Neetel Inside ニートノベル
表紙

ボックス・イン・ボックス
■2『ボックス保持者の学園生活』

見開き   最大化      


 ■2『ボックス保持者の学園生活』

 葛城綾斗。
 ボックス『アブソリュート』を所持。
 透明な壁を出現させるバリア能力。
 攻撃力D、有効射程B、能力強度C、発動速度A、希少性C。
 攻撃には向かないタイプのボックスですが、防御はそこそこな様です。ただし、過信できるほどの強度はありませんので、防御として使う際は気をつけてください。

 この文章が何かというと、学校に能力が芽生えましたと言った際、能力測定をさせられた。その結果である。
 白金からの追手を退けたその後、俺は亀島さんと茶介を保健室に運び(亀島さんには触れないので、そこは通りかかった先生を頼った)、三時間目から教室へ戻り、授業をしていた先生に事情を説明して、なんとか出席にしてもらおうと思ったら、
『ボックスが発動したら職員室に報告へ行って』
 なんて言われ、職員室に行ったら教師を相手にボックスの能力がどういうモノなのか、測定させられた。どうやら人によって測定方法は違うらしく、俺の場合はバリアをどの程度の大きさまで出せるか、自分からどれだけ離れた位置に出せるか、どの程度の攻撃にまで耐えられるか、など。
 そういうモノを測定され、結果、成績みたいな物が書かれたペライチの紙を渡されたのである。
 ――で、その能力測定をやってた結果、まーた授業が一切受けられず、俺は転校二日目を終えたのだった。
 親になんて言えばいいんだおい。一切勉強してねえし、まだ友達は一人っきゃいないぞ(あそこまで修羅場を共にしたんだから、亀島さんは友達と言ってもいいだろう)。

「今日こそは、普通の学園生活を送りてえなぁ……」
 そんな事を呟いて、俺は通学路を歩いていた。いまいち学園のシステムを理解していないけれど、要するに白金は学園の生徒を使って俺を強襲できる、ということは間違いなかった。
 つまり、俺が普通の学園生活を送れる可能性は相当少ない、という事でもある。
 転校して二日いんのに、まともに授業受けてないんだぞ。
 そりゃ真面目な態度の学生じゃないが、教室にいないと友達も作れないじゃないか。
 学校行きたくねえなぁ、なんて思いながら、学校前に直通のバス停へとやってくる。
「おはようございますっ、葛城さん」
「うぉ!」
 突然、背後から女性に話しかけられて、俺は飛び跳ねてしまい、背後を見た。だが、そこにいたのは亀島さんだった。
「あ、なんだ、亀島さんか……」
「わ、私も驚きましたよ……」
 俺と亀島さんは、バス停に並んで、学園直通のバスを待つ。
「亀島さん、もしかして近所?」
「あ、はい。すぐそこなんです」
「んじゃあ、家近いね」
 そういう話をしていたら、バスがやってきて、俺達二人はバスに乗り込んだ。結構混んでいた車内だが、このバス停で降りる親子が寝過ごしていたらしく、運良く二人分の席が俺達の前で空く。亀島さんはそこに座り、「あれっ、葛城さんは座らないんですか?」と言ってから、何かに気づいたらしく、「あっ……」と息を漏らす。
「あはは……。バスとか電車の中では、座らない様にしてるんだよね」
 隣に女性が来たら、確実に気絶して寝過ごしてしまうし、ヘタしたら電車を止めるハメになりかねない。
「そうですか。私だけ座るのもなんだし、私も立ってますよ」
「いや、いいって。俺の勝手な都合だし」
 座ってて座ってて、と笑顔を作る。
 いい娘だなぁ、亀島さん。ちょっと遠慮がちに「え、でも……」と言うが、「いいからいいから」と、彼女を椅子から立たせない様にする。そうしていると、隣にサラリーマンが座って、俺が座るスペースはなくなり、亀島さんが「すいません」と頭を下げる。
「いや、謝るのはこっちだよ。昨日はありがとう。結局、お礼言えないまま帰る事になっちゃって」
「あ、いえ、いいんです。でも、なんで昨日は教室に来なかったんですか? 状況から察するに、逃げ切ったんですよね?」
 バスに揺られながら、俺達は話をする。朝日が眩しく、朝のバスってなんだか好きだ。
「あぁ、実は亀島さんが気絶した後、俺のボックスが発動してさ。その測定とかで、放課後まで拘束されてたんだよ」
「そうなんですか。初日にボックス覚醒なんて、運がいいですねっ。どういう能力なんですか?」
「あぁ、これ」
 俺は、ブレザーの胸ポケットにしまっていたあの成績表みたいな紙を、亀島さんに手渡した。
 それを広げ、目線を動かして読む亀島さん。
「なるほど。バリアの能力、ですか……」
 たたみ直して返してくれたので、俺はそのままポケットに戻す。
「でも、防御力はそんなに高くないんですね?」
「みたいだねぇ……」
 うぅむ。バリア能力としては中途半端なんだよなぁ。
 まあ、そんなに強力なボックスが芽生えるとは、思ってなかったけどさ。
「こんなんで、白金との戦い、やってけんのかなぁ」
「えっ!?」
 亀島さんは、人がいる公共機関の中だと言うのに、周囲の人目を忘れたみたいに、大きな声を出した。隣のサラリーマンを始めとして、怪訝そうな視線が亀島さんを射抜く。
 顔を赤くして、頭を下げ、鞄で顔を隠す亀島さん。
「どしたの亀島さん。ダメだよ、バスん中で大声出しちゃ」
「か、葛城さんがとんでもない事言うからですよっ」
 声のボリュームを落として、亀島さんは赤いままの顔で俺を見た。頬が林檎みたいになってるな。
「む、無理ですっ。武蔵野さんを倒すのは、それに呼び捨てなんて、白金さんにバレたらどんな目に合わされるか……」
「なんで?」
「武蔵野さんは、能力査定がオールAランクなんです。ウチの学校には、そんなの武蔵野さんしかいません。決して、親の七光りなんかでのし上がった人じゃないんです」
「……親の七光り? あいつの親、なんか偉いの?」
「なっ!」
 また大声を出してしまう亀島さん。隣のサラリーマンが露骨な咳払いをしてので、彼女は「す、すいません……」と頭を下げた。
「ダメだよ亀島さん。バスん中で大声出しちゃ」
「か、葛城さんが何も知らないからですよぉ……。武蔵野グループ、聞いたことないですか?」
「無い」
「えぇー……」
 マジか、こいつ。ほんとに義務教育終わらして来たのか? みたいな目を向けられた。やめて亀島さん、俺の心は弱い。
「武蔵野さんの家はですね、文房具から兵器まで、幅広い物を作ってる巨大企業なんです」
「マジ? 白金からそんな話、聞いたことねえよ」
 大体、あいつ俺とおんなじ、普通の公立小学校に通ってたんだぞ。なんでそんな超有名企業の社長令嬢が、一般の小学校に?
 疑問ではあるが、そんなの俺にゃわかんねえ。
「――っていうか、さっきから疑問だったんですけど」
 真剣な表情を作り、見つめてくる亀島さん。なんだろう、怖い。
「なに?」
「さっきから、武蔵野さんを呼び捨てにするの、やめた方がいいですよ? 武蔵野さんはファンも多いし、なにより、本人が許さないですし」
 私は苗字で呼んでるのに、とプリプリ怒る亀島さん。
「えー、でも昔っからこう呼んでるしなぁ……」
「む、昔?」
 俺は、白金との事情を素直に話した。幼馴染であり、俺のトラウマを作った張本人であるという事。私の所に辿り着いて見せろ、と言われた事。
 話してから、バス出てから話せばよかったと後悔した。
 亀島さんが、今まで以上に大きな声を出して、運転手直々に車内アナウンスで怒ったからだ。

  ■

「――まったく。亀島さんが大声出すから、車内で恥ずかしい思いしちゃったよ」
「か、葛城さんが現実離れした話するから……」
 朝から何度顔を赤くしてるんだか、と俺が呆れるくらい、亀島さんは赤面しやすい質らしかった。校門をくぐりながら、俺は彼女にバレないよう、なんとなく周囲を警戒する。
「現実離れってひどくない?」
 俺と白金が幼馴染には見えない、という意見なら、俺も同意するけど。あの手の人種は自分の住むべき世界があるんじゃねえかなあ。
「おんなじ立場だったら、絶対葛城さんもそう思うはずです」
「なのかなあ?」
「……例えば、私、実は石油王と友達なんです」
「……フワッとしすぎてわかんない」
「ごめんなさい……。言ってて、私もあれ? ってなりました……」
「もっとなんか、顔が出てくる人にしてくれないと。何さ石油王って、アバウトすぎでしょ。総理大臣の娘、くらいがいいと思うよ」
「辛辣です! ひどいです! わかってもらえるように頑張ったのに! 触りますよ!」
「ごめんなさいごめんなさい触らないで!!」
 俺はすぐさま、亀島さんから離れる。
「……仕方ない事情があるとはいえ、なんかすっっごい複雑です」
「トラウマを作った白金に言ってくれ」
「私がどうかした? 綾斗くん」
「ぎゃぁッ!!」
 背後からの女声に、俺は思わず、亀島さんの後ろに隠れた。亀島さんの身長が低いので、どうしても胸くらいまで露出してしまうが。
「げぇ! 白金!」
「……私に会う度、「げぇ」はないんじゃないかな? 綾斗くん」
 笑顔のまま怒る白金。血みたいな色の赤い瞳がすっげえ怖い。殺した相手の血を目薬代わりにしてんじゃねえだろうな。
「わ、わわっ。ほ、ほんとに武蔵野さんだぁ……!」
 キラキラした瞳の亀島さん。なんでこの悪魔みたいな女に、そんな目が向けられるんだか、俺にはこれさっぱりわからん。
「おはよう、綾斗くん。どうかな、学校生活は?」
「いや、まだ大したことしてねえんだけど。今の感想で言えば最悪なんだけど」
 初日から気絶するし、学校中から追われるし、トラウマの元とは再会するし。ボックス保持者じゃなかったら即転校だわ。
「うふふっ。またまた、私に会えて嬉しいくせに」
「え、お前俺にしたこと忘れてない?」
 俺の腹を刺したんだぞ、お前。
「――あれは綾斗くんが、あまりにも鈍感だからしたことだよ」
 さっきまで笑顔だった白金が、突然笑顔を引っ込めて、眉間にシワを寄せた。なんでだかは知らないが、怒っているらしい。
「なにそれ怖い」
「それに、あれは一応、無事に済むっていう算段があったからしたんだよ?」
「……なんだと?」
「パーカーの中にボールが入ってた事くらい、わかってるよ。じゃなきゃ、私が綾斗くんを傷つけるような事しないよ」
 信用できねえー。
 嘘つけ、絶対嘘だ。
 そんな俺の考えが、表情から察する事ができたらしく、白金は「ほんとだよ?」と上目遣い。顔から血の気が引いてくる。普通だったら、可愛いとか思うのかもしれないけれど、俺にしてみたらゾンビか何かが甘えてきているようで不気味だ。
「ま、いいや……。ここだと目立つし」そう言って、周囲に視線を向ける。校門近くでそんな会話をしていた所為か、非常に目立ってしまっている。登校中の生徒達が、チラチラこっちを見ているし、立ち止まってまで鑑賞するやつらもいた。
「じゃね、綾斗くん。また今度、ゆっくりと」
 そう言って、スカートを翻し、校舎に向かって歩いて行く白金。
 その背中を見ながら、亀島さんが呟く。
「ほ、ほんとに知り合いなんですね、葛城くん……」
「え、マジで信じてなかったの?」
 亀島さんって、意外と辛辣だよなぁ……。

       

表紙
Tweet

Neetsha