Neetel Inside ニートノベル
表紙

ボックス・イン・ボックス
■2『ボックス保持者の学園生活』

見開き   最大化      


 ■2『ボックス保持者の学園生活』

 葛城綾斗。
 ボックス『アブソリュート』を所持。
 透明な壁を出現させるバリア能力。
 攻撃力D、有効射程B、能力強度C、発動速度A、希少性C。
 攻撃には向かないタイプのボックスですが、防御はそこそこな様です。ただし、過信できるほどの強度はありませんので、防御として使う際は気をつけてください。

 この文章が何かというと、学校に能力が芽生えましたと言った際、能力測定をさせられた。その結果である。
 白金からの追手を退けたその後、俺は亀島さんと茶介を保健室に運び(亀島さんには触れないので、そこは通りかかった先生を頼った)、三時間目から教室へ戻り、授業をしていた先生に事情を説明して、なんとか出席にしてもらおうと思ったら、
『ボックスが発動したら職員室に報告へ行って』
 なんて言われ、職員室に行ったら教師を相手にボックスの能力がどういうモノなのか、測定させられた。どうやら人によって測定方法は違うらしく、俺の場合はバリアをどの程度の大きさまで出せるか、自分からどれだけ離れた位置に出せるか、どの程度の攻撃にまで耐えられるか、など。
 そういうモノを測定され、結果、成績みたいな物が書かれたペライチの紙を渡されたのである。
 ――で、その能力測定をやってた結果、まーた授業が一切受けられず、俺は転校二日目を終えたのだった。
 親になんて言えばいいんだおい。一切勉強してねえし、まだ友達は一人っきゃいないぞ(あそこまで修羅場を共にしたんだから、亀島さんは友達と言ってもいいだろう)。

「今日こそは、普通の学園生活を送りてえなぁ……」
 そんな事を呟いて、俺は通学路を歩いていた。いまいち学園のシステムを理解していないけれど、要するに白金は学園の生徒を使って俺を強襲できる、ということは間違いなかった。
 つまり、俺が普通の学園生活を送れる可能性は相当少ない、という事でもある。
 転校して二日いんのに、まともに授業受けてないんだぞ。
 そりゃ真面目な態度の学生じゃないが、教室にいないと友達も作れないじゃないか。
 学校行きたくねえなぁ、なんて思いながら、学校前に直通のバス停へとやってくる。
「おはようございますっ、葛城さん」
「うぉ!」
 突然、背後から女性に話しかけられて、俺は飛び跳ねてしまい、背後を見た。だが、そこにいたのは亀島さんだった。
「あ、なんだ、亀島さんか……」
「わ、私も驚きましたよ……」
 俺と亀島さんは、バス停に並んで、学園直通のバスを待つ。
「亀島さん、もしかして近所?」
「あ、はい。すぐそこなんです」
「んじゃあ、家近いね」
 そういう話をしていたら、バスがやってきて、俺達二人はバスに乗り込んだ。結構混んでいた車内だが、このバス停で降りる親子が寝過ごしていたらしく、運良く二人分の席が俺達の前で空く。亀島さんはそこに座り、「あれっ、葛城さんは座らないんですか?」と言ってから、何かに気づいたらしく、「あっ……」と息を漏らす。
「あはは……。バスとか電車の中では、座らない様にしてるんだよね」
 隣に女性が来たら、確実に気絶して寝過ごしてしまうし、ヘタしたら電車を止めるハメになりかねない。
「そうですか。私だけ座るのもなんだし、私も立ってますよ」
「いや、いいって。俺の勝手な都合だし」
 座ってて座ってて、と笑顔を作る。
 いい娘だなぁ、亀島さん。ちょっと遠慮がちに「え、でも……」と言うが、「いいからいいから」と、彼女を椅子から立たせない様にする。そうしていると、隣にサラリーマンが座って、俺が座るスペースはなくなり、亀島さんが「すいません」と頭を下げる。
「いや、謝るのはこっちだよ。昨日はありがとう。結局、お礼言えないまま帰る事になっちゃって」
「あ、いえ、いいんです。でも、なんで昨日は教室に来なかったんですか? 状況から察するに、逃げ切ったんですよね?」
 バスに揺られながら、俺達は話をする。朝日が眩しく、朝のバスってなんだか好きだ。
「あぁ、実は亀島さんが気絶した後、俺のボックスが発動してさ。その測定とかで、放課後まで拘束されてたんだよ」
「そうなんですか。初日にボックス覚醒なんて、運がいいですねっ。どういう能力なんですか?」
「あぁ、これ」
 俺は、ブレザーの胸ポケットにしまっていたあの成績表みたいな紙を、亀島さんに手渡した。
 それを広げ、目線を動かして読む亀島さん。
「なるほど。バリアの能力、ですか……」
 たたみ直して返してくれたので、俺はそのままポケットに戻す。
「でも、防御力はそんなに高くないんですね?」
「みたいだねぇ……」
 うぅむ。バリア能力としては中途半端なんだよなぁ。
 まあ、そんなに強力なボックスが芽生えるとは、思ってなかったけどさ。
「こんなんで、白金との戦い、やってけんのかなぁ」
「えっ!?」
 亀島さんは、人がいる公共機関の中だと言うのに、周囲の人目を忘れたみたいに、大きな声を出した。隣のサラリーマンを始めとして、怪訝そうな視線が亀島さんを射抜く。
 顔を赤くして、頭を下げ、鞄で顔を隠す亀島さん。
「どしたの亀島さん。ダメだよ、バスん中で大声出しちゃ」
「か、葛城さんがとんでもない事言うからですよっ」
 声のボリュームを落として、亀島さんは赤いままの顔で俺を見た。頬が林檎みたいになってるな。
「む、無理ですっ。武蔵野さんを倒すのは、それに呼び捨てなんて、白金さんにバレたらどんな目に合わされるか……」
「なんで?」
「武蔵野さんは、能力査定がオールAランクなんです。ウチの学校には、そんなの武蔵野さんしかいません。決して、親の七光りなんかでのし上がった人じゃないんです」
「……親の七光り? あいつの親、なんか偉いの?」
「なっ!」
 また大声を出してしまう亀島さん。隣のサラリーマンが露骨な咳払いをしてので、彼女は「す、すいません……」と頭を下げた。
「ダメだよ亀島さん。バスん中で大声出しちゃ」
「か、葛城さんが何も知らないからですよぉ……。武蔵野グループ、聞いたことないですか?」
「無い」
「えぇー……」
 マジか、こいつ。ほんとに義務教育終わらして来たのか? みたいな目を向けられた。やめて亀島さん、俺の心は弱い。
「武蔵野さんの家はですね、文房具から兵器まで、幅広い物を作ってる巨大企業なんです」
「マジ? 白金からそんな話、聞いたことねえよ」
 大体、あいつ俺とおんなじ、普通の公立小学校に通ってたんだぞ。なんでそんな超有名企業の社長令嬢が、一般の小学校に?
 疑問ではあるが、そんなの俺にゃわかんねえ。
「――っていうか、さっきから疑問だったんですけど」
 真剣な表情を作り、見つめてくる亀島さん。なんだろう、怖い。
「なに?」
「さっきから、武蔵野さんを呼び捨てにするの、やめた方がいいですよ? 武蔵野さんはファンも多いし、なにより、本人が許さないですし」
 私は苗字で呼んでるのに、とプリプリ怒る亀島さん。
「えー、でも昔っからこう呼んでるしなぁ……」
「む、昔?」
 俺は、白金との事情を素直に話した。幼馴染であり、俺のトラウマを作った張本人であるという事。私の所に辿り着いて見せろ、と言われた事。
 話してから、バス出てから話せばよかったと後悔した。
 亀島さんが、今まで以上に大きな声を出して、運転手直々に車内アナウンスで怒ったからだ。

  ■

「――まったく。亀島さんが大声出すから、車内で恥ずかしい思いしちゃったよ」
「か、葛城さんが現実離れした話するから……」
 朝から何度顔を赤くしてるんだか、と俺が呆れるくらい、亀島さんは赤面しやすい質らしかった。校門をくぐりながら、俺は彼女にバレないよう、なんとなく周囲を警戒する。
「現実離れってひどくない?」
 俺と白金が幼馴染には見えない、という意見なら、俺も同意するけど。あの手の人種は自分の住むべき世界があるんじゃねえかなあ。
「おんなじ立場だったら、絶対葛城さんもそう思うはずです」
「なのかなあ?」
「……例えば、私、実は石油王と友達なんです」
「……フワッとしすぎてわかんない」
「ごめんなさい……。言ってて、私もあれ? ってなりました……」
「もっとなんか、顔が出てくる人にしてくれないと。何さ石油王って、アバウトすぎでしょ。総理大臣の娘、くらいがいいと思うよ」
「辛辣です! ひどいです! わかってもらえるように頑張ったのに! 触りますよ!」
「ごめんなさいごめんなさい触らないで!!」
 俺はすぐさま、亀島さんから離れる。
「……仕方ない事情があるとはいえ、なんかすっっごい複雑です」
「トラウマを作った白金に言ってくれ」
「私がどうかした? 綾斗くん」
「ぎゃぁッ!!」
 背後からの女声に、俺は思わず、亀島さんの後ろに隠れた。亀島さんの身長が低いので、どうしても胸くらいまで露出してしまうが。
「げぇ! 白金!」
「……私に会う度、「げぇ」はないんじゃないかな? 綾斗くん」
 笑顔のまま怒る白金。血みたいな色の赤い瞳がすっげえ怖い。殺した相手の血を目薬代わりにしてんじゃねえだろうな。
「わ、わわっ。ほ、ほんとに武蔵野さんだぁ……!」
 キラキラした瞳の亀島さん。なんでこの悪魔みたいな女に、そんな目が向けられるんだか、俺にはこれさっぱりわからん。
「おはよう、綾斗くん。どうかな、学校生活は?」
「いや、まだ大したことしてねえんだけど。今の感想で言えば最悪なんだけど」
 初日から気絶するし、学校中から追われるし、トラウマの元とは再会するし。ボックス保持者じゃなかったら即転校だわ。
「うふふっ。またまた、私に会えて嬉しいくせに」
「え、お前俺にしたこと忘れてない?」
 俺の腹を刺したんだぞ、お前。
「――あれは綾斗くんが、あまりにも鈍感だからしたことだよ」
 さっきまで笑顔だった白金が、突然笑顔を引っ込めて、眉間にシワを寄せた。なんでだかは知らないが、怒っているらしい。
「なにそれ怖い」
「それに、あれは一応、無事に済むっていう算段があったからしたんだよ?」
「……なんだと?」
「パーカーの中にボールが入ってた事くらい、わかってるよ。じゃなきゃ、私が綾斗くんを傷つけるような事しないよ」
 信用できねえー。
 嘘つけ、絶対嘘だ。
 そんな俺の考えが、表情から察する事ができたらしく、白金は「ほんとだよ?」と上目遣い。顔から血の気が引いてくる。普通だったら、可愛いとか思うのかもしれないけれど、俺にしてみたらゾンビか何かが甘えてきているようで不気味だ。
「ま、いいや……。ここだと目立つし」そう言って、周囲に視線を向ける。校門近くでそんな会話をしていた所為か、非常に目立ってしまっている。登校中の生徒達が、チラチラこっちを見ているし、立ち止まってまで鑑賞するやつらもいた。
「じゃね、綾斗くん。また今度、ゆっくりと」
 そう言って、スカートを翻し、校舎に向かって歩いて行く白金。
 その背中を見ながら、亀島さんが呟く。
「ほ、ほんとに知り合いなんですね、葛城くん……」
「え、マジで信じてなかったの?」
 亀島さんって、意外と辛辣だよなぁ……。

     

 意外と雑で、意外と辛辣な亀島さんという一面を目撃し、白金へのトラウマがまだまだ払拭できていないということが再確認できたところで、俺達は教室へ向かった。
「おはようございまーす」
「おはっすー」
 亀島さんと俺が、挨拶して教室に入ると、それなりの賑わいを見せていた教室が、一瞬シン、となった。昨日、自分たちのカーストを上げる為に俺を襲っているから、話しかけづらいのであろう。
 しゃーねえなぁ、気にしてないからじゃんじゃん話しかければいいのに。
「おいっすー! おはようおはよう。なんだよぅ、昨日はすっげえ熱烈なアプローチだったのに、今日はみんな暗いじゃんよぉー」
 と、自らの席に向かいながら、みんなに話しかける。しかし、「お、おう」というリアクションが帰ってくればいい方で、基本的にはだんまりというか、俺がアメリカでしか通じないジョークでも飛ばしたみたいに見てくる。
「なーんだよぉ。転校生だから、結構ちやほやしてもらえると思ったのにぃ」
 思わず、唇を尖らせてしまう俺。ドカッと勢いよく椅子に腰を下ろした。
「まあ、昨日の事があったら、みんな話しかけにくいですよ……」
 苦笑する亀島さんも、同じように、前の席へ腰掛けた。確かに、昨日は俺の四肢を落とすとか言ってたし、わからんでもないが。
「別に気にすること、ねえのになぁ」
「……変わってんな、お前」
 そんな話をしていたら、頭に包帯を巻いた茶介がやってきて、俺の前に立った。目には相変わらず、覇気も怒気も生気もない。
「よう茶介。頭の件は謝らねーぞ」
「謝ってくれとは思ってねえよ。俺だって、昨日の一件は謝る気ないし」
「……別にいいんだけど、なんだろう。ムカつく」
「変わってんな、お前」
 こいつ、自分の話が流れそうだからって無理矢理戻しに来たな。
 俺もその話はそんなに掘り下げる気は無いけど、それは俺がするべき事なんじゃねえの?
「一応訊いとくけど、何が?」
「普通あんな目にあったら、学校来るのも嫌になるだろ。今日来ないと思ってたんだぜ、俺」
「別にぃ。学校来んのは普通だよ、普通」
「その上、クラスメイトにも普通に話しかけるし」
「俺も白金の怖さはわかってるから、許す許す」
 意図して、へらへら笑ってみせた。笑顔は人を落ち着かせる魔法の表情ですよ。
「白金、ってお前な。カーストトップを呼び捨てかよ。ますます変わってんな……」
 訝しげに俺を見つめる茶介。なんだよ、こっちは笑顔なんだから笑顔返してくれない? そうなると、俺だけ空気読めてないみたいじゃん。
「俺はそういうの、つっこむとめんどくさいと思ってるタイプだからいいが、他の人間には武蔵野さんって言った方がいいぞ」
 言われて、俺は先ほどの亀島さんを思い出した。確かにバスの中でうるさくされてしまったし、どうも白金は名前の呼び捨てを許していないみたいだし。結構崇拝している人間もいるっぽいし……。うん、俺と白金が幼馴染ってのは、隠したほうがよさそうだな。
 校門前の会話、周りからのリアクションもそんなになかったし、聞かれてなかったんだろうから、これから秘密にしていく方向で。
「わかった。そうするよ」
「……じゃ、なんかあったら言えよ。謝る気はないが、味方はしてやるよ」
「マジで?」
 亀島さん以外にも味方ができるなんて、嬉しいなぁ。味方ってことは、イコール友達って言ってもいいだろう。
 茶介が立ち去ろうとするので、俺は思わず、「なあ、さっそく一個いい?」と、呼び止める。
「んだよ」振り向いた茶介は、もうなんかトラブルに巻き込まれてんのか、と言いたげに目を細める。さっそく言ったのは悪いけど、味方になるというなら、そういうめんどくさそうな目はしないでほしい。
「別に大したことじゃないよ。昼飯、一緒に食おうぜ」
「……お前、変わってるんじゃなくて、バカだろ」
 すっげえショックな事を言い残し、友達の元へ戻っていく茶介。
 残された俺は、話を聞いていただろう亀島さんに視線を向ける。
「俺、バカじゃないよね?」
「……その発言が、もうバカっぽいんじゃ」
「いや、まだまだ大丈夫」
「別に最低ラインが決められてる、みたいなルールないですからね?」
 結構バカって、傷つく言葉だな……。

  ■

 転校三日目にして、やっとまともに授業を受ける事ができた。
 ――ボックス研究機関、国立箱ヶ月学園だから、きっと授業もハイレベルだったりするんだろうな、と思ったのだが、意外と授業のレベルは俺が行っていた学校と、そう大差なかった。最初に受けさせられた試験で、学力の割り振りでもしていたんだろうか?
 そういう疑問は、特に興味なかったので、俺が誰かに聞くこともない。
 変わった授業と言えば、日に一時間分だけ入っている、『研究協力』という時間だった。
 亀島さん曰く、
「私達のボックスの、データを取る時間なんです。日によってやることは違いますけど、今日は模擬戦闘をやるみたいですよ?」
 との事だった。
 模擬戦闘ねえ。つまりは、昨日みたいな事をタイマンでやればいいんだろ。
 そう思っていたが、クラスメイトに「誰か俺とやろうぜ!」と気さくに声をかけても、びっくりするくらい誰も乗ってきてくれず、茶介はすでに先約があったので、俺は気を使ってくれた亀島さんとやる事になった。
「ごめんね亀島さん。俺は友達作りが下手みたいだ」
 そこは、学園の校庭にある体育館――の、横にある、通称格技場と呼ばれる施設だった。
 普通なら、剣道用のスペースだったり、柔道用の畳なんかが敷いてあるのだが、そういう場所ではなかった。
 まず、相当に広い。サッカーグラウンドくらいはあるだろうか。
 そんな中に、白いコンテナボックスみたいなモノが、いくつも並んでいる。どこを見ても白、白、白で、なんだか気が滅入ってしまいそうだ。
 観戦用の窓まで備え付けてあって、どれだけ金がかかってるんだか、想像もできない。ボックスの研究は、それだけ利益を生むという事だろう。
 どうやら、その中コンテナのに入って模擬戦闘を行うらしく、俺と亀島さんは、二人でそこに入った。
 見た目的には、カラオケの部屋より少し広い程度を想像していたら、中はそれよりもずっと広かった。体育館くらい? バスケは余裕でできる事は確かだ。
 白い床に黒いラインが引かれていて、どうやらこの中で戦えという事らしかった。
 体操着に着替えた俺と亀島さんは、向かい合っていた。俺はジャージだが、亀島さんは白いシャツと黒のハーフパンツという軽装。これからどうしたらいいのか、と思ったが、どうやら指示が来るらしく、亀島さんが動く気配はなかった。
 そんな時、天井のスピーカーから、しわがれた男の声が響いてくる。
「それでは、皆さん。準備はできたようですね。ボックス以外での攻撃は禁止、相手の降伏宣言があったら模擬戦闘は中止してください。――では、開始!」
 合図の瞬間、周囲の空間が、突然歪み始めた。白から、どんどん絵の具を手当たり次第にぶちまけたような色になっていき、規則性が生まれたかと思いきや、駅のホームへと姿を変えていた。
「うぉ――っ!」
「行きますよ、葛城さん! 『サイコウエポン!』」
 驚いている俺を無視するという実にシビアな行動を取った亀島さんは、片腕をハンドガンに変え、俺に向かって連射してきた。通常なら、普通の人間だった頃の俺なら、体を貫かれて、血を出して終わりだろうが、今の俺は曲りなりにもボックス保持者である。
「『アブソリュート』!」
 目の前に透明な壁が出現し、弾丸を防いだ。
 しかし、それだけで、俺の前に出現した壁は、割れてしまった。
「ええっ!?」
 驚いたのは、亀島さんである。弾丸を数発受けた程度で割れるとは、思っていなかったのだろう。だが、俺のアブソリュートは、名前負けもいいところで、大体の攻撃は、おそらく一回受ければ割れるだろう。
「隙ありッ!」
 思い切り地を蹴り、拳にアブソリュートで作った箱をまとわせる。こうすると、なんだかまるでボクシンググローブみたいになって、俺でも女性を触る事ができる。
 というか、ぶん殴る事ができる!
 女性に対して、暴力を振るう事に対して、苦言を呈する人もきっといるだろう。だが、女性だって暴力を振るえる! 暴力には暴力だ!
 亀島さんは、さらに弾丸を撃ってくるが、俺のアブソリュートは、発動速度が早い。
 弾丸が放たれたのを目視してからでも、充分に間に合う。
 目の前で割れる壁を見て、一瞬大きな音にびっくりしてしまうが、亀島さんの間合いに入り込むのは、アブソリュートの力があれば、簡単だった。
 けれども、彼女は、右腕をショットガンに変えていた。
 それを、接近してきていた俺の腹に突きつける。
「――マジかよぉ!」
 ドスンッ、と、銃を撃ったとは思えないような鈍い音がして、何かに後ろから引っ張られたみたいに吹っ飛んだ。腹にアブソリュートを張っていたので、ダメージは軽いが、それでも腹が鈍く痛い。
 そう思っていたら、今度は地面に叩きつけられて、背中を強打してしまった。
 ショットガンを完全に殺しきる事は、さすがにできなかったらしい。俺のアブソリュート、全然強くないな。わかってたけど。
「――だがっ、まだまだぁ!」
 俺は、立ち上がって、再び走りだそうとした、が。思わず急ブレーキをかけてしまう。
 両腕をバズーカにした、亀島さんが見えたから。
「よ、容赦ねえッ!! マジかよあの女!」
 俺は急いで、アブソリュートをいくつも張ったが、しかし、ショットガンで割れてしまう物が、どうしてバズーカを防げるだろう。結局俺は、また何メートルもふっとばされて、
「ギブ! 無理! これ無理!!」
 という、降伏宣言で、その模擬戦闘は終わりを告げた。

     

 プシュー、という、空気が抜けるような音がして、周囲が白い空間に戻っていく。そして、「だ、大丈夫ですか葛城さん!」と亀島さんが駆け寄ってきた。
 白い空間になると、さっきまで見えなかった観戦用の窓から、白衣を着た大人が数人こちらを覗きこんでいるのが見えた。何かを手元のバインダーにメモっている。俺の能力の有用性でも確かめてやがんのか?
 まさか成績に関わってくるとか言わないよね……。
 嫌だぞ、異能バトルが下手だったからって大学への推薦が取れないとか言われても。
「くそぅ……。腹がいてぇ……」
「すっ、すいません……。アブソリュートの防御性能が、あんなに低いとは思わなくって……」
「亀島さん、それ俺の事ディスってるって言葉にする前に気づいてよ」
 テンション上がってたからなぁ……。
 こんな紙防御力だって知ってたら、アブソリュートなんて名付けなかったよ。障子紙って名づけたよ。
「ちょっとその防御力は、問題じゃないですか?」
「……人間に、なんで脳みそがあるか、知ってるかい」
「……え、っと」
 なんでだか考えている亀島さんを見ながら、立ち上がる俺。そして、できるだけキメ顔を作って、顎をさすりながら言った。
「知恵を使う為だよ」
「はぁ……」
 明らかに亀島さんは、困っていた。たしかに言い方こそふざけていたが、俺はわりと本気でこう思っているし、ボックスを持ち替えられないのであれば、これで頑張るっきゃないのである。
 工夫して、なんとか使える様にしなくっちゃならない。

  ■

 俺が生きる道は、アブソリュートの使い方で開けてくると言っても過言ではないだろう。
「んー……。あーでもない、こーでもない……」
 教室に戻り、俺は授業中、左手にカードサイズのアブソリュートを出し、それを触りながら、ノートにいろいろ書き込んでいた。自分が考える、アブソリュートの有効利用法である。
 ……カードサイズだと、まんまスリーブに見えるのがすごく悲しい。
「なにやってんだ、葛城」
「んあ?」
 見ると、茶介がやってきていた。手には、菓子パンが二つほど。どうやら、俺が気づかない内に、昼休みになっていたらしい。
「あれ、もうこんな時間かよ」
「……気づかなかったのか? さっきっから、亀島が「友達と一緒にご飯食べてくる」って、声かけてたろ。結局、気づかないお前に業を煮やして、行っちまったが」
「あ、そう……。悪いことしちゃったな」
「で、俺は約束を守りに、飯を食いに来たんだよ」
 そう言って、茶介は亀島さんの席に腰を下ろした。俺も、机にかけてあった鞄から弁当を取り出し、二人で食事を始める。
「お前、自分のボックスに不満持った事ない?」
 俺は、母特製の玉子焼きを食べて、茶介に訊いてみた。こいつの能力は、氷を操る『アイスエンド』だったっけ? 便利そうな能力だよなぁ。不満なんてなさそう。
「あるよ、不満」
「えっ、マジで?」
「あぁ」言って、茶介は握手を求めるように、俺へと手を差し出してきた。なんだろう、と思って、その手を掴むと、俺は一瞬で、慌てて手を引っ込めた。
「つっ、冷たっ」
 茶介の手は、まるで氷みたいに冷たかった。凍死したての死体を思わせる。――触ったことないけど。
「俺も詳しい事は知らないけど、理屈的には、大気中の水分を集めて、俺の体温で凍らしてるらしいんだよ。だから、体温がすっげえ低くなっちまってさ」
「へぇ……」
 そういう、体質に出るデメリットもあるのか……。俺の場合、日常生活にはあんまりデメリットないもんな。
「別に気にしちゃいないが、猫舌になった事と、暑さに弱くなった事は、ちょっと残念だな」
 そう言いながら、さっきまで俺が書いていたノートを勝手に開く茶介。別にいいけど、ちょっと許可取る素振りを見せてよ。
「防御力が弱いバリアとか聞いたことねえよ。ウケる」
「ウケてんじゃねえよ、人の異能力とっ捕まえて!」
「そういやぁ、俺に勝った時も、バリアの能力っつぅか……」
「言うなって。一応、目覚めなきゃ勝ってないんだから……」
 ゴリ押しもいいとこである。ゲームだったら隣で見学してる友達に「倒したけどゲーム下手くそじゃね?」と言われるタイプのプレイングに近い。
「お前、能力使わない方がいいんじゃねえか?」
「そんなん無理だわ。どうやって、ボックス使わないで、ボックス使いと渡り合うんだよ。逃げるだけならできるかもしれんけど……」
 そうはいうが、発信機に似た力のボックスを持ってるやつとかいたら、逃げ切れないし、やっぱり俺のボックスを上手く使って、相手を叩く事を考えないと。
「防御なら、俺のアイスエンドもできるしな……」
「で、でも、アブソリュートは発動速度も早いし、枚数制限とかもないじゃん?」
「そこはメリットだと思うが……」
 俺だったら匙投げるわ、と言い張る茶介。ボックスをバカにされるのって、なんか「なんでお前そんなに運動できないの?」とか、そういう身体能力的な事をバカにされてる感があって、ちょっとカチンと来るな。
「割られても割られても負けない。そんな強さが、俺のアブソリュートにはあるんだよ」
「……そんなんじゃ、俺の中の最弱認定は覆らないぞ」
「うるせー! 俺に負けてるくせによぉ!」
「それが納得いかねえんだよな。もっかいやれば、俺が勝つ」
「もうやだよお前とやんの!」
 俺もそう思うもん!!
 勝てたのはまるまる運。言わないけど、俺はそう思っている。多分、茶介もそう思っているけど。
「……そういや、茶介って、学園カースト、どんくらいなんだ?」
「ど真ん中、ってところか。普通に友達もいるし、狙えば彼女もできる、くらいな感じ」
「――え、彼女云々も、カースト関係してくるのか?」
「当たり前だろ。カーストが最底辺のヤツと付き合って、メリットがあんのか?」
「えぇ……っ。メリットとかで考えるの……?」
 茶介は、頭を軽く掻きながら、「お前、ほんとにバカだな」とめっちゃ失礼な事を言ってきた。温厚な俺じゃなかったら怒ってるからね、マジで。
「そうだな、例えば、お前の彼女がカースト最底辺だとしよう」
「ふんふん」
「まあ、最底辺だと、いろいろトラブルがある。能力が弱いから、ボックスを試したい連中には狙われやすいんだよ」
「サバンナみてえな学校だな」
「彼女がそんな目にあったら、お前、守るだろ?」
「当たり前だろ。つうか、彼女じゃなくても、そういうのは気に食わない」
「ま、そういうトラブルに巻き込まれやすい、ってことさ。俺は面倒臭いのが嫌いだから、特に、カースト最低辺とは関わり合いになりたくねえ」
「ってことは、俺ってまだ最低辺じゃねえんだ?」
「まあ……、武蔵野さんから目をつけられてるってのもあるし、そうだな、クラスで浮き気味、くらいだろ」
 あくまで主観だからな、と付け足す茶介。俺って茶介から見たら、クラスで浮いてるのかよ、と言いたかったが、実際茶介と亀島さんしか話し相手いないし、まだ浮いてるんだろう。
「言っとくが、俺はお前が最低に落ちたら、助けねえぞ」
「ひっでえー。もう友達じゃん、助けてくれよぅ」
「アホ抜かせ。俺が、お前を襲った理由忘れたか? 楽な学園生活を送る為だ」
 そう言われて、俺は思い出した。確かに茶介は初対面時、『武蔵野さんに認められて、カーストを引き上げてもらい、授業を免除してもらうことだ』と言っていた。
 菓子パンを食べ終わった茶介を見ながら、俺は、カースト上位ってどういう生活送ってるんだろう? と気になった。
「なぁ、カースト上位者、白金とか、そこに近い人間って、どういう学園生活なんだ?」
「……大抵の場合、能力が強い連中が集まってる。こういうやつらは、学校から贔屓されてるからな。ボックス研究に協力するかわりに、授業免除。出てもいいし、出なくてもいい」
 それは前に聞いたな。それだけで、ずいぶん羨ましいが。
「そして、学校から補助金が出る」
「はぁ!?」
 机を蹴っ飛ばす勢いで立ち上がる俺。茶介は鬱陶しそうに目を細め、周囲も俺を見てきたので、みんなに頭を下げて、小声で「か、金もらえんの?」
「あぁ。まあ、これはカースト上位者の中でも、能力の希少性がA評価なやつだけの特権だけど」
 確か、白金はA評価だっけ。くそったれ。あいつの家、金持ちなんだろうが。なのに、さらに金入ってくるとかずるいな。やっぱり金持ちは金運がマックスなのか?
「お前のボックス、希少性評価いくつだった。ちなみに、俺はBだ」
 特に自慢するでもなく、ただ口に出す茶介。だが、さすがにAに届かないという悔しさはあるらしく、「ふん」と鼻を鳴らしていた。
「俺はCだったかな」
「普通、くらいか。まあ、防御能力事態、無いわけじゃないからな。――防御性能が最低ランク、ってのが、多少プラス評価になってるくさいが」
「ちぇっ。じゃあ、俺は補助金諦めるしかないか……」
「目的変わってんじゃねえか」
 あーあ。金がありゃ、あのゲームもこの漫画も買えたのに。
 学校から金もらえて、しかも単位まで何しなくても出るとか、憧れるなぁ。
 いかん、どんどん「俺のボックスがRPGの勇者レベルに秘めた力とかあったらな」なんて考えてきちゃう。そんな意味の無い事を考えてもしかたない。防御性能のないバリア、それが俺の力なんだから、とにかく、そのカードを使える状況を見つけ出さなくちゃ。

  ■

 とにかく、俺が勝つには、ボックスだけじゃない。
 戦いの事を知る必要がある。戦いとは、つまり、その場その場に適した動きができること。つまり、臨機応変。そして、体の使い方を知る事、格闘技である。
 なぜそんな事に思い至ったか、というと、以前追い掛け回された時のことが大きい。茶介相手には通じなかったけれど、一応一人はボックス保持者を倒せているわけだし、通じる相手に通じるというのならば、学んでおいて損はない。
 こんなダルい事、前の学校だったら絶対に考えなかった。
 うぅむ。勉強しよう、って気にさせるのは、なんだか優秀な教育機関なんじゃね? って気がしてきた。そんなわけないけど。
 そんなわけで放課後、俺は一人、図書室にいた。
 どうやら、ここはあまり使われない教室らしく、司書係のお姉さんと、数人の生徒がいるだけだった。
 そう言いつつ、俺もあんまり図書室って入った事ないんだよなぁ。小学校の頃に、手塚治虫の漫画を読みに来た時以来か。
 俺は格闘技の本を取り、読もうとする。のだが。
「んっ――?」
 本の背表紙に指を引っ掛け、引き抜こうとするのだが、取れない。まるで、きっつきつに本を詰めてしまったみたいに、抜き取れない。
「なんだぁ?」
 本棚の数がそう簡単に増やせないってのはわかるが、貸し出されない本は裏にしまっておくとかできるだろ。なんだってこんなキツキツなんだ。本も痛むし、よくないと思うが……。
 抜こうと躍起になるも、全然抜けない。諦めて他の本を探そうと思ったら、突然「そこのお方」と、声をかけられた。
 声がした方へ振り向くと、そこには、頭にでかい赤いリボンを巻いた、長い金髪に毛先のカール(ドリル?)という、なんともド派手で、正直神経を疑う頭の女が立っていた。
 青い目をしているので、金髪が地毛なんだろうな、と察する事はできた。欧米人……なのかはともかく、高い鼻と細い顎。そして、なんともでかい胸。制服が浮いてる気さえするぞ。
「どうかなさいました?」
「ん、いや、本が取れないだけなんで、気にしないでください」
 俺は、この本を諦めようとした。すると、彼女は「そうですか。それでは」と言って、本棚の陰へと消えていった。
 困ってると思って、声かけてくれたんかな?
 まあ、そんなに絶対読みたい本ってわけじゃないし、他の本を探すつもりだから、そんなに困ってるってわけじゃないんだけどね。
 でもま、最後に一回、チャレンジするかと、もう一度背表紙に指を引っ掛けた。すると、拍子抜けするくらい、あっさり抜けて、本がバタンと音を立てて、床に落ちた。
「……あれ?」
 なんでだろ? 俺の気のせいだったのか? あんなにキツキツだったのが?
 いろいろ思う所はあったが、俺はとりあえず、本を拾おうと屈む。すると、本が何かに引っ張られたみたいに、スッと俺の手を避けた。もう一度手を伸ばすと、やっぱり逃げる。しかも、三〇センチくらいがっつり動いた。
 とりあえず、もう一度拾おうとして、一歩踏み出したのだが、その時に躓いてしまい、俺は盛大にコケた。
「イッテ……。何に躓いたんだ?」
 倒れたまま、足元を見るけれど、そこには何もなかった。俺は何に躓いたんだ……?
 そう思っていたら、今度は本棚に収まっていた本が数冊、勝手に本棚から抜け出し、ゆらゆらと蝶の様に本棚のページを羽ばたかせていた。
「なっ、なんだぁ!?」
 バサッ、と、ページが空を叩く音がして、その本達が、一斉に俺へと向かってきた。さすがの俺も、これが幽霊だとは、もう思わない。
 新しいボックス保持者が、俺を襲いに来やがったんだ。

     

 逃げるしかねえ。
 防御能力のない防御能力という、訳の分からないもんを持っている俺が先手を取れないというのは、それだけで、相手には相当のアドバンテージを持ってかれている。
 ――って言っても、俺が先手を取れる事ってそうないだろうなぁ……。
 俺が相手を襲う理由がねえ。
 とにかく、図書室から脱出して、体勢を整える。
 俺は本棚の群れから出ようとして、立ち上がって走るが、今度は足元に滑ってきた本を踏んづけてしまい、それですっ転んで、顔面から床に飲み込まれた。
「いってぇ!!」
 くっそ!! 本は丁寧に扱えよ! ここどこだと思ってんだよ!
 本って意外とすぐ痛むんだぞ!
「図書委員の人ーッ! ここに本を乱暴に扱う人がいますよぉー!」
 叫んだが、返事がない。っていうか、周囲を見れば人っ子一人いねえんだけど。
 さっきまでは誰かいたはずなんだが――。
『無駄ですよ……。人払いは済んでいますので』
 どこからか声が聞こえてくる。この声は、さっきの、俺に話しかけてきた女の声だ。
「テメーが俺にボックス攻撃仕掛けてんのか! 姿見せろ! 本に謝れ!」
『い、いまいち意味がわかりませんが……。安心してください。私は、白金お姉さまの命令で来ました。あなたが何をしようと、何をされようと、問題にはならない事をお約束します。本くらい安い犠牲です』
「それ聞いて何を安心すりゃいいんだ俺は。悪魔の使いじゃねえかお前よぉー!」
『……なんですのこの人』
 なんでそっちが引いてんだよ。引いてんのは俺だよマジで。こんなさぁ、図書室という闘争とは最も縁遠い場所で喧嘩仕掛けてきやがって。静かにしろって小学校の頃にしこたま怒られた経験の無い奴はこれだから。社会経験が足りないよ。
『葛城さん? これから、あなたには痛い目を見てもらうわけですが、よろしいですか?』
「よろしくないです」
 痛いの嫌いだもん。
『でしたら、降伏という選択肢もありますわよ? その場合、拘束させていただいて、白金お姉さまの元へ連れて行きますが』
「その選択肢の方が痛そうじゃねえか!! 詐欺だ詐欺!」
 そういう場合って、どっちかは痛くないやつじゃないと成立しないやつだろ!
『……先ほどから、アナタの中での白金お姉さまのイメージが、私とは真逆なのですけれど』
「誰が聞いたってこういう事になると思うけどね、さっきの問答は」
 特に白金が相手だと、そういう感じになるだろ。あいつは何しだすかわからん女だ。
 そんな話もそこそこにしながら、俺は相手の能力について考えていた。あいつが誰だか知らないが、少なくとも遠距離型の能力――、あるいは、透明化して俺の周囲にいるか。でも、声の感じからして、そう近くにいるとも思えない。それまでごまかす能力と言われてしまえば、それでお終いだが、そんな都合のいい能力があるとは思えない。
 そんなに都合よくできるなら、俺のアブソリュートはもう少し硬くしてほしい。
 個人的には、遠距離攻撃ってのがもっとも濃厚だ。というか、事実そうなんだろう。どれだけの射程があるかはわからんが、それでも、ここにいるのはマズイ。本ってのは地味にダメージがある。
「こうなりゃあ……」
 俺は、自らの周囲にアブソリュートを張り巡らして、一気にダッシュ。
『逃がしませんわっ!!』
 周囲の本が、一斉に俺へと向かって飛んでくる。なんかカラスに体を啄まれるような光景を思わせて、アブソリュートの中に居てもすげえ怖い。っていうか、向かってくる本を防ぐだけでめっちゃ軋んでる音がする。
 だが、それでも防ぎきる事はできた。
 図書室を脱出した俺は、どうすべきか考えていた。また理科室にでも逃げこむか、と思ったが、あそこは誰が見ても利用できる物が多い。罠にはめるのなら、こっちが準備を整えてからじゃないと。
 濃硫酸とか顔にぶっかけられたらたまらんしな……。
 治せるボックスとか、ありそうだけどね。
「くっそ! どこ行きゃいいんだろうなぁ!」
 俺は必死に走りながらも、どこへ向かうべきかと考える。
 放課後だし、このまま逃げてもいいが、そうなると、今後学校内で襲われるいつ襲われるかわからない。ここで倒しておくのがベストだが――。
 それができりゃあ苦労しねえんだよなぁ!
 なので、俺はその勝利条件は捨てた。
 とにかく、今日は帰る。お家帰る。そして、後日亀島さんとか、茶介とかに協力を要請するっきゃねえ。
 鞄取りに行ってる暇はねえし、階段をまっすぐ下駄箱へ向かって駆け下りる。
 さすがに、上履きだし、靴くらい履き替えてもいいだろう。
 俺は自分の下駄箱から、靴を抜こうとするが、下駄箱が開かない。
「……まさか」
『ええ、あなたがここに来るのは、予測済みですの』
 なんでっ、あいつが、ここにもう来てるんだよ!
 いや、確かに帰るなら、ここを通るのは間違いないが、俺はまっすぐここへ来ている。後ろを確認しながらだ。最短ルートと言ってもいいのに、女のあいつがなぜ俺より早く来れた。
『喰らいなさいっ! この攻撃を!』
 どこかの下駄箱が、勢いよく開いたような音がする。そして、すぐに下駄箱を越えて、一足のスパイクシューズが飛んできた。
「げぇッ!?」
 スライディングで足をえぐる事のできるスパイクが、さっきの本と同じくらいのスピードで飛んでくるとなると、頭なら頭が割れるし、少なくとも皮膚は間違いなく裂ける。
『命だけは助けてあげますわ! さぁ、眠りなさい!!』
 スパイクが、俺に向かって飛んでくる。
 スパイクを防げるかは、微妙だ。スピードも結構ある。だが、やるしかない。
「『アブソリュート』ぉ!!」
 向かってくるスパイクへ向かって、掌と共に透明な壁を掲げる。だが、まるでガラスみたいに、簡単に破られる。
 俺のアブソリュートに、いいところがあるとすれば、それは展開速度と量産性の高さだ。どれだけ作ってもいいし、作るスピードも早い。ジャンクなバリア。
 だから、俺は一枚破られると、すぐにもう一枚のバリアを張って、それが破られたらもう一枚。そうしていれば、勢いが殺され、避けるのは簡単になる。
 そうして、苦労しながらも避けて、俺は下駄箱から退避しようとするも、もう一足のスパイクが進行方向から飛んでくる。
「あぶねっ!」
 俺は、とっさに腕でガードしてしまった。まだアブソリュートでガードする、というのが癖になっていないのだ。だから、スパイクが腕に刺さった。
「うぐぁァッ!! ――くっそ、いてえ……!」
『まだまだ、痛い目を見てもらいますわ。お姉さまをバカにした罰!』
 背後のスパイクが、勢いを取り戻して、俺はそのスパイクを腕にまとわせたアブソリュートで叩き落とす。さっき腕に食らってしまったから、気をつけたのだが、弾いたら今度は、地面に落ち、スパイクが俺の足を抉った。
「ぐぅッ!」
 しまった、逃げ足を潰された――。
 くっそ。だが、ここで諦めちゃならねえ。相手は遠距離攻撃特化。サイコキネシスみたいなもんだと予想しよう。
 俺の逃げ足を潰した程度で、出てくるとは思えない。
 まだ、まだ逃げられる。倒れた俺は、這いずりながら、下駄箱から離れようとした。
 こうなってしまっては、外に行くのは逆に危険だ。校庭は部活をしている生徒達がいる。今度は、さらにとんでもない物が飛んでくる可能性があるだろう。
 学校内、それも、周囲に何もない場所へ、見通しが聞く場所へ行くのが望ましい。
「……あ?」
 俺は、そう思って、ふと、自分の思考に違和感を覚えた。だが、そうしながらも、手足は止めない。
『うふふ……。情けない姿ですわね、葛城さん……』
 なんであいつは、俺の体を直接持ち上げない?
 考えられるパターンは、二つ。
 重量制限があるか、あるいは、持ち上げてしまったら能力の正体がバレるからできないか――。
 可能性は潰していくしかない。
 俺は、ゆっくりと壁に手をついて立ち上がり、目的の場所へ向かう事にする。とにかく、二階につけば、目的の場所はすぐにつく。こうなってくると、一階に降りてしまったのは大失態。
 だが、そうなってくると、あいつが俺を素直に二階へ通すとも思えない。それまでに倒すだろう。長引かせる理由もないし。
 痛みが引くのを待って、ちょっと無茶をしてでも、走って逃げるのが一番だ。その為には、会話でつなぐしかない。
『……さて、そろそろ、眠っていただきますか。そのまま、うつ伏せの体勢でいてくだされば、後頭部をかち割って、気絶するだけで済みます』
 それは一般には重症って言うんじゃないですかねえ……。
 まあ、かまっている暇はない。俺は必死に、先程までの会話を思い出しながら、相手が興味を持ちそうな話題を探す。
「……お前、白金の事をお姉さまって呼んでたな」
 相手が、息を飲む様な気配。
『ええ。それがなにか?』
 今、俺があいつの興味を引けるカードといえば、白金しかない。俺にとっては反吐の出る行為ではあるが、白金の話題で、俺の命をつなぐ。
「よっぽど尊敬しているみたいじゃん。なんせ、わざわざ白金の為に、俺を連れて来いって指令をこなすくらいだからな」
『……そうですわね。お姉さまは、すばらしいお人です。容姿、才覚、そして、ボックス能力。すべてが一級品、私も、ああなりたいと思っております』
 俺は絶対、ああはなりたくない。
 もちろん言わないけどね。相手を怒らせて、無理な特攻かけられたら速攻負けるし。だから、相手が会話を打ち切らないよう、怒らせないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「俺も一度見たけど、確かにすげえボックス能力だった。見た目も神秘的だ。だからこそ、なんであいつが自分から来ないかがわからんけど」
『……私は、言わば試金石ですわ』
「どういうことだ?」
『私を倒せないような男に、会いに来てほしくない、ということではないでしょうか。白金様は、あなたに『信じているからね』と言っておりましたよ』
 すげえ勝手な言い分で笑いそうになる。頼むから、俺を放っておいてほしいんだけどな。
『ですので、ガッカリさせないでください。お姉さまにそこまで言わせたあなたが、そう這いつくばっている光景は、落胆ものです』
「……大丈夫。お前を倒す策は、進行中だから」
『……なんですって?』
「おおっと!!」
 俺は、大声を出す。見えないからかなり勘でやったが、あいつは、きっといま能力で何かをしようとしたはずだ。
「いいのか、うかつに能力を使って。策が進行中って言ったろ?」
 俺は、足の様子をこっそりと、地面を蹴って確認する。もう大丈夫だろう。目的の場所まで走れる程度の回復はした。
『……関係ないですわ。私のボックスなら、何があろうと』
「そうかい」
 俺は、できるだけ軽く立ち上がり、思い切り地面を蹴った。できるだけ余裕そうにし、相手の度肝を少しでも抜けるように逃げた。
『――なっ! 待ちなさい!』
 驚いたような声が聞こえてくる辺り、相手の初動を少しでも遅らせる事ができたらしい。能力の正体を、まずは掴むんだ。そうすれば、俺は勝てる。

     

 逃げ足には自信がある。
 足がえぐれている分、多少は遅くなってしまっているかもしれないが、それでも、一〇〇メートルそこらなら、あっという間だ。
 階段を駆け登り、そのすぐ横にあった教室へ飛び込む。そう、俺はここへ来たかった。この、中身空っぽの机と椅子しかないこの場所に。
 ここなら、持ち上げられるのは机と椅子だけ。重量制限があるかどうかは、ここでわかる。
『……無駄ですわ。ここで何がしたかったのか知りませんけど、あなた、自分から窮地へやってきたのですわ』
「……ピンチはチャンス、俺の座右の銘だもんで」
『言ってなさい』
 そんな言葉のすぐ後に、俺の周囲にあった椅子が、机が、浮かび上がる。
 つまりこれは、可能性が一つ潰れた。重量制限はない! 少なくとも、俺を持ち上げられるレベルの力はある。
 つまり、俺に能力を使ったらバレるタイプ――。
 サイコキネシス、ではない――。
 いや、そんなん考えてる場合じゃねえ。
「……俺のバカ」
 考えてなかった。
 この窮地を脱出する方法は考えてなかった。
 机の物量をアブソリュートで防ぎきれるか――?
 いや、無理だ無理。絶対アブソリュ―トなんて名前してっけど、そんな絶対なんて言い切れる信頼値はない。
 だが、張らなくちゃ結局死んじゃう。さすがに牛乳毎日飲んでても、机でドタマ殴られたら死んじゃう。
『――やっぱり、ただのバカだったようですわね』
 相手は俺の値段を決めたらしいが、俺はまだまだ終わるつもりなどない。
「アブソリュート!!」
 机を一個弾くのに、バリア一枚使わないとならない。だが、展開速度がいくら早かろうと、そんなのジリ貧になる。せめて、バリア一枚につき、机二個弾かなくっちゃあならない。
 俺は、下敷きサイズのアブソリュートを取り出し、飛んできた机の角
を、アブソリュートの角で叩き、最低限の力で方向を逸らす。
 点と点なら、アブソリュートの耐久度も多少は保つ。
 だが、これは急場しのぎに過ぎない。
 他の手を、頭かち割られる前に考えなくっちゃあ、俺は負ける。死ぬまではないにしろ、学園生活は犠牲になる。
『よくしのぎますわね! でも、まだまだこちらのスピードは上がるんですのよ!!』
 椅子が、机が、後ろから前からと俺に向かって飛んでくる。防ぎ切れるわけがねえ。背中を思い切り、椅子で叩かれた。
「おご――ッ!!」
 背中が、メキメキって音を鳴らした。意識が一瞬で彼方へと吹っ飛びそうになったが、なんとか堪える。ダウン寸前のボクサーも、こんな感じなんだろうか。そう思ったら、俺は足を踏み出し、耐える。
『まだまだ、行けますか?』
 クスクス、と笑っている声がして、俺は「当たり前だ」と、おそらく相手がいるだろう廊下へ向かって叫んだ。
『よろしい。次は、頭を思いきり揺さぶりますわ』
 机が、今度は正面から飛んできた。
 アブソリュート――いや、繰り返しても砕かれて終わり。アブソリュートはこの状況じゃ役に立たない。
 俺は、その机の足を掴んで、明後日の方向に放り投げた。
『痛っ!』
 ……痛い?
 あいつ、今、痛いって言ったか?
 なんで痛がる。俺が今した行動の結果か?
 俺がしたのは、机を明後日の方向に放り投げただけだ――。
 あいつの能力は、俺に触ったらバレて、かつ、予想外の動きをされると痛みが伴う物――?
 俺の中で、点と点がつながった。
「いただきだ……」
『……なんですって?』
「お前の能力の正体が、わかった。この勝負は、いただきだって言ったんだ」
『……言うに事欠いて、私の能力が、わかったですって……?』
「さっきっから顔を見せない理由が、ようやくわかったぜ。顔なんて見せたら、一発でバレちまうもんな」
『知った風な、口を……!! 私を落胆させただけでなく、怒らせた。この二つの罪は、あなたの体で償っていただきますわ!』
 机が、椅子が、今度は俺の前で、一つに固まった。巨大な塊が、俺に向かって飛んでくる。
『あなたのチャチな能力では、この質量は防ぎ切れないでしょう!!』
「防ぐ必要なんてないんだよなぁ!! だって、それを待ってたんだから!」
 俺は、自分の足元から、その塊の下へ向かって、アブソリュートを張って、走りだした。そして、アブソリュートを滑るみたいに、スライディングでその塊を躱した。そして、すぐに立ち上がり、椅子の下の虚空を掴む。糸のような物が、手に触れて、それを思い切り、地引網をそうするみたいに引っ張った。
『きゃあッ!!』
 そうすると、壁に何か叩きつけられたような音がなり、教室の入り口から、さっき図書室で俺に話しかけてきた少女が入ってきた。
「よぉ、さっきぶりだなぁ……」
 がたん、がたんと、後ろで椅子や机が落ちる音。にやりと笑う俺を、彼女は忌々しげに睨んでいた。
「……能力がわかった、というのは、ハッタリではなかったようですわね」
「もちろん。――お前の能力は、『髪の毛を操る事』だ。俺に直接触れたらバレるし、この能力は、バレたら距離をあっという間に詰められる。そうだろ?」
 さっき俺がしたみたいにさぁ、と、できるだけいやみったらしく言った。姿を見せていれば、持ち上げた物と自分の間に、髪があるのは明白。相手の体の一部を、自らの近くに置いておくのだ。やりようはたくさんある。
「……確かに、あなたの言うとおり。落胆という言葉は、取り消します。ですが、怒ったという言葉は取り消しません。私の『ヘアメイク』がバレた以上、最大奥義で決着をつけます」
 彼女の髪が、右腕に集中し、段々と、水のような無形から、形になっていく。あれは、ドリルだ。
金の螺旋ブロンドリル――。行きますわ!!」
 腕のドリルが、回転し、俺へと向かって走ってきた。
「……なるほど、確かに威力は高そうだ。当たればだけどよぉー」
 俺は、左手に一枚板のアブソリュート。右腕には、拳に纏わせた四角いアブソリュート。
 左手をドリルの下の添えて、持ち上げる!
「な――ッ!」
 こうすれば、最小の労力で方向を反らせる。
 そして、難なく右腕の四角い拳を、少女の体にぶち込める。のだが――。
 俺はその拳を、寸止めした。鳩尾に一撃叩き込んで、気絶させるつもりだったが、彼女の細い体を見た瞬間、さすがにそれはできなかった。
「お前の負けだ。いいだろ? 打ちたくない」
「……ナメてるんですの? ――と、言いたいところですが。確かに、私の負けです。淑女として、引きますわ」
 そう言って、彼女は右手のドリルを元の髪に戻し、俺の肩に手を置いて、「お見事でした」と微笑んだ。

 俺の、肩に、触れて……。

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
 我慢が、爆発した。女の髪に触ったって時点で、さっきから鳥肌がすごかったのに。
 だから、拳を叩き込まなかったのに。アブソリュートの上からでも、もう女の肌になんて触りたくなかったのに。
 全身から力が抜けて、俺は、体中の痒みと、落ちていく意識という矛盾する二つを抱えて、落ちた。


  ■

 悪夢をオードブルからデザートまで、たっぷりフルコースで見せられたような最悪の眠りだった。
「……う、うぅ」
 起きたくない、そう思ったが、俺の目は無常にも開いて、横にいる人間に、俺が起きたことを知らせてしまった。
「あ、起きました……?」
 ベットに寝ていた俺を、先ほどの『ヘアメイク』の少女が椅子に座って見下ろしていた。
 ここは、保健室か。周囲はカーテンで見えないが、匂いとか状況で察すると、間違いないだろう。
「……なんで勝ったあなたがベットに寝ているんですの? こんな体験、さすがに初めてですわ」
「……女性恐怖症なんだよ、俺ぁ」
「……そうなんですの?」目を見開く少女。「白金お姉さまも、それを先に言ってくれたら、私はもっと楽に展開できたんですけどね……」
「いや……」俺は、少女から視線を離し、天井を見た。「あいつは多分知らねえ。俺が女性恐怖症になったのは、あいつが原因だからな」
「そうなんですか?」
 話す気はさらさらなかったが、しかし、視線を彼女の顔に戻すと、キラキラした目でこっちを見ていたので、仕方なく話す事にした。
 俺と白金の関係、なった理由を。
 聞き終えた彼女の顔は、正直見ものだった。目を細めて、汚いものでも見るみたいに俺を見ていたんだから。
「……なんか、どっと疲れる話ですわ。呆れます、お二人に」
「ええっ! 俺もぉ!?」
 驚いた。まさかこの話をして、俺が罵倒されるとはおもわなかったから。
「お姉さまに呆れている理由は、言うまでもないと思いますが――。あなたもあなたですわ。当時小学生とはいえ、さすがに女心をわかってなさすぎです」
女心じごくをどうやって理解しろってのよ」
「……あなた、女性恐怖症っていうか、女性への偏見がすごい事になってますわよ」
「俺にとってはそういうモンなんだよ、女ってやつぁ」
「……ま、いいですわ。肌の色もよくなったようですし、今日は帰ります」
 立ち上がり、軽く頭を下げる少女。
「あ、そ……。なんか迷惑かけたな」
「お互い様ですわ。少なくとも、もうお姉さまの頼みでも、私があなたに敵対することはないでしょう。理由が馬鹿らしすぎます」
「……いいのか? トップカーストになれば、いろいろ美味しいんだろ?」
「ご心配なく。私はすでにトップカーストですので」
 あ、そ。
 心配したわけではなかったが、俺はそれ以上言う事もない――と、思ったのだが、一つだけ忘れていた。
「あ、お前、名前はなんていうんだ?」
 踵を返していた彼女は、肩越しに振り返り、微笑む。
「申し遅れました。私の名は、巻島螺旋まきしまらせんです。それでは、また会いましょう、綾斗さん」
 カーテンを開けて出て行く彼女の背中を見つめながら、俺は口の中で、小さく彼女の名前を繰り返した。
「巻島、螺旋……」
 すっげえ名前。
 見たままじゃん。

       

表紙

七瀬楓 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha