Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 意外と雑で、意外と辛辣な亀島さんという一面を目撃し、白金へのトラウマがまだまだ払拭できていないということが再確認できたところで、俺達は教室へ向かった。
「おはようございまーす」
「おはっすー」
 亀島さんと俺が、挨拶して教室に入ると、それなりの賑わいを見せていた教室が、一瞬シン、となった。昨日、自分たちのカーストを上げる為に俺を襲っているから、話しかけづらいのであろう。
 しゃーねえなぁ、気にしてないからじゃんじゃん話しかければいいのに。
「おいっすー! おはようおはよう。なんだよぅ、昨日はすっげえ熱烈なアプローチだったのに、今日はみんな暗いじゃんよぉー」
 と、自らの席に向かいながら、みんなに話しかける。しかし、「お、おう」というリアクションが帰ってくればいい方で、基本的にはだんまりというか、俺がアメリカでしか通じないジョークでも飛ばしたみたいに見てくる。
「なーんだよぉ。転校生だから、結構ちやほやしてもらえると思ったのにぃ」
 思わず、唇を尖らせてしまう俺。ドカッと勢いよく椅子に腰を下ろした。
「まあ、昨日の事があったら、みんな話しかけにくいですよ……」
 苦笑する亀島さんも、同じように、前の席へ腰掛けた。確かに、昨日は俺の四肢を落とすとか言ってたし、わからんでもないが。
「別に気にすること、ねえのになぁ」
「……変わってんな、お前」
 そんな話をしていたら、頭に包帯を巻いた茶介がやってきて、俺の前に立った。目には相変わらず、覇気も怒気も生気もない。
「よう茶介。頭の件は謝らねーぞ」
「謝ってくれとは思ってねえよ。俺だって、昨日の一件は謝る気ないし」
「……別にいいんだけど、なんだろう。ムカつく」
「変わってんな、お前」
 こいつ、自分の話が流れそうだからって無理矢理戻しに来たな。
 俺もその話はそんなに掘り下げる気は無いけど、それは俺がするべき事なんじゃねえの?
「一応訊いとくけど、何が?」
「普通あんな目にあったら、学校来るのも嫌になるだろ。今日来ないと思ってたんだぜ、俺」
「別にぃ。学校来んのは普通だよ、普通」
「その上、クラスメイトにも普通に話しかけるし」
「俺も白金の怖さはわかってるから、許す許す」
 意図して、へらへら笑ってみせた。笑顔は人を落ち着かせる魔法の表情ですよ。
「白金、ってお前な。カーストトップを呼び捨てかよ。ますます変わってんな……」
 訝しげに俺を見つめる茶介。なんだよ、こっちは笑顔なんだから笑顔返してくれない? そうなると、俺だけ空気読めてないみたいじゃん。
「俺はそういうの、つっこむとめんどくさいと思ってるタイプだからいいが、他の人間には武蔵野さんって言った方がいいぞ」
 言われて、俺は先ほどの亀島さんを思い出した。確かにバスの中でうるさくされてしまったし、どうも白金は名前の呼び捨てを許していないみたいだし。結構崇拝している人間もいるっぽいし……。うん、俺と白金が幼馴染ってのは、隠したほうがよさそうだな。
 校門前の会話、周りからのリアクションもそんなになかったし、聞かれてなかったんだろうから、これから秘密にしていく方向で。
「わかった。そうするよ」
「……じゃ、なんかあったら言えよ。謝る気はないが、味方はしてやるよ」
「マジで?」
 亀島さん以外にも味方ができるなんて、嬉しいなぁ。味方ってことは、イコール友達って言ってもいいだろう。
 茶介が立ち去ろうとするので、俺は思わず、「なあ、さっそく一個いい?」と、呼び止める。
「んだよ」振り向いた茶介は、もうなんかトラブルに巻き込まれてんのか、と言いたげに目を細める。さっそく言ったのは悪いけど、味方になるというなら、そういうめんどくさそうな目はしないでほしい。
「別に大したことじゃないよ。昼飯、一緒に食おうぜ」
「……お前、変わってるんじゃなくて、バカだろ」
 すっげえショックな事を言い残し、友達の元へ戻っていく茶介。
 残された俺は、話を聞いていただろう亀島さんに視線を向ける。
「俺、バカじゃないよね?」
「……その発言が、もうバカっぽいんじゃ」
「いや、まだまだ大丈夫」
「別に最低ラインが決められてる、みたいなルールないですからね?」
 結構バカって、傷つく言葉だな……。

  ■

 転校三日目にして、やっとまともに授業を受ける事ができた。
 ――ボックス研究機関、国立箱ヶ月学園だから、きっと授業もハイレベルだったりするんだろうな、と思ったのだが、意外と授業のレベルは俺が行っていた学校と、そう大差なかった。最初に受けさせられた試験で、学力の割り振りでもしていたんだろうか?
 そういう疑問は、特に興味なかったので、俺が誰かに聞くこともない。
 変わった授業と言えば、日に一時間分だけ入っている、『研究協力』という時間だった。
 亀島さん曰く、
「私達のボックスの、データを取る時間なんです。日によってやることは違いますけど、今日は模擬戦闘をやるみたいですよ?」
 との事だった。
 模擬戦闘ねえ。つまりは、昨日みたいな事をタイマンでやればいいんだろ。
 そう思っていたが、クラスメイトに「誰か俺とやろうぜ!」と気さくに声をかけても、びっくりするくらい誰も乗ってきてくれず、茶介はすでに先約があったので、俺は気を使ってくれた亀島さんとやる事になった。
「ごめんね亀島さん。俺は友達作りが下手みたいだ」
 そこは、学園の校庭にある体育館――の、横にある、通称格技場と呼ばれる施設だった。
 普通なら、剣道用のスペースだったり、柔道用の畳なんかが敷いてあるのだが、そういう場所ではなかった。
 まず、相当に広い。サッカーグラウンドくらいはあるだろうか。
 そんな中に、白いコンテナボックスみたいなモノが、いくつも並んでいる。どこを見ても白、白、白で、なんだか気が滅入ってしまいそうだ。
 観戦用の窓まで備え付けてあって、どれだけ金がかかってるんだか、想像もできない。ボックスの研究は、それだけ利益を生むという事だろう。
 どうやら、その中コンテナのに入って模擬戦闘を行うらしく、俺と亀島さんは、二人でそこに入った。
 見た目的には、カラオケの部屋より少し広い程度を想像していたら、中はそれよりもずっと広かった。体育館くらい? バスケは余裕でできる事は確かだ。
 白い床に黒いラインが引かれていて、どうやらこの中で戦えという事らしかった。
 体操着に着替えた俺と亀島さんは、向かい合っていた。俺はジャージだが、亀島さんは白いシャツと黒のハーフパンツという軽装。これからどうしたらいいのか、と思ったが、どうやら指示が来るらしく、亀島さんが動く気配はなかった。
 そんな時、天井のスピーカーから、しわがれた男の声が響いてくる。
「それでは、皆さん。準備はできたようですね。ボックス以外での攻撃は禁止、相手の降伏宣言があったら模擬戦闘は中止してください。――では、開始!」
 合図の瞬間、周囲の空間が、突然歪み始めた。白から、どんどん絵の具を手当たり次第にぶちまけたような色になっていき、規則性が生まれたかと思いきや、駅のホームへと姿を変えていた。
「うぉ――っ!」
「行きますよ、葛城さん! 『サイコウエポン!』」
 驚いている俺を無視するという実にシビアな行動を取った亀島さんは、片腕をハンドガンに変え、俺に向かって連射してきた。通常なら、普通の人間だった頃の俺なら、体を貫かれて、血を出して終わりだろうが、今の俺は曲りなりにもボックス保持者である。
「『アブソリュート』!」
 目の前に透明な壁が出現し、弾丸を防いだ。
 しかし、それだけで、俺の前に出現した壁は、割れてしまった。
「ええっ!?」
 驚いたのは、亀島さんである。弾丸を数発受けた程度で割れるとは、思っていなかったのだろう。だが、俺のアブソリュートは、名前負けもいいところで、大体の攻撃は、おそらく一回受ければ割れるだろう。
「隙ありッ!」
 思い切り地を蹴り、拳にアブソリュートで作った箱をまとわせる。こうすると、なんだかまるでボクシンググローブみたいになって、俺でも女性を触る事ができる。
 というか、ぶん殴る事ができる!
 女性に対して、暴力を振るう事に対して、苦言を呈する人もきっといるだろう。だが、女性だって暴力を振るえる! 暴力には暴力だ!
 亀島さんは、さらに弾丸を撃ってくるが、俺のアブソリュートは、発動速度が早い。
 弾丸が放たれたのを目視してからでも、充分に間に合う。
 目の前で割れる壁を見て、一瞬大きな音にびっくりしてしまうが、亀島さんの間合いに入り込むのは、アブソリュートの力があれば、簡単だった。
 けれども、彼女は、右腕をショットガンに変えていた。
 それを、接近してきていた俺の腹に突きつける。
「――マジかよぉ!」
 ドスンッ、と、銃を撃ったとは思えないような鈍い音がして、何かに後ろから引っ張られたみたいに吹っ飛んだ。腹にアブソリュートを張っていたので、ダメージは軽いが、それでも腹が鈍く痛い。
 そう思っていたら、今度は地面に叩きつけられて、背中を強打してしまった。
 ショットガンを完全に殺しきる事は、さすがにできなかったらしい。俺のアブソリュート、全然強くないな。わかってたけど。
「――だがっ、まだまだぁ!」
 俺は、立ち上がって、再び走りだそうとした、が。思わず急ブレーキをかけてしまう。
 両腕をバズーカにした、亀島さんが見えたから。
「よ、容赦ねえッ!! マジかよあの女!」
 俺は急いで、アブソリュートをいくつも張ったが、しかし、ショットガンで割れてしまう物が、どうしてバズーカを防げるだろう。結局俺は、また何メートルもふっとばされて、
「ギブ! 無理! これ無理!!」
 という、降伏宣言で、その模擬戦闘は終わりを告げた。

       

表紙
Tweet

Neetsha