Neetel Inside 文芸新都
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Aさん
旅するAさん

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世の中には『Aさん』と括られる人々がいる
しかしAさんたちにも1人1人に名前があり人生がある

例えば旅するAさんはこうだ

「兄さんわざわざごめんな」
Aさんは九州から歩いて旅をしていた。

たまたま道を聞かれて
少し複雑な道順なのもあって一緒に歩いて行く事にしたのだ。

聞かれた場所は地元の人間も名前を知らないような小さな工場だった。
俺も小学生の頃の通学路にあったおかげで目にしてた名前だからうっすら覚えてたくらいで自信はなかったが
近くに交番もある事を思い出してとりあえず案内する事にした。

「俺にも兄さんくらいの息子がいてな」
これがとんだドラ息子で、店出すから3000万くれって言ってきて
渡したんだがそれっきり姿も見せないんだよ」

「大変ですねぇ」

「その前にもミュージシャンになるって言って上京するために300万使ってるんだがな……」
俺にも夢を追いかけるために親に金の工面をしてもらった事があり
なんとなく説教されている気分になり黙りこんでしまった。

「まぁ悪いやつじゃないんだけどな」
そういうAさんは少し寂しげだった。

「まぁ金もない親をわざわざ面倒見にくる息子はいねぇわな」

なんと返していいかわからず黙りこむ俺を見て
Aさんは笑ってみせた。

「兄さんにこんな事言っても仕方ないよな
すまんね、せっかく道案内してもらったのに暗い話して」

「いえ……」

「この辺りで観光できそうな所何かあるかい?」

「そうですね……
何もないのが良い所みたいな町ですから」

それを聞くとAさんは声をあげて笑い出した。
「何もないのが良い所か、たしかになそれが一番かもしれないな」

その後これといって話す事もなく目的地まで二人で並んで歩いた。

「たぶんここだと思うんですけど……」
Aさんはメモと工場の看板に書かれた名前を何度か見返してから
「ここに間違いないかな、兄さんありがとうな」
「いえ合っててよかったです」

そう言って会釈し
Aさんも何度か頭を下げ、工場の中へと入っていった。

Aさんの旅の目的地がここだったのかどうかはわからないが
それからAさんをこの町で見る事は二度となかった。

       

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