲーな対戦を緩和する」というきわめて一方的なイアン・デュークの告知に関する考察と反論」だ。そういうわけでいつものくだらない駄文を期待して来てくれた読者諸君にはわるいけどここでブラウザバックして近所のスタンダード・ショーダウンにでも遊びにいってほしい。なに、また次回からは皆がのぞむものを書いてみせるさ。だからそれまでこの《道化の帽子/Jester's Cap》をあずかっておいてくれ。うん、ありがとう、感謝するよ。
 ではさっそく本題にはいろう。まず最初にマジックの起源、つまりリチャード・ガーフィールドの愛車についての考察だが……っと、だれか来たようだ。ちょっとまっててくれ……むっ、いったいなんの用だい? みてのとおりいまちょっといそがしいんだ。え? それはこまるよ、ぼくだって一週間前からきちんと予約してここを借りてるんだ。いくらきみの頼みとはいえ譲るわけには……もちろん相応の対価は支払うって? いやいや、もので釣ろうったってそうは問屋が……《ウルザの後継、カーン/Karn, Scion of Urza》のFoil? え、ほんとに? うーん、それは……そういうことならまぁ……うん、わかった。きょうはあきらめてショーダウンで鎖でも振りまわしてくるよ。ほかならぬきみの頼みだだからね。じゃああとはどうぞご自由に! あ、ちゃんとカギは最後に受付にかえしてくれよ。あと共用冷蔵庫にぼくのコントレックスがはいってるから好きに飲んでいい。ただし切らしたら箱買いしておいてくれ。それじゃ!



 ……いちいち口の減らない男ね。きっと実生活でも農奴トークンみたいな人生を送っているんだわ。ま、あとであいつにはお望みの《銀のゴーレム、カーン/Karn, Silver Golem》のヘビープレイドグッドプアを着払いで送ってやりましょう。うわ言のように《暗黒の儀式/Dark Ritual》とかうめいてるドミナリアのジジイにはお似合いよ。さて、じゃあそろそろはじめようかしら……あらやだ、マイクがONのままだったわ! ま、あとで編集すれば無問題ね。ではあらためて……
 みなさま、仇敵たる白と追放除去のはびこるきょうこのごろ、ご機嫌いかがでしょう? 本日は仏滅とお日柄もよろしく絶好のハンデス日和ですわね。わたくし個人としては《思考囲い/Thoughtseize》や《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》のようなタイマン交換しかできないしみったれたカードより《トーラックへの賛歌/Hymn to Tourach》や《呆然/Stupor》のようなただ暴力的にアドバンテージをとりにいくほうがこのみですの。なにより〝無作為〟というテキストが心に響きますわ。
 ところでわたくし、いまとても憤慨しておりますの。なぜなら前回のお話……ゴンティだかパンティだかしりませんがあんな片田舎のちんけなフリーマーケットを仕切ってるだけの小物があたかも黒の代表のようなツラをしていまもなおスタンダードに存在しているのがほんっっっとに許せませんの! だから今宵あつまってくださった皆々様にはもっと高貴たる深遠な黒にふさわしい存在――《リッチの騎士、ジョス・ヴェス/Josu Vess, Lich Knight》をご紹介いたしますわ。そう、わたくしの敬愛なるお兄さまですわ!



『ジョスお兄さまのここがさすが! その1』
 まずお兄さまのすばらしいのは〝伝説〟であられるいう点ですわ。環境最強の除去《喪心/Cast Down》をまったくよせつけませんの(《ヴラスカの侮辱/Vraska's Contempt》ですって? あんなカード庶民どもにはとても手がでませんから存在しないも同然ですわ)。みずからを見失ってまで除去耐性を身につける……さすがはお兄さまです。



『ジョスお兄さまのここがさすが! その2』
 つぎにおどろくべきは騎士ゆえの身体能力の高さですわ。2黒黒と《豪華の王、ゴンティ/Gonti, Lord of Luxury》と同コストながら4/5というだれもが羨む完璧なプロポーションですの。最近は梅雨のきのこのようにどこにでも湧く《歩行バリスタ/Walking Ballista》ですらX=10でやっと相討ちですの。威勢だけはいい赤単のはびこるスタンダードで10マナなんて一生でませんわ。しかも最強のキーワード能力である〝威迫〟までお持ちですのよ! たかだか2/3接死程度の貧弱なボディではお兄さまの前に立ちはだかることすら許されませんの。またスタンダードより2段階も次元のちがうレガシーでも最強の生物と名高い《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》が束になってブロックなさってもお兄さまを倒すことはかないませんことよ。レガシー禁止カード候補筆頭にかこまれても威風堂々……さすがはお兄さまです。



『ジョスお兄さまのここがさすが! その3』
 そして特筆すべきお兄さまの最大の武器……それはキッカー能力ですわ。お兄さまただひとりでも十二分なカードパワーをそなえておりますがさらに5黒を支払いますとなんと2/2のゾンビが8体もおまけでついてきますの。そのクロックはお兄さまを中心にじつに20点! お兄さまがほんのすこし本気をだせば大抵のプレインズウォーカーは一撃でこの世からご退場ですわ。7黒黒黒と要求されるマナも相応ですが《陰謀団の要塞/Cabal Stronghold》も《パワーストーンの破片/Powerstone Shard》もあるいまのスタンダードなら10マナくらいポンとでますわ。もちろんお兄さまの従えるゾンビはわたくしのつくりだすのろまなゾンビとちがって〝威迫〟持ちでお兄さまとおなじく誇り高き騎士でもありますの。わたくしには1ターンに1体しかうみだせないゾンビをいちどに8体も蘇らせてしまうなんて……さすがはお兄さまです。



『ジョスお兄さまのここがさすが! その4』
「でもお高いんでしょう?」とお嘆きになられているそこのあなた! 安心なさってください、これだけのパワーカードながらお兄さまのトリム平均は驚愕の「160円」! 最安はなんと「80円」ですわ! このようにお兄さまはすべてをかねそなえていながら、どこかの傲慢な天使や陰気くさいゴーレムのようにみずからを無駄に着飾ることはなさいません。騎士たるおのれのために誇りは高く、まもるべき庶民のために価格は安く……さすがはお兄さまです。



『ジョスお兄さまのここがさすが! その5』
 そしてわたくしがもっともお兄さまを敬愛する理由……それはお兄さま自身もまたゾンビであるという純然たる事実ですわ。わたくしの-7によって生きとし生けるものすべてが死に絶えた死者の世界においてもお兄さまはいつもわたくしのそばにいてくださる。死してなおこのような愚妹に無償の愛をあたえてくださるなんて……さすがはお兄さまです。



 どうでしょう、わが最愛にして最強の存在……ジョスお兄さまの魅力がほんのすこしでも伝わったでしょうか? わたくし的にはまだまだお兄さまを1/100000も語れていませんがあなたがた生者にとって時間は有限。このあたりでお暇させていただきますわ。わたくしこれからとある悪魔を成敗せねばなりませんの。だからジョスお兄さまとわたくしのことをもっとお知りになりたければ「ドミナリアへの帰還 第2話」をお読みになってください。きっとお兄さまとわたくしの深い絆がもっと理解できますことよ。
 では。
 もしこれから戦場でお兄さまをみかけることがございましたら多忙なわたくしのかわりにぜひ賞賛の言葉をおくって差しあげてくださいませ――
 ――さすがはお兄さまです。(マイクOFF)

       

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