Neetel Inside 文芸新都
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LOWSOUND 十字路の虹
47 Diana The Shower

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 喫茶店で紅茶を飲んでいるとシャーロットが話しかけてきた。外からマリアがいるのが見えたのでわざわざ中に入ってきたのだという。一緒に、ぼさぼさの髪の背の高い女性がいた。
「このシャーロット・デンジャーフィールド女史と一緒にいるということは、当然わたしが顕現師のダイアナであるということ、あなたは分かっているよね、マリア・アーミティッジ」魔女はさも数十年来の知り合いであるかのように、向かいの席に座って馴れ馴れしく話しかけてきた。「今はどう、まだ音楽、続けてるわけかな、当然そうだと思うんだけど」
「はあ、そうです」
「ダイアナさんが馴れ馴れしくて申し訳ないと私は思い、深く憂慮して、います。しかし耐えて欲しいという考えもなくもないのです」シャーロットはココアを頼んで、それに大量の砂糖を投じている。
「今度顕現がこの街で起こるのを君は当然ご存知なのだろうし」ダイアナの顔は長い前髪で隠されてまともに見えないが、常ににやにやしているようだった。
「起こるというかダイアナさんがその意思に基づいて起こすのだというほうが正確、正確無比」
「うんそうだよね当然。しかしこちら、西方、は、人が多いし空気が違うね。東例えばエングとかザザに比べると秋、秋っぽい感じもするし、夏なのに秋」
「ダイアナさんは何も頼んでいないですが、それは私が注文したココアをもらおうという意思に基づいての行動ですか? そう私は質問するのですが」
「え? いいやそんなけち臭いことをこの大魔女のわたしがしようものなら、当然懲役刑だよね。それにそのココアは天使の羽より甘いじゃない。そんなものを飲もうものなら当然変性意識状態へと突入後、市庁舎に突入して壊滅させることになるのは社会通念上明らかだよ、シャーロット」
「そうだと思っていました。じゃあマリアさんはこのココアが欲しいですか?」
 シャーロットの飲みかけかつ砂糖が大量に入ったそれは欲しくないとマリアは答えた。
 するとシャーロットは立ち上がり、後ろの席にいた休憩中の警察官にココアを飲まそうとしたが、拒否され、自分で一気に飲んだ。
「どう、まだ音楽は続けているのかな」ダイアナがさっきと同じ質問をマリアにした。
「はい、そうです」マリアは答えた。
「わたしも復元される前は世界の因果に対して無頓着だったけど今ではそうじゃいられないのは当然明らかなんだよね。わたしも音楽をやっているよ、神と〈奏者〉が独占的に織り成す音楽にインプロビゼーション的に乱入しようとね、しかしそれが大局を、曲の根底を揺るがすことはできないんだ。他の呪術師や企業もそうで、確固たる技術を持ったピアノとサックスの絡みに、スプーンで空き缶を叩くパーカッションで介入しようとしてるようなものだから、当然意味はない、しかしそれでもわたしは五発だか六発の銃弾をわたしにぶち込んだあの愚者とは違い、有意義なことをしようという意思が当然あるんだ」
「すみませんマリアさん、ダイアナさんは生前も悪魔に汚染されて悪魔的に狂乱していたのですが、復活後一時的に沈静してさらに狂った結果こういう状態にあるのです」シャーロットが頭を下げる。「哀れむならばただ微笑んであげるだけで、良いのです」
「シャーロット! 人を壊れた玩具のように呼ぶことこそ悪魔的だよ、よし今から一仕事しようかな」魔女はいきなり立ち上がって、店内を全力で走り、出て行った。驚いた店員が転びそうになったが耐えるのが見えた。
「すみません。申し訳ない。私のせいではない。さようなら」そう言ってシャーロットは紙幣を投げ捨てるようにテーブルに置いて去っていった。その額はここの勘定の二倍以上の額だった。マリアはそれで、自分もココアを注文して、砂糖を入れずに飲んだ。

       

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