Neetel Inside 文芸新都
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LOWSOUND 十字路の虹
44 Corvo Of The Salt Ford

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 ある朝マリアが起きて朝食を買うためアパートを出ると、家の前でアコースティックギターを弾いている、南方人の男がいた。バルクホルンとノアが地べたに腰掛けてそれを聞いている。
 男のギターはボディに金属の共鳴板が貼られた、変わったものだった。
 マリアは立ったまま男の演奏を聞いていたが、技術的にはだいぶうまいのでは、ということしか分からなかった。
 曲が終わると男は頭を下げた。ノアとバルクホルンはやる気なさげに拍手する。
 男はマリアに自己紹介をする。このアパートに新しく引っ越してきた、〈潮の辻のコルヴォ〉という名前だった。黒髪を伸ばし放題にして、衣服も汚かったので、物乞いじみているな、とマリアは率直に思った。
「あんたらは今なにやってるの」コルヴォが三人に聞いた。
「その辺をぶらついてるんで」ノアが曖昧に答える。
「今は団体での活動は凍結されてるけど、地道に奉仕活動を。そこらのガードレールをクレヨンで赤く塗ったり」バルクホルンが堂々と答える。
「大学生です」マリアが言う。「コルヴォさんは音楽家なんですか?」
「そうではない、いや、そうだったことはあるけど今はそうではない」
「そうではないんですか」
「今は〈双尾の豹〉の候補生として従者やってる」
「それはすごいですね」バルクホルンが賞賛した。「〈双尾の豹〉は総合商社というか多岐に渡って魔物の知識を得なくては従事できないというのに」
「きついよ。カネはいいけど。俺の一族はね、亜大陸でずっとそういう仕事をしていたんだ。だから、ガキのころから得た知識があって、どうにか付いていけてるけど。なんだってそうだよ、音楽も仕事も、昔得たものが、今の血肉となって、生きてくる、そういうのって、大切だろ、そうだろ」
「そうですね」と皆は言い、ノアは〈ザ・ストリート・フラッグス〉の練習に、バルクホルンはスーパーの駐車場の車にクレヨンでルーン文字を描くために出て行った。マリアも近所のコンビニに朝飯を買いに行こうとすると、コルヴォが付いてきた。
「なんか用ですか」マリアは聞いた。
「いや、そういうわけではない」
「じゃあなんで付いてくるんですか」
「君、冷たくない? 冷たいって言われない」
「言われたことないですよ」
「ああそう、いや、そこらを歩こうと思っただけだよ」
「じゃあ歩いたらいいじゃないですか」
「ああ、そうするさ」

 ベーコンとヨーグルトを買ってアパートに来ると、コルヴォはまだ家の前でギターを弾いていた。
 マリアは声もかけずに中に入ろうとすると、彼は話しかけてきた。
「君、マリア・アーミティッジって言ったっけ?」
「ええ、そういうあなたは潮の辻のコルヴォでしたっけ」
「ああ、そうだよ」
「そうですか」
 マリアは部屋に戻った。
 そのあと、夕方くらいになって、外で話し声が聞こえたので、窓を開けて聞くと、帰ってきたノアにコルヴォが話しかけているのだった。
「君、冷たいって言われない? そういうことない?」
「あるかも」
「そうだろ」
「ああ、そうだ」言いながらノアは建物に入ってくる。
 マリアは廊下に出て、「コルヴォに話しかけられた?」と聞く。
「話しかけられた」とだけ答えてノアは部屋に戻った。

 夜中、寝ていると話し声がまた聞こえて、どうやらバルクホルンが帰ってきて、コルヴォに話しかけられたようだ。一日中、あの男は外で座っていたことになる。一体なぜ、そんなことをしているのか。暇なのか。そう疑問に思ったが、質問するとまたなんやかんやの流れで「君、冷たいね」と言われることになりそうで、自分から話しかけることはこれ以降、なかった。

       

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